やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 「リハビリテーション看護研究」シリーズは,皆様のご支援のお陰で充実した展開をさせていただいております.そして,早くも第7号をお届けできることになりました.あらためて感謝申し上げます.
 第7号では,リハビリテーション看護の臨床現場において難問の1つと考えられる課題に取り組みました.リハビリテーションの渦中にある人とその家族へのかかわりと,認知機能障害者への看護です.
 WHO憲章前文の健康の定義に「単に疾病または病弱でないということではない」という語があります.また,2001年5月WHO総会で採択された国際生活機能分類(ICF)は,心身機能のみならず,生活機能に視点を置いた共通言語となることが期待されています.これらが注視している「社会」とのかかわりは,「人」という字がまさに「支えあっている状態」のシンボライズであると言われるように,人とは「社会的存在」であることが自然だと示しているのではないでしょうか.
 社会―その最小単位は「家族」です.家族構成員の1人がリハビリテーションの対象となったとき,家族全体を看護の対象としてかかわる重要性を十分に認識し,その方策を理解して実践することが,患者家族のもっとも身近にいる看護職に求められます.第1の柱『家族支援の方法とリハビリテーション看護の役割』では,理論と実践への応用について,それぞれの第一人者に極めて具体的に解説いただき,実践例を紹介していただきました.そしてさらに有効な臨床展開に資するべく,わが国の社会的支援システムについても丁寧に解説していただきました.
 第2の柱である実践研究では,高度な看護を要する『認知障害のリハビリテーション看護』をテーマとしました.はじめに,認知機能とその結果である行動に関する理解を確実にする目的で,短い文章の中にわかりやすく濃厚圧縮した解説をお願いしました.それから臨床の皆様に実践例をご提示いただきました.創意工夫の跡がうかがえる取り組みからは,多くの示唆を得ていただけることと思います.
 本書の最後,リハビリテーション看護の国内外の動きでは,スイスの看護教育とリハビリテーションの現状を紹介していただきました.良い医療福祉サービスシステムの構築のために,各国は試行錯誤を重ねています.EU内に通じるシステムは,新たな可能性を秘めているように思われますが,いかがでしょうか?
 本書との出会いが,激しく変貌する社会の流れの中で,リハビリテーション看護の足元を見失わないようにしながら,リハビリテーションを必要とする人やその家族への支援を行うためのありようを考える機会となることを願っております.
 2003年薫風 編者
1 家族支援の方法とリハビリテーション看護の役割
 1 リハビリテーション看護でできる家族支援とは何か―家族のアセスメントとかかわり(渡辺俊之)
    はじめに/ 介護家族のアセスメント/ 看護師が介護家族へかかわるときの技法/ おわりに
 2 家族看護モデルの臨床応用―リハビリテーション看護の視点から(森山美知子)
    家族看護モデルの開発と発展/ 家族システム看護の基本/ 家族システム看護の4つの段階/カルガリー看護アセスメントモデルの構造/ 家族インタビューの展開方法/ まとめにかえて
 3 家族を支援する教育的かかわりの方法―必要な指導を本当にできていますか(土橋和子,三石久美子)
    家族の役割と家族支援における問題/ 当センターにおける家族指導/事例にみる家族支援の展開/ 家族支援についての考察/ 今後の課題
 4 リハビリテーションの経済的側面からみた問題(村上信)
    はじめに/ 社会福祉と社会保険で異なるサービス提供方法/社会保険方式で提供される介護福祉サービスと利用者負担/地域ケアシステムとの連携と看護職の役割/ おわりに

2 リハビリテーション看護実践研究―スペシャリストのための理論と実践「認知障害のリハビリテーション看護」
 1 認知障害の理解と対応(丸石正治)
    はじめに/ 認知障害の理解/ 認知障害のアセスメント/アプローチ:病棟での環境調整/ おわりに
 2 認知障害のリハビリテーションに関する文献紹介(吉畑博代)
    はじめに/ 認知障害に対するリハビリテーションの進め方/認知障害のリハビリテーションの実際/ 認知障害のリハビリテーションに関する文献動向/まとめ
 3 後天性脳損傷に伴う認知障害患者への看護の基本とは(神奈川リハビリテーション病院・脳損傷病棟)(小林美佐子,山田美和子,柴山純子)
    はじめに/ 当院脳損傷病棟での取り組み/ 看護の実際/ おわりに
 4 高次脳機能障害のある患者への看護アプローチ(東京都リハビリテーション病院)(藤谷理恵)
    はじめに/ リハビリテーション臨床で遭遇する高次脳機能障害の看護/ おわりに
 5 高次脳機能障害患者への対応―入院中の家族とのかかわりを通して(埼玉県総合リハビリテーションセンター・第2病棟)(高橋美弥子,大屋時美)
    はじめに/ 事例紹介と看護実践/ おわりに
 6 失見当識障害による徘徊患者への支援―事例検討から学ぶ(菅野圭子,岡村仁)
    はじめに/ 徘徊とは/ 事例研究の方法と内容/今回の事例検討からみた痴呆患者の徘徊の特徴

3 リハビリテーション看護の国内外の動き
 1 スイスの看護教育とリハビリテーション(Kunz・今井玲子)
    スイスの看護学校と教育システム/ スイスの医療制度/スイスのリハビリテーション医療と看護
 トピックス
  ARN主催 Professional Rehabilitation Nursing Courseに参加して(荒木美千子)