やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂(第5版)の序

 本書の初版が出版されたのが昭和46年(1971年5月)であった.以来26年の歳月が経ち,幸いに好評を得て今まで版を重ねることができた.この間,わが国の歯科大学あるいは歯学部のほとんどに歯科麻酔学の講座あるいは診療科が誕生し,歯科麻酔学は臨床面だけでなく研究,教育までが歯科医学の独立した分野として確立してきている.
 今回の改訂にあたっては,平成6年(1994年)改訂の歯科医学教授要綱(歯科大学学長会議)を参考に目次の設定を行い,内容についても質と量を配慮した編集を心がけた.そして初版から編集に関わり,本書の基本的形態づくりにご努力いただいた久保田康耶,中久喜喬,野口政宏の3先生が編集者から退かれ,新たな編集者によって企画・発行することになった.
 本書は,わが国の歯科大学あるいは歯学部で歯科麻酔学の教育,臨床を直接担当している執筆陣によって,最新の内容も加えた基本的な歯科麻酔学の教科書となるように努力していただいたもので,歯科医学生が効果的で有効な学習ができるように配慮して編集したものである.さらに,歯科麻酔学会認定医を取得するために,専門的知識の整理が必要となる若い研修医の要求にも応えられることを願って編集したつもりであるが,本書にその利用価値を見い出していただければ幸甚である.
 旧版と同様に第5版も,歯科麻酔学のあり方が反映した教科書になるよう努めた.最近は麻酔薬の変遷も著しく,吸入麻酔薬は長年臨床で親しまれていたハロタンからセボフルランやイソフルランに変わり,静脈麻酔薬ではもっとも一般的であったバルビツレイト系薬剤の製造販売の継続が危ぶまれている.そして,新しい静脈麻酔薬として,麻酔調節がしやすいプロポフォールの臨床使用が認可され,全静脈麻酔も口腔・顎顔面外科の麻酔にも応用され普及してきたので追補された.また,新たに麻酔の法的問題の章が設けられ,麻酔におけるインフォームド・コンセントや麻酔記録などの項目が追加された.
 歯科麻酔学書は近年多数の出版をみているが,本書は29歯科大学,歯学部で歯科麻酔学の教育に携わっている執筆者が各項目を分担した標準的教科書をめざしている.各執筆者には内容的にも統一されたバランスのよい教科書になるようにたいへんなご協力をいただいた.心から御礼を申し上げる.
 本書が歯科医学徒や臨床医に愛読され,座右の書として用いられ,わが国の臨床歯科医学の発展と歯科患者のために役立てばこのうえない喜びである.
 平成9年10月 古屋英毅 上田 裕 松浦英夫 金子 譲 雨宮義弘 海野雅浩
第1章 麻酔学総論……1
 麻酔の概念 古屋英毅……1
 麻酔・歯科麻酔の歴史 渋谷 鉱……1
   1.笑気麻酔……1
   2.エーテル麻酔……4
   3.クロロホルム麻酔……6
   4.局所麻酔(痺)……7
   5.日本歯科麻酔学会小史……8
 歯科臨床と麻酔学 古屋英毅……9
   1.歯科麻酔学の役割……9
   2.歯科臨床における麻酔学……9
 文献……10
第2章 麻酔に必要な基礎知識……11
 物理化学 池本清海……11
   1.単位……11
   2.気体……12
   3.溶液の物理化学……15
 生理……15
   1.呼吸の生理 染矢源治……15
   2.酸塩基平衡 金子 譲……35
   3.循環の生理 大澤昭義……43
   4.内分泌・代謝 池本清海……58
   5.神経 池本清海……62
 文献……68
第3章 術前の全身状態評価……71
 全身状態評価法と管理法……71
   1.診察法 青野一哉……71
   2.臨床検査 真鍋庸三……87
   3.手術危険度 青野一哉……97
   4.麻酔管理方法の選択 青野一哉……99
 管理上問題となる疾患……100
   1.呼吸器系疾患 椙山加綱……100
   2.循環器系疾患 椙山加綱……105
   3.代謝系疾患 椙山加綱……115
   4.内分泌系疾患 中條信義……117
   5.泌尿器系疾患 中條信義……126
   6.神経・筋肉系疾患 中條信義……127
   7.精神疾患 中條信義……131
   8.血液疾患 中條信義……133
   9.特定疾患 西 正勝・仲西 修……136
   10.妊娠 西 正勝・仲西 修……146
   11.障害者 西 正勝・仲西 修……148
 術前処置(管理) 松浦英夫……150
   1.術前回診……150
   2.術前状態の評価……151
   3.術前の経口摂取制限……152
   4.麻酔前投薬の指示……153
 麻酔前投薬 松浦英夫……153
   1.目的……153
   2.麻酔前投薬の種類……154
   3.前投薬の注意……157
 文献……157
第4章 局所麻酔法……159
 局所麻酔の作用機序 雨宮義弘……159
   1.神経線維と興奮の伝導……159
   2.局所麻酔薬の作用機序……161
 局所麻酔薬 野口いづみ……162
   1.局所麻酔薬の特徴……162
   2.局所麻酔薬の薬物動態……165
   3.全身への作用……170
   4.局所麻酔薬の構造……173
 血管収縮薬 金子 譲……182
   1.使用目的……182
   2.種類……185
   3.自律神経系の基礎知識……185
   4.カテコールアミンの受容体:α,β受容体……186
   5.交感神経作動薬の作用……187
   6.薬理……187
   7.血管収縮薬の臨床使用上の注意……192
   8.血管収縮薬の局所的問題……194
   9.薬物相互作用……195
   10.全身麻酔時の局所麻酔……196
 局所麻酔に必要な解剖 大井久美子……196
   1.伝達麻酔のための解剖……197
   2.浸潤麻酔のための解剖……199
 局所麻酔法 大井久美子……201
   1.表面麻酔……201
   2.浸潤麻酔……202
   3.伝達麻酔……206
 全身管理 廣瀬伊佐夫……211
   1.全身的疾患を有する患者の管理……211
   2.全身的偶発症を経験したことのある患者の管理……225
 偶発症 廣瀬伊佐夫……227
   1.全身的偶発症……227
   2.局所的偶発症……230
 文献……232
第5章 精神鎮静法……235
 精神鎮静法の概念 福島和昭……235
 鎮静法に用いられる薬剤と薬理 福島和昭……237
   1.亜酸化窒素(笑気)……237
   2.ジアゼパム……240
   3.フルニトラゼパム……243
   4.ミダゾラム……246
   5.鎮静法に用いられるその他の薬剤……248
 拮抗薬 福島和昭……250
   1.フルマゼニル……250
   2.ナロキソン……251
   3.その他……253
 精神鎮静法の実際 嶋田昌彦……253
   1.吸入鎮静法……253
   2.静脈内鎮静法……261
   3.その他の鎮静法……270
 文献……271
第6章 全身麻酔……273
 麻酔薬の作用機序 佐久間泰司・上田 裕……273
   1.静脈麻酔薬の作用機序……273
   2.吸入麻酔薬の作用機序……273
 吸入麻酔……276
   1.吸入麻酔薬の摂取と分布 上田 裕……276
   2.吸入麻酔の導入に関する因子 上田 裕……278
   3.吸入麻酔ガスの排出 上田 裕……282
   4.麻酔深度 上田 裕……282
   5.吸入麻酔薬 小谷順一郎・上田 裕……286
   6.麻酔器 小谷順一郎・上田 裕……293
   7.吸入麻酔法 杉岡伸悟・上田 裕……302
   8.気管内麻酔 杉岡伸悟・上田 裕……305
   9.麻酔記録 杉岡伸悟・上田 裕……317
 静脈麻酔 小長谷九一郎……320
   1.静脈麻酔……321
 ニューロレプト麻酔 小長谷九一郎……331
   1.ニューロレプト麻酔(NLA)……331
 特殊な麻酔管理法 小長谷九一郎……333
   1.低血圧麻酔,(人為的)低血圧法……333
   2.低体温麻酔,(人為的)低体温法……335
 筋弛緩薬 岩月尚文……336
   1.筋弛緩薬の適応……337
   2.筋弛緩薬の作用機序……337
   3.筋弛緩薬の効果判定法……339
   4.臨床で使われている筋弛緩薬……341
   5.筋弛緩作用への影響因子……345
   6.筋弛緩作用の拮抗……346
 術前管理 関田俊介・雨宮義弘……347
   1.麻酔上問題となる病態のコントロール……347
   2.術前処置……360
   3.麻酔前投薬……362
 術中管理……366
   1.術中管理の目標 一戸達也……366
   2.呼吸管理 一戸達也……369
   3.循環管理 一戸達也……375
   4.代謝管理 一戸達也……381
   5.輸液・輸血 吉村 節……383
   6.モニタリング 吉村 節……387
   7.合併症 吉村 節……388
 術後管理 城 茂治……389
   1.術直後の管理……390
   2.回復室における管理……391
   3.術後疼痛対策……392
   4.帰室後の管理……393
   5.術後合併症……397
 文献……406
第7章 歯科外来の全身麻酔 新家 昇……409
 歯科外来全身麻酔の特徴……409
   1.歯科外来全身麻酔の考え方(定義)……409
   2.歯科外来全身麻酔を行う理由……409
   3.歯科外来全身麻酔の適応……409
   4.患者選択の条件……409
   5.歯科外来全身麻酔を行うべきでない症例……410
 歯科外来全身麻酔の実際……411
   1.麻酔前の評価と準備……411
   2.麻酔法の選択……419
   3.麻酔法の実際……420
   4.麻酔後の管理……424
 文献……426
第8章 小児の麻酔管理 松浦英夫……427
 解剖・生理学的特徴……427
   1.呼吸器系の特徴……427
   2.循環器系の特徴……427
   3.その他の特徴……428
 麻酔法の選択……428
   1.術前管理……428
   2.麻酔管理……429
 管理上の問題点と対策……432
 文献……432
第9章 高齢者の麻酔管理 海野雅浩……433
 解剖・生理学的特徴……433
   1.呼吸器系の特徴……435
   2.循環器系の特徴……435
   3.その他の特徴……437
 麻酔法の選択……439
   1.全身麻酔……439
 管理上の問題点と対策……442
   1.術前評価と管理……442
   2.基礎疾患のコントロール……445
   3.前投薬……445
   4.術後管理……446
 文献……447
第10章 障害者の麻酔管理 柬理十三雄……449
 麻酔法の選択……449
 術前診査について……449
   1.問診・対診……449
   2.視診……450
   3.聴診(肺野の聴診)……450
   4.X線写真診査……450
   5.心電図……450
   6.血液一般検査……450
 麻酔管理に注意を要する連用薬について……450
 障害者の歯科診療時における全身管理の実際……454
   1.術前の準備……454
   2.前投薬について……454
   3.麻酔の導入・維持・覚醒について……455
 おもな障害・疾患について……456
   1.精神発達遅滞……456
   2.自閉症……456
   3.ダウン症候群……456
   4.脳性麻痺……457
   5.てんかん……457
 文献……458
第11章 ショック 河原道夫・寳田 貫……459
 ショックの定義と分類……459
   1.ショックの定義……459
   2.ショックの分類……459
   3.ショックの経過……459
 ショックの病態生理……460
   1.循環の3要素……460
   2.各種ショックの発生要因……460
   3.ショック時の循環動態……461
 ショックの症状と処置の基本……465
   1.ショックの症状と診断……465
   2.ショック治療の手順……468
   3.代謝の改善……469
   4.薬物療法……470
 各種ショックの臨床……472
   1.循環血液量減少性ショック……472
   2.心原性ショック……472
   3.感染性ショック……474
   4.神経原性ショック……475
   5.アナフィラキシーショック……475
 文献……476
第12章 救急救命処置……477
 救急処置 住友雅人……477
   1.バイタルサインの見方……477
 歯科治療時の全身的偶発症 住友雅人……480
 全身的偶発症の治療 住友雅人……481
   1.歯科治療時にみられる全身的異常反応……482
   2.内科的な基礎疾患の発現および急性増悪……487
 蘇生法(心肺脳蘇生法) 古屋英毅……494
   1.一次救命処置(BLS)……495
   2.二次救命処置(ALS)……496
   3.BLSとALSにおける救急蘇生の基本手技……497
   4.救命後の処置……510
 文献……510
第13章 ペインクリニック……513
 痛みの生理 鈴木長明……513
   1.痛みの発生機序……513
   2.痛みの伝達と認知……514
 顎顔面口腔の痛み……518
   1.顎顔面痛の分類 鈴木長明……518
   2.顎顔面痛の診察法 鈴木長明……518
   3.三叉神経痛 嶋田 淳・山本美朗……526
   4.舌咽神経痛 嶋田 淳・山本美朗……534
   5.迷走神経痛 嶋田 淳・山本美朗……537
   6.顔面神経痛 嶋田 淳・山本美朗……537
   7.帯状■および帯状■後神経痛 見崎 徹……537
   8.反射性交感神経性萎縮症 見崎 徹……540
   9.咬合に由来する痛み 見崎 徹……541
   10.頭痛 見崎 徹……542
   11.非定型顔面痛 見崎 徹……543
   12.心因性疼痛 見崎 徹……544
   13.がん(癌)性疼痛 見崎 徹……545
 顔面の筋■と神経麻痺 鈴木長明……548
   1.顔面筋■……548
   2.顔面神経麻痺……550
   3.三叉神経麻痺……554
 文献……556
第14章 東洋医学的療法 海野雅浩……559
 東洋医学における特殊な概念……559
   1.特殊な系統:経路・経穴……559
   2.病態の認識法:陰・陽,虚・実……559
   3.病位の判定:表・裏,上・中・下……560
   4.治療様式:補・■本治法・標治法……560
 診察法……560
   1.望診……560
   2.聞診……560
   3.問診……560
   4.切診……561
 鍼灸療法……562
   1.置鍼,雀■,■鍼……562
   2.通電……563
   3.灸……563
 漢方療法……563
   1.随証療法……563
 歯科領域での東洋医学的治療法の適応症……563
   1.三叉神経痛……563
   2.三叉神経麻痺……564
   3.顔面神経麻痺……564
   4.がん性疼痛……564
   5.非定型顔面痛……564
   6.頭痛……564
   7.筋肉痛……565
   8.反射性交感神経萎縮症……565
   9.舌痛症……565
   10.歯痛……565
   11.顎関節症……565
   12.口腔乾燥症……565
 文献……565
第15章 麻酔の法学的問題 高北義彦……567
 患者への説明と承諾……567
   1.インフォームド・コンセントとは……567
   2.インフォームド・コンセントの進め方……569
   3.麻酔に関するインフォームド・コンセント……570
 麻酔記録の作成と保管……571
   1.麻酔記録作成の意義……571
   2.麻酔記録の内容……571
   3.麻酔記録の保管……571
 文献……571
付 救急用薬品 古屋英毅……573
 心肺蘇生法(CPR)に用いる薬品……573
 心停止……574
 心原性ショック……575
 アナフィラキシーショック……576
 循環血液量減少性ショック……577
 不整脈……579
   1.期外収縮……579
   2.発作性上室性頻拍……579
   3.頻拍性心房細動……580
   4.心房粗動……580
   5.心室性頻拍……580
   6.WPW症候群……581
   7.徐脈……581

索引……583