やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 「歯科衛生士による,歯科衛生士のための症例集」を作ろう!というかけ声で,本別冊企画はスタートしました.打ち合わせを重ねるうちに,症例集の根幹は「歯科臨床における経過観察の重要性」になるのではないかという提案があり,本別冊テーマは「経過観察の意味」となりました.
 そこで,歯科衛生士界の第一線でご活躍される10名の歯科衛生士の方々に,ご自身が担当している,少なくとも10年以上は経過観察をしている患者さんを取り上げてもらい,ご自身の考える「経過観察の意味」についてまとめてください,と執筆依頼をしました.つまり,あまり細かな枠組みを設定せずに,長く経過をみている症例についてご紹介ください,と依頼したのです.
 ところが,集まった症例は,地域性や医院システムの違いがあるにもかかわらず,多くの共通点がありました.どの患者さんも,歯科衛生士とともに「歯の保存」にこだわり,時間が流れています.喪失歯も少なく,症例を供覧するだけで,歯科衛生士が長期に患者さんの経過観察にかかわる意味があることがうかがい知れます.そしてなにより,長期的な臨床記録(口腔内写真,X線写真,チャートなど)がきちんと整備されていることに驚かされるとともに,整備された臨床記録こそが,“私たちの会話のマナー”であり,“共通言語”になることを教えられました.
 症例を拝見させていただくと,歯科衛生士としての経験が浅い時期は技術的志向が強く,経過が長くなればなるほど,患者さんという「人」をみる視点にシフトしていくのがわかります.言いかえると,「人」の要素を見ないことには,患者さんと長期的にかかわることは難しい,ということかもしれません.
 また,「長期にかかわる」なかでは,当然,患者さんは年齢を重ね,生活環境が変化したり,全身疾患を患ったりします.術者は技術だけでは対応できなくなることを知り,「人と人とのつながり」が臨床の中心になってくるようです.
 『10年以上かかわっている症例なんて,私たちには遠い未来の話です!』と,若手の歯科衛生士には言われそうですが,では,『あなたが担当している目の前の患者さんに「未来」をどう伝えますか?』ということを問い直してみましょう.歯周病のような慢性疾患では,「過去」や「現在(現状)」だけでなく,すこしでも「未来」の情報を伝えないと,患者さんは目標をなくしてしまいます.この別冊が,皆さんがかかわっている患者さんの「未来」への参考となることを願ってやみません.
 最後に,本別冊上梓にあたり,経過観察中の症例にもかかわらず,歯科衛生士執筆者諸氏の症例呈示を快くご承諾してくださった主治歯科医師の先生方に,深く敬意を表するとともに感謝申し上げます.
 2013年春
 鷹岡竜一 品田和美 村上恵子
 序文
Chapter 1 総論
歯科衛生士にとっての「経過観察」の意味(鷹岡竜一)
Chapter 2 現状と展望
座談会 なぜ「経過観察」が必要か?(鷹岡竜一・品田和美・村上恵子)
Chapter 3 実際
長期症例における「経過観察」の実際〜10名の歯科衛生士によるClinical Case Report
  CaseReport 1 「安定」と「変化」を予知する観察力のために(安生朝子)
  CaseReport 2 恐怖心の強い患者さんとの16年の歩み〜非外科処置によるアプローチ(大住祐子)
  CaseReport 3 患者さんを長期的なSPTに導くために(鍵和田優佳里)
  CaseReport 4 ハイリスク患者のSPTより学んだこと(加藤 典)
  CaseReport 5 補綴治療のゴールとメインテナンスゴールとのリアリティ(小林明子)
  CaseReport 6 長期的なかかわりから養われる診る力・技術力・伝える力(品田和美)
  CaseReport 7 審美修復治療における歯科衛生士の長期的なかかわり(土屋和子)
  CaseReport 8 患者さんとリスクを共有するという『意味』(松本絹子)
  CaseReport 9 初診時から始まる経過観察〜患者さんの記録は自分の記録(村上恵子)
  CaseReport 10 24年間歯を失わなかった患者さんからみえる医院の総合力(山岸貴美恵)
 Chapter 3をDHとしてどう読み臨床にフィードバックするか(品田和美・村上恵子)
  Column 1 三種の神器〜経過観察における規格資料の重要性〜(鷹岡竜一)
  Column 2 「歯科衛生士担当制」の重要性〜歯科衛生士の立場から〜(品田和美)
      「歯科衛生士担当制(患者担当制)」について〜歯科医師の立場から〜(鷹岡竜一)
  Column 3 歯科医師の治療計画を理解することの重要性(村上恵子)

 索引
 あとがき
 編著者・執筆者一覧