やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 歯科医事法の研究を志す人のためには,歯科医事法に関する優れた著書はすでに出版され,その機能を十分に発揮しています.しかし,歯学部の学生や研修医,そして臨床歯科医などを対象としてコンパクトに纏めた啓蒙書は,必ずしも多いとはいえません.
 そこで,地域の歯科医療に従事しながら,時折開いていた勉強会(Study Group ・S(2))で,出版を計画したのが本著であります.編著者5名は,かつて出版した『歯学部医事法学』を縦糸にしながら,最近の歯科領域における医事法上の課題を横糸に織り込み,構成を進めました.もとより浅学菲才,随所に叱責を受けるところもあろうかと思いますが,それは追って訂正させていただきたいと思います.
 この小著が,歯科医事法に興味をもたれる歯科医療関係者に少しでも参考にして頂ければ幸と考えています.
 平成10年秋 編著者一同 識
第1章 法律の種類と解釈……(池本卯典)1
 第1節 法の種類……1
   1.憲法……1
     1)効力の絶対性……2
     2)法的安定性……2
   2.法律……2
   3.条約……3
   4.命令……4
     1)政令……4
     2)総理府令・省令……5
     3)外局の規制……5
     4)独立機関の規則……6
   5.自治法規……6
   6.慣習法……7
 第2節 法の解釈……7
   1.法規的解釈……8
   2.学理的解釈……8
     1)文理解釈……8
     2)論理的解釈……8
第2章 歯科医師と歯科医療行為……(西海栄一)10
 第1節 歯科医師と法律……10
 第2節 歯科医師の定義……11
 第3節 歯科医療行為の条件……12
     1)治療目的……14
     2)歯科医療上認められた手段および方法(歯科医療水準)……14
     3)患者の承諾(インフォームドコンセントの概念を含む)……15
 第4節 例外的歯科医療行為……15
     1)第三者の承諾……16
     2)実験的医療行為……17
     3)輸血用血液の採血およびドナーからの移植臓器採取……17
 第5節 診療と契約……18
   1.委任契約……18
     1)契約の成立……19
     2)契約の当事者……19
     3)無契約診療(事務管理:民法第697条)……20
   2.診療に伴うその他の契約……20
   3.診療契約の問題点……20
 第6節 インフォームドコンセントの原則……21
   1.インフォームドコンセントの事例……22
   2.インフォームドコンセントの例外……22
第3章 歯科医師の義務と権利……(池本卯典)24
 第1節 公法上の歯科医師の義務……24
   1.公法上の歯科医師の義務の特徴……25
     1)公法上の業務であること……25
     2)業務違反に対する法的な制裁は法規による刑罰のみではないこと……25
   2.診療に際し守るべき義務……25
     1)応招義務(歯科医師法第19条)……25
     2)無診察治療の禁止(歯科医師法第20条)……27
     3)保健指導義務(歯科医師法第22条)……28
   3.証明や証言に関する義務……28
     1)診療録……28
     2)処方箋……32
     3)医療上の証明書……32
   4.患者の秘密を守る義務……33
   5.届出義務……34
   6.第三者による医療内容の調整……34
 第2節 公法上の歯科医師の権利……36
   1.名称独占……36
   2.業務独占……36
   3.歯科医療人の権限……37
 第3節 診療契約上の歯科医師の義務……38
   1.善良なる管理者としての注意義務……38
     1)専門性……38
     2)地域性……39
     3)緊急性……39
     4)歯科医療施設の規模……39
   2.説明義務……39
   3.転医勧告……40
 第4節 診療契約上の歯科医師の権利……40
   1.診療報酬請求権……40
     1)自費診療の報酬……40
     2)保険診療の報酬……41
     3)公費医療の報酬……41
     4)償還……41
     5)問題点(特約:民法第648条)……41
   2.主治医としての権限……42
第4章 歯科医師と患者の人権……(武冨章 )43
 第1節 歯科医師患者関係……43
   1.交流分析による自我状態モデル……43
     1)親の自我状態(P)……43
     2)大人の自我状態(A)……44
     3)子供の自我状態(C)……45
   2.伝統的な歯科医師患者関係……45
   3.成人対成人の関係……45
 第2節 患者の権利宣言……46
 第3節 医の倫理……50
   1.患者の自己決定権……50
   2.ジュネーブ宣言……51
 第4節 歯科医療における説明と患者の意思決定……52
     1)枠組み効果……53
     2)確実性の効果……53
     3)確立と決断ウエイト……54
第5章 限界領域の歯科医療……(西海栄一・内山公男)55
 第1節 臨床実験……55
   1.ヘルシンキ宣言……56
   2.歯科医療のための臨床実験……56
 第2節 治療上の対応……57
   1.癌の告知……57
     1)変化の背景……58
     2)わが国における癌の告知……59
     3)日本人と癌……59
     4)癌の告知のあり方……60
     5)癌の告知について考慮すべき点……61
     6)癌患者のQuality of Life……62
     7)癌の告知と歯科医師の裁量権……62
   2.臓器移植……63
     1)死体からの臓器移植……63
     2)生体からの臓器移植……64
   3.遺伝子操作……65
 第3節 審美歯科および外科的顎矯正手術……66
 第4節 心身症患者の歯科治療……67
 第5節 高齢社会と歯科医療……67 第6章 歯科医療行為の問題点……(西海栄一・園田省平)69
 第1節 保存治療および補綴治療と診療上の契約……69
 第2節 歯科医師と麻酔……70
   1.歯科領域における麻酔……70
   2.麻酔医と手術担当医との関係……70
   3.麻酔の補助行為……71
 第3節 歯科医療と感染症……71
   1.感染症に対する歯科医療関係者の心得……71
     1)感染予防対策……71
     2)米国防疫センターの勧告……72
   2.感染症対応……73
     1)届出を要する伝染病……73
     2)検疫……73
     3)予防接種……73
 第4節 エホバの証人と輸血拒否……75
     1)未成年者の場合……76
     2)夫婦の場合……76
 第5節 臨床実習における歯学生の立場……77
   1.歯学生の守秘義務……77
   2.歯学生による臨床実習……78
 第6節 採血・採尿……78
第7章 歯科医療関連法……(西海栄一)80
 第1節 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)……80
   1.独占禁止法の目的……80
   2.歯科医業と独占禁止法の関係……80
     1)私的独占の禁止……80
     2)事業団体(歯科医師会)の活動制限……81
   3.公正取引委員会……81
   4.歯科医業と公正取引委員会……82
     1)医師会の活動に関する独占禁止法上の指針……82
 第2節 歯科領域における製造物責任法(PL法)……83
   1.PL法の概念……83
   2.PL法の免責要件……84
   3.添付書類の意義……85
   4.民法の不法行為とPL法……86
   5.中央薬事審議会製造物責任制度など特別部会からの報告……87
     1)製品の実態に応じた欠陥の概念……87
     2)欠陥・因果関係の推定……87
     3)責任主体……88
     4)個人輸入の責任……88
 第3節 後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(エイズ予防法)……88
   1.エイズ予防法の制定……89
 第4節 毒物および劇物の取り扱いに関する法……90
 第5節 麻薬・覚醒剤・大麻・あへんなどの取り扱いに関する法……90
 第6節 学校保健法……91
     1)学校と保健管理……93
     2)健康診断の意味……93
     3)保健調査……93
 第7節 救急救命士制度……94
第8章 精神障害者に関する法……(武冨章 )96
 第1節 精神障害者の法律上の立場……96
   1.刑法と精神障害……96
   2.民法と精神障害……97
 第2節 精神衛生保健及び精神障害者福祉法……98
   1.精神障害者に関する法律制定……98
   2.精神衛生保健及び精神障害者福祉法の概要……98
     1)精神障害者とは……98
     2)医療保健施設……99
     3)精神医療審査会……99
     4)精神保健指定医……99
     5)入院の形態……100
     6)精神病院の管理者の権限……101
 第3節 精神障害者関連法……101
   1.児童福祉法と精神薄弱者福祉法……101
   2.優生保護法……101
   3.医療関係者と精神障害……101
   4.精神障害者に対する医療上の問題点……102
第9章 医療と生命……(武冨章 )103
 第1節 生命の誕生……103
   1.生命の始期……103
     1)一部露出説……103
     2)全部露出説……103
     3)独立呼吸説……104
   2.出生前診断と出生前治療……104
   3.人工妊娠中絶……105
   4.堕胎……106
   5.不妊手術……106
   6.人工受精……106
     1)配偶者間人工授精(AIH:artificial insemination with husband's semen)……107
     2)非配偶者間人工授精(AID:artificial insemination with donor's semen)……107
     3)婚姻していない女性に対する人工授精……108
   7.体外受精……108
 第2節 生命の終焉……109
   1.人の死と法律的意義……109
   2.死の判定……109
     1)脳死判定基準……110
     2)臓器移植法の概略……111
     3)臓器移植に関する問題点……113
     4)脳死による死の宣告の問題点……114
   3.安楽死・尊厳死……115
     1)安楽死の合法性……115
     2)消極的安楽死……116
     3)積極的安楽死……117
     4)問題点……117
第10章 歯科医療における記録と証明文書……(内山公男・西海栄一)119
 第1節 診療記録(カルテ)……119
 第2節 歯科医師の証明文書……121
   1.証明文書の交付義務……121
   2.診断書の意義……121
   3.保険会社からの質問……122
   4.診察日時と診断書の関係……122
   5.証明文書の虚偽記載……122
 第3節 手術における誓約書および同意書……123
 第4節 死亡診断書……124
   1.歯科医師と死亡診断書……124
   2.死亡診断書と死因の分類……126
   3.死亡診断書の記載における問題点……126
 (付) 死体検案書……127
   1.異状死体と死体検案書……127
   2.第三者による死体検案書請求の対応……128
第11章 医療制度……(池本卯典)129
 第1節 歯科医療関係者……129
   1.歯科医師法……129
     1)概説……129
     2)国家試験……129
     3)臨床研修……130
     4)歯科医業……130
   2.歯科衛生士法……132
     1)概説……132
     2)目的……132
     3)定義……132
     4)免許・試験・登録……133
     5)業務……133
   3.歯科技工士法……134
     1)概説……134
     2)定義……135
     3)免許・試験・登録……135
     4)業務……135
     5)歯科技工所……136
   4.医療従事者の役割……136
     1)歯科衛生士……136
     2)歯科技工士……137
     3)保健婦・助産婦・看護婦(士)・准看護婦(士)……137
     4)薬剤師……137
     5)診療放射線技師……137
     6)臨床検査技師・衛生検査技師……138
     7)理学療法士・作業療法士……138
     8)臨床工学技士・義肢装具士……138
     9)視能訓練士……138
     10)柔道整復師・あんまマッサージ指圧師・はり師・きゅう師……139
     11)救急救命士……139
   5.医療関係者の相互関係……139
 第2節 医療施設……141
   1.医療施設の種類……141
     1)総合病院……141
     2)特定機能病院……142
     3)病院……142
     4)療養型病床群……142
     5)老人保健施設……143
     6)診療所……143
     7)往診のみによる診療……143
   2.医療施設の共通規定……143
     1)病院等開設の許可制と非営利性……143
     2)管理者……143
     3)宿直医……144
     4)専属薬剤師……144
     5)施設基準……144
     6)立入検査と医療監視員……144
   3.医療法人制度……145
   4.歯科診療科目・診療科目……145
   5.広告……146
 第3節 歯科医療保険制度……148
   1.医療保険制度の概要……148
   2.医療保険制度における診療契約……148
   3.診療報酬と支払基金……149
   4.保険診療の制限……150
   5.公費医療……150
   6.医療補助……151
第12章 歯科医療事故……(池本卯典)152
 第1節 歯科医療事故……152
 第2節 医事紛争の実態……153
 第3節 医事紛争増加の原因……153
     1)患者の権利意識の増大……153
     2)歯科医師と患者の人間関係の希薄化……155
     3)新しい技術や薬剤の多用およびその乱用……155
     4)法律や通達に対する歯科医師の無関心および医療事故に対する弁護士やマスコミの関心……156
 第4節 医療過誤の分類……156
 第5節 医療過誤の法的要件……160
 第6節 歯科医師の注意義務……160
   1.民事上の注意義務……161
   2.刑事上の注意義務……161
 第7節 医療過誤と因果関係……162
 第8節 医療過誤における責任……163
   1.社会的責任……164
     1)開業医……164
     2)勤務医……164
   2.刑事責任……164
   3.民事責任……165
     1)損害賠償の法的根拠……166
   4.行政責任……170
     1)免許の取り消しまたは停止……170
 第9節 医療事故の予防……172
     1)幼児患者の診療とその対応……172
     2)歯科医師賠償責任保険の加入を勧める……173
     3)老年患者の診療とその対応……173
     4)過失の対応は早期に……174
 第10節 医療過誤関連事項……175
   1.薬剤による事故……175
    (付)予防接種による事故……176
 第11節 医療事故の対応……177
     1)救急処置に全力を尽くす……177
     2)診療録は明確に記載しておく……178
     3)脅迫的態度には毅然たる態度をとること……178
     4)死亡した場合は警察に届け出ること……178
     5)病理解剖を勧める……179
     6)死因について短絡的な発想をしない……180
 第12節 損害賠償……180
   1.損害賠償の範囲……180
     1)通常生ずべき損害……181
     2)特別の事情による損害……181
   2.損害賠償の算定方式……182
     1)単式ホフマン式計算法……183
     2)複式ホフマン式計算法……183
   3.歯科医師賠償責任保険制度……184
   4.過失相殺……184
   5.和解(示談)……184
第13章 歯科医療事故の判例……(西海栄一)186
   1.開業医の見落としたエナメル上皮腫……186
   2.不適切な説明による齟齬……187
   3.対合歯削合による咬合調整……189
   4.自費診療ブリッジの保証……191
   5.インプラントによる過失……193
   6.医療過誤訴訟における診療録の不提出……194
   7.義歯調整と側頭部痛……195
   8.その他の判例……196

参考文献……198
索引……200