やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4版改訂の序

 わが国の健康増進対策は,過去の栄養欠乏の予防政策から生活習慣病予防政策へと大きく変換している.このような状況のなかにあって,栄養士・管理栄養士養成教育の場で,重要な位置を占める栄養教育・指導論の内容も人間に関する栄養の知識,それに関連する健康増進のための技能を理解させ実践できる能力が求められる.
 したがって,栄養士・管理栄養士の養成教育においては,人間の栄養に関する知識を理解させ,これをよりよい方向へ実践させる技能を習得させ,個々人に適応させる能力が重要となる.さらに今後の少子高齢化社会の栄養教育・指導の目的は,対象者をよく理解し,個人の状態を判断し,栄養ケアプランのできる教育が必要とされている.
 現在,国の政策も栄養士・管理栄養士へ期待することが多く,21世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」の推進における目標値の達成への努力や新しい「健康増進法」の目的である国民健康の向上を図るなど,これらの分野での活躍の場は多い.また食品衛生問題,環境問題など多角的視点が要求されるが,今回は現時点での改訂を行うことにした.
 本書の改訂にあたり,諸先生から貴重なアドバイスをいただいたこと,また多くの方々の著書や論文を参考にさせていただいたことに感謝申しあげるとともに医歯薬出版株式会社に心から感謝申しあげる.
 2002年12月
 著者一同

まえがき

 栄養指導論は現在の栄養士養成教育の中で,重要な教科として位置づけられている.
 昭和20年の終戦直後より,食料不足からの脱却として食料増産と栄養改善が国の重要な政策として打ち出された.これに即応するように昭和22年に栄養士法が制定され,栄養士は「栄養指導を業とする」職種としてその使命が明確にされ,栄養士養成の中で栄養指導論という教科の履修は必修科目として今日に至っている.
 栄養指導論の教科内容は栄養学の基礎をベースにして,その上に現在の社会情勢や国際的な情勢によってその目標は変化している.栄養指導論の内容が養成の場で大きく再構築されたのは,やはり昭和37年の管理栄養士制度の発足であろうと考えられる.
 すなわち栄養指導論は個人個人に健康増進のための知識を理解させ,そして行動に移させ,実践させる知識と技術を教育する教科であるとの再認識であった.
 この時より一般の人々に理解されやすい方法として,栄養素的発想でなく食品として,食事構成として,さらに食事を中心としながらも,運動・休養を含めたライフスタイルの検討としての栄養指導の方法論がとられるようになってきた.
 さらに現在では,この方法をより具体的に個人に対応させる技術が重要であるなど,栄養指導の内容はさらに深まりをみせている.
 しかし総括的にいえる栄養指導論の目標は,国民の健康の増進,疾病の予防と治療,そして疾病の進行と再発の防止であり,またプライマリケアなどわが国の高齢化の問題も含めて,それに対応し得る指導の内容が望まれている.
 本書では,これらの問題がいくらかでもカバーできれば幸いと願いつつ,現在第一線で栄養指導論を担当している著者らが,今日までの研究成果と実践の中から重要項目をとりあげ,とりまとめたつもりである.しかしながら不備はまぬがれないと思われるので,率直な意見を承り,加筆,修正を行い,さらによりよい内容に充実させていきたいと願っている.
 最後に,多くの先輩諸氏らの著書を参考文献として引用させていただいたが,ここに厚くお礼申しあげる.
 1995年7月
 著者一同
総論

第1章 栄養教育・指導の意義
 1.栄養教育・指導の重要性
  1)栄養教育・指導とは
  2)栄養教育・指導の目標
   (1) 健康の保持増進
   (2) 疾病の予防
   (3) 疾病の治療・進行・再発の防止
 2.栄養教育・指導と栄養士
  1)栄養士法
   (1) 栄養士法の概要
   (2) 栄養士・管理栄養士の定義
   (3) 栄養士・管理栄養士の免許制
   (4) 管理栄養士国家試験の受験資格
  2)栄養士・管理栄養士の職域と養成制度
   (1) 栄養士・管理栄養士の職域
   (2) 栄養士制度の始まりと養成制度の推移
   (3) 諸外国における栄養士養成制度

第2章 栄養教育と栄養指導
 1.栄養教育
 2.栄養教育と栄養指導の関係

第3章 栄養教育・指導の歴史
 1.栄養教育・指導の推移
  1)第二次世界大戦前の栄養教育・指導
  2)戦後の栄養教育・指導
   (1) 食料不足時代
   (2) 基本食料充足時代
   (3) 欧米型食生活の追随時代
   (4) 成熟食生活時代
   (5) 飽食時代
   (6) 健康・簡便・高級化食生活時代
 2.栄養行政と関係法規
  1)栄養教育・指導と栄養行政
  2)栄養教育・指導と関係法規
   (1) 栄養士法
   (2) 健康増進法
   (3) 調理師法
   (4) その他の関係法規
 3.栄養士・管理栄養士の活動
  1)活動分野の現状
   (1) 行政関係の栄養教育・指導
   (2) 医療機関における栄養教育・指導
   (3) 集団を対象とした給食施設における栄養教育・指導
   (4) 外食産業・食品産業での栄養士の活動
  2)健康情報の発信者としての栄養士の活動
  3)“食のスペシャリスト”としての栄養士の活動

第4章 栄養教育・指導の現状と展望
 1.わが国の食生活と栄養教育・指導
  1)食生活に影響する因子
  2)わが国の食生活の現状と問題点
   (1) 栄養素・食品の摂取状況
   (2) 食行動
   (3) 食に対する意識
  3)家庭内食の外部化
   (1) 国民栄養調査による外食率
   (2) 家計費からみた外食費と調理済み食品費
  4)外食・中食・内食
  5)新しい健康志向食品
  6)食生活と疾病
 2.わが国の食生活の将来的展望
  1)高齢化社会への対応
  2)生活習慣病への対応
  3)1人暮らし単身赴任者への対応
   (1) 1人暮らしへの対応
   (2) 単身赴任者への対応
 3.栄養教育・指導とその環境
  1)栄養教育・指導と食料需給
  2)食の文化と栄養教育・指導
   (1) 地域に根ざした栄養教育・指導
   (2) 伝統的食文化と栄養教育・指導

第5章 健康な食事計画
 1.わが国の対策
  1)健康増進対策
   (1) 第一次国民健康づくり対策
   (2) アクティブ80ヘルスプラン(第二次国民健康づくり対策)
   (3) 「健康日本21」の推進(21世紀における国民健康づくり運動)
   (4) その他の対策
  2)健康づくりのための食事指導
   (1) 健康づくりのための食生活指針
   (2) その他の食生活対策
   (3) 加工食品や外食料理に対する栄養成分などの表示
  3)健康づくりのための運動指導
   (1) 運動指導の原則
   (2) 運動指導の進め方
   (3) 運動が健康に与える効果
   (4) 健康づくりのための運動所要量
   (5) 健康運動指導士・健康運動実践指導者
   (6) 健康づくりのための運動指針
  4)健康づくりのための休養指導
   (1) 休養と疲労回復
   (2) 休養とストレス
   (3) 休養指導の進め方
   (4) 休養指導の要点
   (5) 効果
   (6) 休養指導の手順
   (7) 健康づくりのための休養指針
 2.諸外国の対策
  1)諸外国の栄養問題
  2)諸外国の食生活指針
   (1) アメリカ
   (2) アメリカ以外の国の食生活対策
 3.日本人の食事摂取基準(2005年版)
  1)策定の目的
  2)使用期間
  3)策定方針
   (1) 基本的な考え方
   (2) 設定指標
   (3) 年齢区分
   (4) 策定栄養素等
  4)基本的な活用方法
  5)使用にあたっての留意点
  6)各栄養素の食事摂取基準
  7)食品構成の目的と活用
   (1) 食品分類(食品群)
   (2) 食品構成
   (3) 食品構成の活用
  8)五訂増補日本食品標準成分表
   (1) これまでの経過
   (2) 日本食品標準成分表の目的および性格
   (3) 五訂増補日本食品標準成分表の食品群・収載食品数および成分項目
 4.食事構成
  1)献立作成の意義
   (1) 意義
   (2) 献立立案上の留意点
  2)望ましい食事構成と期待

第6章 栄養教育・指導の方法とテクニック
 1.栄養教育・指導の一般原則
 2.栄養教育・指導対象者の実態把握
 3.栄養教育・指導の計画
  1)大目標・小目標の設定
  2)栄養教育・指導計画表の作成
  3)カリキュラム
  4)栄養教育・指導計画表作成時の留意点
 4.栄養教育・指導の実施
  1)動機づけ
   (1) 個人的要因
   (2) 社会心理的要因
  2)6Wと1H
   (1) Why
   (2) Who
   (3) Whom
   (4) What
   (5) When
   (6) Where
   (7) How
  3)栄養教育・指導の進め方
   (1) 行動修正の技法をとり入れた方法
   (2) 体験学習
   (3) 仲間集団討議
   (4) 実習
   (5) 探求学習
  4)栄養教育・指導の媒体
 5.栄養教育・指導の評価
  1)栄養教育・指導評価
   (1) 計画評価
   (2) プロセス評価
   (3) 目標達成度の評価
   (4) 総合評価
  2)評価のためのデータ収集
  3)評価の信頼性と妥当性
  4)評価のデザイン
  5)評価の指標
 6.栄養教育・指導評価の判定

第7章 栄養教育・指導の対応
 1.個別栄養教育・指導
  1)種類と特性
   (1) 一般の個別栄養教育・指導
   (2) クリニックを伴う個別指導
   (3) 訪問栄養教育・指導
  2)個別栄養教育・指導の要点
   (1) 問題点の分析
   (2) 対象の把握
   (3) 栄養教育・指導内容は実行可能なものに
  3)栄養教育・指導の進め方
  4)評価の方法
   (1) 栄養教育・指導技法の評価
   (2) 目標達成度よりの評価
 2.集団栄養教育・指導
  1)種類と特性
  2)集団栄養教育・指導の要点
   (1) 集団特性の把握
   (2) 共有する問題の選定
   (3) 指導の主体性
   (4) 行政機関の協力
  3)栄養教育・指導の進め方
   (1) 小集団の場合
   (2) 大集団の場合
  4)評価の方法
   (1) 栄養教育・指導技法の評価
   (2) 目標達成度よりの評価
  5)集団栄養教育・指導法の形式と特徴
   (1) 講義形式のもの
   (2) 討議形式のもの
   (3) その他の方法
  6)事例
 3.地域栄養教育・指導(地域組織活動)
  1)地域活動の特性と要点
   (1) 特性
   (2) 要点
  2)栄養教育・指導の進め方
   (1) 地域特性を生かした食生活の学習
   (2) 健康増進と疾病予防のための啓蒙活動への参加
   (3) 給食サービス事業への参加
   (4) 福祉施設訪問・見学など
  3)地域組織活動の事例
  4)行政における栄養教育・指導
 4.カウンセリング
  1)カウンセリングの意義と目的
  2)カウンセラーの条件
  3)カウンセリングの技術
   (1) 受容と支持
   (2) 言葉の繰り返し
   (3) 沈黙の尊重
   (4) 非言語的表現の理解
   (5) 明確化
   (6) ラポールの形成
   (7) 中止と終結
  4)カウンセリングを行うための環境づくり
   (1) 室内
   (2) 服装
   (3) 出会い
   (4) 言葉使い

第8章 食生活・栄養に関する調査
 1.調査の目的
 2.調査の方法
  1)調査手順
   (1) 目標の決定
   (2) 調査計画
   (3) 統計資料・文献の収集と検討
   (4) 調査範囲・対象の抽出法
   (5) 調査法の選択
   (6) 予備調査の実施
   (7) 本調査の実施
 3.調査結果の判定法
  1)調査種類別判定
   (1) 食生活栄養関係調査の判定
   (2) 身体測定による判定
   (3) 身体症候
   (4) 生化学的検査
  2)調査結果の評価と活用
   (1) 評価
   (2) 結果の処理
   (3) 結果の活用
   (4) 事後栄養教育・指導
 4.各種調査の実際
  1)国民健康・栄養調査
   (1) 調査の客体および期日
   (2) 調査項目
   (3) 集計
  2)栄養素など摂取状態の調査
   (1) 目安量による調査
   (2) 秤量調査
  3)食生活状況調査
   (1) 食物摂取状況調査
   (2) 食品摂取頻度調査
   (3) 食事状況調査
   (4) 陰膳方法(材料買いあげ法)
   (5) 24時間思い出し法
   (6) 食物摂取日誌
   (7) 食知識・食習慣調査
  4)対象による栄養調査の分類
   (1) 地域の栄養調査
   (2) 個人別栄養調査
  5)その他の食生活に関連する調査
   (1) 生活時間調査
   (2) 嗜好調査
   (3) 経済調査
   (4) 食生活環境調査
   ■POS

第9章 食生活・栄養に関する情報の収集と活用
 1.栄養教育・指導と情報の収集と活用
  1)基礎データの収集
  2)活用データの収集
 2.情報処理の方法
 3.レポート・論文のまとめ方

各論

第1章 栄養教育・指導の個別における展開
 1.ライフステ-ジ別栄養教育・指導
  1)乳児期
   (1) 乳児期の特性
   (2) 乳児期の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
  2)幼児期
   (1) 幼児期の特性
   (2) 幼児期の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
  3)学童期
   (1) 学童期の特性
   (2) 学童期の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
  4)中学校期
   (1) 中学校期の特性
   (2) 中学校期の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
  5)青少年期
   (1) 青少年期の特性
   (2) 青少年期の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
  6)成人期
   (1) 成人期の特性
   (2) 成人期の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
  7)壮年期
   (1) 壮年期の特性
   (2) 壮年期の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
  8)老年期
   (1) 老年期の特性
   (2) 老年期の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
 2.妊婦・授乳婦の栄養教育・指導
  1)妊婦
   (1) 妊婦栄養の特性
   (2) 妊婦の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
  2)授乳婦
   (1) 授乳婦栄養の特性
   (2) 授乳婦の食事摂取基準
   (3) 問題点と栄養教育・指導の目標
   (4) 栄養教育・指導の要点
 3.単身生活者の栄養教育・指導
  1)青年・成人期の単身生活者の栄養教育・指導
   (1) 栄養摂取上の問題点
   (2) 栄養教育・指導の方法
  2)高齢期の単身生活者の栄養教育・指導
   (1) 単身高齢者の栄養摂取状況
   (2) 栄養教育・指導の要点

第2章 集団における栄養教育・指導
 1.医療における栄養教育・指導
  1)栄養教育・指導上の特性
  2)栄養摂取の進め方
  3)栄養教育・指導の目標
  4)栄養教育・指導の要点
 2.学校給食における栄養教育・指導
  1)栄養教育・指導上の特性
  2)栄養摂取の進め方
   (1) 給食指導の進め方の基本
   (2) 学校給食の所要栄養量と標準食品構成
   (3) 学校給食の食事内容
  3)栄養教育・指導の目標
  4)栄養教育・指導の要点
   (1) 集団栄養教育・指導
   (2) 個人栄養教育・指導
   (3) 家庭に対する栄養教育・指導
 3.福祉施設における栄養教育・指導
  A.児童福祉施設
  1)栄養教育・指導上の特性
  2)栄養摂取の進め方
  3)栄養教育・指導の目標
  4)栄養教育・指導の要点
   (1) 入所者に対する栄養教育・指導
   (2) 給食従事者に対する栄養教育・指導
   (3) 療育者に対する栄養教育・指導
   (4) 家庭に対する栄養教育・指導
  B.高齢者施設
  1)栄養教育・指導上の特性
  2)栄養摂取の進め方
  3)栄養教育・指導の目標
  4)栄養教育・指導の要点
  C.その他の福祉施設
  1)栄養教育・指導上の特性
  2)栄養摂取の進め方
  3)栄養教育・指導の目標
  4)栄養教育・指導の要点
 4.事業所・自衛隊における栄養教育・指導
  1)栄養教育・指導上の特性
   (1) 事業所給食
   (2) 自衛隊給食
   (3) 船舶給食
  2)栄養摂取の進め方
  3)栄養教育・指導の目標・要点
 5.矯正施設における栄養教育・指導
  1)栄養教育・指導上の特性
  2)栄養摂取の進め方
  3)栄養教育・指導の目標・要点

 参考文献
 付表
  付表1 日本人の食事摂取基準(2005年版)
  付表2 保育所における給与栄養目標算出例
  付表3 児童又は生徒1人1回当たりの平均栄養所要量の基準
  付表4 学校給食の標準食品構成表(幼児・児童・生徒1人1回当たり)
 資料
  資料1 関係法規
   1-栄養士法(抄)
   2-栄養士法施行令(抄)
   3-健康増進法(抄)
   4-健康増進法施行規則(抄)
   5-食事基本法(抄)
   6-地域保健法(抄)
   7-母子保健法(抄)
   8-老人保健法(抄)
   9-食品衛生法(抄)
   10-食品衛生法施行規則(抄)
   11-学校給食法(抄)
  資料2 栄養教育・指導の歴史