やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 近年の歯科医療は,細菌感染としての齲蝕,歯周病が主な治療の対象となり,炎症のコントロールとその後の定期管理によって,その効果は関連疾患や歯の喪失の減少として現れています.
 これに伴い,炎症を除去し,セルフケア・プロフェッショナルケアで口腔内を管理しているにもかかわらず,悪化の一途を辿るケースがあることもわかり,細菌だけでは原因の説明が難しい症例も浮き彫りになってきました.
 本書は,細菌以外の要因の一つである「力」の問題と向き合うために必要な知識を整理するという思いで発行された,デンタルハイジーン別冊『知っておきたい「力」のこと-気づく・伝える・守る-』(2010年発行),補綴臨床別冊『力を診る―歯列を守る力のマネジメント―』(2012年発行)の改訂版となります.
 発行から10年以上になりますが,口腔周囲に生じた現象と力の影響を結びつける確実性の高い検査・評価法はいまだに確立されておらず,現象の注意深い観察と推論が重要であることは変わりません.
 しかし,「力」の影響が歯,歯周組織,歯列,咬合,口腔周囲に及ぶ可能性について認知度は高まり,力の問題を把握する確認事項として,「力の大きさ・集中・作用時間」「機能時・非機能時」「パラファンクションの種類」「力の集中と咬合・咀嚼の影響」「過去の現象・進行中の現象」「病的・適応の判断」「対応法のリスク・ベネフィット」「患者背景」などがあげられ,それによって作成されるロジックツリーの項目も10年前に比べて明瞭になり,症例の解析は進歩しているように思われます.このことは,今回再執筆していただいた先生方の内容の変化からもうかがえます.
 とは言うものの,いまだわからない事項も多くあり,発展途上の段階ですので,現時点でのまとめということで,諸先生方の『力を診る』ための現象の見方,評価,診断のプロセス.対応方法の選択にお役立ていただければ幸いです.
 2023年12月
 市川哲雄
 森本達也
 熊谷真一
Part 1 リスクファクター としての力とは
 臨床像から診える「力」の影響(鈴木 尚)
 臨床統計から読む力の影響(林 康博)
 「力」ってどんなもの?-機能運動に潜む危険性-(牛島 隆)
 「力」ってどんなもの?-非機能運動による力-(牛島 隆)
 「力」ってどんなもの?-力を受ける側の因子-(熊谷真一)
Part 2 力によると思われる現象の観察
 歯の変化(熊谷真一,森本達也)
 歯の周囲の変化(熊谷真一,森本達也)
 インプラントと隣接天然歯との位置関係の変化(友竹偉則,石田雄一,市川哲雄)
 歯列の変化(熊谷真一,森本達也)
 下顎位の変化(熊谷真一,森本達也)
 X線像の変化(熊谷真一,森本達也)
 下顎頭と関節円板の変化(細木秀彦,松本文博)
 顔貌の変化(熊谷真一,森本達也)
 その他の疑われる症状(熊谷真一,森本達也)
Part 3 生体力学と力の生物学
 歯の移動に関するメカノバイオロジー(山本照子,山城 隆)
 歯根膜のメカノバイオロジー(魚島勝美,加来 賢)
 骨のメカノバイオロジー(澤瀬 隆,黒嶋伸一郎,中野貴由)
 顎口腔の力とその調節(田中恭恵,服部佳功)
 咬合時の歯の変位:咬合力は歯列をどう偏位させるか(加藤 均)
 咬合時の上顎骨,下顎骨の応力分布(前田芳信)
 ブラキシズムの生理学(大倉一夫,鈴木善貴,柴垣あかり,松香芳三)
 Column 縄文人の歯からわかること(石垣尚一)
Part 4 力を診て,測る
 咬合接触・咬合力検査(坂口 究,横山敦郎)
 咀嚼関連検査 評価と検査の使い分けは?(渡邉 恵,市川哲雄)
 検査法としての主機能部位とその意義(加藤 均)
 咀嚼筋の検査(安陪 晋)
 X線診断(細木秀彦,水頭英樹)
Part 5 力を診査,診断する
 「力」の診査・診断をするために理解しておくこと(森本達也)
 生体に危険な力を理解し,治療に生かす(市川哲雄,後藤崇晴,岩脇有軌)
Part 6 力への対応方法─どう判断し,どう対応したのか─
 問診(医療面接)から得られる情報(牧 宏佳)
 重度歯周病における力のコントロールの実際(牧野 明)
 SRPの前に理解しておきたい「力」の問題(鷹岡竜一)
 Column 歯の喪失率の年代変化から探る力の問題(後藤崇晴,市川哲雄)
 力と歯周組織-観察と対応(千葉英史)
 早期接触の咬合調整,咬合再構成(川上清志)
 力による崩壊症例へのインプラントの適用(武田孝之)
 TCHへの対応(西山 暁)
 口腔習癖による歯列への影響と対応(河井 聡)
 スプリント・ナイトガードの臨床応用(熊谷真一)
 ブラキシズムの薬物療法(大倉一夫,鈴木善貴,谷脇竜弥,松香芳三)

 索引