やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 近年,癌,循環器疾患,糖尿病などの生活習慣病が国民の健康問題の課題となっている.これらの疾病の発症と進行を防ぐためには,生活習慣の改善,とりわけ,食生活の改善が重要である.
 疾病の予防や治療を目的として,食事や介護などの保健指導を行うためには,個人の身体状況,栄養状態,食行動,その他の要因を総合的に判断できる能力が求められる.また,療養中の患者の臨床栄養管理においては,栄養評価に基づく指導を行うための実践力を養う必要がある.
 疾病構造の変化や科学技術の進歩など,めまぐるしい社会的状況の変化に対応し,保健指導に求められる知識や技能は,日々,高度化・専門化している.今後,さらに社会需要が増すと予想される寝たきり老人などの介護の領域でも,在宅患者のquality of life(QOL)が重要な問題となってきている.
 食物を取り込む側の“人体“や,食べものとしての“食物”や“栄養素“の知識はもとより,保健・医療・福祉の総合的な取り組みのなかで,さまざまなライフステージにある“人の健康の保持・増進”と疾病予防や治療のための“食生活のあり方”は重要な課題である.
 人を取り巻く社会環境の変化は著しく,21世紀を迎えるにあたって,栄養学,臨床栄養学の基礎的な理論をミクロ的視野から,人のマクロ的な範囲まで展開させる必要がある.
 その意味からも,本書の構成は,看護や介護,また広く保健の視点からとらえ,“人体“ではその仕組みや代謝,消化吸収などに加えて,バイタルサインやホメオスタシスをとりあげ,“食品”では,基礎的な知識としての分類,食物の栄養素,調理・加工,食品の機能性,食品添加物などについて記述を試みた.“栄養素“では,人体側からの役割に重点をおき,種類,構造,性質,代謝,さらには食生活に応用できる栄養的意義と,栄養・食事教育の留意点を記述した.また,“人(個)”への栄養補給や栄養評価,“集団”の栄養状態の評価などに加え,母性を起点として,乳幼児期,学童期,思春期,成人期,高齢期に区分し,それぞれの期の生理・代謝,栄養の特徴,栄養・食生活指導, 主な疾病などについて記述した.
 最後に,全体のまとめとして,“健康と食生活“をとりあげ,国民栄養の現状,ヘルスプロモーション,在宅医療,QOLの向上についても記した.特に在宅患者の増加は,QOLの向上への取り組みを必要とし,看護・保健・福祉に携わる人々にとって,“人(個)”を理解するための一助となることを願ってやまない.
 保健指導や看護・介護に携わる人々を養成する施設で,“栄養学“や“臨床栄養学”を教授する専任の教員は少ない.本書は永年これらの教育に携わってきた管理栄養士と看護・保健婦らによって,栄養学・臨床栄養学のテキストとして,編集を試みたつもりである.
 本書がより多くの人々に使用されることを願いつつ,読者からのご批判,ご教示をいただきながら,さらによいものにできればこれ以上の喜びはない.
 2000年1月 編者一同
まえがき

I 人体の仕組み(渡邉早苗)…1
  1―個体の構成成分…2
  2―体内代謝と栄養素…3
  3―消化と吸収…5
  4―バイタルサインとホメオスタシス…2
   バイタルサイン…6
   ホメオスタシス…7

II 食品と栄養(丸山千寿子)…9
  1―食品の分類…9
   穀類,いも類,砂糖…9
   乳類,卵類,肉類,魚介類,豆類…10
   野菜類,海藻類,きのこ類,果実類…12
   油脂類,種実類…14
  2―食品の栄養素…14
   炭水化物…15
   脂質…16
   たんぱく質…16
   ビタミン…16
   無機質…16
  3―食品の調理と加工…16
   食品の調理…16
   加工食品…18
   食品添加物…19

III 栄養素の役割(西明眞理)…21
   熱量(エネルギー)素…21
   構成素…21
   調整(調節)素…22
  1―糖質(西明眞理)…23
   1) 単糖類…23
   2) その他の糖類…25
   3) 食物繊維…28
  2―脂質(丸山千寿子)…31
   1) 脂肪酸…31
   2) 中性脂肪…34
   3) リン脂質…36
   4) ステロール…37
  3―たんぱく質(渡邉早苗)…39
   1) アミノ酸…39
   2) たんぱく質…43
   3) その他の窒素化合物…47
  4―脂溶性ビタミン(森口 覚)…49
   1) ビタミンA(レチノール)とカロテノイド…49
   2) ビタミンD(カルシフェロール)…51
   3) ビタミンE(トコフェロール)…53
   4) ビタミンK(フィロキノン,メナキノン)…55
  5―水溶性ビタミン…57
   1) ビタミンB1(チアミン)…57
   2) ビタミンB2(リボフラビン)…58
   3) ナイアシン(ニコチン酸)…59
   4) ビタミンC(アスコルビン酸)…60
   5) ビタミンB6(ピリドキシン)…61
   6) ビタミンB12(シアノコバラミン)…62
   7) 葉酸(ホラシン)…62
   8) パントテン酸…63
   9) ビオチン…63
  6―無機質(堀尾拓之)…64
   1) カルシウム…64
   2) 鉄…65
   3) リン…66
   4) マグネシウム…67
   5) カリウム…68
   6) ナトリウム…69
   7) クロール…70
   8) 銅…71
   9) ヨウ素…72
   10) マンガン…73
   11) 亜鉛…74
   12) セレン…75
   13) モリブデン…76
   14) クロム…77
   15) フッ素…77
   16) コバルト…77
  7―水…78
  8―その他の成分…80
   1) アルコール(西明眞理)…80
   2) 生理活性物質(堀尾拓之)…82

IV 栄養補給(寺本房子)…85
  1―栄養所要量…85
   年齢区分…86
   体位基準値…86
   エネルギー所要量…86
   糖質のエネルギー比…87
   脂質所要量…88
   たんぱく質所要量…88
   ビタミン所要量…88
   無機質(ミネラル)所要量…88
  2―食事計画…89
   食品構成…89
   食事計画…89
  3―栄養補給法…90
   経消化管栄養法…90
   経静脈栄養法…91

V 栄養評価(寺本房子)…93
  1―意義…93
  2―栄養アセスメント…93
  3―栄養パラメータ…95
   臨床症状…95
   身体計測…95
   食生活の側面からの判定…96
   臨床検査…96
  4―集団の栄養評価…98

VI 栄養管理…101
  1―妊娠期・授乳期の栄養管理(藤尾ミツ子)…101
   生理・代謝…102
   栄養の特徴…104
   栄養・食生活指導…105
   疾病(つわり・妊娠悪阻・妊娠貧血・妊娠中毒症)…106
  2―乳幼児期の栄養管理(菊池チトセ)…109
   生理・代謝…109
   栄養の特徴…111
   栄養・食生活指導…112
   疾病(先天性代謝異常症・・3A1E吐と下痢・アレルギー)…115
  3―学童期の栄養管理(川島由起子)…118
   生理・代謝…118
   栄養の特徴…119
   栄養・食生活指導…120
   疾病(腎疾患・糖尿病)…121
  4―思春期の栄養管理…124
   生理・代謝…124
   栄養の特徴…125
   栄養・食生活指導…126
   疾病(神経性食欲不振症・肥満・貧血)…127
  5―成人期の栄養管理(武政睦子)…130
   生理・代謝…131
   栄養の特徴…132
   栄養・食生活指導…134
   疾病(2型糖尿病・高脂血症・虚血性心疾患・癌)…135
  6―高齢期の栄養管理(渡邉早苗)…139
   生理・代謝…139
   栄養の特徴…141
   栄養・食生活指導…142
   疾病(高血圧・骨粗鬆症・咀嚼と嚥下困難)…143
   便利な自助具のいろいろ…147

VII 健康と食生活…149
  1―国民栄養の現状(藤尾ミツ子)…149
   栄養素等の摂取状況…149
   食品の摂取状況…150
   食事(欠食・外食)状況…150
   身体状況…151
   生活習慣の状況…151
   血液検査…151
  2―望ましい食生活(堀尾拓之)…151
  3―ヘルスプロモーション(菊池チトセ)…152
  4―在宅医療…153
  5―QOLの向上(渡邉早苗)…156
   QOLの意義…157
   QOLを構成する要素…157

参考文献…159
資料…160
 [1]―第六次改定日本人の栄養所要量
 [2]―性・年齢階層別基礎代謝基準値と基礎代謝量
 [3]―生活活動強度の区分
 [4]―成長期の体重増加量とエネルギー付加量
 [5]―日常生活活動と運動エネルギー消費量
 [6]―主な食品群別の分類例
 [7]―対象特性別食生活指針
 [8]―健康づくりのための運動指針
 [9]―健康づくりのための休養指針
 [10]―癌の死亡率(人口10万対)の推移
 [11]―登録 特殊ミルクリスト・成分表
 [12]―食物性アレルギーと除去食品