やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修の辞

 「98リハビリテーション合同大会・茨城」が開催されてからはや1年が経とうとしています.交通不便の水戸市まで多くの方々にお越しいただき本当に感謝しています.合同大会は茨城県のリハビリ関係者が総力をあげて企画運営をしました.この大会を開催することで茨城県のリハビリに対する認識が向上したと感じられ,大変うれしく思っています.ただ慣れないことを寄り合い所帯で運営したため,多くの方にご不便をおかけしたのではないかと思っています.本誌をかりて心よりお詫びとお礼を申しあげます.
 合同大会には企画された催しのほか,会員から多くの発表がありました.実行委員会ではこれらの発表をできるだけ会員の皆様や一般の方々に知っていただきたいと考え,その内容を医歯薬出版のご協力で出版することになりました.編集企画は実行委員長の伊佐地医師と医歯薬出版の編集部の皆さんが工夫に工夫を重ねたようであります.このワープロを打ちながら出来栄えや何如と楽しみにしているところです.
 さて,来年の介護保険の施行にともない身辺がなにかと気忙しくなってきました.ケアやリハビリにかかわる方々は,ご自身のお仕事以外にこの方面での仕事が増えご多忙のことと思います.介護保険にはいろいろ課題があるものの,私自身はこのような国家的な大事業が行なわれるときに深くかかわりをもてることを喜ぶべきではないかと思っています.
 今年のはじめに「介護予防」という新しい言葉が飛び出しました.この「介護予防」という言葉をキーワードとして健康増進から医療,介護まで一連のつながりをもって語ることができます.いわば保健・医療・福祉が隙間なくつながったといえます.そのなかでリハビリの果たすべき役割は広域になるとともに明白化しつつあります.したがって私たちは,社会の変動や諸活動によく目をくばり,時代を先取りするような活動を展開する必要があろうかと思っています.この冊子がその一助になれば幸いです.
 皆様のご健康とご奮闘をご祈念申し上げ,監修の辞といたします.
 平成11年9月 茨城県立医療大学 大田仁史

はじめに

 地域で生活していく障害者や高齢者のために,いろいろな場所でさまざまな人々が,日々地道に活動をしています.その実践の記録や研究の成果を,語りかけ,示し,みんなで共有していこうと,たくさんの人に著述していただきました.この本はその記録です.
 その記録がより息吹をもつように,編集者で少し工夫をしました.
 障害を残す病気になった主人公が,病院への入院をはじめとして,たどっていく道があります.訪れる「施設」,関係する「組織」,取り巻く「制度」,それらを,医療・保健福祉・在宅の3部に分けてみました.そしてそれぞれの「施設」「組織」「制度」のしくみと現状をまずのぞきます.そこを主人公がどうたどっていくのかをみます.私たちは主人公といっしょに知識を得ていきます.そのうえでたくさんの貴重な記録にふれます.地域リハビリテーションの最前線の動きの記録です.
 主人公は脳梗塞で右片麻痺になった方です.まわりにも3人の障害をもった人々がいて,流れに彩りをつけています.この方の流れは,ごく普通にあるパターンですが,比較的理想的なものになっています.これが普通だということではなく,この程度は最低限実現したいというラインに合わせてあるとご理解ください.
 もちろん,最初から順番に読んでいただければこの流れがよくわかります.しかし,知りたい部分を取り出して読んでいただいても,そこだけの理解はできるようになっています.その意味では(誌面の関係上すべてを盛り込むことはできませんでしたが),地域リハビリテーションの教科書としても役立つことと思います.
 地域リハビリテーションにかかわるすべての職種の方々はもちろんのこと,障害をもった当事者,そのご家族にも手に取っていただけたら幸せに思います.
 介護保険前夜1999年夏の終わりに 伊佐地隆 大仲功一 安岡利一
監修の辞………大田仁史
はじめに………伊佐地隆
登場人物

I.そして医療
 A.病院
   1)かかりつけ病院にリハビリテーション室がある意義
   2)脳卒中の効果的リハビリテーションのために
   3)精神障害者の生活の現状
   4)リハビリテーション専門病床群創設に向けて
 B.リハビリテーション病院
  1.リハビリテーション病棟・看護
   1)病棟内作業療法の活動
   2)脳血管障害をもつ患者の転倒
   3)脳血管障害患者の内服薬服用の自立度
   4)リハビリテーション病棟での服薬指導
  2.ADL
   1)FIM評価を看護婦は活用できているか
   2)介護負担をより反映するためのFIM採点方法の工夫
   3)慢性関節リウマチに伴う軸椎垂直性脱臼患者の頚椎手術前後の移動能力と日常生活活動
   4)機能障害が重度の慢性関節リウマチ患者のADL
  3.摂食・嚥下・栄養
   1)脳血管障害患者の摂食・嚥下リハビリテーション
   2)摂食・嚥下障害への取り組み
   3)胃瘻造設に伴う重篤な合併症
   4)嚥下造影のX線検査における工夫
   5)5段階表示による嚥下食
   6)魚類の嚥下食を規定する脂肪含有比率と動的粘弾性
   7)地域で嚥下障害を支えるために
  4.リハビリテーションに関連する研究
   1)小山田式痴呆行動評価表による痴呆の評価
   2)起立,計算,運動負荷時の近赤外分光法による非侵襲的局所血液・酸素動態測定の試み
   3)リフティング動作の姿勢
  5.退院準備
   1)脳卒中片麻痺患者の外出準備プログラム
   2)効果的な退院前訪問指導のポイント
   3)退院前訪問指導
   4)社会復帰病棟スタッフに求められるもの
   5)リハビリテーション病棟退院患者へのアンケート調査
   6)介護指導は在宅介護を楽にしているか?
   7)病院から地域へ―保健・福祉スタッフへの情報提供はいかにあるべきか
  6.リハビリテーション病院の機能
   1)地域リハビリテーションにおける送迎機能の重要性
   2)施設におけるリハビリテーション機能とは
    患者は「自分の症状」を正しく訴えているか? 本当に「自分の症状」が訴えられるのか?!

II.ゆれて保健施設
 A.老人保健施設
   1)新しい認知運動療法から,そして新しい認知ケア療法へ
   2)家族の死を受け止める援助
   3)障害をもつ高齢者が自宅で生活するために
 B.特別養護老人ホーム
 C.保健センター
   1)機能訓練事業への取り組み
   2)機能訓練事業の流れと広がり
   3)参加者がつくった茶話会
   4)地域のなかでのリハビリスポーツ教室の取り組み
 D.福祉センター
   1)地域の受け皿として
 E.訪問看護/訪問リハビリテーション
   1)訪問リハビリテーション活動の業務分析とその効果
   2)待っていてもらえる訪問リハビリテーションを目指して
   3)いま訪問リハビリテーションがおもしろい
   4)訪問看護ステーションにおけるPT・OTの役割
   5)地域における機能訓練
 F.デイケア/デイサービス
   1)病院デイケアの必要性と今後
   2)デイケアで今後寝たきりは予防していけるか
   3)むせないで,食事がしたい
   4)通所型施設における動物介在活動
   5)デイケアにおける訪問活動状況
   6)デイケア通所者における介護家族の負担度
   7)デイサービスセンターにおけるデイサービスの効果
 G.福祉用具
   1)ピックアップ式歩行器の工夫
   2)歩行支援用具の操作性
   3)評価用車椅子を活用した高齢障害者に対する車椅子処方システム
    学生が学ぶ「地域リハビリテーション」―フィールド調査による体験学習

III.つないで在宅
 A.在宅患者
  1.支援
   1)見過ごすな亜鉛欠乏!―在宅療養患者の栄養管理
   2)テレビ電話を遠隔リハビリテーション医療に利用する
   3)ターミナル患者への在宅支援
  2.調査
   1)なぜ家庭復帰が困難なのか?
   2)失語症者の生活満足度と影響する要因
   3)高齢者における生活状況と余暇作業
   4)高齢者のための排尿管理システムの作成
 B.地域での活動
  1.行政主導
   1)高齢者の包括的な支援体制の構築を目指して
   2)ノーマライゼーションへのあゆみ
   3)地域における理学療法士の活動状況と今後の課題
   4)みんなでふれあう「ふるさとふれあいまつり」
  2.民間
   1)在宅医療のシステムづくり「私はこうして」
   2)法人における地域リハビリテーション活動
   3)冬期間,障害者・高齢者を在宅で支えるために
   4)患者会「白樺会」に対する自立支援
 @ 5)ボラティアと支える地域における失語症者と家族の会
   6)障害者が馬に乗るということ
 C.連携・ネットワーク
   1)民間医療施設における地域住民との連携
   2)脳梗塞者の再発病のなかで生じる「障害」にどのような提案・支援をするべきか
   3)地域リハビリテーションにおける作業療法士の役割と病院における役割との違い
   4)「坂道・階段;斜面」と「コミュニティ」
   5)保健・医療・福祉のネットワークづくり
 D.介護保険
   1)リハビリテーション前置を考える
   2)介護認定調査員の職種の違いによる一次判定結果の差異を検討する
   3)介護保険導入後のデイサービス・デイケアの利用予測と今後の対応

資料
おわりに