やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 近年,電子化に伴い,看護の共通用語を求めて,また看護記録のシステム化の必要性から,看護診断を導入する施設が増えてきております.しかし,実際に臨床において,入院患者に対して看護診断を用い,有効に活用している所は少ないという声を聞きます.また,日本では看護診断に関する訳本や著作が増加し,セミナー開催も多く行われていますが,臨床現場に根づくまでには至っていない状況です.
 このたび「専門職としてのナースを育てる」というキャッチフレーズのもと「看護継続教育―クリニカルラダー,マネジメントラダーの実際」の姉妹版として「看護継続教育―看護診断の臨床活用」を刊行する運びとなりました.
 北里大学東病院は,1986年の開院以来,北里大学病院と同様に「患者中心の看護」という理念が,看護師個々の意識とそれぞれの臨床実践のなかに流れ続けてきました.本書は,単に看護診断の話ではなく,先輩諸氏が築いてきた看護提供体制への挑戦と,自分たちの後輩を育てるという継続看護教育の実践が,看護診断の臨床活用というかたちで実を結んだものと言えるでしょう.
 筆者らがここに取り上げたのは「患者中心の看護」を理念とし,10年の歳月をかけ,現場の看護師たちが「看護診断研究会」での勉強会や日ごろのカンファレンスをとおして検討を積み重ねてきたものであります.また,看護診断のコンピュータシステムの導入と再構築の経験を経て,試行錯誤を繰り返し創り出してきたものです.
 1998年から継続教育プログラムに看護理論や看護過程の研修を組み入れたことから,その成果として臨床現場で看護理論を活用することが広がりました.その後,次第にNANDA13領域の枠組みで事例を整理し,看護診断を行い,事例に理論を使用することが多くなってきております.本書では,臨床で使われることの多いロイの“適応看護モデル“,オレムの“セルフケア理論”の事例への活用や,NANDA13領域枠組みを使用した事例展開を紹介し,具体的に解説を行い,中範囲理論の看護診断への活用についても考えてみました.
 これらの基盤となっているものは,クリニカルラダーシステムによる継続教育であります.どのような教育プログラムがあり,教育専任スタッフや看護師長,主任がどのように後輩育成にかかわっているのかについて,資料を提示しました.
 本書が臨床に携わる多くの看護師によって読まれ,ご批判いただくとともに,看護診断を臨床実践に活用するための参考となることを願っております.最後に,完成までにご尽力いただいた医歯薬出版のスタッフの方々に感謝いたします.
 2007年1月
 北里大学東病院看護部長
 田中彰子
Prologue 北里大学東病院看護部の歩み―「患者中心の看護」を求めて(田中彰子)
 創設期(1986〜93年)
  北里大学の精神,北里大学東病院の理念 看護部の方針,チームナーシングの開始 コンピュータの開発,看護記録
 躍動期(1994〜99年)
  モジュール型継続受け持ち方式の導入 クリニカルラダー教育システムの導入 看護過程システムの導入
 発展期(2000〜06年)
  看護診断研究会の誕生 継続教育の充実と質の向上 新情報システムの導入,看護計画の見直し
 「患者中心の看護」を求めて
Chapter1 臨床における看護計画の構造(菊一好子)
 「看護過程システム」の特徴
 新看護支援システムの概要
  標準看護計画システム 個別計画システム クリニカルパスの活用 その他―看護基準・手順による対応
Chapter2 北里大学東病院におけるNANDA看護診断の活用(五藤陽子)
 北里大学東病院での流れ
 消化器外科病棟での流れ
  カンファレンスの重要性 看護計画の協同作成を試みる 看護計画の協同作成の推進 フローチャートの作成と活用
 今後の課題
  ケアプラン協同作成のために
Chapter3 看護診断を支える継続教育システム
 1.継続教育プログラム
  看護診断を支える継続教育の全体像(坂下智珠子)
  “看護過程と看護記録”研修(前川恭子)
   研修前の事前学習 集合研修1日 研修後の病棟研修 本研修の特徴
  看護実践スキルアップセミナー
  “看護実践と看護理論”研修(坂下智珠子)
 2.看護診断研究会の活動(前川恭子)
  看護診断研究会の成り立ちと活動目的
  看護診断研究会の目的・目標の変遷
  看護診断研究会と院内研修の関係
  看護診断研究会の役割
 3.各セクションにおける取り組み―消化器外科混合病棟における看護診断への取り組み
  モジュール型継続受け持ち方式における担当看護師のアセスメントとケアプランの教育的支援(横山利香)
   病棟患者背景
   担当看護師の設定と教育支援体制
    クリニカルラダーレベルI(新人看護師) クリニカルラダーレベルII(一人前)
   事例紹介
   看護過程における教育支援の実際
    セットアップ(担当看護師の悩みを共有) 看護理論の使用を提案 患者アセスメント,看護診断の立案 患者参加型の目標設定とケアプラン立案の提案 看護実践の評価 全過程の振り返り
 4.各セクションにおける取り組み―精神科開放病棟における看護診断への取り組み
  モジュール型継続受け持ち方式における担当看護師のアセスメントとケアプランの教育的支援 熊坂真由美
   対象疾患と特徴
   担当看護師決定から看護展開とそのサポート
   病棟内の教育システム
    クリニカルラダーI クリニカルラダーII
   精神科でよく用いられる看護理論
    人間関係の看護論 セルフケア理論
   NANDA13領域の理解からNANDA-NIC-NOCの普及へ
   事例紹介
   効果的治療計画管理の看護診断による計画の立案
   看護介入の見直しと新たな看護展開
Chapter4 看護診断を具体的な事例展開で考える―総合的なアセスメントから看護診断を導き出した事例
 1.幻覚妄想に支配され正常な思考過程をたどることができない事例 鈴木政宗,新甫知恵
  精神疾患と看護診断
  事例紹介
   時間軸について 13領域のアセスメントについて 関連図について 全体像を描く 看護診断の選択 看護診断とNOC-NIC NOCの選択 NICの選択 その後の経過と看護成果の評価
 2.S状結腸がんで手術後再発を繰り返した事例 永島香奈子
  がん患者と看護診断
  事例紹介
   関連図について 全体像 アセスメント
  看護診断
   NOCの選択 NICの選択 その後の経過と看護成果の評価
Chapter5 看護診断への理論の活用
 1.「看護実践と看護理論」研修に取り組んだ看護師の学び 中山栄純,坂下智珠子
  ロイの理論を用いた考察 ベティ・ニューマンのシステムモデルを用いた考察 オレムのセルフケア理論を用いた考察 ペプロウの理論を用いた考察 トラベルビーの理論を用いた考察
 2.理論を活用して看護診断を深める
  難病の告知を受けて抑うつ状態に陥った患者とのかかわり―ロイの理論を用いて非効果的コーピングを導き出した事例の一考察(西村千春)
   事例紹介
    倫理的配慮 患者プロフィール
   ロイの適応理論を用いた分析
    適応様式別のアセスメントと仮の診断 刺激のアセスメントと看護診断 看護目標と看護方針
   看護介入と患者の変化の過程
   考察
  ストレスを抱えた患者とのかかわり―ベティ・ニューマンのシステムモデルを用いて(井上千恵子)
   ベティ・ニューマンのシステム理論の特徴
   事例紹介
    倫理的配慮 患者プロフィール 現病歴 入院後の経過 病状に対するとらえ方,医師からの説明内容
   トロッカーカテーテル挿入直後の状態
    アセスメント 看護計画 看護の実際
   手術後
    アセスメント 看護計画 看護の実際
   母親に対するケア
   理論活用をとおした学び
    Aさんの基本構造と看護介入 Aさんと母親との関係性
  食道がんで活動耐性が低下した患者へのかかわり―オレムのセルフケア理論を分析に用いて 杉山飛鳥
   事例紹介
    倫理的配慮 患者プロフィール 入院までの経過 入院後の経過 ADLの状況
   オレムのセルフケア理論を用いた看護の実際
    オレムのセルフケア理論に基づくMさんの分析と分類 セルフケア能力と能力不足パワー構成要素 看護介入システム 看護診断 看護目標と看護計画看護実践と患者の変化の過程
   考察
  看護計画の協同作成でニーズをとらえた事例―ペプロウの理論を用いて 玄海泰子
   事例紹介
    倫理的配慮 患者プロフィール 入院後の経過
   ペプロウの理論を用いた看護の実際
    看護実践とその結果 看護上の問題とその評価
   考察
  患者理解の深まりによる関係性の構築とチームへの働きかけがもたらしたこと―トラベルビーの理論を用いて(竹森友紀)
   事例紹介
    倫理的配慮 患者プロフィール
   看護の実際
    トラベルビーの理論 看護の実践と結果 看護上の問題
   考察
 3.看護診断のより深い理解へ向けて中範囲理論について知る(城戸滋里)
  看護理論とは何か
  大看護理論と実践理論をつなぐ中範囲理論
  看護診断と中範囲理論との関係
Chapter6 専門看護師,認定看護師のかかわった患者事例
 1.がん看護専門看護師のかかわった患者事例(千ア美登子)
  事例紹介
   倫理的配慮 患者プロフィール CNSへの相談内容 CNSの実践 CNSの調整 CNSの倫理調整 CNSの教育,研究 臨床における看護診断の意義
 2.がん性疼痛緩和認定看護師がかかわった事例(片塩 幸)
  事例紹介
   倫理的配慮 患者プロフィール 入院までの経過 看護チームからの相談
  CENの実践
   情報収集 痛みの初期アセスメント 医療チームへのアプローチ
  看護診断の過程
   アセスメント 全体像 看護診断と診断指標 患者理解の共有と看護介入
  考察
 3.ホスピスケアの質の向上を目指して―実践をともに振り返ることで看護師を育成する 樋口さくら
  事例紹介
   倫理的配慮 患者プロフィール
  看護診断の過程
   患者理解・アセスメント 関連図 全体像 経過
  考察
   看護実践の構成要素
 4.北里神経難病看護専門看護師がかかわった事例―訪問看護の実際を通して(大谷玲子)
  事例紹介
   倫理的配慮 患者プロフィール 退院後の経過と看護展開
  看護診断の活用
   関連図 全体像 看護診断 診断指標 関連因子 ABC-Xモデル ABC-Xモデルにおける構成要素を用いたアセスメント
  考察
資料
 資料1-(1) 「看護過程と看護記録」研修会お知らせ
 資料1-(2) 「看護過程と看護記録」研修後レポート
 資料2-(1) 平成18年度「看護過程と看護記録」研修アセスメント用紙
 資料2-(2) 平成18年度「看護過程と看護記録」研修関連図・全体像描写用紙
 資料3 看護過程記録監査ツール
 資料4 「看護記録監査」を病棟で行う際の取り決め事項
 資料5 平成17年度 看護実践スキルアップセミナー
 資料6 レベルII研修「看護実践と看護理論」お知らせ
 資料7 「看護実践と看護理論」学習会のお知らせ
 資料8 レベルII研修「看護実践と看護理論」様式1 事前レポート用紙(受け持ち事例の整理)
 資料9 レベルII研修「看護実践と看護理論」様式2 学習の整理
 資料10 レベルII研修「看護実践と看護理論」様式3 講義後の理論選択用紙
 資料11 NANDA-NIC-NOC研修実施要領
 資料12-(1) 第1回NANDA-NIC-NOC研修のお知らせ―テーマ「NANDA-NIC-NOC総論」
 資料12-(2) 第2回NANDA-NIC-NOC研修のお知らせNANDA-NIC-NOC事例検討会
 資料12-(3) 第3回 NANDA-NIC-NOC研修のお知らせNANDA-NIC-NOC事例検討会
 資料12-(4) NANDA-NIC-NOC事例検討会事前学習について
 資料13 NIC & NOCの基礎を学ぼう

 索引