はじめに
わが国で，ようやく象牙質接着性コンポジットレジンが臨床に普及し始めた1983年から1年間のデンマーク王立歯科大学（現コペンハーゲン大学）での留学で，Jorgensen教授から授かったさまざまな薫陶のうちでも，接着性材料の評価法と，おりしも彼の教室で開発されたGLUMAプライマーは，帰国してからも大変に有意義な研究課題となった．接着評価に用いられる極めて小さい象牙質円柱窩洞は，その後，われわれに計り知れない多くのことを明らかにしてくれた．窩壁の脱灰の程度，接着性モノマーの有無，コンポジットレジンの至適フィラー量の決定，プライマーの至適濃度の決定，硬化象牙質の性状などと接着性の相関について――．すなわち，われわれのほとんどすべての実験は，終焉のない円柱窩洞の形成と，コンポジットレジンのク塞，そして光学顕微鏡による観察の結果から導かれた．ク塞されたコンポジットレジンの辺縁適合性を光学顕微鏡で観察するという，極めて単純で迅速な接着性判定法は，最も臨床的で合理的な方法であると考えられる一方で，他の研究者の接着性評価と全く相反する評価を示す場合も多い．
次々と開発される新しいボンディングシステムの性能を，高価なハイテク機器で分析，観察する現在の多くの研究報告の中で，われわれの地道で単純な研究はいささか陳腐で，しかもその結論が一般に考えられている常識を逸脱していると論評されるかもしれない．しかし，永年にわたる数多くの共同研究者のたゆまぬ努力の結晶として，確固たる接着理論に基づいた“コントラクションギャップフリーデンティンボンディングシステム”が確立された．
今回，医歯薬出版の御厚意により，われわれの研究業績に基づく接着理論を集大成できる機会を与えられたことに，研究代表者として，また，一人の臨床家として限りない喜びを感じる．現在まで永年にわたり，ひたむきに研究を進めていただいた共同研究者各位の御努力に対し，本文をもって報恩させていただきたい．われわれの研究成果が，わが国の臨床家の日常臨床，ひいては硬組織疾患に悩む患者にとって少なからぬ救済の手引きとなり，さらに歯の尊厳を学ぶべき歯学を志す学生や若い研究者に有意義な論議の礎となることを期待する．
なお，執筆にあたっては，当教室の真鍋厚史講師，長谷川篤司講師，谷 千尋助手，勝部直人助手に多大な御協力をいただいた．また，1993年に本書の内容の一部を『歯界展望』に特集企画していただいて以来，今回の出版に関する編集のすべてに関して御尽力をいただいた編集部ならびに各位に対し，衷心より感謝申し上げる．
2000年11月9日 伊藤和雄
わが国で，ようやく象牙質接着性コンポジットレジンが臨床に普及し始めた1983年から1年間のデンマーク王立歯科大学（現コペンハーゲン大学）での留学で，Jorgensen教授から授かったさまざまな薫陶のうちでも，接着性材料の評価法と，おりしも彼の教室で開発されたGLUMAプライマーは，帰国してからも大変に有意義な研究課題となった．接着評価に用いられる極めて小さい象牙質円柱窩洞は，その後，われわれに計り知れない多くのことを明らかにしてくれた．窩壁の脱灰の程度，接着性モノマーの有無，コンポジットレジンの至適フィラー量の決定，プライマーの至適濃度の決定，硬化象牙質の性状などと接着性の相関について――．すなわち，われわれのほとんどすべての実験は，終焉のない円柱窩洞の形成と，コンポジットレジンのク塞，そして光学顕微鏡による観察の結果から導かれた．ク塞されたコンポジットレジンの辺縁適合性を光学顕微鏡で観察するという，極めて単純で迅速な接着性判定法は，最も臨床的で合理的な方法であると考えられる一方で，他の研究者の接着性評価と全く相反する評価を示す場合も多い．
次々と開発される新しいボンディングシステムの性能を，高価なハイテク機器で分析，観察する現在の多くの研究報告の中で，われわれの地道で単純な研究はいささか陳腐で，しかもその結論が一般に考えられている常識を逸脱していると論評されるかもしれない．しかし，永年にわたる数多くの共同研究者のたゆまぬ努力の結晶として，確固たる接着理論に基づいた“コントラクションギャップフリーデンティンボンディングシステム”が確立された．
今回，医歯薬出版の御厚意により，われわれの研究業績に基づく接着理論を集大成できる機会を与えられたことに，研究代表者として，また，一人の臨床家として限りない喜びを感じる．現在まで永年にわたり，ひたむきに研究を進めていただいた共同研究者各位の御努力に対し，本文をもって報恩させていただきたい．われわれの研究成果が，わが国の臨床家の日常臨床，ひいては硬組織疾患に悩む患者にとって少なからぬ救済の手引きとなり，さらに歯の尊厳を学ぶべき歯学を志す学生や若い研究者に有意義な論議の礎となることを期待する．
なお，執筆にあたっては，当教室の真鍋厚史講師，長谷川篤司講師，谷 千尋助手，勝部直人助手に多大な御協力をいただいた．また，1993年に本書の内容の一部を『歯界展望』に特集企画していただいて以来，今回の出版に関する編集のすべてに関して御尽力をいただいた編集部ならびに各位に対し，衷心より感謝申し上げる．
2000年11月9日 伊藤和雄
はじめに iii
Chapter 1…1
これからの歯科医療にとって接着性コンポジットレジン修復が意味するもの
Significance of the adhesive resin composite restoration for dental care in the future
1. これまでの歯科医療の問題――早期発見・早期治療がもたらしたもの…2
Problems of conventional dental care─ Results of dental practice based on the policy of“early treatment for early dental caries”
2. これまでの修復・補綴処置の問題…4
Problems of conventional treatment of restorative and prosthetic dentistry
3. 求められる接着性コンポジットレジン修復による初期齲Aへの対応…8
Desirable treatment for early dental caries using adhesive resin composite restoration
Chapter 2…15
コンポジットレジンが歯質に接着するメカニズム
Bonding mechanism of resin composite to tooth substances
1. 接着対象で異なる接着のメカニズム…16
Different bonding mechanisms to different substrates
2. 象牙質とコンポジットレジンとの接着理論の変遷と背景…34
Changes and background of bonding mechanisms between dentin and resin composite
3. 健全象牙質と硬化象牙質とで異なる接着メカニズム…55
Different bonding mechanisms between the sound and the sclerotic dentin
Chapter 3…63
象牙質と接着するコンポジットレジン修復システム
Resin composite system bonds to dentin
1. 接着前処理の理論と手法…64
Theory and technique for the pretreatment of dentin bonding
2. 接着処理の理論と手法…89
Theory and technique for dentin bonding
3. 接着に伴う臨床的な問題点…99
Clinical problems concerning dentin adhesion
4. 現時点で理想的な接着性コンポジットレジン修復システム…103
The best adhesive resin composite restoration system at present
Chapter 4…111
接着性コンポジットレジン修復に適した填塞術式
Clinical technique for the adhesive resin composite restoration
1. 基本的な填塞術式…112
Basic technique of the restoration
2. アシスタントワーク…122
Dental assistance
Chapter 5…129
接着性コンポジットレジン修復の術後評価と象牙質接着の可能性
Post operative evaluation of the adhesive resin composite restoration and the benefits of dentin bonding
1. 接着性コンポジットレジン修復の術後評価…130
Post operative evaluation of adhesive resin composite restorations
2. コントラクションギャップフリーデンティンボンディングシステムの可能性…136
Benefits of the contraction gap-free dentin bonding system
文献…141
References
接着性コンポジットレジン修復を理解するためのキーワード37…146
37-key words to understand the adhesive resin composite restoration
索引…150
Index
おわりに…152
Conclusion and Acknowledgement
Chapter 1…1
これからの歯科医療にとって接着性コンポジットレジン修復が意味するもの
Significance of the adhesive resin composite restoration for dental care in the future
1. これまでの歯科医療の問題――早期発見・早期治療がもたらしたもの…2
Problems of conventional dental care─ Results of dental practice based on the policy of“early treatment for early dental caries”
2. これまでの修復・補綴処置の問題…4
Problems of conventional treatment of restorative and prosthetic dentistry
3. 求められる接着性コンポジットレジン修復による初期齲Aへの対応…8
Desirable treatment for early dental caries using adhesive resin composite restoration
Chapter 2…15
コンポジットレジンが歯質に接着するメカニズム
Bonding mechanism of resin composite to tooth substances
1. 接着対象で異なる接着のメカニズム…16
Different bonding mechanisms to different substrates
2. 象牙質とコンポジットレジンとの接着理論の変遷と背景…34
Changes and background of bonding mechanisms between dentin and resin composite
3. 健全象牙質と硬化象牙質とで異なる接着メカニズム…55
Different bonding mechanisms between the sound and the sclerotic dentin
Chapter 3…63
象牙質と接着するコンポジットレジン修復システム
Resin composite system bonds to dentin
1. 接着前処理の理論と手法…64
Theory and technique for the pretreatment of dentin bonding
2. 接着処理の理論と手法…89
Theory and technique for dentin bonding
3. 接着に伴う臨床的な問題点…99
Clinical problems concerning dentin adhesion
4. 現時点で理想的な接着性コンポジットレジン修復システム…103
The best adhesive resin composite restoration system at present
Chapter 4…111
接着性コンポジットレジン修復に適した填塞術式
Clinical technique for the adhesive resin composite restoration
1. 基本的な填塞術式…112
Basic technique of the restoration
2. アシスタントワーク…122
Dental assistance
Chapter 5…129
接着性コンポジットレジン修復の術後評価と象牙質接着の可能性
Post operative evaluation of the adhesive resin composite restoration and the benefits of dentin bonding
1. 接着性コンポジットレジン修復の術後評価…130
Post operative evaluation of adhesive resin composite restorations
2. コントラクションギャップフリーデンティンボンディングシステムの可能性…136
Benefits of the contraction gap-free dentin bonding system
文献…141
References
接着性コンポジットレジン修復を理解するためのキーワード37…146
37-key words to understand the adhesive resin composite restoration
索引…150
Index
おわりに…152
Conclusion and Acknowledgement