やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 2005年に本書の初版を刊行して以来,約20年の長きにわたり多くの皆さまに本書をご活用いただいたことに心より感謝する.当時,「ウェルネス看護診断」に焦点をあてた書籍が国内にはほとんど見当たらず,それならば自分たちで出版しようと執筆に取りかかった経緯がある.ゆえに初版は,ウェルネスの概念そのものを伝えるための記述に力を注いだ.また,母性看護学の中核であるマタニティサイクル各期の事例を提示し,ウェルネス志向での看護過程を実際にどのように展開していくかがイメージできるよう工夫した.
 従来の看護過程の考え方は,問題解決的アプローチが主流であった.しかし,看護は必ずしも問題を解決するためだけのものではない.とりわけ,妊産婦のように病気ではない人,あるいは異常に移行しやすいリスクを抱えつつも正常経過を維持している人を対象とすることが多い母性看護学分野では,“健康な人にも看護の必要性がある”というウェルネス志向への転換が必須であった.今日ではこのウェルネス志向は母性看護学の基本的な考え方として浸透し,問題点のみならず,その人のもつ強みにも着目し,ケアの対象を全人的に捉える志向へとつながっている.この流れは,他領域の看護学においても取り入れられるようになり,看護は健康な人をも対象とすることを再認識するきっかけになったといえる.同時に,疾患等をもった人にもウェルネス志向は適応できることが証明されたと考えている.
 今回の第4版は,装丁も含めてのリニューアル版である.ウェルネスの基本的な考え方に変更はないが,対象を捉えるうえでの新たな考え方や多様性に関する記述の充実を図った.
 第1章では,看護診断の優先順位の検討において採用されることの多い「マズローの基本的欲求段階説」について,実際にはこの理論だけでは説明できない場面もありうることを追記した.第2章では,アセスメントに影響を及ぼす看護者自身の価値観を客観的に見つめ直すための視点として,「ジェンダーにおけるダブルスタンダード」など新たなトピックを盛り込んだ.本書の中心をなす第3章の事例展開においては,ウェルネス志向を意識するあまり,ポジティブ志向に陥っていないかを今一度検証し,対象を“ありのままに”診断することを意識した看護診断となるよう,看護診断リストの一部および統合図を見直した.
 これからも本書が,母性看護学を学ぶ学生の皆さまや学生の教育に携わる方々に長くご活用いただけることを願っている.
 最後に,本改訂にあたりサポートしてくださった医歯薬出版編集部に深く感謝する.
 2023年 秋
 太田 操
第1章 看護過程とは
 (太田 操)
 1 看護過程の概念
  看護過程の基本的な考え方
   1)看護過程の定義
   2)問題解決的アプローチから始まった看護過程
   3)看護過程=問題解決過程とは限らない
  看護過程の展開―5つのステップ
  ステップ1―アセスメント
   1)観察・情報収集
    (1)系統的な情報収集
    (2)情報源
    (3)情報の分類
   2)情報の整理/分析・解釈/統合
    (1)情報の整理に用いる枠組み
    (2)情報の「分析・解釈」「統合」に求められる客観性と自己理解
  ステップ2―看護診断
   1)看護診断の定義
   2)看護診断の種類
   3)看護診断の表現方法
   4)看護診断の優先順位
  ステップ3―計画
   1)目標
   2)看護計画の立案
  ステップ4―実施・実践
  ステップ5―評価
 2 母性看護における看護過程
  母性看護の特徴
   1)母性とは
   2)母性看護とは
  母性看護の対象
   1)女性のライフサイクル
   2)マタニティサイクル
  マタニティサイクルにおける看護の特徴と留意点
   1)対象の特徴
    (1)生理的現象により身体機能が大きく変化する
    (2)セルフケア能力が高い
    (3)各時期で心理的状態が大きく変化する
    (4)役割適応過程にある
    (5)胎児・新生児の成長発達が著しく,環境は大きく変化する
   2)ケアの特徴
   3)ケアにおける留意点―母親の思いを傾聴する
第2章 ウェルネス看護診断
 (太田 操)
 1 ウェルネスの概念
  ウェルネスの概念の誕生と変容
   1)健康とは
   2)ウェルネスとは
  看護のなかのウェルネス
   1)ウェルネスと健康(ヘルス)の違い
   2)ウェルネスは問題点だけでなくプロセスにも着目する
   3)看護におけるウェルネス
   4)ヘルスプロモーションとウェルネス
  ウェルネス志向の考え方
    (1)良い健康状態がさらにレベルアップしている
    (2)良い健康状態のレベルを維持している
    (3)悪い健康状態であるが,良い方向へ向かっている・あるいは回復過程の途中であり,正常な状態に戻ろうとしている
    (4)悪い健康状態であるが,これ以上悪化することなくそのレベルを維持している
  問題志向型とウェルネス志向型
 2 ウェルネス看護診断の特徴と意義
  ウェルネス看護診断の定義
  ウェルネス看護診断の特徴
    (1)ありのままの状態を診断する
    (2)対象の強みとなっているところを診断する
    (3)ポジティブな視点で診断する
  ウェルネス看護診断の意義
    (1)正常な生理的変化のプロセスに対する看護診断ができる
    (2)思考そのものをウェルネスへ転換できる
    (3)全人的な視点に立ったケアを可能にする
 3 ウェルネス看護診断の実際
  ウェルネス看護診断の構成
    (1)三部構成
    (2)二部構成
    (3)一部構成
  ウェルネス看護診断の表現スタイル
  ウェルネス看護診断における留意点
    (1)強みのアセスメントでは条件を設定する
    (2)「ポジティブ志向」に固執しない
    (3)対象を良い方向へ無理やり引っ張っていかない
    (4)「あるべき思考」に陥って対象を枠にはめようとしない
    (5)問題が生じても,落胆したり否定したりしない
    (6)自分の価値観を相対化する冷静さと客観性をもつ
    (7)ジェンダーにおけるダブルスタンダード(二重規範)に注意する
第3章 事例から学ぶ 看護過程の実際
 (太田 操・枝村浩江・齋藤喜美・佐藤恵美子・鈴木妙子・箆伊久美子・渡邉一代・渡邉まどか)
 1 妊婦の事例展開
  1.妊婦の全体像
  2.妊娠期のアセスメント項目と診断に必要な視点
  3.正常妊婦の看護過程の展開(妊娠30週)
   Aさんの紹介
   Aさんのアセスメントから結論まで
   Aさんの看護診断リスト
   母親役割への適応についての統合図
   Aさんへの看護介入
  4.切迫早産妊婦の看護過程の展開(妊娠30週)
   Bさんの紹介
   Bさんのアセスメントから結論まで
   Bさんの看護診断リスト
   切迫早産への対処行動についての統合図
   Bさんへの看護介入
 2 産婦の事例展開
  1.産婦の全体像
  2.分娩期のアセスメント項目と診断に必要な視点
  3.正常産婦の看護過程の展開(分娩第1期)
   Cさんの紹介
   Cさんのアセスメントから結論まで
   Cさんの看護診断リスト
   分娩に対する心理的適応についての統合図
   Cさんへの看護介入
 3 褥婦の事例展開
  1.褥婦の全体像
  2.産褥期のアセスメント項目と診断に必要な視点
  3.正常褥婦の看護過程の展開(産褥2日目)
   Dさんの紹介
   Dさんのアセスメントから結論まで
   Dさんの看護診断リスト
   母乳育児の知識と技術の習得についての統合図
   Dさんへの看護介入
  4.家族に課題がある褥婦の看護過程の展開(産褥4日目)
   Eさんの紹介
   Eさんのアセスメントから結論まで
   Eさんの看護診断リスト
   家族に課題がある褥婦の退院後の生活についての統合図
   Eさんへの看護介入
  5.帝王切開術を受けた褥婦の看護過程の展開(産褥当日 術後6時間)
   Fさんの紹介
   Fさんのアセスメントから結論まで
   Fさんの看護診断リスト
   帝王切開術後の全身の回復状態についての統合図
   Fさんへの看護介入
 4 新生児の事例展開
  1.新生児の全体像
  2.新生児期のアセスメント項目と診断に必要な視点
  3.正常新生児の看護過程の展開(早期新生児期のアセスメント)
   Iちゃん(Dさんの児)の紹介
   Iちゃんのアセスメントから結論まで
   Iちゃんの看護診断リスト
   子宮外生活への適応過程についての統合図
   Iちゃんへの看護介入

 NOTE
  (1)EBNとNBN
  (2)日本における「母性」の概念の広がり
  (3)WHO憲章における「健康」の定義
  (4)ネガティブ・ケイパビリティ
  (5)性の多様性
  (6)帝王切開術を受けた褥婦へのケアのポイント

 索引