やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦の序
 厚生省健康政策局歯科衛生課長
 宮武光吉
 近年,わが国では,人口の急速な高齢化に伴い,疾病構造が変化してきていることなどから保健医療サービスに対する住民のニーズが急速に高まってきており,良質な保健医療の供給を行いうる体制を整備するため,資質の高い保健医療関係者の養成を行うことが重要な課題となっている.
 歯科衛生士の資質向上を図るため,歯科衛生士学校養成所の修業年限の延長,学科課程の改正等が昭和58年に行われ,5年後の昭和63年よりすべての養成所で新カリキュラムによる教育が行われるようになった.本改正により,保健指導や歯科予防処置に関する教科内容の充実が図られた.そして,平成元年6月には,歯科衛生士法の一部改正がされ,歯科衛生士の業務に歯科保健指導が加わるとともに,免許権者が都道府県知事から厚生大臣に改められた.
 また,わが国における歯科保健対策の動きについて目を向けると,近年,80歳になっても20本の歯を保つことを目的とした8020(ハチマル・ニイマル)運動が全国各地で広がってきている.来年度よりはじまる老人保健事業第3次計画では,在宅寝たきり老人に対して歯科衛生士による訪問口腔衛生指導が行われることとなっており,歯科保健事業の充実強化が図られるようになってきている.歯の健康づくりに対する国民の関心は年々高まってきており,歯科保健指導や歯科予防処置等の業務を通じて,国民の歯の健康づくりに従事する歯科衛生士の果たす役割は今後ますます重要になると考えられる.
 資質の高い歯科衛生士が養成されるためには,最新の歯科保健医療に関する知識および技術が,効果的に学生に対して教授されることが必要である.このようなときに新しい歯科衛生士教本が発刊され,内容の見直しが行われることは,誠に意義深く,歯科衛生士教育の充実強化とともに,わが国における歯科保健対策を推進していくうえで要となると確信している.
 本書が多くの歯科衛生士教育機関において十分に活用され,よりよい歯科衛生士が養成されることを期待し,推薦の序としたい.
 1991年12月

新歯科衛生士教本の発刊にあたって
 歯科衛生士教育は,昭和24年に始まってから,40年余りが経過しました.
 この間,歯科保健に対する社会的ニーズの高まりや,歯科医学・医療の発展に伴い,歯科衛生士およびその養成・教育の質的量的な充実が叫ばれ,徐々に法制上の整備・改正も行われて,今日では就業歯科衛生士数約5万名,また歯科衛生士養成所も132校を数えるに至りました.
 全国歯科衛生士教育協議会は,こうした社会的要請に対応するため,昭和36年に発足して以来多くの関係者の築いてきた教育の土台をもとに,昭和42年,「歯科衛生士教本」を発刊しましたが,さらに昭和56年「教本の全面改訂」の着手・発行を経て,10年目を迎えることになりました.
 しかしながら,再び歯科衛生士教育は時代の大きな節目にさしかかろうとしております.
 今日,わが国では,高齢化社会の到来とともに,国民の医療への要望もますます多様化し,医療の質的向上が強く求められるようになってまいりました.このような流れを背景として,ここ数年の間に,歯科衛生士に対する社会の要望にも大きな変化が現れてきました.
 それに伴って,昭和58年2月,歯科衛生士養成所教授要綱が改められ,重ねて昭和63年には歯科衛生士試験出題基準も示されて,各教科目の関係や,新しい科目の導入などが求められるようになりました.また,さらに,平成元年6月に歯科衛生士法の一部改正が行われ,新たに歯科衛生士業務に保健指導が加わることや,統一試験の実施と知事免許から厚生大臣免許への移行などが明記され,歯科衛生士の活躍に大きな期待がよせられています.
 本協議会では,このような状況の変化に対して必要な準備を進めてまいりましたが,ことに歯科衛生士教本については,慎重な検討を加えて対応することになりました.
 このため,これまでの歯科衛生士教本についての教育現場からの意見の収集調査,他の保健医療職種の教育との関連,臨床および公衆衛生現場における歯科衛生士の活動状況等を分析し,併せて教授要綱ならびに出題基準をふまえた新たな編集方針のもとにさらなる充実をはかるべく,ここに“新歯科衛生士教本”として刊行することといたしました.
 この新歯科衛生士教本が十分活用され,わが国民の歯科保健の向上に役立つことを切に願うものであります.
 1991年12月
 全国歯科衛生士教育協議会新歯科衛生士教本編集委員
 榊原悠紀田郎 戸田善久
 石川達也 宮脇美智子
 勝山 茂 成田むつ
 西 正勝 善本秀知

第2版の序
 歯科衛生士の教育年限は,3年制へと移行し,一部の教育機関では4年制の導入,さらに大学院の設置が認可され,この10年で教育体制が大きく変貌しようとしている.今後,歯科衛生士から多くの学士,修士,博士が誕生することになるであろう.この変革の背景には,高齢社会を迎え,予防医療,高齢者医療,障害者医療の重要性がクローズアップされ,この医療における歯科の果たす役割(口腔ケア,口腔機能の維持など)の重要性が社会に理解されるようになったことがあげられる.このような状況にあって,歯科衛生士はこれからの医療の大きな担い手として期待されているのである.この社会的要請にこたえるためには,歯科衛生士が,口腔ケアの知識・技術に習熟していることはもちろんのこと,複雑な健康状態にある患者に対応するために隣接医学の知識にも一定の理解が要求されるであろう.歯科衛生士として,正しい根拠に基づいた歯科衛生業務を戸惑うことなく行うためにも,広い医学的知識は必要である.
 このような社会的要請の中で,薬理学の歯科衛生士養成に果たす役割は大きい.第1版の序文でも述べられているように,薬理学は,医学の基盤となる解剖学や生理学をはじめとする教科目および治療医学(臨床)との関連を学習者に教示する大きな役割を担う教科として評価されているからである.
 このたび,第2版では国家試験出題基準の改定に対応するために,内容項目の追加を行った.編集の基本的方針は,最近の教科書にみられる要点の羅列ではなく,第1版に準拠して,解説に重点を置いた編集を堅持し,「疾患と薬」の項目を追加して,新しい時代に応える教科書を目指した.
 おわりに,本書の出版にあたってご尽力くださった,医歯薬出版株式会社に深く感謝する.
 なお,執筆は,.編1章は川口,2章は大浦,3章.,「-1.は川口,「-2.は大谷,」は戸苅,は加藤,・は大浦,4?6章は篠原,「編1章は加藤,2章.は大浦,「は大谷,3?5章は篠原,6章は戸苅,7章は大谷,8章は戸苅,8章のCOLUMNは川口,9章は大谷,10章は篠原,11・12章は川口,13章は大浦,14章は大谷,15・16章は加藤,17章は大浦が,それぞれ担当した.
 2011年6月
 著者一同

第1版の序
 薬理学は,生理学から分かれた大きな枝の一つであり,生命科学の一分野であると同時に,病気を治すという,臨床医学の一分野でもある.このため,薬理学を理解し歯科医療に役立てるためには,解剖学,生化学,生理学,微生物学,病理学などの基礎的知識が必要となる.健康なときや,病気のときに,わたしたちの身体がどのように機能しているのかについての知識がなければ,その患者さんに薬物を投与したときに起こる変化(効果)が理解できるはずもない.多くの薬物の効力発現には,科学的根拠に基づいた説明が可能なので,これから薬理学を学ぼうとする人たちは,この膨大な知識を頭から詰め込むのではなく,できるかぎり論理的に納得しながら学ぶ努力をしてほしい.
 歯科医療においては,一般の医療ではあまり使われないような劇薬類が日常的に口腔内に適用される.器械や材料ばかりでなく,これらの薬物を,治療のポイントポイントで,歯科医師の指示により的確に準備できることは,同じスタッフである歯科医師と歯科衛生士との間に信頼感をつくりだすための大きな条件の一つとなる.このためには,薬剤の取り扱いに関する基本を理解する必要がある.また歯科の治療内容と,それに関連する薬物の関係とをよく理解することも必要である.これらの点を十分に念頭において,本書は構成されている.
 口腔内に限ったこのような薬物治療ばかりでなく,今日では,一般の医科における治療のように,全身的に投与する薬物も非常に増えてきている.また,高齢者や有病者が歯科診療を受ける機会が増加しているので,薬物を有効に,また安全に投与するために,これからの歯科医師は,全身管理の知識と薬物に関する広い知識をもつことが要請される.同時に,スタッフである歯科衛生士もまた,大切な診療室のチェック機構として働いてほしい.
 本書は複数の専門家によって分担執筆されているので,用語の統一性を図ったり,内容の重複,矛盾などの生じないように十分に注意を払ったが,本書をご利用いただく方々からの厳しいご指摘もお願いしたい.
 なお,本教本のまとめ役として,最初から編集,執筆にあたられた佐藤精一教授(明海大学歯学部歯科薬理学教室)が本書の出版を待たずして急逝されたが,校正などにつき,同教室の丸山七朗講師(現・助教授)が快く代行を引き受けてくださったので,大きな支障もなく出版することが可能となった.ここに厚く御礼申し上げる.
 おわりに,本書の出版にあたってご尽力くださった,医歯薬出版株式会社に深く感謝する.
 なお,執筆は,1・5章を佐藤が,2章を山崎が,3・7・8章を加藤が,4・15章を川口が,6・9・10・11章を大浦が,12・13・14章を岩久が,それぞれ担当した.
 1994年3月
 著者一同
I編 総論
1章 薬物の概念
 I 薬理学とは
 II 薬物について(「くすり」とは)
  1.薬物の基本的な概念
 III 薬物の作用部位と作用機序
  1.薬物受容体
  2.イオンチャネル,トランスポーター
  3.酵 素
2章 医療と薬物
 I 薬物の作用
  1.薬理作用の基本形式
  2.薬理作用の分類
 II 治療法
  1.原因療法
  2.対症療法
  3.予防療法
  4.補充療法
 III コンプライアンス
3章 体と薬物
 I 体内の薬物の移動(薬物動態)
  1.薬物の吸収
  2.分 布
  3.代 謝
  4.排 泄
  5.生物学的半減期
 II 薬理作用の変動(薬の効き方の違い)
  1.薬理作用に影響を与える因子
  2.ライフステージと薬物
  COLUMN:サリドマイド事件
 III 薬物が効く仕組み(薬力学)
  1.情報伝達物質の働きと薬物
  COLUMN:美女のアルカロイド
  2.イオンチャネル,トランスポーターに働く薬物
  3.酵素に働く薬物
  4.化学的・物理化学的に作用を発揮する薬物
  5.微生物や悪性腫瘍細胞に働く薬物
 IV 薬物の併用による相互作用
  1.薬力学的相互作用
  2.薬物動態学的相互作用
 V 副作用・中毒
  1.薬物による有害作用
  2.一般的副作用,有害作用の分類
  3.中 毒
  4.口腔領域に副作用を現す薬物
  5.副作用の予知と回避
4章 薬物の取り扱い
 I 調 剤
  1.処方せん
  2.薬物の配合
  3.剤 形
5章 薬物の管理
 I 薬物の保管・管理
  1.毒薬・劇薬
  2.麻薬・向精神薬・覚せい剤
  3.放射性医薬品
  4.医薬品
6章 薬物と法律
 I 薬事法
  1.医薬品
  2.医薬部外品
  3.化粧品
  4.医療機器
 II 日本薬局方
II編 各論
1章 痛みと薬
 I 痛みの起こり方
  1.痛みの受容と伝導路
  2.痛みの内因性抑制機構
  3.痛みの種類と内因性発痛物質
 II 薬物による痛みの抑制
  1.疼痛性知覚麻痺作用を示す薬物
  2.解熱鎮痛薬
  3.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
  4.配合鎮痛薬
  5.局所麻酔薬
  6.モルヒネおよびその類似薬
 III 炎症と炎症治療薬
  1.炎症のケミカルメディエーター
  2.抗炎症薬
  3.アレルギー性の炎症
  4.感染による炎症
 IV 頭部領域に限局した疼痛
  1.片頭痛
  2.三叉神経痛
2章 感染と薬
 I 化学療法と抗菌薬
  1.感染と感染症
  2.抗菌薬の作用機序
  3.抗菌薬の副作用
  4.抗菌薬の分類
  5.主な抗菌薬
 II 消毒薬
  1.殺菌作用の効力検定の基準
  2.消毒薬の分類
  3.主な消毒薬
3章 精神疾患と薬
 I 認知症
  1.アルツハイマー病
 II 統合失調症
 III 全般性不安障害(不安神経症)
 IV 双極性感情障害(躁うつ病)
4章 機能性疾患と薬
 I 挿間性および発作性障害
  1.てんかん
  2.片頭痛
 II 錐体外路障害および異常行動
  1.パーキンソン病
5章 睡眠障害・不眠症と薬
 I 睡眠障害・不眠症
 II 催眠薬
  1.ベンゾジアゼピン系催眠薬
  2.非ベンゾジアゼピン系催眠薬
  3.バルビツール酸系催眠薬
6章 歯科小手術・手術と薬
 I 麻 酔
  1.全身麻酔薬
  2.局所麻酔薬
 II 手 術
  1.神経筋接合部に作用する薬物
  2.止血薬
  3.血液凝固阻止薬(抗凝血薬)
7章 救急医療に使用する薬
 I 強心薬
  1.アドレナリン(エピネフリン)
  2.イソプレナリン塩酸塩
 II 昇圧薬
  1.ノルアドレナリン
  2.ドパミン塩酸塩
  3.ドブタミン塩酸塩
  4.塩酸メトキサミン
  5.エフェドリン塩酸塩
 III 抗不整脈薬
  1.リドカイン塩酸塩
  2.プロカインアミド塩酸塩
  3.ベラパミル塩酸塩
 IV 副腎皮質ホルモン
 V ジアゼパム
 VI 酸 素
  COLUMN:ショックの種類
8章 呼吸・循環系と薬
 I 気管支喘息
  1.気管支喘息治療薬
 II 高血圧
  1.高血圧治療薬
  COLUMN:最低血圧が高くなるとは?
 III 心不全
  1.心不全治療薬
 IV 不整脈
  1.不整脈治療薬
 V 狭心症・心筋梗塞
  1.狭心症治療薬・心筋梗塞治療薬
9章 代謝と薬
 I 糖尿病治療薬
  1.インスリン
  2.経口血糖降下薬
 II 脂質異常症治療薬
  1.HMG-CoA還元酵素阻害薬
  2.フィブラート類
  3.陰イオン交換樹脂
  4.ニコチン酸類
 III 痛風・高尿酸血症治療薬
  1.痛風発作治療薬
  2.高尿酸血症治療薬
 IV 骨粗鬆症治療薬
  1.ビタミンD
  2.カルシトニン
  3.選択的エストロゲン受容体モジュレーター
  4.ビタミンK
  5.ビスホスホネート
  6.副甲状腺ホルモン
10章 消化器系と薬
  1.健胃薬,消化薬
  2.制酸薬,胃液分泌抑制薬
  3.利胆薬
  4.催吐薬,制吐薬
  5.瀉下薬,止瀉薬
11章 悪性腫瘍と薬
 I 悪性腫瘍とは
 II 腫瘍の分類
 III 抗悪性腫瘍薬
  1.悪性腫瘍治療薬の概要
  2.細胞周期からみた治療薬の作用点
 IV 薬物の種類,作用機序,副作用
  1.化学療法薬
  2.分子標的治療薬
12章 免疫系と薬
 I 免疫抑制薬
  1.特異的免疫抑制薬
  2.副腎ステロイド薬
  3.細胞毒性薬
  4.生物学的製剤
13章 粘膜・組織の腐食薬と収斂薬
 I 腐食作用と収斂作用
 II 腐食薬
  1.腐食薬の薬理作用
  2.主な腐食薬
 III 収斂薬
  1.収斂薬の薬理作用
  2.主な収斂薬
14章 歯内治療と薬
 I 歯内治療薬とは
 II 歯内療法の術式と薬物
  1.齲窩の開放,感染歯質削除,窩洞清掃
  2.窩洞消毒剤,歯髄鎮静剤
  3.覆髄剤
  4.歯髄失活剤
  5.歯髄乾死剤
  6.根管清掃・拡大剤
  7.根管消毒剤
  8.根管充?剤
  9.象牙質知覚過敏症治療剤
15章 歯周治療と薬
 I 歯周疾患とは
 II 歯周疾患の治療法と薬剤
  1.炎症の改善
  2.歯周治療に用いる薬剤
16章 口腔粘膜疾患と薬
 I 口腔粘膜疾患
  1.ウイルス感染症
  2.口腔カンジダ症
  3.扁平苔癬
  4.アフタ性口内炎・再発性アフタ性口内炎
  5.義歯性口内炎
 II 口腔用薬
  1.局所作用を目的とした薬剤
  2.全身作用を目的とした薬剤
  COLUMN:チュアブル錠と口腔内崩壊錠
17章 齲蝕予防と薬
 I 齲蝕とその予防
 II 齲蝕の予防に使用する薬
 III フッ化物による齲蝕予防
  1.フッ化物

 付表 薬剤名一覧