やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序文

 初版が出版されて9年が経過した.その間,世の中の移り変わりようは予測をはるかに超え,目まぐるしいほどであった.バブル崩壊,急速な高齢社会の到来と相俟って行政改革も進み,法律・制度も変革に変革を重ねてきた.介護保険の導入によって基本的な障害評価の部分に,介護度の評価すなわち,「自立度」を評価するという新しい法制上の基準ができ,そのことで派生する施設,在宅ケア,リハビリテーションのあり方まで哲学を大きく変えざるを得ない状況に立ち至ったと言える.初版から見ると,すでに何度かの手直しがなされているが,ここに至って基本的に大々的な改訂をせざるを得なくなった.特に行政的環境,経済的環境,社会の心身的弱者に対する「目」,生活の「質」QOLに関する価値観は大きく変わった.また,地球規模の環境についても考えるべき時代に突入している.そして高度先進工業技術が福祉用具(機器)の分野にも盛んに導入されるようになり,日常生活の分野から社会参加のためのデバイスの類に至るまで変わってきていることに気づく.これは日本の国の社会が成熟する過程であると考えたい.
 これからの社会で医療・福祉・リハビリテーション及びそれに関連する教育の分野を生業とする者は同じ「心」を持つことが前提になるべきと考えられる.とかく,専門領域で働く者に欠けるのが本来おろそかにしてはならない関連する周辺の諸問題に関する知識と関心である.この部分を学ぶ際に内容的な欠落のないよう編集に際し,重視し,留意した.大きな意味での生活環境は障害の有無に関係なく万人共通の問題であるが,環境に順応し得ない障害をもつ者にとっての環境の整備は障害を持たない者にとっても好都合である.社会的環境も物理的環境も,初版の出版された9年前とは様変わりをしている.
 当初は理学療法士養成課程の必修科目としてカリキュラムに入った「生活環境論」の教科書として編集の視点を置いていたが,医療・福祉・リハビリテーション教育の分野全体で多く読まれるようになり,内容を増やす結果になった.医師,理学療法士,作業療法士はもとより,保健婦,看護婦,言語聴覚士,視能訓練士,義肢装具士,社会福祉士,介護福祉士,精神保健福祉士,臨床心理士,ホームヘルパー,そして介護支援専門職(ケアマネジャー)にも読まれてほしいと考える.
 2001年3月 木村哲彦
第3版の序文
第2版の序文
序文

総論
1 生活環境の変遷(岩坪奇子)
 1.概況
 2.わが国における戦後の生活環境の変遷
    1)焼野原からの再出発――第2次世界大戦後から1950(昭和25)年前半まで
    2)復古調ムードのなかで戦力なき軍隊の誕生――1950(昭和25)年後半から1954(昭和29)年まで
    3)TV時代の幕開けと安保闘争の始まり――1955(昭和30)年から1959(昭和34)年まで
    4)高度経済成長――1960(昭和35)年から1964(昭和39)年まで
    5)耐久消費財ブームと公害問題――1965(昭和40)年から
(昭和44)年まで
    6)成長する経済活動を襲ったオイルショック――1970(昭和45)年から1974(昭和49)年まで
    7)ウサギ小屋での中流意識――1975(昭和50)年から
(昭和54)年まで
    8)ロボットを扱う人間のロボット化――1980(昭和55)年から1984(昭和59)年まで
    9)女性の時代の幕開け――1985(昭和60)年から1986(昭和64)年まで
    10)地球にやさしく生活の向上を目指して―1990(平成2)年から1995(平成6)年まで
    11)少子―高齢社会の到来――1995(平成7)年から1999(平成11)年まで
    12)地球規模の生活環境――2000(平成12)年から
2 クオリティ・オブ・ライフ(QOL)(岩坪奇子)
 1.クオリティ・オブ・ライフの概念
    1)クオリティ・オブ・ライフの訳
    2)クオリティ・オブ・ライフの定義
 2.クオリティ・オブ・ライフを構成する要因と構造
    1)ランド研究所の報告
    2)アメリカ環境保護庁の報告
    3)第2回筑波会議で報告されたクオリティ・オブ・ライフの領域
    4)社会指標と国民生活選好度調査
    5)リハビリテーション分野におけるクオリティ・オブ・ライフの要因と構造
    6)日本人の考えているクオリティ・オブ・ライフ
    7)高齢者のクオリティ・オブ・ライフ
 3.クオリティ・オブ・ライフの評価方法
    1)貨幣的・実質的な指標による表示
    2)意識調査を活用する方法
    3)意識調査における問題点
 4.国際障害分類とクオリティ・オブ・ライフ
3 生活と福祉の施策をめぐる動向と課題(河野康徳)
 1.国民生活をとりまく社会経済環境
    1)社会経済の現在
    2)産業構造の変化と雇用・就業の環境
 2.生活と福祉に関する施策の体系―障害者・高齢者施策を中心に
    1)障害者基本法と障害者施策
    2)高齢社会対策基本法と高齢者施策
    3)障害者・高齢者施策に関する法制
 3.生活保障の基盤づくり
    1)社会保障の概念と動向
    2)所得保障
    3)保健医療
    4)社会福祉サービス
 4.社会・経済・文化活動への参加の基盤づくり
    1)教育・学習の機会の確保
    2)雇用・就業の機会の確保
    3)社会参加活動の促進
 5.生活環境の整備
    1)住みよいまちづくり
    2)住宅・建築物
    3)移動・交通
    4)情報提供
    5)防犯・防災
 6.社会意識の啓発―相互理解のために
    1)心のバリアフリーにむけて
    2)障害者への理解を深めるための啓発広報
    3)高齢者の人権侵犯等を防ぐために
 6.生活と福祉の施策推進に関する動向と課題
    1)動向
    2)課題

各論
4 居住環境
 1.一般的知識(黒川幸雄)
 2.介助・移動(移乗)を前提とした居住環境(武田 功)
  1.物的環境と人的環境
  2.介助・移動(移乗)における身体的因子と環境因子
    1)身体的因子および環境因子の評価
    2)移動手段
  3.住宅内外における介助・移動の基本方針
  4.障害者に適した住宅
    1)住宅建築の基準値
    2)車椅子移動に適した住宅
    3)車椅子住宅とチェックポイント
    4)車椅子での最大および最小の作業範囲
    5)歩行を主とした移動に適した住宅
  5.環境制御装置(ECS)
    1)環境制御装置(ECS)とは
    2)環境制御装置(ECS)の研究・開発
    3)環境制御装置(ECS)の構成
  6.リフター
    1)床面移動型リフター
    2)床面固定型リフター
    3)天井面走行型リフター
  7.介助・移動(移乗)動作
    1)介助・移動(移乗)
    2)介助・移動の原則
    3)介助・移動動作の経済性
    4)力学の応用
    5)介助指導の一般的原則
    6)介助の程度
    7)介助の種類
  8.介助・移動・移乗の実際
    1)寝返り
    2)起き上がり
    3)立ち上がり
    4)移動・移乗動作の方法
 3.ADL自立者を前提にする場合
  A.高齢者(安梅勅江)
   1.老化とは
   2.高齢者の身体機能の特徴
   3.高齢者に対応した住環境への配慮
  B.頸損・脊損(山本吉晴)
  C.脳血管障害(CVA)(水上昌文)
   1.玄関
   2.居室
   3.トイレ
     1)入口
     2)便座への移動
     3)後始末
     4)その他
   4.浴室
     1)脱衣所
     2)入口
     3)浴室内
     4)洗い場
     5)浴槽
  D.切断,特に多肢切断(岩崎 洋)
   1.上肢切断
   2.下肢切断
     1)玄関
     2)居間
     3)台所
     4)トイレ
     5)ベッド
     6)浴室
   3.多肢切断
     1)玄関
     2)玄関土間
     3)廊下
     4)居間
     5)トイレ
     6)ベッド
     7)浴室
  E.RAなど多発性の骨関節障害(吉田由美子)
   1.台所・食堂
   2.トイレ
   3.寝室
   4.居間
   5.浴室
   6.廊下・玄関
   7.その他
  F.脳性麻痺をはじめとする脳原性麻痺(川井伸夫)
   1.脳性麻痺をはじめとする脳原性麻痺の特色
   2.日常生活のための工夫の意義
     1)一日の多くの時間を過ごすための姿勢
     2)移動のための工夫
     3)コミュニケーションのための工夫
     4)レクリエーション,その他の工夫
  G 屋外から屋内への進入方法(水上昌文)
   1.歩行自立者(杖,装具の使用を含む)の場合
   2.車椅子使用者の場合
     1)道路からポーチまで
     2)玄関ポーチ
 4.高齢者・障害者配慮住宅(安梅勅江)
  1.配慮住宅の原則
    1)配慮住宅の意義
    2)配慮住宅の基本条件
  2.配慮住宅の基本的な考え方
    1)移動方法の設定
    2)段差の除去
    3)スペースの確保
    4)手すりの設置
    5)緊急時の安全の確保
  3.障害特性配慮住宅の実際
    1)障害別の配慮すべき事項
    2)障害別の配慮項目
  4.空間別配慮の方法
    1)通路およびドアの幅
    2)段差
    3)トイレ
    4)浴室
    5)居室
  5.生活動作別の配慮項目
    1)移動動作
    2)起居動作
    3)整容動作
    4)排泄動作
    5)入浴動作
    6)家事動作
  6.住宅改造に関する諸援助
    1)介護保険制度における住宅改修費の支給
    2)日常生活用具の給付および貸与
    3)生活福祉資金
    4)障害者住宅整備資金の貸付
    5)住宅金融公庫融資制度
    6)リフォーム融資への割増融資
    7)ホームエレベーター設置工事割増融資
5 福祉用具・リハビリテーション関連機器
 1.一般的知識(黒川幸雄)
 2.介護保険における福祉用具など(黒川幸雄)
 3.ADL関連デバイス(自助具)(吉田由美子)
  1.自助具使用の目的
  2.自助具使用とその留意点
  3.自助具の各種
    1)食事
    2)整容
    3)更衣
    4)入浴
    5)排泄
    6)家事
 4.障害者におけるコンピュータの利用(園田啓示)
  1.生活の道具としてのコンピュータ
  2.コンピュータの基本構成
    1)コンピュータの構成
  3.リハビリテーションにおけるコンピュータ
    1)コンピュータの活用形態
    2)コンピュータ操作上の問題点と解決の手順
  4.視覚障害者におけるコミュニケーション
  5.上肢障害者におけるコミュニケーション
    1)上肢障害者におけるコンピュータ操作上の問題点
    2)上肢障害者によるコンピュータ利用の実際
  6. 障害者のコンピュータ利用をめぐる動き
 5.上肢・体幹装具(山本吉晴)
 6.下肢装具(小山信之)
  1.キ下肢装具
  2.短下肢装具
  3.膝装具
  4.靴型装具
 7.装飾用装具(川井信夫)
  1.装飾用装具の必要な理由
  2.装飾用装具の種類と実際例
    1)上肢切断用装飾義手
    2)両大腿切断用装飾義足
    3)義眼
    4)人工乳房
    5)人工耳介,その他
 8.自動車運転用補助装置(岩崎 洋)
  1.補助的手段としての運転用補助装置
    1)手動装置
    2)旋回装置
    3)左足用アクセル
    4)左方向指示器
    5)運転用改造座席
  2.疾患別自動車運転用特殊装置
    1)片麻痺患者
    2)脊髄損傷者
    3)切断
    4)脳性麻痺
    5)慢性関節リウマチ
    6)筋ジストロフィー
    7)その他(骨形不全症,モルキオ病)
  3.車椅子積み下ろし装置
    1)補助するもの
    2)全介助するもの
6 社会生活用具・機器・設備・マンパワー
 1.一般的知識(黒川幸雄)
  1.移動手段となる用具・機器・設備
  2.コミュニケーション手段となる用具・機器・設備
  3.余暇活動の手段となる用具・機器・設備
  4.職業活動に必要となる用具・機器・設備
  5.学習活動に必要となる用具・機器・設備
 2.公共設備,交通機関など(安梅勅江)
  1.公共建物設備など
    1)構内通路
    2)呼び出し設備
    3)外部出入口
    4)内部出入口
    5)廊下
    6)階段
    7)エレベーター
    8)事務室
    9)便所
  2.移動・交通機関
    1)公共交通ターミナル
    2)交通機関
 3.電話・ファクシミリなど(安梅勅江)
  1.重度障害者向け福祉電話
  2.緊急時通報用福祉電話
  3.電話補助具
  4.個別機器紹介
    1)配慮電話
    2)ファックス
    3)コミュニケータ
    4)パーソナルコンピュータの活用
7 地域環境
 1.一般的知識(黒川幸雄)
  1.居住地の立地環境
  2.道路・交通状況
  3.公共施設,社会的資源
  4.職場環境
  5.各種サービスシステム
 2.障害者の住みよい街づくり(山口 昇)
  1.街づくりの困難さ
  2.街づくりの理念と基本的考え方
    1)街づくりの理念
    2)街づくりの基本的考え方
  3.街づくりの歩み
    1)国の政策・事業
    2)地方自治体の対応
  4.公共建築施設の整備(ハートビル法を中心に)
    1)アプローチ(敷地内通路)
    2)スロープ
    3)出入口
    4)廊下など
    5)階段
    6)昇降機
    7)便所
    8)駐車場
  5.交通機関の整備
    1)公共交通機関の整備
    2)その他の交通機関および制度
  6.街づくりの経済効果
  7.公共建築施設整備の評価
8 ケアマネジメントにおける生活環境調整(福屋靖子)
 1.ケアマネジメント概説
    1)ケアマネジメントの用語
    2)必要背景からみたケアマネジメント機能の特性
    3)ケアマネジメントと人権思想
    4)医学的リハビリテーションと生活モデル
    5)ケアマネジメントの定義
 2.ケアマネジメントの実践的な機能
    1)ケアマネジメントの展開プロセス
    2)ケアマネジメントとトータルリハビリテーション
    3)生活支援モデルとしてのリハビリテーションケアの展開構図
 3.生活環境とケアマネジメント
    1)ケアマネジメントにおける生活環境の位置づけ
    2)物理的環境ニーズへのケアマネジメントの有効性
    3)物理的環境に関わるケアマネジメントと医学的リハビリテーションの関係
 4.物理的環境に関わるケアマネジメント―住環境に関わるケアマネジメントの展開
    1)第1段階:インテーク
    2)第2段階:ケアニーズアセスメント
    3)第3段階:ケア目標の設定
    4)第4段階:ケアプラン作成,第5段階:ケア実施への介入
    5)第6段階:モニタリング
    6)第7段階:事後評価
 5.対人環境に関わるケアマネジメント
 6.生活環境におけるケアマネジメントの課題
9 生活支援工学(片山秀史,高山忠雄)
 1.生活支援
    1)生活支援工学とは
    2)福祉用具の歴史的変遷と定義
    3)福祉用具の有効活用
 2.福祉用具の活用
    1)福祉用具活用の意味
    2)障害特性からみた福祉用具
 3.生活支援工学における研究開発の実際
    1)ホームヘルスモニタリング
    2)行動モニタリングシステム
    3)福祉用具のパワーアシスト化
    4)バーチャルリアリティと介護・リハ関連機器
    5)生活支援工学の展開に向けて

索引