やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 歯科技工とは,本質的に“ものづくり“である.そこで使われる技術はものづくりの技術である.しかし,歯科技工に携わるものにとっては,技術は,単に“ものづくり”の道具に留まることなく,“ものづくり“を通じて何かを訴えるものがあるはずである.いわば,ものづくり師の“魂”のようなものである.
 昨今,歯科技工界には,これまでにない閉塞感が漂っている.歯科技工は,歯科医療の大きな柱の一つであり,歯科医療界全体においても,このことについて懸念されている.このような状況の根本的な要因としては,社会全体における“ものの考え方・とらえ方”における大きな・劇的な変化(パラダイムシフト)が考えられる.
 このことを表す表現の一つとして,しばしば「“モノ“から“コト”への変化」というフレーズが使われる.これは,物質的に満ち足りた社会となった今,人びとは単に「よい製品」「品質の高いモノ」というだけでは満足(納得)できなくなっており,そのモノを通じて得られる“コト”を重視するようになってきたということを意味している.したがって,歯科技工に用いられる技術も,単に品質のよい歯科補綴物を製作するために使用するのみならず,その歯科補綴物を通して,どんなことができるかということを考えて選択し,駆使することが要求されていると考えるべき時代であるように思われる.
 本書では,レーザー溶接技術を歯科技工において用いるときに必要な基礎的知識を解説するとともに,臨床応用の際のヒントとなるよう,なるべく多くの実例を紹介した.また巻末ではレーザー溶接という新しい技術に関する100個の用語について解説を加えた.併せて本書においては,複雑化する社会のなかでの歯科技工分野を“技術”という観点からとらえ,レーザー溶接という技術が,現在の業界における閉塞感を打ち破るキーとなりうる可能性について言及した.本書が,ものづくり師として歯科技工に携わっている方がたの,一つの道標となれば幸いである.
 なお本書は,2007年の月刊『歯科技工』誌上における連載「レーザーが拓く21世紀型歯科技工 レーザー溶接入門」の内容に大幅な加筆・修正を行って再構成したものである.浅学非才が故に,不十分な点が多々あると思われる.ここに深くお詫び申し上げる.
 最後に,本書の発刊にあたり,数多くの臨床例の写真提供およびアドバイスをいただいた松井義和氏(千葉市・ビームアーテック代表)に心から感謝いたします.また,同じく臨床例他レーザー溶接の応用例の写真を提供いただいた秦野博司氏,荒尾美紀氏(京都市・京都歯科医療技術専門学校),好井七海氏(札幌市・日之出歯科真駒内診療所)に深く御礼を申し上げます.
 2008年晩秋
 都賀谷紀宏
I章 なぜ今レーザー溶接なのか?
 ・はじめに
 ・歯科技工のパラダイムシフトとレーザー溶接
  1.歯科技工界の現状と問題点
  2.パラダイムシフトへの適応はどのように?
  3.技術とパラダイムシフト
 ・それで,なぜレーザー溶接か?
  1.要素還元主義からの脱却のために
  2.レーザー溶接技術は目的探索型技術である
II章 レーザー溶接とは?
 ・レーザー加工の種類
 ・溶接とは
  1.溶接法の種類
  2.溶接法のなかでの「レーザー溶接」の位置づけ
 ・歯科技工においてレーザー溶接を有効利用するには
  1.わが国の歯科技工におけるレーザー溶接の普及・認識の現状
  2.レーザー溶接を有効に利用するために
 ・歯科技工におけるレーザー溶接への取り組み
  1.レーザー溶接でできること
  2.レーザー溶接への取り組み方
III章 レーザーの基礎とレーザー溶接機の構造
 ・レーザー光と発振の基礎
  1.レーザー光の特徴
  2.レーザー光の発振原理と発信器の構造
 ・レーザーの種類
  1.一般加工用レーザーの種類と用途
  2.歯科治療に用いられるレーザーの種類と用途
 ・歯科技工用レーザー溶接機の構造
  1.Nd:YAGレーザー発振器の基本構造
  2.レーザー溶接機の基本構造
 ・レーザー溶接機の基本的操作手順
  1.マイクロスコープの視度調整と眼幅調整
  2.シールドガスノズルの調整
IV章 レーザー溶接の仕組み
 ・レーザー溶接は「光と材料との相互作用」
 ・レーザー溶接に関するパラメータ-1.ビームパラメータ
  1.装置固有のビームパラメータ
  2.術者が設定するビームパラメータ-2.どのようなレーザービームを照射するか
  3.ディスプレイパラメータとビームパラメータとの関係
 ・レーザー溶接に関与するパラメータ-2.材料パラメータ
 ・溶融池形状
  1.溶融形態――“熱伝導型“と“キーホール型”
  2.熱伝導型からキーホール型への遷移
  3.ビームパラメータと溶込み深さとの関係
  4・スポット径の溶込み深さへの影響
  5・焦点位置と鋳込み深さとの関係
 ・溶接品質
  1.レーザー溶接による溶接品質に関する特性要因
  2.溶接強度について
  3.溶接欠陥
  4.溶接時の変形について
 ・異種金属間のレーザー溶接
  1.異種金属間のレーザー溶接に関する一般的評価
  2.異種金属間のレーザー溶接が不可能となる要因
  3.異種金属間のレーザー溶接時のビーム照射位置
 Intermission 復習 レーザー溶接を行うにあたっての基本的事項
V章 レーザー溶接の実際
 ・レーザー溶接の手順
  1.品質のよいレーザー溶接を得るための諸設定用件
  2.レーザー溶接の基本的手順と実際
 ・レーザー溶接の臨床応用の実際
  1.臨床におけるレーザー溶接の利用法
  2.レーザー溶接による補綴物の“修理”
  3.レーザー溶接による補綴物の“リフォーム”
  4.レーザー溶接によるクラウン・ブリッジおよびインプラント上部構造製作への臨床応用
  5.異種金属間レーザー溶接の臨床応用
  6.レーザー溶接の臨床応用の拡大
VI章 レーザー溶接を臨床で活用するために
 ・レーザー溶接作業時の安全性
  1.レーザー光からの防御
  2.レーザー加工時に発生するガスの問題
  3.加工時および加工直後の注意
 ・レーザー溶接機のメンテナンス――“メンテナンス・フリー”はありえない!
  1.レーザー溶接機のメンテナンスの重要性
  2.日常的なチェックとメンテナンス
 ・レーザー溶接機購入(選択)時のチェックポイント
 ・臨床現場での溶接強度テスト
 ・レーザー溶接の発展的応用
  1.セラミックスのレーザー溶接
  2.プラスチックのレーザー溶接
  3.レーザー焼結型ラピッドプロトタイピング
VII章 歯科技工パラダイムシフトにおけるレーザー溶接の役割
 ・歯科技工所のコアコンピタンス経営とレーザー溶接
 ・「歯科技工の潮流」≠パラダイムシフト
 ・21世紀型歯科技工に向けて
 ・おわりに

 *参考文献
 レーザー溶接関連用語解説100
 *索引