やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 鳴り物入りで叫ばれた「社会保障と税の一体改革」は,工程表に沿って進められているものの「消費税率引き上げ」の2度の延期により,財源的裏付けがなくなりました.その中で,保険料の負担,一部負担金,薬価制度の改正によりかろうじて診療報酬改定の本体(技術料)の確保を保っていますが,改定財源は微々たるものです.
 この間,2025年には団塊の世代が後期高齢者となり2040年には団塊ジュニアが65歳以上となります.超高齢化の波に対処するにはこの間の医療・介護提供体制をどうするかが課題となります.

地域包括ケアと情報連携
 医療の臓器別専門性や機能の縦割りを見直し,地域医療構想の中に地域ニーズを踏まえて医療の機能分担と連携で医療提供再編を行うことが地域包括ケアシステムの構築です(図A,表A).これまで,もっぱら病院や医科の機能再編と考えられがちでしたが,在宅医療が推進されるに従い,歯科における誤嚥性肺炎の予防や咀嚼によるオーラルフレイルの予防により健康寿命に貢献することが明らかになり,地域医療で訪問診療における歯科の役割の重要性が認識されてきました.
 医師と歯科医師の違いは,歯科医師は歯科固有の技術とされる歯の切削や義歯の装着,補綴分野ができることです.患者さんは,歯科医師は歯科治療に際しては患者さんの病態や合併症について医学的知識は習得しているものと思って受診しています.一方,多くの歯科医師は病院での臨床研修を経験していないが故に医科との連携に不安を抱えています.しかし現在は,情報化の時代です.歯科医師は患者さんの医療情報を知ったうえで歯科治療を行うことが可能ですし,その不安も払拭できます.しかし残念ながら,高齢社会,在宅医療に自らの歯科医院がどう備えるべきかの方向性を見出せていないのが歯科医師の現状です.
 医科-歯科-看護等他の領域と包括的な連携を目指した歯科医院経営こそが現在歯科医療に求められています.本書はこれらの視点から地域包括ケアシステムに自らの歯科医院をどう位置づけ機能分化を実現し,地域のニーズに合った歯科医院へ方向転換していくかについて提言する書となっています.


謝辞
 本書の企画発刊にあたって,アイビス・メディコ・プランニング 鈴木トキ子氏,医歯薬出版株式会社はじめ関係各位,また何かと資料や結文を寄稿いただいたWillmake143・田中健児氏には心より感謝申し上げます.
 平成30年11月
 梅村 長生


推薦文
 敬愛する梅村先生が新書を発刊されるにあたり,私に推薦文を書く機会を与えて頂き,光栄に思います.私,六十代後半の歯科医師にとって自院を出て,病院や施設,患者の自宅へ訪問診療に赴くことは大学では学習していないことです.時代の要請を受け,先生が執筆されているなかで,これから自院の在り方を今迄通り外来だけで行うか,か強診・歯援診1・2を選ぶかを決めていかなければならないこと,我々歯科医師は常に質の向上をめざさなければならないこと,さらに歯と歯周組織を学習してきた我々世代が口腔全体,摂食・咀嚼・嚥下に関わり,全身との関係を勉強することは容易なことではありません.しかし国策としての方向,そして何よりも国民が歯科医師に求めることには我々がしっかりと応えていかなくてはなりません.患者のニーズに応える歯科診療所が技術面や安全面で不安を感じることのないように事故対策・感染対策等我々に課せられた責任は極めて重たいといえます.
 今後の診療報酬の改定はその都度,電子化・効率化を含め地域医療のなかでの機能分化が強く求められて行くと思われます.さらに,働き方改革がいわれるなか,歯科診療所にも外国人や高齢者の助手や受付がスタッフとなる日も遠くないと思います.色々な場面でこの書が指標となることを祈ります.
 大阪府歯科医師会会長
 太田謙司


 保険診療で,これからもずっと「患者さんに選ばれる歯科医院」であるためにはどうしたらよいか?この本を読めば必ず答えはみつかります.どこからでも,必要と思うところから読んでください.
 少子高齢化が猛スピードで進むなか,国は健康長寿社会へ向けた施策として地域包括ケアシステムを打ち出しました.高齢者になっても,住み慣れた地域で自立した生活を最期まで送ることができるよう,歯科も含む地域医療構想が進んでいます.同時に,国民から必要とされる歯科医療も必然的に変化を余儀なくされることと思います.
 患者さんが必要とする,時代のニーズに即した歯科医院に変えていくか,それとも今まで通りのままでいくか.決めるのは皆さん歯科医師ご自身です.当然,国の歯科医療政策に沿った歯科医院は診療報酬点数が上がり,それを無視した従来通りの運営であれば下がる可能性は高いでしょう.ぜひ,この本を参考に,できるところから新しい医療政策を取り入れてみてください.
 さらに今,世界では第四次産業革命が取りざたされています.いつまでも患者さんに選ばれる歯科医院であるためには,AI,ビッグデータ,IoTの動向も必ず注視していただきたいことを,最後に申し添えたいと思います.
 参議院厚生労働委員長
 歯科医師 島村 大
 序文
 推薦文
第1章 『医療政策に歯科医療はどう影響するか?』
 1.2025年 歯科治療の需要と将来予想
 2.初診料に設けられた施設基準の意味
 3.施設基準で歯科医院機能は四分化の方向
  1−施設基準の違いは歯科医院の機能の違い
  2−多死社会の歯科医院機能の四分化
  3−施設基準からみる自院の方向性
  4−地域医療連携をイメージしよう
 4.地域包括ケアシステム構築とかかりつけ歯科医機能
  1−個人ワザから組織対応力の強化へ
  2−歯科保健医療ビジョンの全体像
  3−ライフステージからみる歯科保健医療施策の活用法
第2章 『かかりつけ歯科医機能と外来機能の見直し』
 1.患者さんの人生につき合う歯科医師になる
  1−口腔機能は健康寿命を支える
  2−乳児期の舌の発達は重要
  3−軽微な口の弱りを見逃さない
  4−健康長寿のための3つの柱と歯科医療の役割
 2.外来-訪問ミックス型診療の診療形態をどう作るか(か強診の場合)
  1−診療形態をどう作るかの課題を整理しよう
  2−「か強診」の歯科医師は外来-訪問-病院の連携のつなぎ役
  3−訪問診療と周術期等口腔機能管理〜いのちを思い,多職種に向けて言葉を紡ぐ
 3.訪問歯科診療に取り組む心構えと準備
  1−高齢者を知ることと備えるべき医療機器・器具
  2−在宅での全身のアセスメントの特徴
  3−薬の安全情報は必須〜「お薬手帳」を必ずチェック
  4−診療情報共有のための紹介状・照会状の書き方
  5−医師に伝えたい歯科治療のリスク
 4.感染予防対策の実際
  1−感染予防対策の基本
  2−歯科医療における器具・器械
第3章 『同時改定と保険請求の仕組み』
 1.地域包括ケア構築の仕組みからみる同時改定の意図
  1−同時改定の意図
  2−歯科診療所の施設基準多用の意味は?
  3−居宅介護支援事業所と医療機関との連携強化
  4−訪問介護におけるサービス提供責任者の役割の明確化
 2.診療報酬の仕組みを理解する
  1−この10年間の診療報酬改定の方向性
 3.歯科疾患管理料に口腔機能管理を導入
  1−歯科疾患管理料(歯管)(在宅医療では歯在管)
 4.周術期等口腔機能管理料I・II・IIIの違いを理解する
  1−周術期等口腔機能管理料
 5.周術期医科歯科連携に関する改定の要点
  1−周術期等口腔機能管理の現況と要点
 具体的症例による請求の解説
  1−[症例解説]通院患者さんが病院での手術前に来院し,病院との連携で周術期等口腔機能管理を行ったケース
  2−[症例解説]認知症を伴うかかりつけ患者への訪問診療(か強診の場合)
第4章 『働き方改革が歯科医院経営を変える』
 1.歯科医師に求められる地域包括ケアに関わる経営理念
  1−経営理念と経営の方向を明確化しよう
  2−働き方改革の中で示された5つの方向性
 2.戦略マップで地域連携・診療機能強化
  1−バランスト・スコアカードによる戦略マップ
  2−これまでの医院経営の価値観の転換とシステムの見直し
 3.働き方改革 歯科医院の対応策は
  1−労働人口の減少
  2−歯科医院のスタッフ確保
  3−福利厚生の充実
  4−女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備
  5−歯科衛生士確保の対策

付録
 1.消費税は歯科医院にどのように影響するのか
  1−10月非課税制度はどのようになるのか
 2.ICT,AIは歯科医療をどのように変えるか
  1−医療現場におけるICT利活用の状況について
  2−大阪大学の事例
  3−目指すべき成果

 提言/次世代型歯科診療所の羅針盤
 索引