やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 国民の健康づくりには「栄養・運動・休養」が基本的に重要であると言われて久しいところです.この3 要素を動作にしてみますと,「食べる,体を動かす,睡眠や休養をとる」ということになります.
 歯科は,国民からは「食べる」ことに関係する保健・医療の領域であると考えられてきました.「食べる」ことは現在の超高齢社会において健康寿命の延伸のためにも,とても大切なことです.オーラルフレイルはフレイルの前兆と言われるようになりました.
 一方で,「食べる」「休む・寝る」は人間の本能として毎日遂行される動作ですが,「体を動かす」ことには努力が必要です.運動・スポーツには,学校の体育,生涯スポーツ,そして勝負に挑戦する競技スポーツがあります.どうしたら運動しやすい,スポーツしやすい体をつくりあげることができるのでしょう.スポーツは「心・技・体」のバランスが大切と言われてきました.実は,歯科は,このスポーツの3 要素にもかかわりがあるのです.
 1987 年のオリンピック強化指定選手制度での健康診断のなかに,内科,整形外科に加えて歯科が入りました.その頃から,運動・スポーツにおける歯科の重要性が認識されてきたと思います.オリンピックも1964 年から2020 年の東京大会と56 年の歳月が流れていますが,スポーツ歯科医学もおおむね30 年の歴史を重ねて研究がなされてきました.この歴史のなかで,スポーツ歯科医学には大きく3 領域があります.1) スポーツによる国民の長寿健康づくりを支援すること,すなわち「かみあわせの確立」そのものが,スポーツをしやすくする身体をつくりあげています.8020 運動の20 本という歯の数は「食べる機能」によるものですが,運動・スポーツがよりしやすくなるという身体機能の向上も推察されます.2) 顔,顎,歯や口のスポーツ外傷を予防すること,すなわち日本スポーツ振興センターの障害見舞金の資料では,歯牙障害が中学生や高校生で多いことが知られています.スポーツ選手が外傷を受けるとパフォーマンスが低下するばかりでなく,その影響は継続します.カスタムタイプのマウスガードによる外傷予防効果は示されています.さらに,マウスガードを介した強いかみあわせによって頭頚部周囲筋群の筋力が向上すれば,脳のう震しん盪とうの予防効果もありうるとの研究も出てきました.3) スポーツパフォーマンスについては,身体機能を維持する食事と咀嚼機能の維持は言うまでもありません.また,重心動揺と咬合維持とバランス,かみしめと筋力,かみしめと関節固定などとの関連は,スポーツのパフォーマンスに影響を及ぼすと推察されるところです.
 この本では,これからの国民の生涯スポーツや競技スポーツを支援する歯科の力を知っていただきたいと考えています.作成にご尽力いただいた医歯薬出版株式会社に感謝します.
 令和元年5 月1 日
 安井利一
1 歯や口は食べるためだけのもの?
 歯や口について知っていますか?
 速いも遅いもかみあわせ
 頭と腰を据える
 動かないスポーツも歯が大事
 トップアスリートも歯に注目しています
 現在の日本では?
2 スポーツにはマウスガードを
 いきなりクイズです
 マウスガードって何?
 どの歯のケガが多いのでしょうか
 歯のケガの種類
 もし歯をケガしたら
 マウスガードは歯科医院に相談しましょう
 趣味のスポーツにもかみあわせ