やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 私が大学を卒業したのが約20年前の2002年.そのころ,歯周病の世界ではすでに歯周組織再生療法が話題となっており,マイクロスコープを用いた低侵襲な歯周外科処置も始まりつつあったようですが,卒直後の私は目の前の診療に必死でそんなことを知る由もありませんでした.口腔内写真,デンタルX線写真とにらめっこをする毎日.そこで何が起こっているのか,その口腔内はこれからどうなるのか,わからないことだらけの世界に不安を覚えながらも,ワクワクしながら目の前の歯,そして患者さんを救おうと必死になっていたように思います.
 当時の私が卒直後にまず手にしたのは『DENTAL CLINICAL SERIES BASIC』(医歯薬出版,1992年〜)というシリーズ書籍でした.当時,歯科治療のベーシックを伝える本は少なく,貪るように読んだのを覚えています.読み進めていくと「ベーシック=簡単なこと」ではないことにすぐに気づかされました.日常臨床の90%は基礎的な治療の積み重ねです.私たちはとかく派手な治療やアドバンスな内容に目がいきがちですが,「基礎=ベーシック」の習得なしにその先には行けず,無理に行こうとしてもすぐにつまずいてしまいます.まずはベーシックを身につける,これが臨床上達の近道であることはいうまでもありません.
 そんななか,歯周治療に特化した『DENTAL CLINICAL SERIES BASIC Periodontics 1,2』(医歯薬出版)が刊行されました.北川原 健先生,千葉英史先生,永田省藏先生,佐々木 勉先生という素晴らしいメンバーによる,歯周病学そのものというよりは歯周治療のコンセプトを伝える秀逸な書籍で,今でも私のバイブルとなっています.本書は発刊開始から30年が経過しすでに絶版となっている『BASIC Periodontics』の現代版として,卒直後の歯科医師や歯科衛生士が歯周治療の基礎を学ぶことを目的に企画しました.
 この20年,さまざまな材料や技術の進化もあり,歯科界では,臨床観察による経験値よりも科学的根拠(エビデンス)が重視されるようになりました.これらは,経験的な見解が科学的根拠のあるものなのかどうか知るためにも大事な考え方です.多くの素晴らしい研究が日々発信されおり,それを敏感にキャッチすることは重要です.一方で,個別性の高い歯科臨床のすべてをエビデンスで語ることは難しく,エビデンスにならない重要な考えはたくさんあります.本書ではエビデンスを網羅しつつも,先人の築き上げてきた考え方や筆者らの経験から導かれた考え方も織り交ぜながら,バランスよく学んでいただけるよう心がけて構成しました.
 読者の皆さまが歯周治療を理解するうえでの一助となれば,執筆者一同,望外の喜びです.
 2023年9月 編著者代表 斎田寛之
CHAPTER 1 歯周基本治療編
 診査
  SECTION 01 (1)視診
   正面観からわかること
   側方面観からわかること
   咬合面観からわかること
   舌,口腔粘膜からわかること
  SECTION 02 (2)規格性のある口腔内写真の重要性
   規格性のある口腔内写真の必要性
   必要な機材と基本設定
   撮影の実際
  SECTION 03 (3)デンタルX線写真
   なぜデンタルX線写真が必要なのか
   デンタルX線写真から何がわかるか〜読影のポイント
   デンタルX線写真からわからないこと
   デンタルX線写真の撮影方法
  SECTION 04 (4)歯周組織検査
   プロービング
   動揺度
  SECTION 05 (5)咬合診査〜歯周病と咬合関係
   炎症のコントロールが先か? 咬合のコントロールが先か?
   咬合診査の実際
   模型上での咬合診査
   咬合調整の実際
 診断
  SECTION 06 歯周病の診断
   1歯単位の診断
   1口腔単位の診断
   病因の考察
   治療計画の立案
   1歯単位の治療計画
   ひと・個人単位の治療計画
  若手のピットフォール&アドバイス[歯周基本治療編(1)]
   1 プロービングには誤差がある!
   2 ほかの病態を歯周病と間違える
   3 こんな解剖学的形態に注意!
  臨床クイズ
   Q.1 この症例は何壁性の骨欠損でしょうか?
   Q.2 この根分岐部病変は何度でしょうか?
  Evidence 1 歯周基本治療における診査・診断を支えるエビデンス
   1 プローブの目盛りが示しているものは?
   2 BOP(+)が意味するところは?
   3 なぜ歯槽頂部歯槽硬線に注目する必要があるのか?
 歯周基本治療の考え方と実践
  SECTION 07 (1)歯周基本治療の基本的な考え方
   歯周基本治療の位置づけ
   歯周病患者の個体差の見方
   治りやすい症例・治りにくい症例
  SECTION 08 (2)歯周基本治療の実際(モチベーションとSRP)
   モチベーションの獲得と継続
   スケーリング・ルートプレーニング(SRP)
   歯周基本治療における歯科衛生士との連携
  SECTION 09 (3)歯周基本治療後の再評価
   再評価検査の位置づけ
   再評価検査での治療方針の決定
   症例の見立ての見直し
  SECTION 10 (4)咬合回復治療
   一次性咬合性外傷と二次性咬合性外傷
   Increasing tooth mobilityとIncreased tooth mobility
   固定が必要なとき
   欠損を伴わない連結・固定
   欠損を伴う連結・固定
  若手のピットフォール&アドバイス[歯周基本治療編(2)]
   1 SRPでオーバーインスツルメンテーションになり根面を削りすぎてしまう
   2 SRPで歯肉を傷つけてしまう
   3 歯石の取り残しがある
   4 歯周基本治療が不十分なまま外科処置に移行してしまう
   5 患者がSRP後に知覚過敏症状を訴える
  臨床クイズ
   Q.1 この歯,抜歯する? しない?
   Q.2 歯周病症例でナイトガードを入れるタイミングをどう考えますか?
   Q.3 この症例,いつ咬合調整を行いますか?
  Evidence 2 歯周基本治療の有効性と限界に関するエビデンス
   1 非外科治療と歯周外科治療の境界線は?
   2 歯種ごとの歯周外科治療移行の基準
CHAPTER 2 歯周外科治療編
  SECTION 01 歯周外科治療の基礎知識
   歯周外科治療の前に―全身状態の把握と注意点
   歯周外科治療の種類
  SECTION 02 歯周外科治療のテクニック
   浸潤麻酔
   切開
   剥離
   デブライドメント(術中)
   縫合
   術後の注意点,対応,経過観察
  SECTION 03 骨外科処置
   骨整形術と骨切除術
  SECTION 04 再生材料の取り扱い
   生物学的生理活性物質
   骨移植材
   メンブレン
  SECTION 05 アドバンスなテクニックの紹介
   切除療法
   歯周組織再生療法
   歯周形成手術(根面被覆術)
  若手のピットフォール&アドバイス[歯周外科治療編]
   1 骨膜まで切開が及んでいない
   2 MPPT(modified papilla preservation techniques)での歯間乳頭の裂開
   3 歯肉弁の剥離不足,挫滅
   4 歯肉弁損傷と創部の裂開
   5 創部の壊死
   6 術後の出血が止まらない
   7 歯周パックが剥がれそう
   8 手術時間が長くかかってしまう
   9 術後の歯肉退縮と象牙質知覚過敏症
   10 遊離歯肉と結合組織の移植片採取部位がわからない
   11 結合組織採取時のトラブル
  臨床クイズ
   Q.1 この症例に歯周外科処置を行うとすればどのように対応しますか?
   Q.2 この症例は歯周組織再生療法の適応でしょうか?
   Q.3 この症例の歯肉退縮に対してどの術式を選択すべきでしょうか?
   Q.4 遊離歯肉移植術を行う際に,移植片の大きさはどのように決めますか?
   Q.5 この切開線の場合,縫合方法の選択はどうしますか?
CHAPTER 3 メインテナンス(SPT)編
  メインテナンス(SPT)での確認事項
   メインテナンスとSPT
   メインテナンス(SPT)での確認事項
   メインテナンス(SPT)の間隔
   メインテナンス(SPT)で大事なのは医院の総合力!
  Case Presentation
   (1)歯周基本治療のみで対応した重度歯周炎症例
   (2)歯周組織再生療法を併用した重度歯周炎症例
   (3)全身疾患を抱えた重度歯周炎症例

 参考文献
 索引