やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 筆者は1999年に大学を卒業して以降,今日まで様々な大学病院にてインプラント治療をおこなってきたが,2000年以降CBCTの導入やシミュレーション・ガイデッドサージェリーの導入,GBRやSinus augmentation等の術式の発展,all-on-fourに代表される全顎即時荷重治療,軟組織移植を駆使した審美インプラント治療,インプラント周囲炎に対する再生療法等,インプラント治療は他の歯科分野と比較しても飛躍的な進歩を遂げている.
 しかし,インプラント治療の高いSurvival rateと適応拡大が進む一方で,筆者が勤務している大学病院では,以前より複雑でリカバリーが困難な症例や患者選択そのものが問題であった症例,術式選択ミスによるインプラント脱落症例等,様々なトラブルや患者クレームに直面することが非常に多くなったと思うのが正直な実感である.
 インプラント治療の発展とともにインプラントトラブルもより複雑かつ難解になっていく中で,本当に今おこなわれている最新の治療法はベストなのか? 難易度の高い治療法より,失敗の少ない治療法を選択するという考え方は間違っているのか? 患者のある種のわがままも含めた適応拡大が本当に正しいのか?と疑問を持つようになり,「成功率の高いインプラントだからこそ,失敗(Failure)から学ぶことの方が多い」と感じたことが本書を書くきっかけであり,Implant failureに対して原因を追究していく前向きな姿勢を持つことができた理由でもある.
 そこで本書では,歯科医師サイドの問題が大きく,患者クレームに発展しやすいEarly implant failure(インプラントの早期喪失)に焦点をしぼって,現在国内外において広くおこなわれているリッジプリザベーションや抜歯即時インプラント埋入,垂直・水平的骨造成,Sinus augmentation,CTG等の硬組織・軟組織造成に関するリスク因子とEarly implant failureを回避するポイント,予防策に関して,最新の文献といわゆる失敗症例を交えながら情報共有できればと考え内容を構成した.
 最後に,Implant failureに対する前向きな姿勢を教えてくれた勉強会「SAFE」の野阪泰弘先生,米澤大地先生と楽しい会員の先生方,どんな向かい風の時にも後ろからサポートしていただいている小宮山彌太郎先生,本書も含め常に診療と研究をサポートしてくれている昭和大学インプラント歯科学講座の山口菊江先生と佐藤大輔先生,歯科理工学講座(歯学教育学講座)の片岡 有先生,そして神奈川歯科大学の教え子である北見遼二先生と,私の師である立川敬子先生にこの場を借りて深く感謝いたします.
 2024年1月
 宗像源博
 序文
Chapter 0 Early Implant Failureの特異性
  Column 1 日本におけるインプラント関連手術のトラブル件数の実態と考察
Chapter 1 Early Implant Failureが生じる原因とは
 1 Early Implant Failureが引き起こす大きな問題
 2 Early Implant Failureが生じるリスク因子とは
 3 Early Implant Failureを「骨結合の未獲得」として捉える:骨造成術の重要性
  Column 2 最近のインプラントに特徴的なComplicationとは?
Chapter 2 骨造成手技が抱えるリスク因子とは
 1 リッジプリザベーション(Alveolar Ridge Preservation:ARP)
 2 抜歯即時インプラント埋入(Immediate Implant Placement:IIP)
 3 Ridge Augmentation(歯槽堤造成術):水平・垂直的骨造成,GBR
 4 Sinus Augmentation(Lateral Approach/Crestal Approach)
  Column 3 インプラント周囲骨吸収(MBL:Marginal Bone Loss)はいつ,なぜ起こるのか?
Chapter 3 軟組織造成のリスク因子と骨造成・軟組織造成を成功させるための重要なPoint
 1 軟組織造成の目的とタイミング,Complication
 2 骨造成・軟組織造成を成功させるためにまず押さえるべきPoint
  Column 4 インプラントにおける付着粘膜(歯肉)と角化粘膜(歯肉)の考え方と捉え方
Chapter 4 Early Implant Failureを回避するためのストラテジー
 1 骨造成手技選択のための診断基準とフローチャート
  フローチャート1 抜歯予定歯がある際の診断基準
  フローチャート2 欠損部顎堤に対する診断基準
  フローチャート3 Sinus augmentationに対する診断基準
 2 Early Failureを回避するための骨造成術とは