やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

「高齢者の歯周治療ガイドライン2023」刊行に寄せて
 日本の総人口に対する65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は,1950年には4.9%でしたが,2023年に29.1%となり,世界一の高齢社会を迎えました.2022年の歯科疾患実態調査では,75〜84歳の51.6%が「8020」を達成し,4mm以上の歯周ポケットを有する人の割合は47.9%で,高齢になるほどその割合は増加し,65〜74歳で56.2%,75歳以上で56%であり,歯周病を有する高齢者が今後ますます増加すると思われます.歯周病と全身疾患の関係がクローズアップされ,国民の約3割を占める高齢者に対する歯周治療は,口腔と全身の健康を維持する点からも重要であることから,高齢者に対する歯周治療のガイドラインが必要であると考えました.
 日本歯周病学会では,2007年に歯周治療の総論である「歯周病の診断と治療の指針2007」と,2008年に各論である「歯周病の検査・診断・治療計画の指針2008」を作成し,2015年に上記2つの指針を統合・改訂した「歯周治療の指針2015」を,2022年にはその改訂版として「歯周治療のガイドライン2022」を発刊しました.「歯周治療のガイドライン2022」中には,高齢者,有病者あるいは在宅医療,周術期,障害者への歯周治療に際し,医療従事者との連携を含めた考慮すべき事項が,限られた内容ですが記載されています.そのため,本ガイドラインでは高齢者にターゲットを絞り,多方面からの記載をお願いし,作成して頂きました.
 本ガイドラインを参考として,歯周病および歯周治療の正しい理解と,高齢者に適切な歯周治療を行うことで,高齢者の口腔保健の向上のみならず,全身の健康維持および増進に寄与することを期待しています.
 最後に,本ガイドラインの編纂に尽力頂いた,ガイドライン作成委員会(日本歯周病学会編集委員会)佐藤聡委員長,委員各位ならびに医歯薬出版の編集部の皆様に深く感謝いたします.
 2024年2月
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
 前理事長 小方ョ昌
「高齢者の特徴と歯周病」
 1 日本における高齢者の歯周病の現状
  1―高齢者の残存歯数は増加し,歯周病罹患者が増加している
  2―高齢者には重度歯周炎患者が多い
  3―75〜80歳にかけてセルフケアの低下が起こり,歯周炎リスクが増加する
  4―通院困難になった患者への歯科医療(歯周治療)提供を充実させる必要がある
  5―調査からみえてくる課題
 2 高齢者の身体的特性
  1―認知症
   1)認知症の疫学と対策
   2)身体機能の低下
   3)口腔機能の低下
  2―フレイル
   1)フレイルの概念
   2)フレイルの診断基準
   3)フレイルへの介入法
 3 高齢者の口腔内の特徴
  1―オーラルフレイル
   1)オーラルフレイルの4つのフェーズ
    (1)第1段階
    (2)第2段階
    (3)第3段階
    (4)第4段階
   2)オーラルフレイルが全身に及ぼす影響
   3)オーラルフレイルと社会的・身体的フレイルとの関連
   4)後期高齢者を対象とした歯科健診(オーラルフレイルのスクリーニング)
  2―口腔機能低下症
   1)口腔機能低下症の病態
   2)口腔機能低下症の症状と評価
    (1)口腔不潔(口腔衛生状態不良)
    (2)口腔乾燥
    (3)咬合力低下
    (4)舌口唇運動機能低下
    (5)低舌圧
    (6)咀嚼機能低下
    (7)嚥下機能低下
  3―口腔機能低下症の割合
 4 高齢者の歯周組織の特徴
  1―歯槽骨の生理的老化
  2―歯肉上皮の生理的老化
  3―歯肉結合組織の生理的老化
  4―歯根膜の生理的老化
  5―セメント質の生理的老化
  6―そのほか疾患感受性に関連する生理的老化
 引用文献・参考文献
「歯周治療の進め方」
 1 高齢者への配慮
  1―全身疾患
  2―服用薬剤
  3―血液検査
  4―生活動作
   1)機能的自立度評価(FIM)
   2)障害高齢者の日常生活自立度
  5―認知機能
   1)改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
   2)ミニメンタルステート検査(MMSE)
 2 歯周治療に必要な検査と評価
  1―高齢者の歯周病
  2―歯周組織検査
 3 患者への説明と同意
  1―高齢者の臨床的特徴
  2―高齢者に対する医療面接の留意点
  3―医療情報の収集
   1)求められるコミュニケーション
   2)高齢者への接し方
  4―医療面接の流れ
  5―医療面接の実際
   1)主訴
   2)現病歴
   3)歯科的既往歴
   4)全身的既往歴
   5)家族歴
   6)日常生活動作(ADL:activities of daily living)
   7)手段的日常生活動作(IADL:instrumental activities of daily living)
 4 通院が可能な高齢者への歯周治療
  1―通院患者における高齢者の数,中心となる年齢
  2―高齢者の特徴
  3―どこまでを通院可能な高齢者とするべきか
  4―高齢者への配慮
   1)転倒予防に対する取り組み
   2)腰が曲がり気味の人,腰痛など運動器に痛みや不具合がある人への配慮
   3)治療中はこまめに口を閉じてもらう
   4)認知症患者への配慮
   5)付き添いの人への配慮
  5―歯周治療のポイント
   1)病気の有無の確認
   2)プロフェッショナルケアによる介入を増やす
   3)歯周外科処置は積極的には行わない
   4)シンプルで清掃性の高い口腔を考慮
  6―歯周治療後の根面う蝕と予防
   1)根面う蝕の予防,治療
   2)セルフケアとしての電動歯ブラシ
 5 要介護高齢者の口腔健康管理
  1―口腔健康管理と誤嚥性肺炎
   1)要介護高齢者の特徴
   2)肺炎と誤嚥性肺炎の原因細菌の違い
   3)口腔健康管理の重要性
   4)要介護高齢者の口腔健康管理
    (1)体位を整える
    (2)開口の準備
    (3)口腔衛生管理
     a.保湿
     b.除去物の咽頭への落下防止への配慮
     c.各部バイオフィルムの除去
     d.痂皮の除去
     e.洗口
    (4)義歯の清掃
    (5)保湿剤の塗布
  2―多職種連携
   1)超高齢社会における歯科の役割
   2)要介護高齢者の歯科治療と多職種連携
   3)多職種連携を成功させるために
  3―健康寿命
   1)健康寿命の定義
   2)健康寿命が注目される背景
   3)国内の健康寿命の動向
   4)健康寿命に対する日本の政策と歯科の果たす役割
   5)健康寿命延伸に対する歯科としての貢献
 引用文献・参考文献