やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂の序
 平成元年に『調理科学実験ノート』の初版を出版して以来16年が経過した.その間,家政学分野,特に食物栄養分野を取り巻く状況は大きく変化した.また,少子高齢化の進行とともに,生活習慣病の増加による医療・介護などによる負担はますます深刻な問題となっている.
 ところで,栄養士法の改正や健康増進法の制定などに代表されるように,健康や栄養に対する社会の関心やニーズは非常に大きい.一方,大学・短大・専門学校における食物・栄養・健康教育のあり方については多くの課題が残されている.このこともあり,管理栄養士・栄養士養成施設においてはカリキュラムの大幅な見直しが,平成14年に発表された管理栄養士国家試験出題基準(新ガイドライン)や,平成17年度から創設される栄養教諭制度に沿って行われている.
 現カリキュラムでは,調理学関連科目は削減される傾向にある.しかし健康づくりの食事にも食事療法の食事にも,美味しい調理が不可欠であり,医師や看護師など他の医療職種が学んでいない調理学の知識と技術は,チーム医療に参画する管理栄養士の専門性が最も発揮できる分野である.
 しかし,短時間で効率よく調理学の知識と技術を習得しなければならない状況下においては,講義と実習だけではなく調理科学の実験を導入することにより,学生自らが知識と技術を有機的に結びつけ,応用発展に繋がるような,基礎知識・技術の理解と学習が望まれる.
 本書の特色の一つは,調理科学の基礎的知識と技術を確実に習得するための実験用テキストであると同時に,学生自身が実験結果や考察を記録に留めることができるようにしてあるので,調理科学の「マイテキスト」として,卒業後も本書を活用できることである.また,各項目に設けられた課題は,調理学の基礎知識の理解を深めるためのものであるが,学生自身が調理に興味をもつ動機付けにもなり,管理栄養士国家試験や教員採用試験対策,さらに就職後の食生活改善・食育などの実践活動にも役立つものである.
 この度,編者,執筆者ともに新メンバーの参画を得て,さらに初版の特色を活かしながら内容を大幅に改定した第2版を作製した.書名も『調理科学実験』と改名し,新たに「食品物性」と「介護食」に関する実験を加え,給食経営管理に必要な食物の定性的・定量的把握や,高齢社会の栄養管理のニーズにも応えることができるよう,教える側,学ぶ側のどちらにも使いやすいように,各著者に執筆して頂いた.本書を管理栄養士・栄養士・教育者養成のための「調理科学実験書」として,有効に活用して頂ければ幸いである.
 平成17年1月1日
 編者を代表して 早渕仁美

まえがき
 この『調理科学実験ノート』は,大学や短大などで行われる調理科学実験のための教材として作成した.
 調理学は,他の学問に比べると歴史は浅いが実践科学としての家政学の中では大きな分野を占めており,多くの著書や実習吾が出版されている.また,調理に関わる事柄を理論的にとらえる調理科学の研究や体系化も着々と進められつつある.
 調理科学は応用科学であり,最終的には実生活に生かされるものでなければならないという使命を担っている.したがって教育にあたっては,理論,実験,実習をバランスよく行い,調理の基礎的知識と技術が確実に学生自身のものになり,より高度な知識や技術を身につけるための礎にならなければならないと考える.著者らは調理科学実験を担当するに当たって,教育対象や目的,設備などの条件を考慮した上で,諸先輩方の実習書を利用させていただいたり,種々の実験例を参考に独自の印刷物を用意するなどして授業を行ってきた.しかし時間数や実験設備などの制約が多い中で,理論の裏付けとなる実験,学生が興味を持ち,ひとつの現象からより多くの事が学びとれるような実験を行うには……と試行錯誤を繰り返しながら,十分なことができないままに数年がたってしまった.
 このたび同じ悩みを持つ者同士が集まり,互いの知識や経験を出し合い,食品の調理性を中心とした調理科学実験のテキストを執筆することになった.そしてテキストであると同時に,学生が実験中の記録にノートとしても使用できることを目的とした.実験項目として総論と各論で17回分を用意しているが,条件により適宜実施していただければ幸いである.
 未熟者の集まりでもあり,諸先輩方の研究成果や成書を参考にさせていただいたが,一部を変更するのみで引用させていただいたものもある.その点,どうかお許しいただきたい.
 最後に,終始ご助力いただいた福岡女子大学家政学部助手井上厚美氏に,心からお礼を申しあげる.
 平成元年8月
 編著者 早渕仁美
改訂の序
まえがき
1.調理科学実験を行うにあたって(舟木淳子・早渕仁美)
 1-1 実験上の留意点
 1-2 当番の仕事
 1-3 実験の記録
 1-4 官能検査
2.計量・計測に関する実験(舟木淳子・早渕仁美)
 2-1 食品の体積と重量
 2-2 目安量
 2-3 食品のpH測定
3.米の調理性に関する実験(中嶋加代子・早渕仁美)
 3-1 米の浸漬による吸水量
 3-2 ビーカー炊飯
4.小麦粉(1)グルテンとドウに関する実験(秋永優子・早渕仁美)
 4-1 小麦粉の種類と性質,グルテンの採取
 4-2 小麦粉調理における水,砂糖,油脂の役割
5.小麦粉(2)膨化剤に関する実験(早渕仁美)
 5-1 膨化剤とCO2の発生状態
 5-2 ベーキングパウダーによる膨化
 5-3 イーストによる膨化とガス抜きの効果
6.いもおよびでんぷんの調理性に関する実験(楠瀬千春・早渕仁美)
 6-1 マッシュポテトの裏ごし温度の違いによる比較
 6-2 各種でんぷんの糊化とゲル化の状態
7.砂糖の調理性に関する実験(小口悦子・早渕仁美)
 7-1 砂糖液の加熱による変化
 7-2 シロップ
 7-3 フォンダン(すり蜜),糖衣
 7-4 あめ,抜絲(糸引き)
 7-5 カラメル
8.卵の調理性に関する実験(渡辺豊子・早渕仁美)
 8-1 卵の鮮度鑑別
 8-2 卵白の起泡性と泡の安定性
 8-3 卵液の熱凝固性
9.肉の調理性に関する実験(山本奈美・早渕仁美)
 9-1 肉の軟化方法
 9-2 湿式加熱による肉の軟化とスープの味
 9-3 ハンバーグステーキにおける副材料の役割
10.魚の調理性に関する実験(松下純子・早渕仁美)
 10-1 かまぼこの足の強さに及ぼす食塩および魚種の影響
 10-2 魚のだし汁のとり方,ムニエルのでんぷんの役割
11.豆類の調理性に関する実験(秋永優子・早渕仁美)
 11-1 豆の吸水
 11-2 豆の種類と加熱による変化およびあん形成能
 11-3 加熱による豆腐の変化
12.油脂(1)揚げ物に関する実験(真部真里子・早渕仁美)
 12-1 揚げ油の温度変化,油の吸着と食品の脱水
 12-2 市販品と手作り品の衣の違い
13.油脂(2)種類と乳化に関する実験(楠瀬千春・早渕仁美)
 13-1 油脂の種類とエマルション
 13-2 マヨネーズ
14.野菜の調理性に関する実験(真部真里子・早渕仁美)
 14-1 野菜の吸水・放水
 14-2 クロロフィルの色調変化
 14-3 アントシアンの色調変化
 14-4 酵素による褐変
15.果物の調理性に関する実験(秋永優子・早渕仁美)
 15-1 果物のペクチンとゲル化
 15-2 果汁のゲル化とペクチン・酸・糖の濃度
 15-3 果物の褐変と防止法
16.寒天・ゼラチンの調理性に関する実験(小西史子・早渕仁美)
 16-1 寒天ゲルに及ぼす砂糖の影響
 16-2 寒天ゲルに及ぼすレモン汁の影響
 16-3 カラギーナンゲルに及ぼす牛乳の影響
 16-4 ゼラチンゲルに及ぼすたんぱく質分解酵素の影響
17.だし汁に関する実験(澤田崇子・早渕仁美)
 17-1 種々のだし汁の調製法と風味
 17-2 煮干しだしを用いた汁物
18.食品の物性に関する実験(食品の物性測定)(小西史子)
 18-1 食品による硬さ,付着性,凝集性の違い
 18-2 レトルト粥,レトルトポタージュの粘度
19.介護食に関する実験(中嶋加代子)
 19-1 とろみ汁の飲み込み特性
 19-2 ゲル化剤の添加濃度の違いとゼリーの硬さ
索引
参考図書