やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 糖尿病診療にジョスリン糖尿病学の教科書を座右とされる方々は多いと思う.先年,そのジョスリンクリニックを訪問する機会に恵まれた.ジョスリンクリニックはマサチューセッツ州ボストンにあるが,彼の地は医療改革の嵐に巻き込まれていた.それまでの病床を廃止,100人にものぼるスタッフをリストラしたという厳しい現実があった.クリニックスタッフからは,日本もいずれこうなるから今のうちにこの現実をよく見ていきなさい,という言葉が返ってきた.そのときからわずか4〜5年,医療改革の波が日本でも始まった.
 こうしたなか,日糖協・プラクティスシンポジウムを主宰するという僥倖に恵まれた.日本糖尿病協会プラクティス委員会の河盛隆造委員長に無理を申し上げて実現したのが,今回のテーマである.すなわち「糖尿病治療のシステムと実践―クリティカルパスから病診連携まで―」である.この狙いは日本の医療改革のなかで糖尿病診療の質を低下させず,かつ効率よく糖尿病診療を行えるシステム構築にある.この課題を解くにあたって日本全体を俯瞰すると,各地域での活動が日本全体の糖尿病診療システム構築のヒントを与えている.そこで北海道から九州,沖縄に至る地域医療で成功したシステムでご活躍されている先生方,栄養士,看護師の活動を紹介することとした.その成果をさらに効果あるものとするためにこの別冊プラクティスを刊行した.
 さらに,精神主義的に「医は仁術である」と言われ続けた医療現場では,経済という市場原理からくるうねりに容赦なく巻き込まれ始めている.規模の大小によらず糖尿病の医療経済的位置づけはいかなるものであるかを明らかにしていくことがますます要求されてくる.このため,糖尿病治療のシステム構築が経営に資して,かつ質の高い糖尿病治療の確保のためにも,各医療施設が等しく正しい利益をあげることは最も重要な課題といってよい.この観点から石川和夫先生に病院の立場から,伊藤眞一先生にはクリニックの立場からまず病診連携を論じていただいた.これらシンポジウム演題とは別に医療経済からみた糖尿病医療を別稿として大石まり子先生にご無理を承知でお願いした.大石先生は来るべき診療群別定額支払方式に対応してクリティカルパス導入の重要性を強調された.
 コメディカルスタッフが糖尿病と関わりをもつということは,医師の治療を軸としてより多層的診療が可能となってくることを意味する.チーム医療を行う意義はこれだけにとどまらない.来るべきさまざまな医療改革をどう乗り切るか,医療側の対応を迅速化するシステム整備はどうすべきかに本別冊は答えている.
 新しい糖尿病診療の今日的課題に向けて臨床の現場は何を考え,どのような情報を受け手に発信するか,来るべき医療連携の具体像を提示できたと考える.ここをひとつの里程標としてこの別冊プラクティスが将来への進歩につながるようにと期待している.
 平成16年1月
 鈴木研一
PRACTICE 別冊プラクティス
糖尿病のクリティカルパス C O N T E N T S

序……鈴木研一 Suzuki,Ken-ichi

PART-1 クリティカルパスと糖尿病
 小野百合 Ono,Yuri
 1.なぜ糖尿病にクリティカルパスなのか
 2.教育入院とクリティカルパス
 3.フォローアップ外来と長期のクリティカルパス

PART-2 糖尿病治療のシステムと実践――クリティカルパスから病診連携まで
 PANEL-1 「アクションプランによる患者の自己決定と教育の継続システム」
  谷川和代 Tanigawa,Kazuyo
  1.済生会熊本病院呼吸器糖尿病センターの概要
  2.アクションプラン開始:第1段階(1998〜2001年)
  3.アクションプラン充実に向けての新しい取り組み:第2段階(2001年〜)
  4.クリティカルパス運用によるアクションプランへの効果
  5.まとめ
  6.今後の課題
 PANEL-2 「チーム医療のなかでの栄養士の役割」
  田中美紗子 Tanaka,Misako
  1.入院患者のための栄養指導
  2.外来患者のための栄養指導
  3.糖尿病友の会活動と地域における栄養指導
  4.「糖尿病を考える会」から「糖尿病療養指導士認定制度」へ
 PANEL-3 「病院の立場から見た病診連携における取り組み」
  石川和夫 Ishikawa,Kazuo
  1.病診連携に向けた逆紹介と再紹介
  2.病診連携でどう変わったか
  3.まとめ――病診連携でゆとりある糖尿病外来へ
 PANEL-4「西東京における糖尿病を中心とした医療連携の実際」
  伊藤眞一 Ito,Shin-ichi
  1.人口380万人を基幹病院と診療所で
  2.管理栄養士派遣と患者会連絡会
  3.地域薬診連絡会と西東京CDE
  4.医療の質が問われる時代に向けて
PART-3 医療経済からみた糖尿病医療とクリティカルパス
  大石まり子 Oishi,Mariko
  1.糖尿病の医療経済
  2.糖尿病とクリティカルパス
PART-4 Q&A
 回答者:石川和夫,伊藤眞一,小野百合,田中美紗子,谷川和代
  Q-1 高齢者へもクリティカルパスは適用できる?
  Q-2 医師の意見がそろわないとき,医師の独自性は?
  Q-3 外来での栄養指導がうまくいかないときは?
  Q-4 病院内でのカンファレンス,フォローアップ体制について
  Q-5 病診連携で紹介しても診療所に通院してもらえないときは?
  Q-6 教育入院を受け入れてもらえないときは?
  Q-7 病識の少ない患者へのアプローチについて
  Q-8 バリアンスが高い場合も標準化したパスを使用できる?
  Q-9 少ないスタッフで診療をどのように進めているのか?
  Q-10 地域医療の実際の効果は?
  Q-11 二人主治医体制で治療方針が異なる場合は?