やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 維持透析は,開発の初期には,生命を維持することを強く意識したものであった.比較的緩徐な病状にある慢性腎不全に対して,長期にわたって対応する経験を積むうちに,腎機能の廃絶した患者でも,長く生きることができるようになった.そして,生命維持が一つの目的であると同時に,生きている患者のQOLを向上させるための研究開発に興味が拡がってきた.近年では,その傾向が一層著しくなってきている.1998年,WHO憲章における健康の定義に,“肉体的・精神的・社会的”に,さらに,スピリチュアルにも健全な動的状態という文言を入れる論議まで行われた.医療は,QOLの向上までも視野にいれるという意志の表示とみられる.
 20世紀の初めに,現代科学に依拠するとされる現代医療に正統性を奪われた補完代替医療の多くは,医療社会の表面からは見えにくくなっているが,世界的にみて,民間療法的にはいまだ人気もあり,副作用もきわめて少なく,QOLの向上にも効果的である.その多くは,“費用がかからず“,ときに,現代科学的医療ではみることのない,“医療奇跡”といわれる効果を発揮することすらある.
 わが国においても,維持透析患者に対する補完代替医療についての報告は,ここ数年次第に増加し,近年の日本透析医学会総会でも関連演題がみられているが,いまだ,全体的には散発的の感がある.そこで,この時期に補完代替療法について臨床に役立つ実践書としてまとめ,啓発に役立てたいと考えた.医師・看護師の多くは,補完代替医療の話に関心をもっていると分かっているが,現代的医学・医療の思想で教育され,馴染んでしまっている医療スタッフにとっては,参入するきっかけに恵まれていないことは理解できる.また,補完・代替医療を現代的医療システムに導入する統合医療への関心と普及が,諸外国に比して著しく後れをとっているわが国であるが,漢方・鍼灸・気功などの民間療法レベルでの人気を考えると,下地は十分にある.
 政治的にも,統合医療を積極的に推進することをマニフェストに述べている政党なども出てきたことから,近い将来,わが国でも急速な展開が始まると期待される.
 長期維持透析患者の多くは,たとえば,全身性アミロイド沈着症・閉塞性動脈硬化症,さらに,高齢化現象によって,骨・関節,四肢の痛みを抱えている.また,生涯に関わる長期療養を必要とするがゆえの,精神的・スピリチュアルな問題もある.補完代替医療の普及によって,多くの悩みが軽快することを期待したい.
 2010年秋
 編者 阿岸鉄三
 序文
第1部 補完代替医療と統合医療
 第1章 補完(相補)代替医療とは
  1.補完代替医療とその種類
   1)日本・中国伝統医学
   2)インド伝統医学
   3)チベット伝統医学(秘密仏教医学)
   4)アラブ伝統医学(ユナニ医学)
   5)ホメオパシー
   6)オステオパシー
   7)カイロプラクティック
   8)温泉療法
   9)温熱療法
   10)放射線ホルミシス
   11)フラワーエッセンス
   12)サプリメント
   13)音楽療法
   14)ダンスセラピー
   15)瞑 想
   16)アロマセラピー
   17)ボディーワーク
   18)その他
   文献
  2.諸外国における補完(相補)代替医療の利用状況
   1)韓国
   2)中国
   3)台湾
   4)インド
   5)米国
   6)英国
   7)フランス
   8)ドイツ
   9)スウェーデンおよび周辺諸国
   おわりに
   文献
 第2章 補完(相補)代替医療をめぐる諸問題
  1.補完代替・伝統医療関連の資格と技術修練について
   1)適切な医学的治療の機会を失することがないこと
   2)免許・資格は誰のためにあるのか
   3)免許・資格を考える
   4)伝統医療の場合の免許制度
   5)補完代替医療にかかわる免許・資格を考える
  2.補完代替医療と健康保険
   1)日本の健康保険制度
   2)鍼灸マッサージ療法と保険適用
   3)柔道整復と健康保険
   4)補完代替医療と食品
 第3章 補完(相補)代替医療から統合医療へ
  1.統合医療の歴史
   1)米国国立衛生研究所(NIH)と各国における統合医療センター
   2)日本における伝統・相補代替医療(TM/CAM)
  2.病気の発生と癌の自然治癒
   1)病気はなぜ起こるのか
   2)統合医療の科学的評価
  3.補完(相補)代替医療(CAM)と現代科学
  4.統合医療の問題点
  5.統合医療実現のための具体的方策
  6.未来の医学と医療
第2部 維持透析医療と補完代替医療
 第1章 維持透析医療の現況と補完代替医療
  1.わが国における維持透析医療の現況
   1)透析医療の量的推移
   2)透析医療の質的評価
  2.維持透析医療における補完代替医療
   文献
 第2章 補完代替医療は透析導入を遅らせるか
  1.CKD悪化因子と治療戦略
   1)CKD治療五重奏の実施目的
   2)補完代替医療のCKDにおける適応病態
  2.透析療法導入遅延のための補完代替療法の実際
   文献
 第3章 透析の保留・中止とスピリチュアルケア
  1.末期慢性腎不全確定診断後の療法選択
   1)腎機能代替療法の保留
   2)透析療法の選択(主として血液透析の場合)
   3)透析の保留および中止に関連する倫理的,法的な問題
  2.終末期ケアにおける考慮事項
   1)透析患者への支援
   2)スピリチュアルケア
   文献
第3部 維持透析患者に対する補完代替医療の実際
 1.漢方薬
  1.漢方の基本知識
   1)漢方処方の注意とポイント
   2)透析患者で問題となる漢方の副作用・禁忌
   3)漢方薬と保険診療について
   4)漢方薬処方の原則とEBM
  2.透析患者の症状・症候に応じた漢方薬の処方例
   1)悪性腫瘍とその周辺症状
   2)血液疾患(貧血)
   3)呼吸器疾患・症状
   4)産婦人科疾患
   5)消化器疾患・症状
   6)神経・筋疾患
   7)循環器(心血管系)疾患・症状
   8)腎尿路疾患
   9)整形外科的疾患
   10)精神疾患・症状
   11)全身倦怠感(体力低下)
   12)内分泌疾患
   13)冷え症(冷感)・末梢循環障害
   14)皮膚疾患(特に皮膚掻痒症)
   文献
 2.透析時の疼痛に対するキセノン光療法
  1.キセノン光療法の基本
   1)キセノン治療器とは
   2)キセノン治療器の使い方
  2.キセノン治療器の適応と効果
   1)どんな病態に効果があるか
   2)治療症例
   3)科学的なエビデンス
   4)副作用
   5)健康保険の適用
   文献
 3.皮膚掻痒症に対する木酢希釈液の効果
  1.木酢希釈液の掻痒症への応用
   1)対象と方法(アンケート調査)
   2)材料および使用方法
   3)アンケート調査に基づく研究対象者の選定と研究方法
   4)結果
  2.症例
  3.考察
   文献
 4.鍼灸療法・低周波鍼通電療法
  1.鍼灸治療効果のメカニズムと適応疾患
   1)鍼灸刺激を受容する経穴,その刺激伝導路と鍼効果メカニズム
   2)鍼灸治療に関する東洋医学理論と自律神経反射,適応疾患
  2.維持透析患者に対する鍼灸治療成績
   1)維持透析患者や慢性腎不全患者に関する鍼治療の和・英論文
   2)鍼治療の方法と鍼効果の指標(評価法)
   3)鍼治療の成績
  3.維持透析患者に対する鍼灸治療の今後の展開
   1)リスクマネジメント
   2)鍼灸治療(鍼灸師)の位置づけ
   文献
 5.手技(触圧刺激)療法
  1.手技療法の効果と適応疾患,禁忌症
   1)効果
   2)適応疾患
   3)禁忌症
  2.維持透析患者に対する手技療法の有効性
   文献
 6.気功
  1.気功の基礎知識
   1)外気功の手技・効能
   2)外気功における患者の反応
   3)外気功の有用性
   4)どんな病態に効果があるか
  2.治療症例
   1)維持透析患者の閉塞性動脈硬化症に対する効果
   2)症例の呈示
  3.エビデンス・副作用・健康保険
   1)科学的なエビデンス
   2)副作用
   3)健康保険の適用
   文献
 7.運動療法・ストレッチング
  1.透析患者の関節とその病態
   1)透析に関連した骨関節系合併症
   2)透析患者と健常人の関節可動域の変化
  2.ストレッチングについて
   1)ストレッチングの定義
   2)拘縮の発生原因
   3)ストレッチングのメカニズム
   4)ストレッチングの対象
   5)ストレッチングの方法
  3.治療症例とその効果
  4.エビデンス・副作用・健康保険・その他
   1)科学的なエビデンス
   2)副作用
   3)健康保険の適用
   4)その他(透析に関する運動療法)
   文献
 8.アロマセラピー
  1.アロマセラピーとは
   1)手技について
   2)適応と効果
  2.治療症例
  3.エビデンス・副作用・健康保険・その他
   1)科学的エビデンス
   2)副作用
   3)健康保険の適用
   4)その他
 9.足浴・フットケア
  1.人工炭酸泉足浴の実際
   1)人工炭酸泉を用いた足浴の進め方
   2)足浴治療開始時および定期的に実施すること
  2.治療症例とその効果
  3.エビデンス・副作用・健康保険
   1)科学的なエビデンス
   2)副作用
   3)健康保険の適用
   文献
 10.リフレクソロジー
  1.リフレクソロジーとは
   1)施術に必要な材料・用具
   2)手技・テクニック
   3)具体的な効果
  2.エビデンス・禁忌・注意点
   1)科学的なエビデンス
   2)禁忌
   3)透析患者に施術する場合の注意点
 11.心理的ケア
  1.透析患者にみられる精神症状と行動上の問題
   1)抑うつ症状とうつ病
   2)不安
   3)せん妄
   4)認知症
   5)治療ノンアドヒアランス
   6)その他の問題
  2.透析患者の精神症状の原因
   1)心理社会的ストレス因子
   2)身体的因子
  3.透析患者の心理的ケア
   1)心理的ケアの基本
   2)支持的精神療法の応用
   3)「指導」「教育」の工夫:「エンパワーメント・アプローチ」
   4)向精神薬の処方
   5)認知症の周辺症状のマネジメント
   文献
 12.笑い療法
  1.笑いの効用
  2.透析患者と「笑い」
   1)透析生活に「笑い」を取り入れる
   2)「川柳」を取り入れた経過とその効果
   3)「川柳」を取り入れて思うこと
   4)まとめ
   文献
 13.福祉玩具ケア
  1.福祉玩具とは
  2.具体的な方法とその効果
   1)どんな病態に効果があるか
   2)具体的な導入例
  3.エビデンス・副作用・健康保険
   1)科学的なエビデンス
   2)副作用・健康保険の適用
   文献
 14.サプリメント(栄養補助食品)
  1.サプリメントの分類
  2.サプリメントの注意点
  3.維持透析患者とサプリメント
   1)透析食と栄養素充足率
   2)その他の栄養成分
   文献

 あとがき
 索引