やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 1990年代後半よりオールセラミックスが日常臨床のなかで応用されるようになってきた.半透明性をもった材料という特性から天然歯を模倣することが可能となり,臨床において急速に普及し,審美修復学という学問分野が確立してきた.
 当院でも,審美修復治療をいち早く取り入れようと文献を検索し臨床応用をはじめたが,海外文献が科学的な根拠として数多く示されているものの,本当にこれらの指針が我々の歯に適応可能か否かという点に疑問が湧いてきた.そこで臨床医であるということを念頭に一からセラミックスと日本人の歯について吟味したいと考えた.
 まずはセラミックスの「作製技法」,「長期的な色調変化」,「支台歯の影響」を考察すると,セラミックスは支台歯・接着剤・材料の考慮により最良の最終修復物となるという結論を得た.また支台歯は支台歯形成と支台歯の色調が重要であることは周知の事実であるが,一般的なプレパレーションガイドには疑問を覚える.そこで我々日本人の歯をさまざまな方向から分析することとした.
 とりわけ前歯の配列においては,白銀比(大和比)という日本古来の比率と歯の全体像が合致したことには驚いた.
 また一般的なプレパレーションガイドを元に支台歯形成のシミュレーションを行ったが,理想的な形態に形成することは難しいという結論となった.
 つまり生活歯の支台歯形成には細心の注意を払い,さらに材料も吟味しなければならない.
 補綴物作製においては,CAD/CAM技術の飛躍的な進歩により保険診療にまで導入されることとなったが,機械的な問題により日本人特有の舌面形態の再現ができないため,その対応策を考慮しなくてはならない.
 接着剤の色調は,セラミックスの色調に大きな影響を及ぼすことが確認できた.明確な色調選択の手法がなかったのだが,最終的には「明度」を重視して接着剤を選択すべきであるという結論を得た.
 2000年初頭にラミネートベニア修復が登場し,歯の表面を一層削除するだけで審美的な修復が可能であるということから臨床に取り入れたが,実際に施術してみると,0.1mm単位の削除量で審美的な歯を表現することは難しい.また海外文献も数少なく,試行錯誤しながら修復を行った.
 菲薄な日本人の歯のエナメル質をいかに残存させるか,脱離・破折のないプロビジョナルを装着し,的確な支台歯形成を行うにはどうすればよいかを考察してきたが,その問題は弾性に富むフロアブルコンポジットレジンの登場で解決できたと考えている.
 以上のように,我々の歯は菲薄で全体的なボリュームも乏しく,上顎前歯の舌側面形態はシャベル状でありCAD/CAMでの修復は難易度が高い.そのため,できるだけ最小限の侵襲を考慮しながら個々の患者にあった歯科治療,そして材料の選択を行わなければならない.
 筆者は大学卒業後も大学院に在籍していたため,臨床的には遅れをとった.
 開業を目標にしていたことから一時は無駄な時間を過ごしたと後悔したこともあったが,今思い返せば「エビデンスを大切にし,内容を読み切らなければならない」「自分の考えや経験だけで意見を主張するのではなく,数多くの文献を参考にした上で自分の意見を述べる」「他人の評価があり初めて結果が出たといえる.だから学術誌に投稿して結果とする」など現在の臨床に必要な考え方を学んだような気がする.
 本書はそのような経験を踏まえ,筆者がこれまで指針としてきた信頼のできる論文(学術的考察),そして筆者自身が執筆した論文(学術的指針),また筆者が医院内で実験して得た結果(実験的指針),そしてそれらの指針をもとに臨床を行った経験(臨床的指針)をベースに執筆した.
 本書が読者の皆様方のお役に立てば,筆者の望外の喜びである.
 2017年3月吉日
 貞光 謙一郎
 序文
 目次
Part 1 Basic for Esthetic Dentistry
1 審美修復治療の基本
2 資料の分析と治療ゴールの設定
3 日本人の歯の特徴
4 日本人の歯の特徴に適したマテリアルセレクション
5 オールセラミック修復の流れ
6 オールセラミック修復の応用症例
7 ホワイトニング
Part 2 Practice for Esthetic Dentistry
1 オールセラミッククラウンの支台歯形成
2 コンポジットレジン充填
3 コンポジットレジンのさらなる活用
4 接着
5 ラミネートベニアの基本
6 日本人に適したラミネートベニア修復
7 ラミネートベニア修復症例

 あとがき