やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 琵琶湖長寿科学シンポジウム実行委員会会長
 住友病院名誉院長・京都大学名誉教授
 亀山正邦 Kameyama Masakuni

 ある年齢を過ぎると,多くの人はいろいろな病気や,病的状態を示すようになります.本人はその状態に気づかないこともありますが,周りの人は敏感に感じとって,その人を病人扱いにすることも少なくありません.じつは,この辺の対応の仕方が問題なのです.
 ある人がある症候を示したとき,それがどのような病的状態なのか判断がむずかしいものです.しかも,重要なことは,対応の仕方,あるいは予防法を講じることによって,それ以上悪化することを防いだり,あるいは治ってしまうことさえあるのです.
 また,いろいろの状態について進んだ知識のあり・なしによって,対応がまったくちがってきます.多くの疾患の予防は,このような意識下の対応の仕方によって可能になることがあります.また,いろいろな成人病,老年病にしても,わずか数年の間に治療法や予防法が逆になったりすることさえあります.
 そこで,このたびのシンポジウムの新しい意義が問題になってきます.
 健康エクササイズの問題が,種々取りあげられていますが,注意すべきは,従来とはかなりちがった視点から解説されていることです.
 転倒・骨折など重要なテーマについては,意外な筋肉の脱力や萎縮が問題になります.“足の爪切り”など,どうして取りあげられたか,不思議に思われる方もおられるかもしれません.しかし,そんな一見単純なことが,お年寄りのケア(care)の面では無視できないのです.そのほか,感染症,うつ状態,食事,運動など,具体的な多くのテーマについて解説されています.
 すぐれた講師の方々の,わかりやすいお話は,皆様のご要望に応えることが多いと期待しています.どうか,シンポジウム当日に出席できなかった方々にも,伝達講習として,本誌の内容をお伝えくださるようお願いして,私のご挨拶といたします.
 2004年9月
 琵琶湖長寿科学シンポジウム
 「その人らしい生活が送れるように
 〜今,ケアを再考する」
 ●開催日:2003年11月11〜12日
 ●会 場:滋賀県立長寿社会福祉センター(レイカディアセンター)
 ●主 催:滋賀県・琵琶湖長寿科学シンポジウム実行委員会
別冊総合ケア
快適支援の高齢者ケア――その人らしい生活をおくるために もくじ

はじめに(亀山正邦)
老いをたのしく豊かに(佐々木英忠)
 嚥下反射・咳反射の機能低下/脳の血管性障害を防ぐ―魚と野菜―/睡眠と咳―若い人とはちがった治療法―/口腔ケアの効果/経管栄養/感染症にかからないために/気管支喘息/アルツハイマー型痴呆の診断/日本が得をする長寿社会へ

転倒の疫学(鈴木隆雄)
 地域在宅高齢者での転倒の実態/転倒原因/転倒による傷害/転倒予防に対するストラテジー/転倒外来の実施

日常生活のなかの健康エクササイズ― 「健康のための運動」の新しい考え方(高野利也)
 中高年者には運動が欠かせない/中高年者の運動の目的/身体能力と運動の種類/従来の運動の指針/健康運動の新しい考え方/遅れている日本の運動環境

日常生活のなかの健康エクササイズ(武田紀子)
 高齢者の転倒と日常運動量/日常生活でのトレーニング/高齢者に適した運動/運動強度は個別にきめる/運動の目安/心地よい生活

高齢者にとっての爪切りの重要性(宮川晴妃)
 はじめに/知っておきたい爪の構造/離床のためのマッサージ/正しい爪の切り方/靴下の履かせ方/おわりに

感染症―ケアの現場で考える(砂川富正)
 はじめに/ケアの場における感染症対策の原則/具体的な感染症対策のポイントとは/おわりに

おいしく口から食べる(金谷節子)
 はじめに/嚥下食の目的/嚥下食を規定する5要素/嚥下食の食事基準―嚥下食の5段階分類段階分類されたフードテストで簡易に評価する/咽頭残留除去にふさわしいデザート「ゼラチンゼリー」/嚥下食用増粘剤(とろみ調製剤)の使い方/真空低温調理(アンチオキシダントクッキング)と嚥下食の保存/食品のもつ機能で高齢者食をデザインする/おわりに

閉じこもりへのアプローチ(安村誠司)
 はじめに/寝たきり対策のあり方/「閉じこもり」について/「閉じこもり」に対する介入事例/高齢者の健康の物差しと健康寿命について/おわりに

その人に合った心と体の活性化―アクティビティ・ワーカーからの提言(柏木美和子)
 アクティビティとは/アクティビティは個人の心に働きかけるもの/レクリエーションとアクティビティ/高齢者の気持ちを理解するために)……

高齢者へのナラティヴ・アプローチ―物語としてのケアのために(野口裕二)
 3 つの問いかけ/ナラティヴ・アプローチ(Narrative Approach)/実践例:痴呆性高齢者への回想ボードを用いた試み/物語としてのケアのために

ケアの質を問い直す―福祉・芸術・生活(原 慶子)
 はじめに/福祉とケア/「ケア」の本質/芸術と生活/おわりに

 表紙デザイン:M's