やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4版への序

 簡明小児歯科学初版を1984年に出版してから12年が経過した.
 そして,著者が東京医科歯科大学歯学部から鶴見大学歯学部へ移籍して小児歯科学講座を開講してから25年が経過した.
 この四半世紀における社会の推移とともに,世界の小児歯科診療も日本の小児歯科医療も著しい発展と変遷を遂げながら現在に至っている.
 鶴見大学における歯科医学教育も,分化とともに統合領域の充実がはかられるようになってきた.基礎学講座と臨床歯科学講座が連繋して実施している,齲蝕学や歯周病学などの統合科目の教育はその現れであると考えている.
 このような観点からすると,小児歯科学は子供を中心とした子供のための統合歯科学であって“general dentistry for children”ということができる.人類の口腔保健に寄与するための歯科学は,分化と統合の二つの流れが有機的に結びつけられたものでなければならないのであって,小児歯科は統合領域の歯科学であり,歯科医療である.そして,人類のライフサイクルを考えるならば,小児歯科学に対応するもの(counterpart)は成人歯科学と高齢者歯科学であるということができる.そして,これは本書初版の序文にも記したとおりである.
 第4版では,講座のsilver jubileeを記念して装幀を新たにした.また,小児患者への対応法および咬合誘導の章を改訂するとともに,付表の厚生省歯科疾患実態調査の資科を1995年に発表された平成5年の調査報告のものとした.
 本書第4版の出版にあたり,ご協力いただいた鶴見大学歯学部小児歯科学教室の教室員および医歯薬出版株式会社に心からお礼申し上げる.
 1996年2月 大森郁朗

第2版への序

 簡明小児歯科学は1984年4月に第1版第1刷を発行してから,ちょうど5年が経過した.本書は,この間に小改訂と増補を重ね,1988年1月に第1版第4刷を発行したが,最近の小児歯科学ならびに小児歯科医療の目ざましい進歩に同調させるべく,今回,版を改めることとした.
 わが国の小児の齲蝕罹患状態は,地域差は依然として認められるものの,全般的には,過去にみられた齲蝕暴発はようやく鎮静化を示し,特に,低年齢児の齲蝕罹患率に著しい低下が認められるようになった.
 このような低年齢児の齲蝕罹患率の低下は,幼児期を通じての乳歯齲蝕の軽度化をも招来し,それが小児歯科医療の主体を従来の,歯内療法および抜歯と保隙から,齲蝕予防処置と歯冠修復へと変貌させ,さらには乳歯列期から永久歯列期にわたる咬合管理へと発展させている.
 また,健常児の口腔管理だけではなく,心身障害児や全身疾患罹患児の歯科診療の拡充へとつながっている.
 1987年には,日本小児歯科学会に認定医制度が生まれ,1988年2月には,わが国初の小児歯科認定医も誕生した.
 この小児歯科認定医制度は専門的知識と技能を基礎とした,良質な小児歯科医療をわが国の子どもたちに実施するための素地をつくったということができる.
 これからの小児歯科学教育は,小児歯科学教授要綱に沿った基本的事項の教育を行うとともに,卒前・卒後教育を通じて,このような社会的背景を踏まえたものであることが必要であると考えている.
 本書は,歯科学生を対象として著されたものであるが,日常の小児歯科臨床に携わる歯科医師や歯科衛生士の手引き書としても,役立ち得るものと考えている.本書第2版の出版にあたり,御協力いただいた鶴見大学歯学部小児歯科学教室の教室員および医歯薬出版株式会社に心から御礼申し上げる.
 1989年3月 著 者

序文

 小児歯科学は英語でいうDentistry for Childrenであって,文字どおり子どものための歯科医学であり,小児歯科医療は子どものためのArt and Scienceである.
 したがって,小児歯科学は歯科保存学や歯科補綴学のような臨床歯科学の縦割りの一分科ではなく,健常児,心身障害児の区別なく,子どもを対象とした横割りの一分科である.
 そして,小児歯科学に対応するのは成人歯科学であり,老人歯科学である.
 著者は小児歯科学をこのように位置づけして,教育,研究,臨床に携わっているが,鶴見大学歯学部の学生に講義(1年間,64時間)を行う際に,学生の便宜に著者が作成したテキストが本書である.
 本書は学生が小児歯科学を系統的に学びとるのに便利なように,記述は簡明を第一義とし,小児歯科学ならびに小児歯科医療への興味と方向づけを与えることを旨とした.
 本書の内容は小児歯科学教授要綱にほぼ沿ったものとなっているが,齲蝕の予防の項目は,本書では巻末に置かれている.
 これは各論の中で述べられている,疾病や異常の治療法について,ひととおりの知識を持ったうえで,小児の齲蝕に関しては予防がいかに重要であるかを認識して欲しいからであり,小児歯科医療の基本が,小児に口腔をいつも清潔に保つ習慣を身につけさせ,齲蝕を予防することにあるということを強調することを意図したものである.
 引用文献は省略したが,おもな参考書を挙げてあるので,興味の発展はそれらの参考書を通じて遂げていただきたい.
 本書の出版にあたり,御協力いただいた鶴見大学歯学部小児歯科学教室の教室員および医歯薬出版株式会社に心から御礼申し上げる.
 1984年3月 著者
総論
 1.序論……3
  小児歯科学の定義と目的……3
  歯科医療における小児歯科の分担領域……4
 2.小児の身体発育……6
  身体発育過程の分類……6
  成長,発育……7
  個体の成長力……7
  身体発育に影響を及ぼす因子……8
  身体発育とその特徴……8
   1.胎生期の成長……8
   2.出生時の成長状態……12
   3.出生後の身体的成長……14
   4.身体発育の特徴……16
  成長の評価法……19
   1.成長研究法……19
   2.暦年齢と生理的年齢……20
   3.相対成長……31
   4.発育指数……32
 3.小児の精神発達……33
  発達心理学概論……33
   1.新生児期……34
   2.乳児期……34
   3.幼児期……34
  運動機能の発達……36
  言葉の発達……37
   1.1歳までの言語準備……37
   2.1歳児の言語……38
   3.2歳児の言語……38
   4.3歳児の言語……39
   5.4歳児の言語……39
   6.5歳児の言語……39
  情動の発達……39
   1.情動の分化……40
   2.情動と刺激……40
   3.情動発達の条件……41
   4.情動発達の一般傾向……42
  口腔習癖と保育……44
   1.口腔領域の習癖……44
   2.口腔習癖と保育……44
  小児心理の臨床応用……45
 4.顔面頭蓋の発育とその評価法……46
  脳頭蓋の成長……46
  顔面頭蓋の成長……49
   1.顎骨の成長機構……50
   2.上顎骨の成長様式……50
   3.下顎骨の成長様式……51
   4.顎骨と歯の成長……53
   5.顔面頭蓋の発育過程……54
  評価法……61
   1.人類学的計測法……61
   2.頭部X線規格写真法……63
 5.歯の発育……77
  歯の形成……77
   1.歯胚の成長……79
   2.エナメル質形成……81
   3.象牙質形成……82
  歯の萌出……83
   1.萌出前期……84
   2.萌出期……84
   3.乳歯の萌出時期と順序……87
   4.永久歯の萌出時期と順序……88
   5.歯の萌出機転……89
  乳歯の歯根吸収と脱落……89
  付図 歯の発育障害……92
 6.歯の発育障害……97
  歯数の異常……97
   1.歯数の不足……97
   2.過剰歯……97
   3.上皮真珠……98
  構造の異常……99
  形態の異常……100
  色調の異常……101
  萌出の異常……101
 7.歯列および咬合の発育……103
  咬合発育段階とその特徴……103
  無歯期……106
  乳歯列期……107
  混合歯列期……109
   1.第一大臼歯萌出期……109
   2.前歯交換期……112
   3.側方歯群交換期……113
  永久歯列期……114
  咬合の発育に影響を及ぼす環境的因子……115
   1.筋肉力……115
   2.咬合力……116
   3.萌出力……117
 8.乳歯……119
  生物学的意義……119
  形態学的特徴……119
  組織学的特徴……123
  物理化学的特徴……124
   1.結晶構造……124
   2.結晶の大きさ……124
   3.化学組成……125
   4.化学的反応性……125
 9.乳歯および幼若永久歯の齲蝕……131
  齲蝕の原因論……131
   1.歴史的背景……131
   2.齲蝕の原因についての最近の考え方……133
  乳歯の齲蝕の特徴……133
  罹患型分類とその意義……139
  乳歯の齲蝕と保育……140
  乳歯の齲蝕が小児の心身に及ぼす影響……141
  付表 厚生省歯科疾患実態調査……143

各論
 1.小児への対応法……151
  患児への対応法……151
   1.3歳未満の子ども……151
   2.3〜5歳の子ども……152
   3.患児への対応法の要点……153
  非協力児への対応法……153
  前与薬……154
  精神鎮静法と全身麻酔……155
   1.精神鎮静法……155
   2.全身麻酔……157
  付図 患児の診査……159
 2.患児の診査……163
  一般的診査法……163
   1.問診……163
   2.現症……164
  顔貌の診査……165
  口腔内の診査……165
   1.乳歯の診査……165
   2.乳歯列の診査……167
   3.乳歯の齲蝕罹患型の診査……168
   4.口腔軟組織の診査……168
  X線写真検査……168
   1.小児歯科で使用されるX線フィルム……169
   2.撮影法と検査目的……169
 3.治療計画……172
  治療計画の立て方……172
  治療計画の実施法……172
  砂糖と齲蝕……176
 4.歯冠修復……179
  前準備……180
  乳歯の窩洞形成法……183
   1.乳歯の組織学的・形態学的特徴……183
   2.乳歯の窩洞形成における形態学的な配慮……185
   3.窩洞形成時の機械的失敗の原因……187
   4.アマルガム充填……189
   5.コンポジットレジン充填……190
   6.インレー充填……193
  乳歯冠による修復……193
   1.乳臼歯用冠……193
   2.乳前歯用冠……195
 5.歯髄処置……197
  歯髄炎の診断……197
  覆髄法……199
   1.間接覆髄法……199
   2.直接覆髄法……201
  断髄法……202
   1.生活断髄法……202
   2.失活断髄法……213
  抜髄法……214
   1.部分的抜髄法……214
   2.完全抜髄法……215
  幼若永久歯の根管処置法……216
   1.Frank's Technique……216
 6.外科的処置……219
  乳歯の抜歯……219
  口腔軟組織疾患とその処置……221
   1.歯肉および口蓋……221
   2.口唇……223
   3.舌,舌下および口腔底……227
   4.頬……227
   5.口腔粘膜一般……228
  乳歯,幼若永久歯の外傷とその処置……229
   1.前歯の外傷の分類……229
   2.前歯の外傷の発生頻度……229
   3.外傷の原因……231
   4.外傷の種類……232
   5.外傷の部位別分類……232
   6.処置法……233
   7.乳前歯の外傷……234
   8.永久前歯の外傷……235
  薬物療法……243
   1.小児薬用量……243
   2.小児与薬例……245
 7.咬合誘導……247
  咬合誘導の定義……248
  乳歯の早期喪失が歯列の発育に及ぼす影響……249
   1.乳臼歯の早期喪失……249
   2.乳前歯の早期喪失……251
  空隙分析法……251
   1.Moyersの空隙分析法……252
   2.その他の空隙分析法……256
  保隙……258
   1.保隙装置の適応と機能……258
   2.保隙装置の種類……258
  スペースリゲイニング……263
  咬合調整……264
   1.切縁削整法……265
   2.隣接面削整法……265
   3.連続抜去法……266
  歯列性咬合異常……267
  骨格性咬合異常……271
  口腔習癖による咬合異常……277
   1.口腔習癖と咬合異常……277
   2.口腔習癖の治療法……278
 8.心身障害児の歯科診療……283
  心身障害児の分類……283
  心身障害児(者)の歯科的問題……285
   1.心身障害児(者)の歯科疾患……286
   2.心身障害児(者)の口腔衛生管理……294
  心身障害児(者)の歯科診療……296
   1.歯科診療システム……296
   2.患児への対応法と歯科治療……300
   3.日常の口腔衛生管理……303
  フェニトイン性歯肉増殖症……305
   1.フェニトイン……305
   2.フェニトイン性歯肉増殖症……305
 9.小児の口腔疾患と全身疾患……308
  全身疾患による歯の硬組織の異常……308
   1.遺伝性疾患……308
   2.染色体異常……310
   3.その他の全身疾患……311
  全身疾患による歯周疾患……311
  診療上注意すべき全身疾患……312
 10.小児歯科における予防……315
  プラークコントロールプログラム……315
  フッ化物による齲蝕予防……317
  小窩裂溝填塞材による齲蝕予防……319

参考書……325
索引……327