やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 熊谷俊一
 神鋼記念病院膠原病リウマチセンター
 抗CCP抗体は関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の診断に重要であるが,発症の何年も前から陽性であり,病因病態との関連でも注目されている.HLA-DR4などの遺伝素因を有する人に喫煙や歯周病などの環境要因が作用すると,抗CCP抗体が陽性化する.その後抗体陽性無症状の時期を経て,二次的な要因が加わると抗CCP抗体が関節に作用し,慢性炎症を惹起しRAを発症するとの仮説である.
 多くの自己免疫疾患も多因子疾患であり,遺伝素因と環境因子のかかわりにより,いくつかの連続的あるいは非連続的なステップを経て自己免疫病態が形成され,臨床症状と組織障害が発現し,発症診断に至ると考えられる.近年のゲノム研究の技術革新は,自己免疫疾患に関与する数多くの遺伝因子を明らかにし,環境因子についても対照研究やコホート研究によるエビデンスも集積され,いよいよ両者の相互作用の研究が現実のものとなりつつある.
 その手がかりとして腸内細菌と免疫調節機構との関連が明らかにされ,炎症性腸疾患のみならず多くの自己免疫疾患の発症とのかかわりが報告されている.また,遺伝子発現はDNA配列のみならず,クロマチン修飾などエピジェネティックな修飾による転写制御を受ける.エピジェネティクスは外的環境に対する反応の鍵となることから,多因子疾患の全ゲノムにわたるエピゲノミクス解析も試みられている.
 発症前の病態形成段階を的確にとらえることは,発症予防や発症前治療への道を開くとともに,臨床的には早期診断,増悪や再燃予防などにも有用である.本特集では,“自己免疫疾患―Preclinical Stateから発症・早期診断まで”と題して,自己免疫疾患の病因病態研究の最前線と,各種全身性自己免疫疾患といくつかの臓器特異的自己免疫疾患について“Preclinical State/Stage”を手がかりに,研究の最前線と早期診断や発症予防などについてご紹介いただいた.
 はじめに(熊谷俊一)
病因にせまる
 1.自己免疫疾患の病因研究としてのゲノム研究―疾患ゲノム研究の次世代シークエンシングによる変化(山田 亮)
  ・自己免疫疾患の遺伝因子解析の成果
  ・遺伝因子解析の成果の特徴と解釈
  ・次世代シークエンサーの登場
  ・生殖細胞系列バリアントと体細胞系列バリアント
  ・ヒトレファレンスゲノム配列のグラフ構造化
  ・電子カルテとフェノーム解析とPheWAS
 2.自己免疫疾患の発症関連環境要因(三宅吉博)
  ・全身性エリテマトーデス(SLE)
  ・関節リウマチ(RA)
  ・その他の自己免疫疾患
 3.腸内細菌と免疫疾患(能登大介・三宅幸子)
  ・腸内細菌とT細胞
  ・腸内細菌と自然リンパ球
  ・腸内細菌とIgA産生細胞
  ・腸内細菌と自己免疫疾患
 4.自己免疫疾患のエピジェネティクス(森信暁雄)
  ・エピジェネティクスの機構
  ・自己免疫疾患とエピジェネティクス
  ・薬剤性SLEとDNAメチル化異常
  ・SLEとエピゲノミクス
  ・関節リウマチ(RA)とエピジェネティクス
  ・エピジェネティクスを標的とした治療
 5.制御性T細胞(川畑仁人)
  ・制御性T細胞(Treg)
  ・Foxp3+Treg
全身性自己免疫疾患
 6.関節リウマチのpreclinical state(大村浩一郎)
  ・関節リウマチ(RA)の遺伝的背景
  ・RAの環境因子
  ・ACPAの対応抗原とシトルリン化機序
  ・ACPAの成熟
  ・ACPAの病原性
 7.全身性エリテマトーデスの病因―ゲノム解析からの知見(川崎 綾・土屋尚之)
  ・HLA
  ・GWASで見出された疾患感受性遺伝子
  ・I型インターフェロン(IFN)関連遺伝子群
  ・候補遺伝子解析から見出された関連遺伝子
 8.悪性腫瘍合併皮膚筋炎(室 慶直)
  ・悪性腫瘍合併皮膚筋炎の疫学
  ・悪性腫瘍合併皮膚筋炎の臨床的特徴
  ・悪性腫瘍合併皮膚筋炎の自己抗体
  ・自己抗原から考える悪性腫瘍と皮膚筋炎の病理
  ・悪性腫瘍合併皮膚筋炎の治療
 9.強皮症の自然歴と早期診断(桑名正隆)
  ・強皮症(SSc)の自然歴
  ・SSc早期に出現する臨床徴候
  ・SSc早期診断における問題点
  ・SScの早期診断
  ・早期介入によるあらたな治療概念
 10.ANCA関連血管炎(渡辺晴樹・佐田憲映)
  ・ANCA関連血管炎(AAV)とは?
  ・抗好中球細胞質抗体(ANCA)の病的意義
  ・遺伝的素因およびエピジェネティクス,環境因子
  ・補体の関与
  ・間質性肺炎と自己抗体
 11.ベーチェット病(廣畑俊成)
  ・ベーチェット病(BD)の病因
  ・BDの病態
  ・BDの病理
  ・BDの診断
  ・慢性進行型神経ベーチェット病(CPNB)の早期診断
  ・BDの治療
 12.成人Still病の病態と診断のポイント(古賀智裕・川上 純)
  ・成人Still病(ASD)の病態におけるサイトカイン
  ・ASDの分類基準と重症度分類
  ・ASDの鑑別疾患
 13.シェーグレン症候群(住田孝之)
  ・シェーグレン症候群(SS)の疾患概念・疫学
  ・SSの発症機序
  ・SSの診断基準
  ・SSの臨床症状
  ・検査成績
  ・SSの重症度分類
  ・早期診断のために
 14.脊椎関節炎―体軸性脊椎関節炎のpreclinical stateから発症・早期診断まで(谷口義典)
  ・axSpAのpreclinical stateから発症まで
  ・発症後の進展割合と予測因子
  ・早期診断
 15.高安動脈炎の発症機序におけるHLAとサイトカインの寄与(吉藤 元)
  ・大型血管炎とは
  ・高安動脈炎とは
  ・自己免疫疾患におけるHLAの重要性
  ・高安動脈炎のHLA研究
  ・高安動脈炎のサイトカイン研究
  ・高安動脈炎と近縁の疾患
  ・研究成果から治療へ
 16.小児リウマチ性疾患(森 雅亮)
  ・若年性特発性関節炎(JIA)
  ・全身性エリテマトーデス(SLE)
  ・若年性皮膚筋炎(JDM)
臓器特異的自己免疫疾患
 17.炎症性腸疾患の初期病変(飯室正樹・中村志郎)
  ・炎症性腸疾患(IBD)の初期病変の可能性があると考えられる所見
  ・潰瘍性大腸炎(UC)におけるアフタ様病変の特徴と症例
  ・クローン病(CD)におけるアフタ様病変の特徴と症例
 18.多発性硬化症と腸内細菌叢異常(山村 隆)
  ・多発性硬化症(MS)発症の環境要因
  ・食生活-腸内細菌叢-免疫系
  ・MSにおける腸内細菌叢解析
 19.成人1型糖尿病(金綱規夫・花房俊昭)
  ・1型糖尿病の疾患概念と病型分類
  ・1型糖尿病の成因
  ・自己免疫性1型糖尿病(1A型)の成因
  ・劇症1型糖尿病
 20.乾癬のpreclinical stageから発症まで(佐野栄紀)
  ・乾癬の臨床・病理組織像
  ・乾癬の病型および疫学
  ・乾癬の遺伝学と疾患感受性遺伝子
  ・乾癬の発症に関与する環境因子
  ・表皮-免疫系の病的クロストーク
  ・自己免疫疾患としての乾癬

 サイドメモ
  筋炎特異・関連自己抗体
  Raynaud現象
  自己炎症性疾患
  指定難病
  マクロファージ活性化症候群(MAS)
  若年性皮膚筋炎(JDM)における間質性肺炎
  炎症性腸疾患(IBD)の病因
  特定疾患医療受給者数