序文
hydroxyapatiteの結晶構造が,結晶学的な研究によって1960年代の初頭にほぼ完全に解明されてから,さらに歯と骨の無機成分がhydroxyapatiteの結晶によって構成されていることが明らかにされ,それが今では定説となっております.
著者は今日まで40年もの間,種々の研究方法を用いて歯や骨など硬組織の構造上の特徴を把握するための一連の研究を行ってきました.著者は光学顕微鏡によって歯や骨組織の基本的な構造について観察を行うことから始め,その後電子顕微鏡の普及によって電子顕微鏡による観察をも併用することができるようになり,それによってさらに歯と骨の基本構造についてさらに詳しく把握することができるようになってきました.
歯と骨のような硬組織の基本構造を理解するためには,それに含まれている有機成分と無機成分について根本的に理解を深めることが必要となります.しかし有機成分に関してはかなり古くから,とくに生化学の分野で詳しく研究がなされており,それらの本体も徐々に明らかにされて,それに関する情報も国内外を問わず多く世の中に紹介されるようになってきました.それに比べてエナメル質はほとんど無機成分からなり,象牙質や骨でも無機成分が約70%も含まれているにもかかわらず,無機成分に対する観察は今日まで大変遅れており,それらに関する情報もあまり見あたらない現実でした.また歯や骨が人体のなかでもっとも硬い組織であるために,それが大きな障害となって形態学的な研究も人体の他の組織に比べて非常に遅れているのが現状でした.
それで歯と骨の構造を十分に理解するには,それらの有機成分とも合わせて,無機成分の構造上の特徴や性格を十分に把握したうえで観察する必要があると考えました.しかしそれには著者自身形態学的な立場からも解決していくしかないと,この問題に取り組むことを決意しました.その頃歯や骨を構成するhydroxyapatite結晶について,結晶学的な立場からの研究も発展し,多くの見解が出されて,それらの構造上の性格なども徐々に明らかとなってきました.
それによって歯と骨を構成しているhydroxyapatite結晶について,結晶学的な構造上の特徴と性格に関する所見をも理解を深めることができるようになり,さらに電子顕微鏡による観察を行うため未脱灰のまま超薄切片を作製することに励んできました.やがて電子顕微鏡の分解能の向上とあいまって,未脱灰超薄切片を用いて電子顕微鏡による観察も可能となり,ついには歯や骨を構成するhydroxyapatite結晶の微細構造について,世界に先駆けて初めて1,000万倍以上に拡大して,ほぼ原子配列のレベルでの高分解能で,結晶の微細構造について直接観察することができるようになりました.したがって長い間に形態学的な立場から得られた歯と骨を構成するhydroxyapatite結晶の構造上の特徴と性格に関する所見についてここにまとめ,広く参考に供し,なにかのお役にたてばと思い,出版を志しました.
平成7年6月吉日 一條 尚
hydroxyapatiteの結晶構造が,結晶学的な研究によって1960年代の初頭にほぼ完全に解明されてから,さらに歯と骨の無機成分がhydroxyapatiteの結晶によって構成されていることが明らかにされ,それが今では定説となっております.
著者は今日まで40年もの間,種々の研究方法を用いて歯や骨など硬組織の構造上の特徴を把握するための一連の研究を行ってきました.著者は光学顕微鏡によって歯や骨組織の基本的な構造について観察を行うことから始め,その後電子顕微鏡の普及によって電子顕微鏡による観察をも併用することができるようになり,それによってさらに歯と骨の基本構造についてさらに詳しく把握することができるようになってきました.
歯と骨のような硬組織の基本構造を理解するためには,それに含まれている有機成分と無機成分について根本的に理解を深めることが必要となります.しかし有機成分に関してはかなり古くから,とくに生化学の分野で詳しく研究がなされており,それらの本体も徐々に明らかにされて,それに関する情報も国内外を問わず多く世の中に紹介されるようになってきました.それに比べてエナメル質はほとんど無機成分からなり,象牙質や骨でも無機成分が約70%も含まれているにもかかわらず,無機成分に対する観察は今日まで大変遅れており,それらに関する情報もあまり見あたらない現実でした.また歯や骨が人体のなかでもっとも硬い組織であるために,それが大きな障害となって形態学的な研究も人体の他の組織に比べて非常に遅れているのが現状でした.
それで歯と骨の構造を十分に理解するには,それらの有機成分とも合わせて,無機成分の構造上の特徴や性格を十分に把握したうえで観察する必要があると考えました.しかしそれには著者自身形態学的な立場からも解決していくしかないと,この問題に取り組むことを決意しました.その頃歯や骨を構成するhydroxyapatite結晶について,結晶学的な立場からの研究も発展し,多くの見解が出されて,それらの構造上の性格なども徐々に明らかとなってきました.
それによって歯と骨を構成しているhydroxyapatite結晶について,結晶学的な構造上の特徴と性格に関する所見をも理解を深めることができるようになり,さらに電子顕微鏡による観察を行うため未脱灰のまま超薄切片を作製することに励んできました.やがて電子顕微鏡の分解能の向上とあいまって,未脱灰超薄切片を用いて電子顕微鏡による観察も可能となり,ついには歯や骨を構成するhydroxyapatite結晶の微細構造について,世界に先駆けて初めて1,000万倍以上に拡大して,ほぼ原子配列のレベルでの高分解能で,結晶の微細構造について直接観察することができるようになりました.したがって長い間に形態学的な立場から得られた歯と骨を構成するhydroxyapatite結晶の構造上の特徴と性格に関する所見についてここにまとめ,広く参考に供し,なにかのお役にたてばと思い,出版を志しました.
平成7年6月吉日 一條 尚
I 緒言……1
II 歯と骨に関する研究方法の推移と結晶の観察法……3
III 歯と骨を構成する無機の結晶……7
A.歯や骨のアパタイト結晶に関する研究の歩み……7
1.結晶学的な観察の歩み……8
2.電子顕微鏡による観察の歩み……9
3.hydroxyapatiteの結晶……10
IV 歯と骨の基本構造……17
A.エナメル質の基本構造……18
1.エナメル小柱と小柱間質……18
2.エナメル質結晶の配列方向……23
B.象牙質の基本構造……23
C.骨組織の基本構造……27
V エナメル質・象牙質・骨の結晶……31
A.エナメル質の結晶……31
B.象牙質と骨の結晶……40
1.象牙質の結晶……40
2.骨の結晶……51
3.骨と象牙質の線維間と線維内の結晶……55
VI 結晶の微細構造に関する三次元的観察……67
VII 結晶の構造欠陥……75
A.点欠陥……75
1.原子の欠落と置換……75
2.歯科領域におけるフッ素(F)塗布の効果……84
B.線欠陥……85
1.刃状転位とラセン転位……85
C.面欠陥……90
1.結晶表面……90
2.積層欠陥……93
3.他の構造欠陥……95
1)双晶……95
2)結晶のねじれ……95
VIII 結晶の融合……101
IX 結晶の崩壊……109
謝辞……119
参考文献……121
索引……129
II 歯と骨に関する研究方法の推移と結晶の観察法……3
III 歯と骨を構成する無機の結晶……7
A.歯や骨のアパタイト結晶に関する研究の歩み……7
1.結晶学的な観察の歩み……8
2.電子顕微鏡による観察の歩み……9
3.hydroxyapatiteの結晶……10
IV 歯と骨の基本構造……17
A.エナメル質の基本構造……18
1.エナメル小柱と小柱間質……18
2.エナメル質結晶の配列方向……23
B.象牙質の基本構造……23
C.骨組織の基本構造……27
V エナメル質・象牙質・骨の結晶……31
A.エナメル質の結晶……31
B.象牙質と骨の結晶……40
1.象牙質の結晶……40
2.骨の結晶……51
3.骨と象牙質の線維間と線維内の結晶……55
VI 結晶の微細構造に関する三次元的観察……67
VII 結晶の構造欠陥……75
A.点欠陥……75
1.原子の欠落と置換……75
2.歯科領域におけるフッ素(F)塗布の効果……84
B.線欠陥……85
1.刃状転位とラセン転位……85
C.面欠陥……90
1.結晶表面……90
2.積層欠陥……93
3.他の構造欠陥……95
1)双晶……95
2)結晶のねじれ……95
VIII 結晶の融合……101
IX 結晶の崩壊……109
謝辞……119
参考文献……121
索引……129