やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 口腔病原体は死のスパイラルへ誘う.そのことの重要性をわかりやすく表現する方法はないかと考えた.
DNA研究が示唆する落語的発想法のすすめ
 話しは,しばらく口腔病原体を離れて余談に移る.
 最近,DNAと言う言葉は生物学の専門用語の領域を超え,日常用語として社会に浸透している.ここでは,DNAを生物学的にみて,そこから社会学を考えてみよう.
 DNAは,酵素の設計図を暗号で記した「遺伝子」を含んでいる.なので,DNAといえば遺伝子の代名詞として使用されている.
 ヒトのDNAにある遺伝子には,タンパクのアミノ酸配列のコードと,それを読み始めるための暗号配列,終わりを指示する暗号配列がコードされている.この遺伝子と称する領域は,染色体の全DNAのごくわずかである.全体の約三割が遺伝子であるにすぎない.約七割はジャンクと呼ばれている.ゴミのようなものであるという意味である.
 では,ジャンクは学問的にどういう意味があるのか? この領域の塩基配列を研究すると,多くはウイルスDNAの欠片だそうだ.この欠片を利用して,ヒトDNAは再編を繰り返し進化してきたと考えられ,無駄にみえる遊びのようなものが将来の飛躍を生む.
 下等な生物である細菌ではどうだ.無意味な配列は少ないのか? 答えは「イエス」だ.無駄を省き,効率的に生きている.事業仕分けを繰り返してきた.それどころか,ライ菌のDNAは必要な遺伝子すら切り捨て,ヒトの末梢神経に寄生し,ヒトの代謝産物を利用して生きている.近縁の結核菌と比較すると,約四割のDNAを欠損している.人工的培地では,増殖することができない.自然界では,アメーバーのような原虫に寄生しているのではなかと考えられる.
 ライ菌は愚か者だ.効率を追求するあまり増殖力が衰え,病原性も弱くなり,恐れるに足りない存在となった.
 以上の考察からわれわれは,勉強の仕方,仕事の仕方,生き方を学ぶことができる.金銭的利益を伴わない遊び,すなわち,文化は進歩をもたらす原動力であることを,遊び心で勉強することの重要性を教えている.
 さて,最近はやりの遊び文化の一つは落語であろう.企業への就職率を大学のクラブ活動別にみると,かつてはスポーツ選手が一番人気であったそうだが,大学や高校運動部の不祥事が明るみに出てきたので,企業による評価が落ちてきたそうだ.一番人気は大学の落語クラブだそうだ.若い人たちに人気が出てきたし,介護士や看護師にも落語を勉強しようという雰囲気が出てきた.落語にはストーリーがある.ストーリーには,「落ち」がある.あるべきものが抜けているので,想像で補ってもらって,関係がないような二つの出来事に,実は類似性があることに気ずかせ,思わず笑わせて終わりを結ぶ.想像力と教養のある人は笑う.無意味に聞こえる言葉を,示唆に富む言葉として捉え,意味のあるものに転換する.人を笑わせ,考えさせ,好奇心を育てる.落語文化は息を吹き返してきた.
 「落ち」よりも重要な点がある.それは普遍性である.と,ある専門家が言っている.たとえば,「昔むかしあるところに」と切り出せば,聞いている人すべてに関係してくる.話す内容を自分の生活にダブらせて聞く.自分を振り返り思わず笑う.人はみな自分自身に最も関心がある.孫を見て,自分の幼い頃とダブらせて思わず笑う.落語には,人間のさまざまな心理の断面が取り込まれている.刺激され,自分を振り返ることを大衆は落語家に望んでいる(中込重明:落語の種明かし.岩波書店,2004).
 ここまで,いくらか道草を喰ったようにみえるが,実はそうではない.ここで書いたことはすべて,本書でわかりやすく説明するために,遊び心で,自分が病原体になった気持ちで,また免疫系になった気持ちで,自分の人生とダブらせて,わくわく,どきどきしながら,説明したい理由を理解してもらうためである.
 「病原体とヒトのバトル」が人間社会のバトルに類似していることの面白さを感じ,思わず微笑んでいただけるなら,本書の目的は達成されている.しかし本書は,もしかして,その目的を十分には達成していないかもしれない.でも,感染症の学問がこれまで考えていたよりも楽しいものと感じてくれたら幸いである.
 本書は,すでに出版されている『病原体とヒトのバトル』(医歯薬出版)の総論的微生物学の姉妹編であり,その各論「口腔微生物学」である.また本書は,歯科医師と医師のために書いた.言語聴覚士,歯科衛生士にも参考になればよいがと思って書いてみた.歯科医師の重要性を強調した.幸せは口が呼び込む.
ハインリッヒの法則の理念は,医療にも医学にもあてはまる
 米国の安全技師であったハインリッヒが一九三〇年代の労働災害を分析し,この法則を発表した.取り返しがつかない一つの重大な事故(accident)が発生する前に,実は軽い事故(incident)が二十九件も発生しているそうだ.さらに,その背景に「ヒヤリ」としたり「ハット」したりするような異変や異常なこと,すなわち,予兆となるようなことが三百回も起きているという.この最初の予兆で,重大な事故の芽を摘むことが大切であると強調している.一・二十九・三百の法則と呼ぶ.
 米国のある医学研究所の報告によると,米国での医療過誤による死亡者の数は,交通事故や乳癌による死亡者の数よりも多いそうだ.どのようにすればその数を減らせるか.
 ハインリッヒの法則は,医療界にもあてはまると考えられる.たとえば,臓器を取り違えて手術した取り返しがつかない事件(accident)が報じられたことがある.当事者である外科医師と,これを取り巻く医師たちは,過去に死亡事故にはならないが,是正措置をとらないと困るような医療事故を多く経験しているだろう.さらに,このような病院では,たとえば,胃薬と風邪薬の取り違え,栄養剤が混入された静脈注射点滴剤の患者間での取り違えのような「ヒヤリ」と冷や汗を流し,事故というほどの事件ではなかったと,安堵の気持ちを込めて「ハット」する多数の事例を経験しているであろう.医療界では,この「ヒヤリ」「ハット」事件を公に報告し,自己反省をして,重大な医療事故を減らそうとしている.
 私は,病気の因果関係についても同じ発想法で整理してみることができるだろうかと考えてみた.病気には,予兆になるような「ヒヤリ」とし「ハット」するようなことがあるだろうか.多くの場合はある.しかし,たとえば,狂犬病に罹った犬に噛まれた時,発病し死亡する率は非常に高い.発病する時は背景に別の病気はない.それでも,免疫力の強いヒトは生き残る可能性はある.やはり,背景に免疫力の低下がある.
 単純化すれば,次のように考えることができる.手遅れになると怖い癌,脳出血,脳梗塞,肺炎や重症感染症が起こる背景には,前触れになる複数の慢性疾患,たとえば,糖尿病,高血圧症,そして免疫力の低下などがある.メタボリック症候群である.適切な治療をすれば何とかなる.さらに,その背景には肥満がある(図1).
 口腔の常在細菌が起こす歯周病や虫歯も,実は糖尿病や高血圧症を起こし,増悪させている.これが,癌や脳梗塞を起こす原因になる.まるで,刺客のように暗躍しているのだ.その背景には「ヒヤリ」「ハット」に相当する口腔ケアへの無関心があるのだ.このことに多くの人間は気がついていない.
口は災いの元
歯科医師から高齢者施設,さらに,療養型病院―一般の病院へ
 さて,閑談
 以前(十年以上前),たまたま私が読んだ地方新聞(北海道の釧路新聞)が報じた社説だ.一部を次に引用する.
 「黒岩恭子さんは,歯ブラシ用の毛を針金に植え,球状にした「クルリーナブラシ」を考案した.神奈川県茅ヶ崎市で開業して二十八年になる歯科医である.高齢者や障害者の口の中にたまりがちな食べかすやネバネバをかき出す道具だ.どこに当っても痛くないのが綿毛に似る.柄の部分も針金なので柔らかくしなり,口内くるくると自在に動かせる.
 茅ヶ崎徳州会総合病院では,手術の直後や意識のない患者にこれを使う.口の清潔さが肺炎の予防に直結するからだ.島根県の松江市立病院は,昨秋から入院患者にこれを買ってもらっている.その刺激が意識の回復も早めるようだ.
 言い出したのは言語聴覚士である.高齢者施設から療養型病院へ.さらに一般の病院へ.小さな道具が少しずつ医療の谷間を変えている.」
 歯磨きは,細菌の除去により慢性疾患を予防し,口腔に刺激を与え,唾液の分泌を促がし,頭脳を刺激し,嚥下障害を予防する.歯磨きをすると肺炎が半分以下になり,それによる死亡率も半分以下になるそうだ.口腔病原体が隠れたところでヒトの命を脅かしていることの科学的根拠は何かと問い,落語的発想法で勉強してみたい.
口腔病原体が誘う負の連鎖のあらすじ
 約三五〇年前(一六三二年),オランダに生まれたアントニー・レーウエンフックが自作の顕微鏡で,自分の歯面に小動物がいることを発見し報告した.人類史上初の人体からの微生物発見であった.これが微生物学と感染症学の興りであった.ここから本書の物語は始まる.
 やがて,口腔細菌が虫歯や歯周病を起こす元凶であることが解明された.さらに最近,口腔病原体が,誤嚥性肺炎やラクナ性脳梗塞,動脈硬化,心疾患,糖尿病,癌,新生児早産などを誘発することが盛んに報じられている.そこで湧き上がる当然の疑問は,その細菌学的・免疫学的メカニズムは何か? ということである.
(一)口腔病原体は他の器官や臓器に移動しやすい
 諸悪の始まりは,口腔病原体がほかの器官や臓器に移動しやすいことである.誤嚥に伴い,病原体が直接肺に侵入し,肺炎を起こす.誤嚥は,食事中だけでなく睡眠中にも起こる.むしろこれが多い.肺炎がたびたび起こると,微細な血液の塊が心臓を経由して脳に飛び,脳梗塞を起こすことがある.
 もっと重要な事実がある.日本赤十字社の献血センターは,三日以内に出血を伴う歯科治療を受けたヒトからは,献血のための採血をお断りしている.菌血症を起こしていることが多い.
 信じ難いことは,咀嚼やブラッシングでも菌血症を起こしているという報告である.いずれの場合でも,病原体の数が少なければ,普通は免疫力で増殖を抑制しているので,一過性であるから心配することはない.
(二)口腔細菌は細胞に接着しやすく細菌同士も接着しやすい
 ここで,病原体とは細菌・カビ・ウイルスを総称する言葉である.ここでの主役は細菌である.さて,細菌は,単独では恐れるほどのものではない.病原体の密度と量が多いと,さまざまな病原因子を分泌し,事件になる.これからが重要.口腔病原体は凝集し,密度の高い歯垢を作りやすい.この細菌学的特性が事件の核心の一つ.
 口腔病原体は,細胞に接着しやすい.病原体同士も接着しやすい.唾液の流れに抵抗して口腔に定住している病原体は,長年の進化の過程でこの特性を選択した.そのため歯垢を作りやすい.特にカンジダ・アルビカンスと呼ぶカビは,粘着性が強い.ミュータンス・レンサ球菌は,砂糖から粘着性のグルカンを産生する.歯周病関連菌のポルフィロモナス・ジンジバーリス菌は,接着性が強い.多様な病原体がお互いに絡み合い歯垢を形成する.歯垢は病原体の塊であり,その九割以上が病原体である.一ミリグラムの歯垢中に一億以上の病原体がいると言われている.身体の中で,これほど密度の高い細菌の生息場所はみられない.これが菌血症を起こすと事件が起こりやすい.
 しかし,ここまではまだ致命的ではない.ヒトは,長年進化させた炎症・自然免疫・獲得免疫で戦うことができる.
(三)歯周病関連菌ジンジバーリス菌は,血液の海を行く海賊レンジャー隊の隊長だ
 ジンジバーリス菌は鉄イオンが好きだ.これは,赤血球の中のヘモグロビンにある.この細菌は,赤血球に結合するタンパク,それを壊すタンパク,ヘモグロビンに結合するタンパクを連続技の道具として使用し,鉄イオンを獲得する.さらに,この連続技の道具を使用し,血小板に結合する.この細菌は,赤血球を求めて血流に乗り,全身に循環しやすい.
(四)口腔病原体は免疫反応を翻弄する
 化膿・レンサ球菌とインターメヂアス・レンサ球菌・ブドウ球菌は,ヒトの組織中にあるヒアルロン酸を分解する酵素を分泌している.何千という菌種の中でわずか六種ぐらいの細菌だけが,この酵素の合成能を獲得している.これが特異的妙技をみせてくれる.
 さて,ヒアルロン酸は,N─アセチルグルコサミンとグルクロン酸と呼ぶ二つの糖が,繰り返し連結した分子量百万以上の巨大多糖体である.細菌のヒアルロン酸分解酵素は,これをまずは,大きな断片に切断する.この大きな断片は,後述する獲得免疫を抑制するリンパ球(Treg)の受容体に結合し,免疫に抑制をかけさせる.自分の生き残りの戦術だ.周りにいる口腔病原体もこの恩恵に浴するだろう.十分増殖する頃には,ヒアルロン酸は小さい断片になっている.この断片はもはや抑制性リンパ球を活性化する能力を失っている.それどころか,驚くべきことに今度は,自然免疫の主役を演出する後述の樹状細胞受容体に結合し,活性化する.すなわち,ヒトの自然免疫機能を激励するような戦術をみせる.これが共生の秘訣だろう.
 化膿・レンサ球菌は,表面をヒアルロン酸で包んでいる.自分の酵素が自分自身を攻撃できない構造にしてある.ヒトの免疫系はこれを自己と判断し,攻撃しない.
 これと似た攻防戦は,随所にみられる.
 余談であるが,最近,私の弟子の松本壮吉准教授(大阪市立大学医学部)のグループは,結核菌もヒアルロニダーゼを分泌していると報告している.このバトルも面白くなりそうだ.
(五)防禦システムの破綻
 このバトルがだらだら長引くと,ヒトの防禦反応は,ついにさまざまな臓器にダメージを与える.動脈壁では,バージャー病,動脈硬化,心内膜炎などを起こす.感染性心内膜炎で死亡したヒトの心内膜を培養すると,原因菌の約四割は口腔細菌であるとの報告がある.上気道では,後述するインフルエンザ・ウイルスの感染率を高めている.妊婦の胎盤では,子宮の収縮を促進し,早産を誘発している.インスリンの情報伝達を邪魔し,糖尿病を誘発する.
 斯くして,口腔病原体は死のスパイラルへ誘う.
 なお,本書では,人間を生物として表現したい時にはカタカナの「ヒト」と書き,人格を強調する時は漢字で「人」と記した.
 はじめに
 DNA研究が示唆する落語的発想法のすすめ
 ハインリッヒの法則の理念は,医療にも医学にもあてはまる
 口は災いの元 歯科医師から高齢者施設,さらに,療養型病院―一般の病院へ
 口腔病原体が誘う負の連鎖のあらすじ
  (一)口腔病原体は他の器官や臓器に移動しやすい
  (二)口腔細菌は細胞に接着しやすく細菌同士も接着しやすい
  (三)歯周病関連菌ジンジバーリス菌は,血液の海を行く海賊レンジャー隊の隊長だ
  (四)口腔病原体は免疫反応を翻弄する
  (五)防禦システムの破綻
第1編 口腔病原体を迎え討つヒトの防御反応
CHAPTER─1 第一バトル 唾液中のタンパク群
CHAPTER─2 第二バトル 炎症
 2─1 補体
  (1)補体の活性化
  (2)抗体と補体C1の結合
  (3)活性化されたC1sはまずC4を,次にC2を限定分解する
  (4)C3 の限定分解
  (5)C3bとC4bが病原体の膜に結合して残るメカニズム
  (6)C5aとC3a
  (7)肥満細胞
  (8)C5b・C6・C7・C8・C9 複合体が細胞膜に穴をあけ殺害する
  (9)病原体は抗体がなくても補体を活性化することができる
 2─2 顆粒球
  (1)顆粒球が危機管理の初動活動を担う
  (2)好中球は活性酸素とエラスターゼを大量に産生する
  (3)好中球による活性酸素の産生は厳密に規制されている
  (4)C3aとC5aが好中球を病原体の近くに導引するメカニズム
  (5)細菌は遊走を促す因子を分泌して引きつける
  (6)C3bに対する受容体が好中球の表面にある
  (7)赤血球は免疫担当細胞の一種か?
 2─3 炎症性サイトカイン
  (1)炎症性サイトカイン
  (2)TNF─α
  (3)TNF─αは低濃度では炎症反応を起こし,高濃度では細胞の自殺を促す
  (4)TNF─αが貪食細胞に作用し炎症反応を増幅するメカニズム
  (5)TNF─αが毛細血管に作用し病原体を閉じ込めるメカニズム
  (6)TNF─αは血糖値を上げ白血球の活動源にしようとする
  (7)高濃度TNF─αは細胞の自殺を促す
  (8)TNF─αによるアポトーシスの機構
  (9)Bcl─ 2(B cell leukemia)
  (10)好中球のもう一つの必殺技
 2─4 止血反応
  (1)血小板による止血反応(一次止血反応)
  (2)カリクレイン・キニン系の活性化反応による止血反応(二次止血反応)
  (3)ヒスタミンの六十倍も強力なブラジキニンはプロスタグランジンを産生させる
  (4)細菌のプロテアーゼによってもカスケード型反応は促進
  (5)線溶系
 2─5 エイコサノイド
  (1)細胞膜のアラキドン酸から生成される炎症メヂエーター
  (2)脂肪酸
  (3)脂質
  (4)リン脂質
  (5)脂質二重層
  (6)脂質二重層のアラキドン酸はホルモンの素材になる
  (7)アラキドン酸からホルモン・プロスタグランジン(PG)の生成
  (8)PGE2
  (9)PGI2
  (10)血小板ではTXA2 が生成され凝集を起こしやすくする
  (11)PGD2 は強力な催眠作用を持つ
  (12)炎症が起こると白血球のリポキシゲナーゼにより,ロイコトリエン(LT)が生成され気管支の平滑筋や血管の平滑筋を収縮させる
  (13)魚から摂る多価不飽和脂肪酸は血液サラサラにする
  (14)炎症が起こると,白血球にある別種のシクロオキシキナーゼ─2(Cox─ 2)が活動しPGE2 を生成し炎症反応に油を注ぐ
  (15)アスピリンはシクロオキシキナーゼをアセチル化する
  (16)アスピリンの副作用
  (17)まとめ
CHAPTER─3 第三バトル 自然免疫
 3─1 Mφ・Dc・NK細胞,NKT細胞,γδT細胞が主役
 3─2 エンドサイトーシス
 3─3 Mφは「Eat Me Signal」を認識し食べる
 3─4 「Eat Me Signal」の実体は細胞膜二重層の一部が内外入れ替わること
 3─5 トールライク・リセプター(Toll Like Receptor= TLR)
 3─6 炎症性サイトカインと一型インターフェロン
 3─7 TLR以外にも自然免疫を担う分子が続々発見された
 3─8 Dcサブセツトの役割分担
 3─9 TLRの配置と分担
 3─10 Dcはリンパ管新生を促すサイトカインを分泌する
 3─11 NK細胞は感染細胞や癌細胞を識別し攻撃する
 3─12 NK細胞は即座に自己細胞を識別し攻撃を控える
 3─13 NKT細胞
 3─14 γδT細胞
 3─15 臨床家のチャレンジ
CHAPTER─4 獲得免疫
 4─1 主要組織適合抗原
 4─2 脂質・糖脂質を提示するCD1
 4─3 Tリンパ球の由来
 4─4 MHCクラスIIを認識するヘルパーTリンパ球(Th)
 4─5 MHCクラス1を認識するキラーTリンパ球(Tc)
 4─6 Bリンパ球(B細胞)
 4─7 CD4抗原を持つThリンパ球同士は互いに牽制し合う
 4─8 最終警報装置と自爆テロ
 4─9 まとめ―炎症ではじまり免疫反応が続き炎症で終わる
第2編 口腔病原体の戦略・戦術
CHAPTER─1 口腔病原体の戦略
 1─1 口腔病原体はヒトに対し平和憲法を堅持している
 1─2 細菌の議会制民主主義
 1─3 健康人の口腔常在細菌―最初に酸素が好きな細菌,後に嫌気性菌が現れる
 1─4 口腔機能が低下すると異常増殖する病原体
 1─5 薬剤耐性菌の出現―口腔の常在細菌はまるで薬剤耐性菌の製造工場
CHAPTER─2 酸素が好きなナイセリア属(Neisseria)
 2─1 口腔に常在するナイセリア属のプロフィール
 2─2 口腔にも発見されることがある淋菌(N.gonorrhoeae)
 2─3 髄膜炎菌(N.meningitidis)
 2─4 常在細菌・ナイセリア菌が口腔・咽頭・喉頭の癌を誘発するので,焼酎をしよっちゅう飲むとよくない
  (1)エチルアルコールの代謝
CHAPTER─3 レンサ球菌(Streptococcus)
 3─1 酸素があってもなくても増殖するレンサ球菌
 3─2 レンサ球菌属にはうんざりするほど多くの菌種が発見されている
 3─3 レンサ球菌の戦略のポイント整理
 3─4 レンサ球菌属の形態学からみられる戦術
 3─5 ミュータンス・レンサ球菌は虫歯の元凶
  (1)ミュータンス菌の第一の得意技
  (2)粘着性グルカンは複数の酵素のあわせ技による
  (3)ミュータンス菌の第二の得意技
  (4)粘着性グルカンは乳酸菌やそのほか雑多な細菌を粘着させる
  (5)虫歯菌にはコッホの原則をあてはめることはできない
  (6)バイオフィルム
  (7)ミュータンス菌はピロリ菌を訓練しているのか?
 3─6 化膿・レンサ球菌(S.pyogenes)
  (1)化膿・レンサ球菌はスーパー抗原を持っている
  (2)スーパー抗原は普通の抗原の二千倍も多くのリンパ球を刺激する
  (3)化膿・レンサ球菌には歴史がある
  (4)ヒアルロン酸の分解産物は炎症反応の強さをコントロールする
  (5)化膿・レンサ球菌のさまざまな戦術
  (6)劇症型ヒト食いバクテリア(Flesh─eating bug)の登場
  (7)インフルエンザ・ウイルスと同時に感染すると重症化する
 3─7 肺炎・レンサ球菌(S.pneumoniae)
  (1)ヒトは最後に肺炎で死亡することが一番多い
  (2)この細菌で驚くべき研究成果が発表された
  (3)ペニシリン耐性の肺炎・レンサ球菌
 3─8 インターメヂアス・レンサ球菌は自己免疫疾患を誘発
CHAPTER─4 鼻腔や咽頭にいる通性嫌気性ブドウ球菌
 4─1 皮膚・鼻腔・口腔に常在
 4─2 食品で増殖したブドウ球菌は,腸管毒素を分泌
 4─3 皮膚では化膿性疾患
 4─4 肺・血中に侵入すると一気に戦火は拡大
 4─5 ブドウ球菌の戦略は多彩
 4─6 戦術に長けていることをみせつけた対ペニシリン戦術
 4─7 MRSA対策は感染症対策の中心の一つ
CHAPTER─5 口腔細菌はインフルエンザ・ウイルスと共演する
 5─1 受容体
 5─2 接着分子HA
 5─3 HA限定的切断
 5─4 口腔細菌がインフルエンザ・ウイルスの細胞内侵入を助ける必殺技
 5─5 逆にインフルエンザ・ウイルスの感染が,化膿・レンサ球菌による肺炎を重症化
 5─6 ノイラミニダーゼが幕引きを務める
 5─7 インフルエンザ・ウイルスのヒトへの浸入経路
 5─8 ヒト型インフルエンザ・ウイルスの由来
 5─9 ブタは例外でまるで新型インフルエンザ生産工場
 5─10 耳寄りな周辺情報
  (1)予防のポイント
  (2)閑話休題―関連情報 ノロウイルスの流行が私に教えた教訓
CHAPTER─6 カンピロバクターは発癌させるのか?
 6─1 カンピロバクター・ジェジューニ(Campylobacter jejuni)発見の歴史
 6─2 カンピロバクター・スプトルム(Campylobacter sputorum)の発見
CHAPTER─7 歯周病の原因菌として最も注目されているポルフィロモナス・ジンジバーリス(Porphyromonas gingivalis)
 7─1 口腔には次第に酸素が嫌いな細菌が増殖してくる
 7─2 歯周病
 7─3 歯周病を起こす犯人は誰だ?
 7─4 病巣から頻繁に検出される細菌ジンジバーリス菌
 7─5 強い接着性
 7─6 線毛
  (1)ジンジバーリス菌の線毛の構造と機能
  (2)メジャーが駄目なら駄目ジャー
  (3)線毛は上皮細胞のインテグリンに接着
  (4)線毛によりヒトの大動脈上皮細胞に接着
  (5)線毛の免疫活性
 7─7 タンパク分解酵素
  (1)ジンジバーリス菌の弱点と好み
  (2)タンパク分解酵素は未知の分泌機構で大量に分泌される
  (3)タンパク分解酵素の種類
  (4)RGPの生成
  (5)菌体内での役割
  (6)鉄イオン獲得の共同作業
  (7)HGPは血小板や結合組織に結合し病気を起こす
  (8)タンパク分解酵素が間接的・直接的に接着因子となる
  (9)栄養素の調達
  (10)この酵素は単なる料理長ではない
  (11)炎症を増幅
 7─8 LPS
 7─9 ペプチドグリカン(PGN)
 7─10 リポタンパクも炎症を起こす因子として登場
 7─11 嫌気性菌としての特徴
  (1)短鎖脂肪酸が免疫系をかわす戦術
  (2)酪酸はヒトのDNAに潜伏しているHIVを呼び起こす
  (3)酪酸は口腔癌の発癌を促しているかも
 7─12 ジンジバーリス菌に抵抗する歯肉上皮細胞
  (1)エンドソームからオートファゴソーム
  (2)抗菌分子を産生し防戦に努める
  (3)上皮細胞は炎症性サイトカインで活性化されTLRを発現
  (4)バトルに負けた上皮細胞の結末
  (5)歯周病を起こすのはジンジバーリス菌だけではない
 7─13 ジンジバーリス菌は歯槽骨を攻撃する
  (1)そもそも生命体は破壊と再構築の繰り返しである
  (2)前骨牙細胞の成熟
  (3)骨組織
  (4)破骨細胞の成熟
  (5)炎症性サイトカインが前骨芽細胞と前破骨細胞を刺激
  (6)破骨細胞をコントロールするそのほかの因子
 7─14 ジンジバーリス菌はバージャー病を起こす犯人
 7─15 ポイントのまとめ
CHAPTER─8 多国籍軍に参加しているほかの口腔病原体
 8─1 口腔スピロヘータは動脈硬化を起こしているだろう
 8─2 カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)はまるで口腔の水虫だ
 8─3 健康な口腔環境では病原体は生物社会を作る生態系である―殺菌は事態を悪化
 8─4 ウイルス
  (1)ヘルペスウイルスは口腔とその周りに感染し,いつまでも潜んでいる
  (2)唾液中に増えてくるウイルスは疲労のバロメータだ
  (3)アデノウイルスは上気道のリンパ組織にしばしば常在している
CHAPTER─9 多国籍軍のような多様な細菌が起こす誤嚥性肺炎
 9─1 高齢者は頻回に原因不明の発熱を起こす
  症例1:ある女性患者
  症例2:ある女性患者の胸部エックス線写真
  症例3:ある女性患者
  症例4:ある患者のCT撮影の映像
 9─2 誤嚥性肺炎を起こす首謀者
 9─3 高齢者が肺炎を起こしやすい理由
 9─4 気道に侵入した異物を排除する仕組みが衰える
 9─5 誤嚥のタイプ
 9─6 誤燕と戦うクリーンナップトリオは,サブスタンスP・ドーパミン・ブラジキニン
  (1)ドーパミンの役割
 9─7 ブラジキニンも嚥下反射を促進
 9─8 サブスタンスPとブラジキニンは多すぎても困るので,分解する酵素が働いてその量を調節している
 9─9 高血圧は誤嚥と連動している
  (1)高血圧発症のメカニズム
 9─10 閑話休題―周辺情報
 9─11 ACEの阻害薬は誤嚥防止薬
 9─12 経鼻的に管で栄養補給している口腔は汚れる
 9─13 歯周病・脳梗塞・嚥下障害のスパイラル
  (1)歯周病患者は脳梗塞になりやすい
  (2)脳梗塞
  (3)誤嚥性肺炎を起こした高齢者はラクナ梗塞を起こしやすい?
CHAPTER─10 多国籍軍による心筋梗塞・動脈硬化
 10─1 怪しまれている病原体
 10─2 口腔細菌が動脈硬化を引き起こすメカニズム
  (1)多国籍レンジャーの侵入
  (2)酸化LDL
  (3)活性酸素と酸化LDLは,内皮細胞の膜を攻撃し炎症を増幅
CHAPTER─11 多国籍軍が引き起す糖尿病
 11─1 糖尿病の原因
 11─2 インスリンは糖を筋肉と脂肪細胞に取り込ませる
 11─3 TNF─αがインスリンの情報伝達を抑制する
 11─4 糖尿病を誘発するTNF─αの供給源
  (1)炎症
  (2)脂肪細胞
 11─5 運動は三文の得
 11─6 歯周病―動脈硬化―アンギオテンシンII-高血圧―インスリン抵抗性の連鎖
 11─7 糖尿病は歯周病を増悪させる悪循環
 11─8 糖尿病単独より歯周病合併症は頸動脈狭窄を促進する
CHAPTER─12 早産・低体重児出産のメカニズム
CHAPTER─13 口腔常在細菌はヒトと共存しようとする
 13─1 口腔細菌は野菜にある硝酸から一酸化窒素を産生する
 13─2 小腸に下ると吸収され全身を循環し血圧を下げる
 13─3 トラブルが起こることがある
CHAPTER─14 口腔機能の障害は神経機能の破綻をもたらす
CHAPTER─15 口腔機能維持の処方箋
 15─1 頭頸部挙上運動
 15─2 頸と肩の柔軟体操
 15─3 口唇・顎の運動
 15─4 舌の運動
 15─5 発声と咳の練習
  (1)深呼吸・発声「えへん」
 15─6 唾液腺のマツサージ
 15─7 口腔内の清掃と刺激
  (1)歯磨剤の改良
 15─8 食事介助の注意点