やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 琵琶湖長寿科学シンポジウム実行委員会会長
 京都大学名誉教授・住友病院名誉院長
 亀山正邦
 Kameyama Masakuni

 琵琶湖長寿科学シンポジウムは,今回で第16回目になります.この16年間,日本をはじめ,世界の政治情勢や健康問題に大きな変動がありました.しかし何といっても重要なことは,日本が世界一の長寿国であり,また日本人の健康寿命は世界一長い,ということです.従来は65歳以上を老年者として,社会学的にも医学的にも,一つの集団扱いにしてまいりましたが,2000年の集計をみますと,平均寿命は男性77.72年,女性84.60年となっております.したがって今後ヒトの老年期を,65〜79歳の前期と80歳以上の後期とに分けて,対策を考えてゆくことが妥当と思われます.
 今回のシンポジウムはそのような観点から,ことに後期高齢者の健康・疾病・社会的対策,ケアの問題の具体的なあり方などについて,各方面の専門家を講師にお招きし,ご討論をいただくことにいたしました.幸いに各講師の先生にはご多忙のなかを,しかも遠方からもご参加いただき,直接にお話し合いができましたことは,私どもの大きな喜びです.ご参会いただいた皆様の熱意に感動するとともに,本会を例年維持され,発展を企図されている滋賀県の当事者の方々にも,深く御礼申し上げます.
 本シンポジウムの内容については,いずれもわかりやすく,今日的な問題が具体的に解明されております.後期老年期の医療・福祉の問題は私どもにはほとんど未経験の領域であり,それらに対する問題の提起や,理念・実践上のノウハウについてのご発表は,他には得がたいすぐれた内容をもっています.
 年をとる,ということは,物理的な条件であり,誰もこれを免れることはできません.しかし,いかに年をとるか,高齢期をどう過ごすか,また,そのような高齢者をどう処遇するかは,社会の智恵なのです.これは世界的にいっても,人類の経験しない問題なのです.日本の医療は,国民皆保険のアイディアのもとに広く普及し,世界一の長寿国をつくりあげました.WHOは,日本の医療を世界の第一位に推しております.私どもは誇りをもって,わが国の医療・社会福祉の向上につとめるべきでしょう.その一翼を担うものとして,本シンポジウムの意義は小さくないと思います.今後ますますこの会が発展拡充されることを祈ってやみません.
 琵琶湖長寿科学シンポジウム
 「新時代の総合ケア―今,あらためて理念から実践までを問い直す」
 テーマ
 (1)高齢者の健康と医療
 (2)地域ケアの充実に向けた取り組み
 ●開催日:2001年11月13〜14日
 ●会 場:滋賀県立長寿社会福祉センター(レイカディアセンター)
 ●主 催:滋賀県・琵琶湖長寿科学シンポジウム実行委員会
 はじめに……亀山正邦

I 後期高齢者の健康と医療

前期および後期高齢者の機能的・病態学的特徴……亀山正邦
 わが国における人口高齢化の現状と将来/年齢と保有する症候数および症候の内容との関係/病理学的所見からみた後期高齢者の特徴/clinical thresholdについて/精神・神経機能,ADLなどの加齢変化/まとめ
後期高齢者の寿命を決めるもの-小金井研究15年間の経験より……柴田 博
 はじめに/小金井研究の特徴/研究デザインと方法/研究結果
後期高齢者の生活機能を支えるもの……新開省二
 生活機能とは/加齢と生活機能-横断的研究/加齢と生活機能―縦断的研究/高齢者の生活機能を支えるもの―研究の枠組み/「基本的ADL障害」および「手段的ADL障害」にかかわる要因/高齢者の生活機能を支えるもの―よい認知機能,咀嚼力(栄養),歩行能力および活発な社会活動性/まとめ
高齢社会と生活習慣病……秦 葭哉・中島久実子
 はじめに/わが国における人口の高齢化と高齢社会の展開/国民の栄養状態の変化と健康の状況/健康問題の発生―成人病と生活習慣病/生活習慣病の医学的位置づけ/高齢者の自立障害と生活習慣病/まとめ
高齢者における血圧の考え方……藤井 潤
 はじめに/2つの数値/血圧計の発明/家庭血圧計の開発/血圧の変動/正常血圧と高血圧/加齢と血圧/高血圧と心血管病/日本人は脳型,欧米人は心臓型/リスク別治療計画/高齢者高血圧の特徴/高齢者高血圧の治療
老年期の物忘れと痴呆……三好功峰
 はじめに/記憶とは/老年期の生理的な物忘れ/痴呆の前触れかもしれない記憶障害/痴呆とは/重篤な記憶障害があっても痴呆でない状態/まとめ

II 地域ケアの充実に向けた取り組み

ケアマネジメントの業務 1年目の検証―介護支援専門員はこのままでいいのか……山崎摩耶
 介護保険1年をふり返って/介護支援専門員のジレンマ/ケアマネジメントシステムとは何だったのか/利用者本位と自立支援のケアプラン/介護支援専門員に必要な専門性とその訓練の課題/介護保険の今後の課題
要介護認定の現実と課題……池田省三
 増加しつづける認定者/未認定者のなかの要支援・要介護高齢者/認定率と利用率の乖離/サービス未利用の理由/地域別にみた認定率/スーパー高齢者と「沖縄・奄美型」の認定率/標準認定率と地域格差/認定の納得度/支給限度額と要介護度/認定システムの課題(1)―判定システムの精度の向上/認定システムの課題(2)-認定審査会の役割/認定システムの課題(3)―要支援の見直し
身体拘束ゼロの施設づくり―清水坂あじさい荘の実践から……鳥海房枝
 身体拘束ゼロの時代を迎えて/あじさい荘の介護方針/身体拘束ゼロへの取り組み
指定発言:寿々はうすでの実践……草野文嗣
ユニットケアの理念と実践……篠崎人理
 ユニットケアとはなにか?/ユニットケアの実践/おわりに
Q & A