やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 現在のインプラント治療は,補綴主導型であるといわれる.この補綴を念頭に置いた治療の最終目標は,正しい咬合位置で配置されたインプラントを確立することにある.位置の確立には,顎関節の正しい位置による骨格と筋肉の調和した咬合位の獲得が不可欠である.しかしながら,口腔内の情報のみでこれらの調和を確立することは困難であるにも関わらず,多くの症例で顎関節の状態,上下顎骨の三次元的な位置,顔貌および筋肉の走行といった骨格および軟組織の評価に基づいた診断と治療指針が示されていないのが現状ではないだろうか.
 これらの改善のためには,骨格,顎関節,顔貌のプロファイル,筋肉の緊張など咬合位が影響を受ける多くの器官を総合的に検査,診断し,本来その個人がもつ理想的な咬合位のみならず顎関節の位置および顔貌形態を最終ゴールとして設定し,治療を進めていく必要がある.すなわち「機能的顔貌主導型」ともいえる,全体像を伴った診断に基づく治療である.
 現在では,歯科用CT(CBCT)の普及に伴い顎骨や顔貌などの口腔外データをはじめ,口腔内カメラの登場による口腔内データ取得もデジタル化が進み,情報の採得と共有,管理は容易となった.デジタルデータの普及を背景に,理想的な顎関節の位置と顔貌の調和を目指した総合診断によるインプラント治療の取り組みは,将来にわたりますます重要性を帯び,需要は高まるであろう.
 今回,この「機能的顔貌主導型インプラント治療」について整理しまとめる機会を得たので,普段より研鑽を積んでいるチームとここに書籍として,診断の要点と手順,データの取得と共有,および治療の実際について詳細に解説し,その方法を記すこととした.
 本書が今後,「機能的顔貌主導型インプラント治療」を目指す歯科医師,歯科技工士,歯科衛生士の指針になれば幸いである.
 雷鳴轟く初夏の診療室にて
 月岡庸之
 はじめに
序論 Functional Profile Driven Implant Treatment 機能的顔貌主導型インプラント治療とは
 フローチャート(大谷 昌)
 01 なぜ,顔貌・骨格・顎関節の視点が必要なのか?
 02 顔貌・骨格・顎関節を考慮した治療
CHAPTER 1 顔貌評価
 01 プロファイルの記録
  1(鷹木雪乃)
  2(古谷忠典)
 02 プロファイル(側貌写真)の評価(鷹木雪乃)
 03 顔貌の老化
 04 口唇
  1,2(鷹木雪乃)
  3,4(古谷忠典)
CHAPTER 2 顎関節診断
 01 顎関節の解剖学・CT画像(正常像)の読影(箕輪和行)
 02 顎関節MRI読影の要点
 03 病的所見(disc displacement,joint effusion,edema,軟骨下嚢胞,骨棘,偽円板化,強直症)
 04 赤色随について
 05 アーチファクトについて
CHAPTER 3 セファロ分析と咬合平面
 01 軟組織分析(古谷忠典・鷹木雪乃)
 02 硬組織セファロ分析
 03 骨格からみた咬合平面(古谷忠典)
CHAPTER 4 スプリント療法とCPIレコードの分析・診断
 01 パナデント咬合器を用いた石膏模型のマウント(鷹木雪乃)
 02 CPIレコードの取得
  1,2(鷹木雪乃)
  3(古谷忠典)
 03 スプリント療法(鷹木雪乃)
 04 CO-CR conversion
CHAPTER 5 顔貌主導型治療計画のワークフロー
 01 インプラントシミュレーションソフトの活用とその変遷(月岡庸之)
 02 デジタルフェイシャルデータとデジタルインプラント設計
 03 リップラインと顔貌のハーモニーのために
 04 デジタルデータの活用―治療の実際―
CHAPTER 6 顔貌主導型インプラント外科の注意点
 01 適切な骨のマネジメントとは (1)上顎母骨の削除(大谷 昌)
 02 適切な骨のマネジメントとは (2)舌側へのGBR
 03 デジタルガイデッドサージェリーその基礎と臨床応用とは(月岡庸之)
CHAPTER 7 上下顎顎骨のズレへの対応
 01 上下顎アーチのすれ違い症例への対応 (1)ClassII(大谷 昌)
 02 上下顎アーチのすれ違い症例への対応 (2)Class III
 03 垂直的および水平的顎間距離不足症例への対応 (1)ピンクマテリアルの応用
 04 垂直的および水平的顎間距離不足症例への対応 (2)適切なピンクマテリアルの位置決定基準とは?(月岡庸之)
CHAPTER 8 再評価とメインテナンス
 01 メインテナンスの要点(鷹木雪乃)
 02 X線規格写真と模型を併せてみることの大切さ
 03 歯を多く保存する骨格の条件
 04 口腔内が崩壊した患者の考察

 索引
 著者略歴