やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 歯科大学に入学したときは,開業医になろうと思っていた.しかし,6年間の歯科大学生活で,どうも臨床より基礎に興味が出てきて,友人の勧めで大学に残ることに決めた.そして,当時のクラス主任の鹿島教授(現学校法人神奈川歯科大学理事長)に,口腔組織学教室に残るにはどうしたらよいか相談したところ,「病理の渡辺教授に話をしておいたから行くように」といわれ,断れないまま病理学教室に残った.決して病理学は嫌いではないが,歯胚の組織像の美に誘われ,さらに形態学が好きで組織学を希望していた.けれども,縁は病理学に向いていた.
 大学院入学後,渡辺教授に勧められて行った実験にはすぐに没頭でき,研究の面白さを教えていただいた.しかし,病理学という学問が非常に面白いと思ったのは,それから3年後になる.やはり渡辺教授の勧めで,大学院4年の後半に東海大学医学部病理学へ,診断学の勉強をするため出向したのがきっかけである.実はこの出向にあまり気乗りしていなかったが,収穫は大きかった.医学部病理学で扱う病気は,ダイナミックであり,病理学とは何かを知ることができた.一方,歯学部病理学は,医学部病理学とは本質的に異なることに気づかされた.このことは,自らが教授になり歯学部の教授としてどうあるべきかの基本となっている.そして,医学部病理学のコピーでなく,歯学部病理学は特有の個性を備えた独自の病理学でよいのではないかと考えてきた.それを実践しているうちに,やや異端の感もでてきた.
 このように,普通の口腔病理学者とは異なる考えの人間により編集された本書の特徴は何かといえば,病理学が面白くないと考えている人にも受け入れてもらえ,国試に役立つ実用書である.共著者の清水智子先生には,執筆とともにわかりやすさを基調に編集をお願いした.本書が,病理学の理解の助けになれば幸いであると同時に,病理学の面白さはもっと異次元の場所にある.覗いてみてほしい.
 2018年7月 槻木恵一
Chapter 1 病理学概説・病因論
Chapter 2 先天異常
Chapter 3 退行性病変・代謝障害
Chapter 4 進行性病変(組織の増殖と修復)
Chapter 5 循環障害
Chapter 6 炎症
Chapter 7 免疫異常
Chapter 8 腫瘍
Chapter 9 齲蝕
Chapter 10 歯髄疾患(象牙質-歯髄複合体の病変)
Chapter 11 根尖部歯周組織の病変
Chapter 12 辺縁部歯周組織の病変
Chapter 13 顎口腔領域の炎症関連疾患
Chapter 14 歯原性腫瘍
Chapter 15 非歯原性腫瘍
Chapter 16 唾液腺の病変
Chapter 17 嚢胞
Chapter 18 遺伝子異常・先天異常・発育異常
Chapter 19 病理検査
Chapter 20 病理診断に特有の組織所見用語
 索引