やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 近年,スポーツ領域において,スポーツ傷害(外傷と障害)の予防,治療およびコンディションの調整を目的に鍼灸治療を利用する者が多くなり,スポーツ人口の増加とともにますます利用者が増加することが予想されています.スポーツ傷害に対する鍼灸の効果に関する報告も鍼灸関係の学会や体力医学会などにおいて増えてきており,鍼灸の新しい分野として注目されてきております.
 このような状況のなかで鍼灸師が対処していくためにはかなりの専門的知識,技能が必要とされるため,日本鍼灸師会も専門領域研修制度を発足させ,スポーツ傷害の鍼灸治療の講習会を全国規模で行ってきました.一方,スポーツ傷害に関する書籍は,スポーツ専門医(スポーツ整形外科医)が書いた専門書がいくつかありますが,内容は医師向きであり,触診を主体として局所の病態を調べ,さらに鍼灸治療のアプローチを行うという鍼灸臨床のための著書はきわめて少ないのが現状であります.したがって,鍼灸師のためにスポーツ傷害全般について平易に記述し,鍼灸師がベッドサイドにおいて臨床に即座に利用できる“鍼灸臨床のための専門書”が必要と考えられます.
 著者は,『現代鍼灸臨床の実際』のなかにおいても主要ないくつかのスポーツ傷害について記述しましたが,スポーツ傷害の鍼灸臨床の専門書としてまとめる必要があると考えていたところに出版社のお勧めもあって出版の運びとなりました.できるだけ全身についてそれぞれの部位の運動と発生する傷害,鍼灸師としての診察法,鍼灸治療および併用療法について編成しました.特に,傷害の部位,組織,病変を理解するためには,痛みなどの症状を起こしている組織が何であるのかを明らかにすることが重要ですが,そのためには局所の機能解剖を理解し,身体の動きによりどの組織が伸ばされ,あるいはどの筋が収縮するのかを十分に理解し,動きに伴う痛みがどの組織から発しているのかを判断できることが必要なため,全身を部位別に分けて機能解剖と運動についての理解が得られやすいように配慮しました.できるだけ平易にと心掛けたつもりですが拙文のため理解し難い所,至らない点も多々あることと危惧している次第です.スポーツ領域の鍼灸臨床に携わっておられる先生方の忌憚のないご意見やご批判および情報をお寄せ頂きますようお願いいたします.本書がスポーツ領域の鍼灸臨床に少しでもお役立て頂ければ幸甚です.
 最後に,本書の出版にあたりご協力,ご尽力を頂きました医歯薬出版の吉田=cd=24a6男氏をはじめスタッフの方がたに深く感謝申し上げます.
 2003年5月
 明治鍼灸大学教授 松 本 勅
 序

第1章 総 論
 1-スポーツ傷害
 2-軟部組織のスポーツ傷害はどのように起こるのか
 3-傷害の部位別のスポーツの種類と傷害の例
   1 ■ 上肢帯および上肢の筋,筋膜,腱,関節の傷害
   2 ■ 下肢帯および下肢の筋,筋膜,腱,関節の傷害
   3 ■ 頸部,体幹部の筋,筋膜,腱,関節の傷害
 4-スポーツ領域における鍼灸治療の応用
 5-期待される鍼灸の主な効果
 6-スポーツ領域における鍼灸治療の治療時期別の目的
   1 ■ 競技前の治療の目的
   2 ■ 競技後の治療の目的
   3 ■ 競技間の治療の目的
 7-スポーツ傷害に対する診察
   1 ■ 診察上の留意点
   2 ■ 経絡,経筋
 8-スポーツ傷害に対する鍼灸治療
   1 ■ 鍼治療
   2 ■ 運動鍼
   3 ■ 鍼通電療法
   4 ■ 灸治療
 9-鍼灸治療による疼痛軽減後の運動再開
 10-鍼灸以外の方法との併用
 11-運動器などに対する鍼灸の作用
   1 ■ 筋血流の変化
   2 ■ 筋の収縮時張力の変化
   3 ■ 筋の神経活動の変化
   4 ■ 神経血流の変化
第2章 頸部のスポーツ傷害と鍼治療
 1-頸椎捻挫
   1 ■ 頸部の運動に関与する頸部脊柱の構造とその傷害
   2 ■ 頸椎捻挫
 2-脱臼,脱臼骨折
 3-骨折
 4-頸部椎間板ヘルニア
 5-頸部筋筋膜症(筋筋膜性頸部痛)
第3章 肩のスポーツ傷害と鍼治療
 1-肩の運動に関与する関節(肩複合体)とその傷害
 2-肩関節の損傷:捻挫・挫傷,外傷性脱臼・亜脱臼
 3-肩鎖関節の損傷:捻挫・挫傷,亜脱臼,脱臼
 4-胸鎖関節の損傷:捻挫・挫傷,外傷性脱臼・亜脱臼
 5-鎖骨骨折
 6-鎖骨近位骨端線離開
 7-肩関節,胸鎖関節の習慣性脱臼・亜脱臼
 8-肩鎖関節,胸鎖関節の炎症
 9-肩甲骨関節窩後方部の骨棘形成
 10-上腕骨近位骨端線離開
 11-腱板損傷
 12-腱板炎
 13-肩峰下滑液包炎
 14-インピンジメント症候群
 15-上腕二頭筋長頭腱の結節間溝からの脱臼,断裂
 16-上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎
 17-烏口突起炎
 18-野球肩
   1 ■ 投球動作と各相における障害
   2 ■ 野球肩の症状
 19-水泳肩
 20-肩甲上神経の絞扼神経障害
   1 ■ 絞扼神経障害
   2 ■ 肩甲上神経の絞扼神経障害
 21-腋窩神経の絞扼神経障害
第4章 肘のスポーツ傷害と鍼治療
 1-肘関節の損傷:捻挫,脱臼
   1 ■ 肘の運動に関与する関節とその傷害
   2 ■ 肘関節の捻挫,脱臼
 2-上腕骨小頭骨折,上腕骨外顆骨折,上腕骨顆上骨折,橈骨頭骨折,肘頭骨折
 3-肘頭の骨端線の離開
 4-内側上顆骨端線の離開
 5-外傷性離断性骨軟骨炎
 6-外傷性肘関節症
 7-テニス肘(上腕骨外側上顆炎,上腕骨内側上顆炎)
   1 ■ 外側型テニス肘
   2 ■ 内側型テニス肘
   3 ■ 疼痛誘発テスト
   4 ■ 治療
 8-野球肘
   1 ■ 症状
   2 ■ 治療
 9-橈骨神経の絞扼神経障害
 10-尺骨神経の絞扼神経障害
   1 ■ 症状
   2 ■ 診察所見
第5章 手首のスポーツ傷害と鍼治療
 1-手関節の損傷:捻挫,脱臼
   1 ■ 手首の運動に関与する関節とその傷害
   2 ■ 捻挫
   3 ■ 脱臼
 2-橈骨下端定型骨折
 3-手根骨骨折
 4-腱鞘炎
 5-月状骨軟化症
第6章 手のスポーツ傷害と鍼治療
 1-手の関節の損傷:捻挫,脱臼
   1 ■ 手の運動に関与する関節とその傷害
   2 ■ 捻挫
   3 ■ 脱臼
 2-骨折
 3-腱断裂
   1 ■ 槌指またはハンマー指(末節骨に付着の伸筋腱<指背腱膜>断裂)
   2 ■ 槌母指
   3 ■ ボタン穴変形
 4-狭窄性腱鞘炎
   1 ■ ドケルバン病
   2 ■ 弾発指
   3 ■ 弾発母指
 5-母子球筋の筋筋膜性疼痛
 6-月状骨軟化症
 7-ズデック骨萎縮
 8-絞扼神経障害
   1 ■ 手根管症候群
   2 ■ 尺骨神経管症候群(ギヨン管症候群)
   3 ■ 指神経の絞扼
第7章 胸部,背部のスポーツ傷害と鍼治療
 1-胸部,背部の関節の損傷:捻挫,脱臼
   1 ■ 胸部,背部の運動に関与する脊柱,胸郭の構造とその傷害
   2 ■ 胸椎捻挫
   3 ■ 胸椎脱臼
 2-骨折
   1 ■ 胸椎骨折
   2 ■ 肋骨骨折
 3-筋筋膜症
   1 ■ 背部の痛み
   2 ■ 側胸部,側腹部の痛み(いわゆるわきばらの痛み)
   3 ■ 前胸部の痛み
第8章 腰部,殿部のスポーツ傷害と鍼治療
 1-捻挫
   1 ■ 腰部,殿部の運動に関与する脊柱および骨盤の構造とその傷害
   2 ■ 腰椎捻挫(靱帯,椎間関節部などの損傷)
   3 ■ 仙腸関節捻挫
 2-骨折,脱臼骨折
   1 ■ 腰椎圧迫骨折
   2 ■ 腰椎脱臼骨折
   3 ■ 腰椎横突起骨折
 3-腰部椎間板ヘルニア
 4-脊椎分離症,分離・すべり症
 5-筋筋膜症
@6-梨状筋症候群
第9章 骨盤,股関節,大腿のスポーツ傷害と鍼治療
 1-股関節の損傷:捻挫,脱臼
   1 ■ 股関節の運動に関与する関節とその傷害
   2 ■ 骨盤の構造とその傷害
   3 ■ 股関節捻挫
   4 ■ 股関節脱臼
 2-腸骨棘裂離骨折
 3-坐骨結節裂離骨折
 4-大腿筋の肉ばなれ
 5-その他の筋の筋筋膜症(筋・筋膜性疼痛)
 6-大腿前部の打撲,骨化性筋炎
 7-疲労骨折
 8-梨状筋症候群
第10章 膝のスポーツ傷害と鍼治療
 1-靱帯損傷
   1 ■ 膝の運動に関与する関節とその傷害
   2 ■ 捻挫の分類,症状,治療法
   3 ■ 内側側副靱帯損傷
   4 ■ 外側側副靱帯損傷
   5 ■ 前十字靱帯損傷
   6 ■ 後十字靱帯損傷
   7 ■ 膝蓋靱帯損傷
 2-膝蓋骨脱臼,亜脱臼
 3-骨折
   1 ■ 腸骨棘裂離骨折
   2 ■ 脛骨粗面裂離骨折
 4-半月板損傷・断裂
 5-膝蓋軟骨軟化症
 6-離断性骨軟骨炎
 7-膝蓋靱帯炎
 8-オズグッド-シュラッター病
 9-膝蓋下脂肪体の損傷(ホッファ病)
 10-タナ障害
 11-腸脛靱帯炎
 12-鵞足炎
 13-滑液包炎
   1 ■ 膝蓋前滑液包炎
   2 ■ 脛骨前滑液包炎
   3 ■ 鵞足滑液包炎
第11章 下腿のスポーツ傷害と鍼治療
 1-脛骨骨幹部骨折
   1 ■ 下腿の機能解剖と傷害
   2 ■ 脛骨骨幹部骨折
 2-脛骨,腓骨の疲労骨折
 3-アキレス腱断裂
 4-アキレス腱炎およびアキレス腱周囲炎
 5-アキレス腱滑液包炎
 6-シンスプリント
 7-テニス脚
 8-コンパートメント症候群
 9-肉ばなれ
 10-総腓骨神経の損傷あるいは絞扼神経障害
第12章 足首(足関節部)のスポーツ傷害と鍼治療
 1-足関節捻挫
   1 ■ 足首の運動に関与する関節とその傷害
   2 ■ 足関節捻挫
 2-骨折
 3-疲労骨折
 4-腓骨筋腱脱臼
 5-アキレス腱断裂(第11章を参照)
 6-アキレス腱炎(第11章を参照)
 7-アキレス腱滑液包炎,アキレス腱皮下包炎
 8-フットボール足
 9-離断性骨軟骨炎
 10-足関節周囲の腱鞘炎
第13章 足部のスポーツ傷害と鍼治療
 1-捻挫(靱帯損傷)
   1 ■ 足部の運動に関与する関節などの組織とその傷害
   2 ■ 足根骨間関節および足根中足関節の捻挫
   3 ■ 中足指節関節および指節間関節の捻挫
 2-踵骨骨折
 3-踵骨下部の挫傷
 4-中足骨骨折
 5-中足骨の疲労骨折
 6-距骨下関節炎
 7-アキレス腱滑液包炎,アキレス腱皮下包炎,踵骨下滑液包炎
 8-アキレス腱炎,アキレス腱周囲炎
 9-踵骨骨端炎
 10-踵骨棘
 11-踵骨下の脂肪組織の使いすぎによる痛み
 12-足底筋膜炎
 13-足の過労および縦アーチの平坦化(扁平足)による疼痛
 14-横のアーチの平坦化による中足骨頭部痛
 15-モートン神経腫による足指の痛み
 16-絞扼神経障害
   1 ■ 足根管部における脛骨神経の絞扼(足根管症候群)による足底痛
   2 ■ 底側踵舟靱帯下,足底方形筋下での内・外側足底神経の絞扼による足底痛
   3 ■ 中足骨頭間の深横中足靱帯の下部における総底側指神経の絞扼による足指痛
   4 ■ 腓骨頭直下における総腓骨神経の絞扼による足背痛
   5 ■ 下腿外側の筋膜貫通部における浅腓骨神経の絞扼による足背痛
   6 ■ 足背部の筋膜通過部における深腓骨神経の絞扼による第1,2 指痛

 参考文献
 索引