やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 服部信孝
 順天堂大学医学部脳神経内科
 パーキンソン病はmulticentric neurodegenerationとしてとらえられており,運動障害のみならず非運動症状も注目されている.この非運動症状に関してはパーキンソニズム発現前のpreclinical signとしてとらえる試みが行われており,REM sleep behavior disorder(RBD)や嗅覚障害など早期症状の可能性が指摘されている.一方,認知症の合併も多く神経変性疾患としてはアルツハイマー病に次いでその頻度が高く運動障害も伴うことから,その治療,対応が大きな問題となっている.さらには,パーキンソン病の認知症に関してはアルツハイマー病病変も伴うことから,アルツハイマー病との関連性も検討されている.そして神経変性疾患に特異的な所見として,残存細胞に細胞質または核内に封入体形成が観察され,パーキンソン病で観察されるLewy小体はユビキチン陽性であり,蛋白分解系の関与が指摘されている.また,ドパミン神経細胞の脱落がパーキンソニズムの発現に寄与していることから,最近注目されている万能細胞の治療ターゲットに,パーキンソン病がなると強調されている.万能細胞の臨床応用の早期実現はパーキンソン病患者から強い要望があることから,その病態解明は焦眉の急であるといえる.
 薬物療法に関しては世界で使用可能な薬が全てではないにしろ,ある程度わが国にも揃った.しかし,全て対症療法であり,神経保護薬など進行阻止可能な薬剤の開発は依然臨床応用まで至っていない.対症療法に限る以上,疾患の性質を考えると在宅医療など行政上の問題も検討すべき課題であるが,在宅医療に関して十分な議論がなされているとはいい難い.本特集では在宅医療についてもテーマとして取り入れた.パーキンソン病は他の神経変性疾患より治療・病態解明と進歩がみられる.そして病態解明には,わが国の研究者がリーダーシップをとってきた.しかし,その原因の全貌解明までは,依然遠いという感があるのは否めない.本特集が,すこしでも若い医師と基礎研究者にパーキンソン病研究に参加してもらうチャンスとなり,一刻も早く進行阻止可能な新規治療や根治療法が実現することを願ってやまない.
 はじめに(服部信孝)
臨床および新しい治療戦略
1.パーキンソン病の疫学研究(竹島多賀夫)
 ・有病率・罹患率
 ・予後・共存症
 ・遺伝的要因
 ・環境的危険因子
 ・防御因子
2.パーキンソン病の臨床診断および鑑別診断(長谷川一子)
 ・パーキンソン病の診断基準
 ・進行期パーキンソン病患者にみられる症候
 ・治療に伴って認められるようになる症候
 ・パーキンソン病の鑑別診断
3.“全身病”としてのパーキンソン病の病理―αシヌクレイン蓄積の進展様式とその意義(若林孝一)
 ・パーキンソン病の病理学的特徴
 ・αシヌクレイン蓄積の進展様式
 ・パーキンソン病における非運動症状の責任病変
 ・Incidental Lewy body diseaseとは
 ・Lewy小体は悪玉か善玉か
4.パーキンソン病の神経生理―パーキンソン症状と大脳基底核の役割(望月仁志)
 ・大脳基底核の神経回路
 ・無動・動作緩慢
 ・固縮
 ・安静時振戦
 ・姿勢反射障害
 ・脳血流・代謝測定による解析
5.パーキンソン病の画像診断の進歩―MRI,PET,SPECTによる測定(篠遠 仁)
 ・MRI
 ・代謝ネットワークの測定
 ・アミロイドイメージング
 ・コリン神経系
 ・ドパミン系
6.パーキンソン病の非運動症状(三輪英人)
 ・パーキンソン病における非運動症状
 ・非運動症状の把握
 ・非運動症状は発症前診断の鍵となる
7.パーキンソン病薬物療法のメリット・デメリット(村田美穂)
 ・効果
 ・運動合併症
 ・副作用
 ・神経保護作用
 ・コスト,使いやすさ,QOL
8.パーキンソン病の在宅医療(荻野美恵子)
 ・パーキンソン病における在宅医療とは
 ・パーキンソン病で用いる制度
 ・初期パーキンソン病(YahrI〜II)
 ・初〜中期パーキンソン病(YahrIII)
 ・中期〜後期パーキンソン病(YahrIV)
 ・進行期パーキンソン病(YahrV)
 ・終末期
9.パーキンソン病の定位・機能神経外科的治療―STN-DBSを中心に(深谷 親・他)
 ・PDに対するDBS
 ・STN-DBSの適応
 ・STN-DBSの手術
 ・術後の調整(プログラミング)
 ・問題点と今後の展望
10.パーキンソン病の遺伝子治療(望月秀樹)
 ・抑制性神経伝達物質GABA合成酵素(glutamic acid decarboxylase,グルタミン酸脱炭酸酵素)を用いた遺伝子治療
 ・ドパミン合成関連酵素(aromatic L-amino acid decarboxylase,芳香族アミノ酸脱炭酸酵素)を用いた遺伝子治療
 ・神経保護因子Neurturinを用いた遺伝子治療
 ・家族性パーキンソン病に対する遺伝子治療
 ・パーキンソン病の細胞移植による遺伝子治療
11.細胞移植によるパーキンソン病の治療(村松慎一)
 ・続く技術革新
 ・移植の目標
 ・他の治療法の進歩
 ・臨床成績
 ・移植の技術的問題
 ・あらたなドナー細胞
 ・パーキンソン症候群への応用
基礎研究と遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子
12.パーキンソン病におけるミトコンドリア機能障害の意義(小林理子・武田 篤)
 ・ミトコンドリア機能とパーキンソン病
 ・パーキンソン病関連遺伝子とミトコンドリア
 ・ミトコンドリア障害とパーキンソン病発症メカニズム
 ・治療に向けて
13.PARK1 および PARK4―α-synuclein(SNCA)とパーキンソン病(山下拓史・松本昌泰)
 ・α-synucleinの構造と機能
 ・PARK1とPARK4の臨床像と病理像
 ・α-synucleinの凝集と神経傷害
 ・α-synucleinの翻訳後修飾と神経変性
14.Parkin(PARK2)発見から10年を迎えて(佐藤栄人)
 ・Parkin(Park2)遺伝子
 ・臨床像
 ・Parkin蛋白質とその機能解析
15.PARK5(UCH-L1)―UCH-L1とパーキンソン病(和田圭一郎・望月秀樹)
 ・推定されるUCH-L1の機能
 ・UCHL-1I93M変異と家族性パーキンソン病
 ・UCH-L1S18Y多型とパーキンソン病
 ・UCH-L1と酸化修飾
16.PINK1-linked Parkinson's diseaseの最新知見(河尻澄宏・久保紳一郎)
 ・PINK1-linked PDの臨床および病理像
 ・PINK1の分子遺伝学
 ・PINK1の機能
17.抗酸化ストレス因子としてのPark7/DJ-1とパーキンソン病(有賀寛芳・有賀早苗)
 ・DJ-1の発現と構造
 ・DJ-1機能
 ・DJ-1ノックアウトマウスと他のモデル動物
 ・DJ-1と他のパーキンソン病原因蛋白質との相互作用
 ・パーキンソン病治療薬のターゲットとしてのDJ-1
 ・バイオマーカーとしてのDJ-1
18.PARK8:LRRK2―神経細胞死の機序解明への期待(荻野 裕)
 ・PARK8:LRRK2の臨床像と病理像
 ・これまでわかった遺伝子から予想される病態
 ・LRRK2の機能
 ・病態へのかかわり
 ・変異LRRK2キナーゼ活性は亢進(あるいは変化)しているのか
 ・キナーゼ活性の病態への関与
 ・その他のメカニズム
 ・展望
19.PARK9(Kufor-Rakeb症候群):ATP13A2―リソソーム蛋白質 ATP13A2 変異による常染色体劣性遺伝若年性パーキンソニズム(金井数明)
 ・Kufor-Rakeb症候群(KRS)・PARK9 の報告とその責任遺伝子ATP13A2の報告
 ・PARK/ATP13A2変異陽性パーキンソニズムの分布・頻度
 ・ATP13A2変異陽性パーキンソニズムの臨床像
 ・ATP13A2の機能とその変異による神経変性発症機序の仮説
AYUMI Glossary of Terms
20.パーキンソン病を理解するための最新基礎知識(波田野 琢)
 ・臨床編
 ・基礎編

 ・サイドメモ目次
  有病率・罹患率
  オッズ比(OR)
  αシヌクレイン
  Lewy neurite
  パーキンソン病の遺伝子治療
  アンヘドニア
  黒質超音波検査
  リソソーム・オートファジー系