序
歯科技工士養成校を卒業して間もない頃,筆者はラボに無造作に積み重ねてあった歯科技工専門誌の広告写真を見て,「これは本当にポーセレン(陶材)で作っているのだろうか? ポーセレンでこんな表現ができるのだろうか?」と驚き,即座に購入した書籍がある.それが,青嶋 仁先生(東京都大田区/ペルーラAOSHIMA)の著書である『Ceramics Example』であった.その後,ポーセレンで少しでも自然な表現を試みたいと思って参考にした文献が,青嶋先生が月刊『歯科技工』1991年7月号(第19巻 第7号)に寄稿された「インターナル・ライブ・ステインを用いた内部ステインテクニックの技工上の要点」である.しかし,それらを何十回と読み通し,技工作業中に再現を試みても,全く同じようにはいかなかった.いつしか,内部ステインテクニックの考案者である青嶋先生から直接レクチャーを受けたいという想いが心に芽生え,日に日に募っていった.そして,筆者が歯科技工に携わってから10年以上が経った頃,青嶋ゼミの開校によって,前述の願いは実現することとなった.そこで筆者は,内部ステインテクニックが緻密に体系化された手技あったことに驚きを隠せず,テクニックとはいたずらに難解なことをするものではないのだと痛感した.
青嶋先生の言葉で,筆者が印象的だと感じたフレーズがいくつかある.それは,「僕は難しい技工は嫌いだし,目に見えるものしか信じない(確実に結果が予測できる手法がよい)」「歯科技工のテクニックとは,条件に恵まれ,術者のケースプレゼンテーションに向いている選ばれた症例の患者だけが恩恵を受けるのではなく,歯科技工士が関わるすべての患者が恩恵を受けるような,普遍性のあるものでなければならない」というものである.これらはまさに,内部ステインテクニックの本質を表している.内部ステインテクニックは技工作業を簡単にするために生まれたのではなく,「いかにして,術者が関わるすべての患者にハイクオリティな補綴物を提供できるか」という青嶋先生の哲学あっての賜たま物ものなのである.
その後,縁あって筆者は月刊『歯科技工』で内部ステインテクニックをテーマにした連載の打診を受けることとなった.「前述したような青嶋先生の哲学があればこそ誕生したテクニックを,自分などが執筆してよいのだろうか?」と悩みもしたが,残念ながら青嶋先生の著書や論文掲載誌はいまや入手困難となっていることや,青嶋先生から直接御指導をいただき,さらに院内ラボに勤務する環境のなかで多数の天然歯を観察し,模倣する努力をした筆者の目線から,わかりやすく解説できることもあるのではないかと考えたこと,また「歯科技工士は歯を作る職業でありながら,意外と天然歯を観察できていないのではないか?」と常々感じており,それに対して天然歯の色調やキャラクターのパターンを,院内ラボに勤務する立場から歯科医師の教えに従って紹介できるのではないかと思い,前述の打診を引き受けることにした.
内部ステインテクニックによって再現した色調が口腔内で調和するかどうかは術者の経験などにもよるが,「感じたまま,見たまま」の色を確実に表現できるということは,臨床技工に携わる者として実に素晴らしいことだと感じる.色の表現を自在にコントロールできるということは,得られた結果が次の臨床技工にもつながり,経験が確実に蓄積になる.また,その自在さゆえに,心を込めやすいテクニックであるともいえる.
“世界有数のセラミスト”には誰しもがなりうるものではないであろうが,一流の臨床家には,心がある.内部ステインテクニックを学び,習得すれば,きっとそこに到達することはできるはずである.そのような想いを込めて,前述の連載記事を再編集・加筆したうえで,本書をまとめた次第である.
筆者の友人は「ステインテクニックは世界最薄の多色築盛である」と語っていたが,まさに至言であろう.本書が読者諸氏にとって,内部ステインテクニックの世界を楽しんでいただくきっかけとなり,かけがえのない“出会い”となることを願っている.
2014年9月吉日
Perla group
渡邉 一史
監修の序
「個性を消しなさい」.これが,私が渡邉一史氏に向けて語った最初の言葉である.
私と出会った当初,氏は実に個性的な補綴物を作っていた.“製作者の個性を消し,患者の持っている個性を最大限に生かす”.これが私の臨床技工における信条であり,その頃の氏の補綴物は,それにそぐわないものであった.
ところがどうだろう.私の主催する青嶋ゼミに入塾して以降,氏は私の助言を素直に取り入れ,補綴物製作においてどんどんと自分の個性を消すようになり,その技術は大きな進歩を遂げた.
現在に至っては,氏は内部ステインテクニック(インターナルライブステインテクニック)の最もよき理解者であり,これを臨床技工に応用して見事な補綴物を供給している.氏は私の愛弟子であり,親友であり,また私自身のよき理解者でもある(実は,趣味も似ている).
そんな氏が,月刊『歯科技工』誌上において「基礎から始める内部ステインテクニック」という表題で,足掛け5年の長きにわたって連載を執筆した.これは,私の考案した内部ステインテクニックについて,そのほとんどを網羅しており,非常にわかりやすい内容となっていた.そして今回,この長期連載論文のなかから最も重要な箇所を抜粋し,加筆・再編集を行ったうえで,一冊の書籍として上梓されることとなった.内容のわかりやすさはそのままに,要点を凝縮して提示する本書は,初心者からベテランの歯科技工士に至るまで,臨床技工のさらなるレベルアップを図るうえでおおいに参考になることは間違いないであろう.
本書は,氏の技術と考え方が十分に,存分に生かされた一冊となった.その刊行にあたり,このような愛弟子を持つことができた幸せを,私は改めて?み締めている次第である.
2014年仲秋
ぺルーラ AOSHIMA
青嶋 仁
歯科技工士養成校を卒業して間もない頃,筆者はラボに無造作に積み重ねてあった歯科技工専門誌の広告写真を見て,「これは本当にポーセレン(陶材)で作っているのだろうか? ポーセレンでこんな表現ができるのだろうか?」と驚き,即座に購入した書籍がある.それが,青嶋 仁先生(東京都大田区/ペルーラAOSHIMA)の著書である『Ceramics Example』であった.その後,ポーセレンで少しでも自然な表現を試みたいと思って参考にした文献が,青嶋先生が月刊『歯科技工』1991年7月号(第19巻 第7号)に寄稿された「インターナル・ライブ・ステインを用いた内部ステインテクニックの技工上の要点」である.しかし,それらを何十回と読み通し,技工作業中に再現を試みても,全く同じようにはいかなかった.いつしか,内部ステインテクニックの考案者である青嶋先生から直接レクチャーを受けたいという想いが心に芽生え,日に日に募っていった.そして,筆者が歯科技工に携わってから10年以上が経った頃,青嶋ゼミの開校によって,前述の願いは実現することとなった.そこで筆者は,内部ステインテクニックが緻密に体系化された手技あったことに驚きを隠せず,テクニックとはいたずらに難解なことをするものではないのだと痛感した.
青嶋先生の言葉で,筆者が印象的だと感じたフレーズがいくつかある.それは,「僕は難しい技工は嫌いだし,目に見えるものしか信じない(確実に結果が予測できる手法がよい)」「歯科技工のテクニックとは,条件に恵まれ,術者のケースプレゼンテーションに向いている選ばれた症例の患者だけが恩恵を受けるのではなく,歯科技工士が関わるすべての患者が恩恵を受けるような,普遍性のあるものでなければならない」というものである.これらはまさに,内部ステインテクニックの本質を表している.内部ステインテクニックは技工作業を簡単にするために生まれたのではなく,「いかにして,術者が関わるすべての患者にハイクオリティな補綴物を提供できるか」という青嶋先生の哲学あっての賜たま物ものなのである.
その後,縁あって筆者は月刊『歯科技工』で内部ステインテクニックをテーマにした連載の打診を受けることとなった.「前述したような青嶋先生の哲学があればこそ誕生したテクニックを,自分などが執筆してよいのだろうか?」と悩みもしたが,残念ながら青嶋先生の著書や論文掲載誌はいまや入手困難となっていることや,青嶋先生から直接御指導をいただき,さらに院内ラボに勤務する環境のなかで多数の天然歯を観察し,模倣する努力をした筆者の目線から,わかりやすく解説できることもあるのではないかと考えたこと,また「歯科技工士は歯を作る職業でありながら,意外と天然歯を観察できていないのではないか?」と常々感じており,それに対して天然歯の色調やキャラクターのパターンを,院内ラボに勤務する立場から歯科医師の教えに従って紹介できるのではないかと思い,前述の打診を引き受けることにした.
内部ステインテクニックによって再現した色調が口腔内で調和するかどうかは術者の経験などにもよるが,「感じたまま,見たまま」の色を確実に表現できるということは,臨床技工に携わる者として実に素晴らしいことだと感じる.色の表現を自在にコントロールできるということは,得られた結果が次の臨床技工にもつながり,経験が確実に蓄積になる.また,その自在さゆえに,心を込めやすいテクニックであるともいえる.
“世界有数のセラミスト”には誰しもがなりうるものではないであろうが,一流の臨床家には,心がある.内部ステインテクニックを学び,習得すれば,きっとそこに到達することはできるはずである.そのような想いを込めて,前述の連載記事を再編集・加筆したうえで,本書をまとめた次第である.
筆者の友人は「ステインテクニックは世界最薄の多色築盛である」と語っていたが,まさに至言であろう.本書が読者諸氏にとって,内部ステインテクニックの世界を楽しんでいただくきっかけとなり,かけがえのない“出会い”となることを願っている.
2014年9月吉日
Perla group
渡邉 一史
監修の序
「個性を消しなさい」.これが,私が渡邉一史氏に向けて語った最初の言葉である.
私と出会った当初,氏は実に個性的な補綴物を作っていた.“製作者の個性を消し,患者の持っている個性を最大限に生かす”.これが私の臨床技工における信条であり,その頃の氏の補綴物は,それにそぐわないものであった.
ところがどうだろう.私の主催する青嶋ゼミに入塾して以降,氏は私の助言を素直に取り入れ,補綴物製作においてどんどんと自分の個性を消すようになり,その技術は大きな進歩を遂げた.
現在に至っては,氏は内部ステインテクニック(インターナルライブステインテクニック)の最もよき理解者であり,これを臨床技工に応用して見事な補綴物を供給している.氏は私の愛弟子であり,親友であり,また私自身のよき理解者でもある(実は,趣味も似ている).
そんな氏が,月刊『歯科技工』誌上において「基礎から始める内部ステインテクニック」という表題で,足掛け5年の長きにわたって連載を執筆した.これは,私の考案した内部ステインテクニックについて,そのほとんどを網羅しており,非常にわかりやすい内容となっていた.そして今回,この長期連載論文のなかから最も重要な箇所を抜粋し,加筆・再編集を行ったうえで,一冊の書籍として上梓されることとなった.内容のわかりやすさはそのままに,要点を凝縮して提示する本書は,初心者からベテランの歯科技工士に至るまで,臨床技工のさらなるレベルアップを図るうえでおおいに参考になることは間違いないであろう.
本書は,氏の技術と考え方が十分に,存分に生かされた一冊となった.その刊行にあたり,このような愛弟子を持つことができた幸せを,私は改めて?み締めている次第である.
2014年仲秋
ぺルーラ AOSHIMA
青嶋 仁
序
監修の序
Opening Graph 内部ステインテクニックの世界
Practice Part 実践編
Step1 歯根付ポーセレン製作と天然歯の模倣を通じた臨床力向上トレーニング
Step2 オペーク処理〜マージンポーセレン・オペークファンデーション
Step3 オペーシャスボディ(オペーシャスデンティン)による骨格作り/ベーシックテクニックによる一次築盛
Step4 アドバンステクニックによる一次築盛
Step5 白帯をメインにした横方向の特徴
Step6 白帯以外の横方向の特徴
Step7 縦方向の特徴
Step8 側切歯,犬歯におけるエナメルクラックの走行と額縁法における内部ステイン
Step9 ラスターポーセレン(トランスルーセント陶材)の築盛
Step10 インサイザルヘイローの付与〜形態修正
Step11 マージンポーセレンの修正とヘアラインのリカバリー
Step12 内部ステインテクニックの表現力を生かしたさらなる色調再現
Step13 臼歯部築盛(1)下顎第一大臼歯の築盛
Step14 臼歯部築盛(2)上顎第一大臼歯の築盛
Step15 頭蓋骨のサンプル模型の製作
Appendix 内部ステイン築盛レシピ症例集
参考文献
著者略歴
監修の序
Opening Graph 内部ステインテクニックの世界
Practice Part 実践編
Step1 歯根付ポーセレン製作と天然歯の模倣を通じた臨床力向上トレーニング
Step2 オペーク処理〜マージンポーセレン・オペークファンデーション
Step3 オペーシャスボディ(オペーシャスデンティン)による骨格作り/ベーシックテクニックによる一次築盛
Step4 アドバンステクニックによる一次築盛
Step5 白帯をメインにした横方向の特徴
Step6 白帯以外の横方向の特徴
Step7 縦方向の特徴
Step8 側切歯,犬歯におけるエナメルクラックの走行と額縁法における内部ステイン
Step9 ラスターポーセレン(トランスルーセント陶材)の築盛
Step10 インサイザルヘイローの付与〜形態修正
Step11 マージンポーセレンの修正とヘアラインのリカバリー
Step12 内部ステインテクニックの表現力を生かしたさらなる色調再現
Step13 臼歯部築盛(1)下顎第一大臼歯の築盛
Step14 臼歯部築盛(2)上顎第一大臼歯の築盛
Step15 頭蓋骨のサンプル模型の製作
Appendix 内部ステイン築盛レシピ症例集
参考文献
著者略歴

















