やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 医学および歯学の領域における生化学の学生実習は多様の目的を持ったものであると考えられる.それらをあげてみると
 1.教科書や講義課程にふくまれる内容のもので,実験を通じてより深い理解をうることを目的とするもの.
 2.将来研究にたずさわる際に必要な基礎的学識としての研究方法や実験技術の修得.
 3.臨床諸学科において応用されている診断学的な知識の学習.
 などがあろう.これらの目的も歴史的な変遷があったものと想像され,古くは3.にあげたような臨床検査としての医化学実習という色彩が濃かったのであろうが,近年では生命科学の主役としての生化学の著しい進歩に伴って,1.あるいは2.にあげた面を重視する傾向が強くなってきていると判断される.
 しかしながら,これらすべての目的のためにはもちろんのこと,いずれの一つをとっても,その目的を果すための生化学実習のあり方についてはかなりむずかしい問題をふくんでいる.
 まず,実習内容の充実のためには設備,指導教官数などの問題が第一であるが,これにもまして,実習時間の制限のほうが現実には大きな障害となっている.定められた時間と回数内に,現在の生化学の最先端の実験を組入れることは至難といえよう.また,3.にあげた臨床検査的内容のものについては,中央検査方式が確立されつつある現状では,学生実習でオートメーション化された検査を行なうより,むしろ古典的な方法であっても、原理的な理解を深める実験のほうが好ましいと考えられる.
 このような多くの問題点を意識しながら,われわれは,7〜8年前からプリントに従って学生実習を行なってきた.試行錯誤をくりかえし,改訂を重ねて,最近ようやくその内容も一応の確立を見るに至ったので,実習書として上梓するはこびとなった次第である.
 このような経験を経た実習項目を,本書では章としてとりあげた.このなかには形態学の実習にふさわしい項目(第7章)などもふくまれているが,生体の機能を理解するうえで,このような内容のものも必要であろうという判断に立って,あえてとり上げた次第である.
 いずれの実習項目も,原則として1回3〜4時間内に1つのテーマとして完了できるように配慮されている.しかし“本書の使い方”にも書いであるように,このテキストを用いた実習の組み方はいろいろ工夫が可能であろうから,それぞれの教育体系に応じて最も適した利用法を望むものである.
 最後に,出版にあたってご協力いただいた米川征英氏をはじめ医歯薬出版の方々に深く感謝する次第である.
 昭和48年7月 著者一同
実習に関する予備的事項……………佐々木 哲

第1章 生体成分……………佐々木 哲・深江 允・下川仁彌太
 I.糖の定性反応
  1.Benedict反応
  2.Barfod反応
  3.Seliwanoff反応
  4.Bial試験
 II.タンパク質の定性反応
  1.ビュレット反応
  2.キサントプロテイン反応
  3.Millon反応
  4.硫化鉛反応
  5.坂口反応
  6.ニンヒドリン反応
 III.脂質の薄層クロマトグラフィーによる分離
  1.脂質の抽出
  2.プレートの作製
  3.試料のスポットおよび展開
  4.発色
 IV.核酸構成成分の薄層クロマトグラフィーによる分離
  1.試料の調整
  2.核酸の抽出
  3.試料の加水分解
  4.試料のスポット
  5.展開
  6.スポットの検出
 〔付〕核酸の紫外部吸収曲線
第2章 尿中の有機物……………清水正春・久保木芳徳
 I.正常尿中の有機物
  1.尿素
  2.尿酸
  3.クレアチニン
  4.ウロビリン体
  5.尿インジカン
 II.異常尿成分の検出
  1.タンパク尿
  2.糖尿
  3.ケトン体
  4.ビリルビソ尿
  5.その他
第3章 糖尿病に関する実験……………堀内 登
  1.採血と除タンパク
  2.発色
第4章 血液(タンパク質)に関する実験……………深江 允
 I.血球と血漿の分離
 II.塩析による血清タンパク質の分画
 III.血清タンパク質の電気泳動
 IV.赤血球とヘモグロビンに関する実験
  1.溶血現象の観察
  2.ペルオキシダーゼ反応
  3.ヘモグロビンとその誘導体の吸収スペクトル
第5章 タンパク質の定量法……………久保木芳徳・阿部悦子
 I.血清中のタンパク質,残余窒素の定量
  1.タンパク質含有量(総N量)測定の準備
  2.残余N測定の準備
  3.盲検の準備
  4.酸化
  5.蒸溜
  6.滴定
  7.計算
 II.その他のタンパク質定量法
  1.色素法
  2.Lowry-Folin法
  3.紫外線吸収法
第6章 細胞内小器官の分画とミトコンドリアの呼吸……………久保木芳徳・深江 允・下川仁彌太
 I.細胞内小器官の分画
  1.肝ホモジネートの調整
  2.核の分離
  3.ミトコンドリアの分離
 II.ミトコンドリアの呼吸
  1.準備
  2.反応
  3.結果の整理
第7章 ディスク電気泳動法による乳酸脱水素酵素(LDH)の分離……………須田立雄・深江允・田中弘文
  1.ディスク電気泳動法について
  2.装置
  3.実験の準備と方法
  4.乳酸脱水素の検出
第8章 小腸におけるホスファターゼの性貫と分布……………須田立雄・新木敏正
  1.実験の準備
  2.実験
第9章 硬組織のアルカリホスファターゼに関する実験……………佐々木 哲・久保木芳徳・下川仁彌太・大井田新一郎
  1.硬組織のアルカリホスファターゼについて
  2.酵素の純度と比活性
  3.精製法の原理
 I.アルカリホスファターゼ粗酵素のクロマトグラフィー(第1日)
  1.ゲルろ過クロマトグラフィー
  2.イオン交換クロマトグラフィー
  3.コンカナバリンA・セファロース・アフィニティークロマトグラフィー
   クロマトグラフィーの溶出液の分析(第2目)
  4.タンパク質の測定
  5.酵素活性測定法
  6.クロマトグラフィーによる精製度および回収率の測定
 II.
  1.アルカリホスファターゼの阻害と活性化に関する実験
  2.アルカリホスファターゼの至適pHに関する実験
第10章 Michaelis定数の測定……………深江 允・堀内 登
 I.アルカリホスファターゼのKmを求める実験
  1.基質液
  2.酵素液
  3.測定法
  4.Kmの求め方
 II.コハク酸脱水素酵素のKmを求める実験
  1.コハク酸脱水素酵素の阻害様式
  2.測定法の原理
第11章 動物に注射した32Pの体内分布を調べる実験……………須田立雄・堀内 登・鈴木ミチ子
第12章 小腸におけるカルシウム(45Ca)の能動輸送……………須田立雄・堀内 登
  1.翻転腸管の作製
  2.インキュベーション
  3.結果の測定
第13章 筋小胞体におけるCaの能動輸送……………佐々木 哲・大井田新一郎
 I.筋小胞体のCa取り込み活性の測定
  1.筋小胞体の調製法
  2.Ca取り込み実験
 II.Ca-ATPase活性の測定
  1.筋小胞体懸濁液
  2.腎小胞体懸濁液
  3.ATPase活性測定の操作
  4.Martin-Doty法による無機リン酸定量法
第14章 ビタミンDの代謝に関する実験……………堀内 登
第15章 ビタミンD誘導体による血液細胞の分化誘導……………阿部悦子
  1.細胞培養
  2.HL-60細胞にビタミンD誘導体を作用させたときの貪食能の変化
第16章 Competitive Protein Bining Assayによるcyclic AMPの定量……………下川仁彌太・阿部悦子
  1.腎臓に対するPTHのin vitroの作用
  2.cAMPの抽出
  3.cAMPのAssay
第17章 硬組織の無機質に関する実験……………須田立雄・清水正春・阿部悦子
 I.硬組織粉末の脱灰
 II.カルシウムの定量
  1.キレート滴定法
  2.原子吸光法
  3.OCPC法
 III.マグネシウムの定量
 IV.リン酸の定量(Fiske-Subbarow法)
 V.赤外線吸収スペクトルによる同定
第18章 コラーゲンに関する実験……………佐々木 哲・須田立雄・久保木芳徳・高木 亨
 I.電気泳動によるI型,II型コラーゲンの分析
  1.ペプシン消化によるコラーゲンの抽出
  2.ディスク電気泳動による分離
 II.コラーゲンのアミノ酸組成に関する実験
  1.骨コラーゲン加水分解物の薄層クロマトグラフィー
  2.ヒドロキシプロリンの定量
  3.プロリンの定量
 〔付〕コラーゲンによる血小板の凝集
  1.血小板の調整
  2.コラーゲンの懸濁液の調整
  3.凝集反応
第19章 唾液による乳酸産生とpHの変化……………清水正春・深江 允
 I.唾液による乳酸産生(Barker-Summerson法による乳酸の定量)
  1.唾液の採取
  2.インキュベーション
  3.Barker-Summerson法による乳酸の定最
 〔付〕酵素法による乳酸の定量
  4.唾液の乳酸産生について
 II.唾液のpH変化

付表
 常用試薬の濃度/緩衝液表/塩析用塩類表/生理的塩類溶液/主な酸アルカリ指示薬/正常ヒト血液,血清(または血漿)中の成分/ヒト尿(24時間量)の正常値/対数表

 索引
 実習レポート(提出用)