やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 先ごろ,またフィリピンのジャングルで旧日本兵が生存しているというニュースが流れた.今回の件はどうも真偽が定かでなさそうであるが,かつてルバング島で生き抜いて帰還された小野田少尉は,戦時下のジャングルでは,何日も食物なしで放浪したと仰っていた.健康体であれば水分と電解質さえ摂取していれば,何日も生きることができる.断食やハンストでも食事はしない.
 虐待などの犯罪がらみや,むちゃなダイエット,拒食症などの精神科疾患,独居老人の衰弱などは別として,日本で栄養失調を見ることはほとんどなくなった.反対に,メタボリックシンドロームといわれるように,栄養過剰を原因とする健康障害が増えている.病院を受診する患者も栄養不良よりも糖尿や肥満の方が多くなっている.
 輸液製剤やカテーテルが便利になって,消化管が利用できる場合にも,安易に輸液が行われる傾向にある.栄養状態の良好な患者では,術前の栄養輸液や術後の高カロリー輸液は不要であり,絶食期間中に水分と電解質のみ輸液すればよい.静脈栄養よりも経腸栄養,とくに経口摂取がもっとも生理的である.経口摂取が可能になれば輸液は不要で,絶食期間も必要最短とすべきである.
 ところで最近,診療ガイドラインを出す学会が増えてきた.同じ人間(日本人)の同じ病気であれば,日本全国どこの病院でも同じ医療が受けられる必要がある.そして,その医療は科学的根拠に基づいているべきである.ガイドラインは絶対守らねばならない掟ではないが,これに準拠していれば,スタンダードの医療を行っていることになる.ガイドラインはまた,医学の進歩により逐次改定されるので,最前線の医師は,常に新しいガイドラインを知る必要がある.
 クリニカルパスは,良質で標準的な医療を提供するという点で,ガイドラインと目的を同じくしている.現状の診療ガイドラインには,残念ながら栄養管理について言及したものがないようである.栄養管理は手段と目的が明確であり,癌の治療法などと比べると標準化しやすい.ならば,クリニカルパスでスタンダードの栄養管理を提示できれば,現場の医師や他の医療スタッフにとって便利であると思われる.そこで,岡田晋吾先生とともに,現在標準的と思われる栄養管理のクリニカルパスを作成した.これは実際に病院で使用されているパスをアレンジしたものである.拙著が栄養管理のハンドブックとして,少しでも臨床のお役に立つことができればさいわいである.
 2005年夏 著者を代表して 山中英治
PartI 栄養クリニカルパスの基礎
 クリニカルパスとは(岡田晋吾)
 手術部位感染防止ガイドライン(山中英治)
   ・トピックス――DPCと周術期管理の標準化
 栄養管理ガイドライン中規模急性期病院の例(山中英治)
   ・トピックス――「日本人の食事摂取基準」と栄養管理
PartII 疾患別栄養クリニカルパスの基礎
 食道癌手術(山中英治)
  食道癌手術クリニカルパス(マップ)
   ・トピックス――在宅加算
  食道癌手術クリニカルパス(スタッフ用)*
  食道癌手術クリニカルパス術前術後指示票(日めくり式パスの場合)*
  食道癌手術クリニカルパス(日めくり式パスの記録)*
  食道癌手術バリアンス用紙*
 胃癌手術(山中英治)
  胃癌手術クリニカルパス(マップ)*
  胃癌手術クリニカルパス(スタッフ用)*
  胃癌手術クリニカルパス術前術後指示票(日めくり式パスの場合)*
  胃癌手術クリニカルパス(日めくり式パスの記録)*
  胃癌手術バリアンス用紙*
  胃切除患者用パス**
 栄養サポート外来(目黒英二)
  NSTパス*
 大腸癌手術(岡田晋吾)
  直腸切除術+人工肛門造設術(非閉塞用)クリニカルパス(1)*
  直腸切除術+人工肛門造設術(非閉塞用)クリニカルパス(2)*
  大腸癌クリニカルパス(非閉塞用)1〜19日目**
  直腸切除術+人工肛門造設術パス アウトカム・バリアンス評価用紙*
  直腸切除術+人工肛門造設術パス セルフチェック用紙*
 PEG(内視鏡的胃瘻造設術)(岡田晋吾)
   ・トピックス――経口補水液
  PEGクリニカルパス指示票*
  PEGクリニカルパス(起床患者用)*
  PEGクリニカルパス(臥床患者用)*
  PEGクリニカルパス(医療者用)*
  PEG交換クリニカルパス(医療者用)*
 褥瘡ケア(山口貴嗣・岡田晋吾)
   ・トピックス――栄養剤(食品)とその成分
  栄養障害・褥瘡発生リスクアセスメントシート*
  褥瘡発生予防パス*
  褥瘡ケアパス*
 熱中症(山中英治)
  熱中症クリニカルパス1*
  熱中症クリニカルパス2*
 GFO(山中英治)
  栄養・GFO指示票**

 ・付録/輸液製剤一覧*
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