発行にあたって
私は研修医時代に,過剰な訓練によって筋力低下を生じたと考えられる慢性炎症性脱髄性ニューロパチーの症例を経験してから,運動が神経筋疾患に生じる二次障害の病態に興味をもちました.その後ラットにアクリルアミド中毒を作製してoverworkweaknessの基礎実験を行い,リハビリテーション医学分野ではおそらく最初だと思いますが,ポリオ後症候群の症例報告をしました(総合リハ,1988).これらの経過の中で,overworkweaknessまたはoveruseweaknessに相当する日本語がなく表現に困り,数カ月の推敲を重ね,この病態には正反対の状態である廃用と密接な関係があると考え,廃用と語感が類似している過用という新しい言葉を作り提案することにしました.最近,この用語が広く使用れるようになり,さらにポリオ後症候群の存在も認知され,過用と廃用の関係も次第に明らかとなってきました.研修医時代の直感と提言は結果的には誤りではなかったと胸をなで下ろした次第です.
ポリオ後症候群は既に,神経内科医,リハビリテーション医,理学療法士,作業療法士には周知の疾患となってきましたが,診断,治療,障害,精神心理を含めて包括的にわかりやすく記載した成書はなく,ポリオ後症候群を適切に診断し有効な対策を立てるには指針となる標準的な教科書が必要であると感じていました.そうした折,ポリオ後症候群に関して多くの原著論文を報告しているHalstedとGrimbyが編者となり,Post-poliosyndromeという本が出版されました.通読してみるとすばらしい内容であり,早速,ポリオ後症候群を多数症例経験している伊藤利之先生(横浜市総合リハビリテーションセンター長)の協力を得てようやく翻訳出版の運びとなりました.まず,根ヶ山公子氏(北九州エンジョイポリオの会会長)・蜂須賀文子氏にボランティアとして原書下訳をしていただき,それをもとに翻訳担当者が分担して翻訳し,最後に伊藤先生と私が監訳を行いました.医歯薬出版編集部斎藤和博氏からは細部にわたる有意義な助言をいただきました.
本書はポリオ後症候群の入門書として,また,理解を深める本として最も適した内容です.特に,ポリオ後症候群患者の嚥下障害や呼吸障害は,我々には十分な臨床経験と知識蓄積がなかった領域であり,リハビリテーション医療関係者には大変参考になるものと確信しています.後半の箇所は障害,心理,人生に関して書かれており,患者さんにも有用と思われます.
さてこの次は,我が国のポリオ後症候群の研究者や臨床家がこれまでの臨床経験を整理して日本版ポリオ後症候群を企画し,医療関係者や患者さん達に一層役立つことを期待しています.
2001年4月 蜂須賀研二
私は研修医時代に,過剰な訓練によって筋力低下を生じたと考えられる慢性炎症性脱髄性ニューロパチーの症例を経験してから,運動が神経筋疾患に生じる二次障害の病態に興味をもちました.その後ラットにアクリルアミド中毒を作製してoverworkweaknessの基礎実験を行い,リハビリテーション医学分野ではおそらく最初だと思いますが,ポリオ後症候群の症例報告をしました(総合リハ,1988).これらの経過の中で,overworkweaknessまたはoveruseweaknessに相当する日本語がなく表現に困り,数カ月の推敲を重ね,この病態には正反対の状態である廃用と密接な関係があると考え,廃用と語感が類似している過用という新しい言葉を作り提案することにしました.最近,この用語が広く使用れるようになり,さらにポリオ後症候群の存在も認知され,過用と廃用の関係も次第に明らかとなってきました.研修医時代の直感と提言は結果的には誤りではなかったと胸をなで下ろした次第です.
ポリオ後症候群は既に,神経内科医,リハビリテーション医,理学療法士,作業療法士には周知の疾患となってきましたが,診断,治療,障害,精神心理を含めて包括的にわかりやすく記載した成書はなく,ポリオ後症候群を適切に診断し有効な対策を立てるには指針となる標準的な教科書が必要であると感じていました.そうした折,ポリオ後症候群に関して多くの原著論文を報告しているHalstedとGrimbyが編者となり,Post-poliosyndromeという本が出版されました.通読してみるとすばらしい内容であり,早速,ポリオ後症候群を多数症例経験している伊藤利之先生(横浜市総合リハビリテーションセンター長)の協力を得てようやく翻訳出版の運びとなりました.まず,根ヶ山公子氏(北九州エンジョイポリオの会会長)・蜂須賀文子氏にボランティアとして原書下訳をしていただき,それをもとに翻訳担当者が分担して翻訳し,最後に伊藤先生と私が監訳を行いました.医歯薬出版編集部斎藤和博氏からは細部にわたる有意義な助言をいただきました.
本書はポリオ後症候群の入門書として,また,理解を深める本として最も適した内容です.特に,ポリオ後症候群患者の嚥下障害や呼吸障害は,我々には十分な臨床経験と知識蓄積がなかった領域であり,リハビリテーション医療関係者には大変参考になるものと確信しています.後半の箇所は障害,心理,人生に関して書かれており,患者さんにも有用と思われます.
さてこの次は,我が国のポリオ後症候群の研究者や臨床家がこれまでの臨床経験を整理して日本版ポリオ後症候群を企画し,医療関係者や患者さん達に一層役立つことを期待しています.
2001年4月 蜂須賀研二
序
発行にあたって
chapter 1 ポリオ後症候群の患者に免疫病理学的変化はあるのか?
血清抗体価
血液生化学
血清ポリオウイルスIgG抗体
T-細胞亜群
脳脊髄液の変化
筋
筋内のウイルス
脊髄
考察
ポリオ後症候群とプレドニゾロン
文献
chapter 2 ポリオ罹患筋の機能,構造,電気生理学の動的展望
筋力
筋構造
神経生理学的方法
単一線維筋電図検査
同芯性あるいは単極性電極筋電図検査
マクロ筋電図法
筋電図の結果
概括
線維の大きさ
再神経支配
代償障害
要因の組み合わせ
文献
chapter 3 ポリオ罹患者の筋線維形態
病理
光学顕微鏡検査
電子顕微鏡検査
脱神経-再神経支配
筋線維の適応変化
文献
chapter 4 局所筋疲労と全身疲労
筋疲労の中枢性と末梢性の原因
ポリオ後の疲労
神経筋機能における衰えの神経生理学的病因の提案
再活性化したウイルス,瘢痕,過剰な代謝需要
運動単位の消失
運動単位内の筋線維消失
神経筋機能低下の病因
廃用性筋力低下
過用性筋力低下
体重増加
慢性の筋力低下
進行性筋力低下の証拠
筋力,持久性,疲労の定量的評価
筋力計と筋電図による測定
低-高負荷握り運動におけるP磁気共鳴スペクトロスコピー測定
筋機能調節の有効性
ポリオ後患者における運動の効果
筋力強化訓練
呼吸循環と全身運動
機能的意味
臨床的意味
結論
chapter 5 鑑別診断と予後
診断
鑑別診断
筋力低下
疲労
痛み
ポリオ後症候群の評価に関する研究
ポリオの原疾患診断の確立
原疾患とその残存機能の範囲と重症度を評価する
現在の症状の鑑別診断を明確にする
ポリオ以外の原因を除外する直接検査
ポリオ以外の疾患が発見されない場合,定量化した機能の基礎値を確立する
予後
文献
chapter 6 ポリオの呼吸器後遺症の評価と管理:非侵襲的方法
歴史的展望
遅発性肺機能不全の病態生理
呼吸評価
ポリオ後患者の肺管理
睡眠時呼吸障害
慢性肺胞低換気や慢性換気不全
咳の介助
気管切開とその適応
その他のリハビリテーションの留意点
*略語とよく用いられる専門用語集
文献
chapter 7 ポリオ後症候群の呼吸管理
症状,徴候
睡眠記録
病態生理学的要素
横隔膜疲労
リスク患者の監視
予防と治療
換気補助
まとめ
文献
chapter 8 ポリオ後症候群の口腔運動と嚥下機能
歴史的展望
口腔咽頭の症状の発生状況
口腔咽頭系
発話と音声
呼吸・発声変化
口腔の感覚運動機能
嚥下
嚥下障害の臨床評価
食事時の観察
嚥下の質問
機器を用いた診察手順
口腔咽頭症状の進行
考察とまとめ
文献
〔付表A〕発話―言語病理と嚥下に関する質問
chapter 9 ポリオ後症候群患者の運動処方方略
筋運動生理学
ポリオ後筋の病態生理学
神経学的に異常のない者の筋力強化訓練プログラムの効果
ポリオ後患者の筋力強化訓練プログラムの効果
神経学的に異常のない者の心血管系訓練プログラムの効果
ポリオ後患者における心血管系訓練プログラムの効果
運動処方のためのポリオ後筋の新しい分類
結論
文献
chapter 10
ポリオ後症候群の機能制限と能力低下
安定ポリオ患者と不安定ポリオ患者の比較
調査対象
方法
結果
総括
文献
chapter 11 心理社会的問題とポリオ後症候群:過去13年間の文献検討
文献検討の方法
結果
研究論文
研究以外の論文
考察
おわりに
文献
chapter 12 ポリオの教訓と遺産
ポリオの病態生理
個人的経験
否定の遺産
訓練と努力の教訓
孤立した価値の教訓
永遠性と選ばれた存在という感情の遺産
社会的背景
忘れられた病気の遺産
障害商品化の遺産
地元支援団体の遺産
リハビリテーション医学への影響
ポリオの遺産とリハビリテーション医学
専門化されたケアの遺産
病院中○の治療の遺産
忘れ去られていることの遺産
障害をもって老いることの教訓
おわりに
文献
chapter 13 ポリオとともに老いる:私的展望
医学
経済
工学
心理状態
哲学
文献
索引
発行にあたって
chapter 1 ポリオ後症候群の患者に免疫病理学的変化はあるのか?
血清抗体価
血液生化学
血清ポリオウイルスIgG抗体
T-細胞亜群
脳脊髄液の変化
筋
筋内のウイルス
脊髄
考察
ポリオ後症候群とプレドニゾロン
文献
chapter 2 ポリオ罹患筋の機能,構造,電気生理学の動的展望
筋力
筋構造
神経生理学的方法
単一線維筋電図検査
同芯性あるいは単極性電極筋電図検査
マクロ筋電図法
筋電図の結果
概括
線維の大きさ
再神経支配
代償障害
要因の組み合わせ
文献
chapter 3 ポリオ罹患者の筋線維形態
病理
光学顕微鏡検査
電子顕微鏡検査
脱神経-再神経支配
筋線維の適応変化
文献
chapter 4 局所筋疲労と全身疲労
筋疲労の中枢性と末梢性の原因
ポリオ後の疲労
神経筋機能における衰えの神経生理学的病因の提案
再活性化したウイルス,瘢痕,過剰な代謝需要
運動単位の消失
運動単位内の筋線維消失
神経筋機能低下の病因
廃用性筋力低下
過用性筋力低下
体重増加
慢性の筋力低下
進行性筋力低下の証拠
筋力,持久性,疲労の定量的評価
筋力計と筋電図による測定
低-高負荷握り運動におけるP磁気共鳴スペクトロスコピー測定
筋機能調節の有効性
ポリオ後患者における運動の効果
筋力強化訓練
呼吸循環と全身運動
機能的意味
臨床的意味
結論
chapter 5 鑑別診断と予後
診断
鑑別診断
筋力低下
疲労
痛み
ポリオ後症候群の評価に関する研究
ポリオの原疾患診断の確立
原疾患とその残存機能の範囲と重症度を評価する
現在の症状の鑑別診断を明確にする
ポリオ以外の原因を除外する直接検査
ポリオ以外の疾患が発見されない場合,定量化した機能の基礎値を確立する
予後
文献
chapter 6 ポリオの呼吸器後遺症の評価と管理:非侵襲的方法
歴史的展望
遅発性肺機能不全の病態生理
呼吸評価
ポリオ後患者の肺管理
睡眠時呼吸障害
慢性肺胞低換気や慢性換気不全
咳の介助
気管切開とその適応
その他のリハビリテーションの留意点
*略語とよく用いられる専門用語集
文献
chapter 7 ポリオ後症候群の呼吸管理
症状,徴候
睡眠記録
病態生理学的要素
横隔膜疲労
リスク患者の監視
予防と治療
換気補助
まとめ
文献
chapter 8 ポリオ後症候群の口腔運動と嚥下機能
歴史的展望
口腔咽頭の症状の発生状況
口腔咽頭系
発話と音声
呼吸・発声変化
口腔の感覚運動機能
嚥下
嚥下障害の臨床評価
食事時の観察
嚥下の質問
機器を用いた診察手順
口腔咽頭症状の進行
考察とまとめ
文献
〔付表A〕発話―言語病理と嚥下に関する質問
chapter 9 ポリオ後症候群患者の運動処方方略
筋運動生理学
ポリオ後筋の病態生理学
神経学的に異常のない者の筋力強化訓練プログラムの効果
ポリオ後患者の筋力強化訓練プログラムの効果
神経学的に異常のない者の心血管系訓練プログラムの効果
ポリオ後患者における心血管系訓練プログラムの効果
運動処方のためのポリオ後筋の新しい分類
結論
文献
chapter 10
ポリオ後症候群の機能制限と能力低下
安定ポリオ患者と不安定ポリオ患者の比較
調査対象
方法
結果
総括
文献
chapter 11 心理社会的問題とポリオ後症候群:過去13年間の文献検討
文献検討の方法
結果
研究論文
研究以外の論文
考察
おわりに
文献
chapter 12 ポリオの教訓と遺産
ポリオの病態生理
個人的経験
否定の遺産
訓練と努力の教訓
孤立した価値の教訓
永遠性と選ばれた存在という感情の遺産
社会的背景
忘れられた病気の遺産
障害商品化の遺産
地元支援団体の遺産
リハビリテーション医学への影響
ポリオの遺産とリハビリテーション医学
専門化されたケアの遺産
病院中○の治療の遺産
忘れ去られていることの遺産
障害をもって老いることの教訓
おわりに
文献
chapter 13 ポリオとともに老いる:私的展望
医学
経済
工学
心理状態
哲学
文献
索引