やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 わが国で初めての磁性アタッチメントが市販されてから未だ日が浅い.若干3年を経過しただけの,補綴臨床ではまったく新参のシステムであるが,多くの関係者の予想を裏切り,今全国で爆発的なブームを迎えている.・健康保険適用外である・,・臨床的評価に未知な点が多い・など,いくつかの懸念や不安を越えて,磁性アタッチメントは確実にその実績を重ねつつある.
 磁性アタッチメントが比較的短期間に臨床現場で認知されたその一番の理由は,筆者らの経験から,それが・患者に喜ばれる義歯・であるからであろうと推察している.
 われわれ歯科医が,自分で有床義歯を利用することは比較的少ない.それなりの知識とメインテナンスの技術を備えたプロにとって,当然のことである.オーラル・ハイジーンの実際を指導する当人が,フルデンチャーを使っているようでは説得力に乏しい.
 しかし,このわれわれ自身が義歯を利用していないことが,患者には迷惑なことだったのかもしれない.われわれは・義歯はかくあるべし・と先輩から教示された通りに理解し,納得してきただけではなかったか.要するに,われわれ,未経験なプロの勘違いがあるのかも知れない.
 話が少し大げさになってしまったが,・磁石に引かれて所定の位置に音を立てて納まる・,こんな子供だましのような現象に,患者達が義歯に関する他のいかなることにも勝る大きな評価を与えてくれるなど,いったい誰が予想できたであろうか.われわれは義歯のことをあまり知らなかった.そう認めるしかない.だからこそ,これまで,製作した術者にすら着脱できないような義歯も患者に与えてきたのであろう.
 特に昨今,患者の地位向上も顕著で,各自の意見や希望を声高に表示する時代を迎えた.われわれが特に何をやらなくても,・患者本位の医療・は自らやってきたのである.すなわち,今は・患者本位の義歯・をもう一度原点に帰って考えてみる,よい機会かもしれない.
 ・マグフィット・発売以来,さまざまな機会に各地の臨床医,歯科技工士,歯科衛生士らを対象として,磁性アタッチメントの概要と,われわれの考え方を紹介させていただいてきた.それらの折,実際の臨床導入に先立つ懸念や,または,すでにいくつかの臨床例を手掛けてみて直面した問題点など,数え切れないほどの質問やアドバイスを頂戴した.業者に直接寄せられた苦情の類もあった.いわゆる,現場の生の声を聞く貴重な機会を得たわけである.現実に多くの質問・苦情に直面し,臨床術式というものは,実際に動き出してみると,実に多様な問題点が生まれ出るものであることを認識させられ,同時に,今,新しい臨床体系を打ち立てていくことの大変さと責任の重大さを噛み締めている.
 今般,それらの疑問や不安に答える目的で,急遽本書執筆を思い立ったものである.質問の大半は拙書・磁性アタッチメント-磁石を利用した新しい補綴治療-・(医歯薬出版,1992)を詳細にお読みいただければ,そのどこかに必ず答が見出せるはずであるが,読者の便宜のために,改めてここに・続・磁性アタッチメント―108問 108答―・として,質疑・応答を対応させた形式の小本を書かせていただいた.質問の中には義歯の本質に関する難しいものもあり,筆者ごとき若輩にはとうてい十分な対応は適わない.不勉強ゆえの粗末な見解もご容赦願いたい.読者の問いの多くは筆者自身の疑問でもある.
 質問も回答も,可及的に簡潔にまとめることを心掛けたが,それでも,細かな臨床術式のあれやこれやと考えだすと,つい回りくどい表現になってしまった部分もあることを否定しない.ユーザーからの指摘に応じて,改めていくつかの追加実験も行い,その結果を掲載したものもある.Q & Aの体裁を採ったため,臨床例も含め多くの部分で内容に重複がある.この種の本の常として,同じ事柄を別な角度からみることになるための必然とお許し願いたい.なお,各項には欄外にキーワードを示し,読者の便宜を図った.
 例により,短期間に書きなぐったものであるが,日々の臨床現場で本書が少なからず読者のお役に立てるなら,望外の喜びである.
 心暖まる推薦のお言葉を頂戴した平沼謙二教授を始めとして,多彩な基礎実験や膨大な臨床試行において多大なご協力をいただいた,愛知学院大学歯学部歯科補綴学第一講座および愛知学院大学歯学部附属病院技工部の各位に深く感謝申し上げます.また,各種資料のご提供をいただいた,愛知製鋼(株)並びに(株)ジーシーの関係者にも心より御礼申し上げます.
 最後に,再び冗長な雑文でお手を煩わせることになりました,医歯薬出版(株)の編集部諸氏に厚く御礼申し上げます.
 平成7年7月 田中貴信
序/iii
推薦の言葉/v

1 『マグフィット』の仕様・特性……1
 1 磁性アタッチメントは支台歯への側方荷重を解放するというが,義歯粘膜面の複雑な形態を考えれば,空論と思われるが?……2
 2 磁性アタッチメントは基本的にflexibleな機構と考えるが,最近ではrigid supportのほうが一般的な考え方であるように思われるが?……4
 3 『マグフィット600』で実際の使用時に吸引力がとても600gfはない不良品と思われる製品があったが,保管条件などで注意することはあるか?……6
 4 『マグフィット』の吸引力の根拠は?……8
 5 磁性アタッチメントはどのくらいの期間利用可能か?……9
 6 磁石構造体に逆テーパーかアンダーカットなどの維持機構を付与したほうがよいのでは?……10
 7 横ゆれ防止のため,磁石構造体とキーパーとの吸着面の形態は凹凸にすべきであると考えるが,いかが?……11
 8 『マグフィット600』と『マグフィット400』のキーパーを取り違えた場合に何か支障があるか?……12
 9 臨床・技工操作時にアタッチメントの一部を削除しても構わないか?……13
 10 いわゆる積極的利用法では,“歯に優しい”という磁性アタッチメントの利点が失われてしまうように思われるが?……14
 11 通常のオーバーデンチャーと比べて有利な点は何か?……16
 12 磁石構造体とキーパーとの水平的な位置のずれは維持力に影響するか?……17
 13 『マグフィット』と『ハイコレックス』の差異は?……18
 14 クラスプ,コーヌスクローネ,アタッチメントなど,従来の各種維持装置と比べ,磁性アタッチメントが優れている点はどのようなものか?……22
 15 維持力が強いと支台歯を痛めるため,磁性アタッチメントの維持力は小さいほうが望ましいという意見があるが?……24
 16 アタッチメントのサイズをもっと小型化できないか?……25
 17 OPアンカー,スタッドアタッチメントなど,従来の根面維持装置と比較した場合,どのような差異があるのか?……26
 18 キーパーの維持棒の断面形態が丸いと,埋没材の中でのキーパーの固定効果に不安があるが?……28
2 適応症……29
 19 インプラント義歯にも応用できるか?……30
 20 『マグフィット600』と『マグフィット400』との使い分けの基準はどのようなものか?……33
 21 『マグフィット』を間接維持装置として利用することは可能か?……34
 22 『マグフィット』の適応症は?……36
 23 磁性アタッチメントの禁忌症は?……37
 24 残根状態の歯を支台歯として利用できるか否かの判定基準は? 特に,歯周病学的なレベルは?……38
 25 磁性アタッチメント利用時に必要な支台歯の数は?……39
 26 大臼歯では水平的なスペースからみて,1本の支台歯に『マグフィット』を2セット適用できそうに思えるが,何か不都合はあるか?……40
 27 有髄歯をあえて抜髄してまで,磁性アタッチメントを適用する臨床的価値があるでしょうか?……41
 28 同一義歯に多数の磁性アタッチメントを適用すると,義歯の着脱が困難とならないか?……42
 29 少数残存歯の場合,支台歯の負担過重は心配ないか?……44
 30 ハウジングパターンの適応症は?……46
 31 垂直的スペースが不足のとき,磁石構造体を対合歯と直接咬合させても大丈夫か?……48
 32 片側遊離端欠損,特に67欠損症例にも磁性アタッチメントのみを維持装置とした義歯の設計は可能か?……49
 33 ブリッジに利用した症例の経験があったら,臨床的なポイントを教えて欲しい……50
 34 『マグフィット』は小型というが,下顎の前歯では根面から側方にはみ出して,適切な根面形態が採れないが?……52
 35 コーヌスタイプ,根面板タイプなど,異種形態の磁性アタッチメントを同一義歯に組み合わせて用いても構わないか?……53
 36 咬合床への利用も可能であると聞くが?……54
3 診療術式……55
 37 支台歯の根面形成時の留意事項やポイントは?……56
 38 歯根の挺出に利用するときの具体的な空と調整間隔は?……57
 39 コーヌス義歯の修理で,既存のコーヌス外冠に合わせて磁性アタッチメントを設置するのが難しいが,簡便で確実な方法はないか?……58
 40 旧クラスプ義歯の修理に『マグフィット』を用いる場合には,どのような手順で行えばよいのでしょうか?……60
 41 在宅診療では患者の負担の少ない方法で磁性アタッチメントを利用したいが,何かよいアイデアはないか?……61
 42 垂直的スペースが十分でない場合の臨床的対処法は?……62
 43 磁石構造体の義歯床への結合方法にはどのようなものがあるか?……63
 44 磁石構造体を口腔内において即時重合レジンで義歯床へ結合するときに,粗雑な操作はアタッチメントの機能を損なうと聞くが,具体的にはどのようなものか?……64
 45 磁石構造体を義歯床に合着する際,余剰レジンがアンダーカット部に入る危険はないか?……66
 46 磁石構造体を口腔内で義歯床に合着する際,義歯を押さえる力はどのくらいが適当でしょうか?……67
 47 クラスプと併用する場合,レストは設置したほうがよいか?……68
 48 歯間乳頭部の歯質のマージンの位置が高くなり,キーパーの設置が困難となりやすいのですが?……69
 49 磁性アタッチメントの磁石構造体を金属に接着する場合には,どのような接着材がよいか,また,その臨床手順は?……70
 50 少数歯残存症例では一般的に臨床条件が不良であるため,特に術前の徹底したペリオ処置が必要と考えるが?……73
 51 磁性アタッチメント義歯の場合,欠損部の印象採得には特殊な考慮が必要か?……74
 52 根管が著しく平行性を欠く歯根にキーパーを設置するには,どのような注意が必要でしょうか?……75
 53 コーヌスタイプでの利用法の臨床的意義と義歯作製時の具体的な留意点は何か?……76
4 技工術式……79
 54義歯床のレジン重合時に,磁石構造体を直接接合する術式について,その要点を教えて欲しい……80
 55 支台歯の歯種や断面形態に対するキーパーの水平的設置位置や方向の基準は?……81
 56 キーパーの設置方向は義歯の着脱方向や咬合平面との関係から,どのように考えたらよいのでしょうか?……82
 57 義歯床の床縁の設定位置や形態に特別な配慮が必要か?……84
 58 キーパーの鋳接で,根面板に鋳造欠陥が生じてしまった場合の対処法は?……86
 59 根面板の金属に制限はないというが,チタンや銀合金の使用も可能か?……87
 60 根面板蝋型採得時に,キーパー下面のワックスの厚さはどのくらいに設定するのがよいか?……88
 61 酸浴でキーパー表面が荒れたが,原因と対策を教えて欲しい……89
 62 キーパーを鑞着して用いることは可能でしょうか?……90
 63 根面板側面の形態はどのようなものが妥当と考えるか?……92
 64 鋳接後,キーパーの表面に面荒れが生じたが?……95
 65 われわれの院内ラボにはサンドブラスターがないが,代用手段はあるか?……96
 66 電子レンジで重合するレジンを愛用しているが,アタッチメントを損傷する危険があるか?……97
 67 アタッチメントや根面板が,義歯床や人工歯を通して唇側に透過することがあるが,何かよい対策はないか?……98
 68 キーパー鋳接時にリング温度が低いと鋳造ミスを生じやすいそうだが,リングの係留温度を高めたほうが安全だろうか?……100
 69 サンドブラスト処理後,磁石構造体の上面がドーム状に変形してしまったが?……102
 70 キーパーの接合面は研磨してはいけないというが,具体的には鋳接後どのように仕上げるのか?……103
 71 歯冠外アタッチメントとして陶材焼付け冠に適用してみたいのだが,フッ化水素酸液処理によりキーパーが腐食されないか?……104
 72 根面板鋳接時の鋳造ミスの防止法を教えて欲しい……105
 73 磁性アタッチメントを利用した場合,人工歯の種類に制限はあるのでしょうか?……106
 74 コーヌスの形態で利用したいが,技工操作の要点を教えて欲しい……108
 75 有髄歯への適用では技工作業が煩雑にみえるが?……112
 76 磁石構造体を義歯床から撤去する場合,アタッチメントを破損する危険はないか?……116
5 メインテナンス・術後経過……117
 77 上顎に4個の『マグフィット600』を利用したが,無口蓋形態にしたら維持不良であったが?……118
 78 両側性遊離端義歯に『マグフィット』を利用したが,装着後1年ほどで維持力が弱くなりときどき義歯が脱落するようになったが原因は何か?……119
 79 磁性アタッチメント部で義歯床の破折が生じやすくなると思われるが?……120
 80 キーパーを鋳接法で根面板に接合する方法は,異種金属が接することになるため,電位差腐食の可能性が懸念されるが?……122
 81 義歯装着後,磁石構造体の吸着面が黒変したが?……123
 82 磁石構造体を即時重合レジンで合着すると,事後のレジンの劣化,変色,汚染などが懸念されるが,大丈夫か?……124
 83 磁性アタッチメント義歯患者に適当な歯ブラシはあるか?……125
 84 リベース時に考慮すべき特殊な事柄があるか?……126
 85 金属アレルギーは大丈夫か?……128
 86 一般的な術後成績はどうか?……129
 87 義歯装着後,磁石構造体が義歯床から脱離したが,原因と対策を教えて欲しい……130
 88 磁性アタッチメントの典型的な症例であるオーバーデンチャーでは,支台歯部のプラークコントロールが不利にならないでしょうか?……133
 89 マグネットデンチャーに義歯洗浄剤を利用しても大丈夫か?……134
6 その他……135
 90 磁気の生体への影響はどの程度のものか?……136
 91 口腔内に入れた磁性アタッチメントは,MRI撮像時に障害とならないか? また,もし影響があるとしたら,臨床的にはどの程度のものか?……137
 92 磁性アタッチメントのキーパーは磁石の影響で順次磁化され,やがてMRIに影響を及ぼすようになると思われるが?……138
 93 MRI撮像時の障害については,患者に具体的にはどのように説明すればよいのでしょうか?……139
 94 MRI対策として,ネジ機構などを取り入れた可撤性のキーパーの用意はあるか?……140
 95 MRI撮像のため,どうしてもキーパーを撤去しなければならなくなった場合どうするのか?……142
 96 キーパー付き根面板を支台歯に試適したら適合不良であったが,キーパーの再利用は可能か?……143
 97 技工またはチェアーサイドでの操作時に,磁石構造体がピンセットに吸着して思うような操作ができないが,何かよい方法はあるか?……144
 98 ペースメーカーや補聴器への影響はないか?……146
 99 根面板試適時にキーパーキャリアーに吸着させると,吸着面で回転して方向が不安定になるが,キャリアーの吸引力が不足では?……148
 100 磁性アタッチメントを隣接歯に適用した場合,何か磁気的な相互作用が発現するか?……149
 101 磁性アタッチメントの海外の製品,およびその利用状況はどうか?……150
 102 私の患者で繁に海外旅行をする者が,『マグフィット・カード』の英語版も欲しいとのことだが,入手可能か?……151
 103 空港での金属探知機で,磁性アタッチメント義歯が問題となるようなことはないか?……152
 104 キーパーの根面板への接合を鋳接と呼んでいるようだが,用語が妥当だとは思えないが?……154
 105 食事のとき,スプーンなどがアタッチメント部に吸着するようなことはないか?……155
 106 アタッチメントを誤飲しても大丈夫か?……156
 107 キーパーそのものを,通常の補綴物のように鋳造して作製できる合金はあるか?……157
 108 磁性アタッチメントに関して,現時点での問題点と将来の展望はどのようなものかを聞かせて欲しい……158