やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 誰でも生きる限り幸せに過ごしたいと思っています.高齢社会を迎え,日々の生活は充実しているでしょうか?皆さんのまわりの高齢の方や障害をもたれた方々の生活はどうでしょうか?
 私たちは,被服という切り口で障害者・高齢者の生活を考えてみました.衣食住のなかでパーソナルな側面を強くもつ私たちの衣生活は,住まいや食事に比較するとまだまだ先の見えない部分が多すぎるように思います.誰もが考えようとし,実践しようとしているに違いありませんが,なぜ,思うように進まないのでしょうか.
 私たちは高齢になった人の体型がどう変化するか,また,機能的にはどのような変化が起こっているかを頭では理解していても,それが衣服の形となって表現されるにはまだまだいろいろな要素が必要なのではないでしょうか.ただ高齢というだけでも変化は大きいと思いますが,高齢者が病気の後遺症で障害をもつこともあります.
 障害者についても同じことです.先天的に身体に障害をもっている場合と後天的に障害をもった場合とでは大きな違いがあります.車椅子に乗っているという事実だけで,それを理解できると思っていませんか? 障害といってもその原因,レベルによっても大きな違いがあることを,一般的にはなかなか理解できないのが現実です.
 そこで,この本を編集するにあたり,それぞれの個々の身体をよく理解することに重きを置き,その上で被服を考えてみたいと思います.
 皆さんが着たい衣服を選ぶように,高齢になっても,障害をもっても,好きなものを着たいのは,当然の主張です.私たちは誰もが自己表現できる環境を整えていかなければなりません.
 デパートの介護用品売場でワンピースやスーツを探すのではなく,一般のスーツや,ワンピースの同じレールの一端にアームホールが大きく背幅の大きいものがあったり,パンツ売場の一端に座り姿勢の楽なパンツがあっても不思議ではありません.だれもがそれに違和感を感じなくなるような環境を少しでもはやく整えたいものです.
 2002年10月
 渡辺聰子
 はじめに 渡辺聰子

基礎編
 高齢者・障害者のADLの充実と社会参加促進のための衣服の役割 西本典良
実践編(1)
 衣服の選択―身体障害に配慮した衣服選び 岩波君代
実践編(2)
 衣服のリフォーム・オーダー 渡辺聰子
実践編(3)
 素材とテキスタイルデザイン 多田牧子
実践編(4)
 色彩と心理 伊藤久美子
ステップアップ編(1)
 おしゃれな装い 金子百合香
ステップアップ編(2)
 衣服におけるユニバーサルデザインとは 岩波君代
用語解説