やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
それでも金属修復物で治療しますか!?
 私は,大学を卒業後,約40年間大阪歯科大学に在職させていただき,2017年に退職後は奈良県歯科医師会でお世話になっています.大学在職時には,歯科補綴学領域において修復材料の臨床的な研究,歯学部学生教育,そして歯科技工士および歯科衛生士教育にも携わらせていただいてきました.人生,時が過ぎるのは早いもので「古希」を過ぎ,自分のこれまでの人生を振り返った時,「かたちになるものが何か残せたのか?」とふと考えるようになりました.大学在職当時からこれまでに数多くの人との出会いがあり,多くの経験をさせていただいたことに感謝する意味でも,書籍として後世に残すことができればと思い,拙い執筆をさせていただきました.
 歯科医療の道に進み,これまでの研究や臨床において一番気になっていたのが,「どうして口腔内の修復に金属を使用するのか!」ということです.よりよい修復材料がなかった当時は,金属修復材料も仕方ありませんでしたが,デジタル機器の普及にともなって歯科用CAD/CAMシステムが導入され,これまで取り扱ってきた材料のほか,さらにハイブリッド型コンポジットレジンやジルコニアなどの新しい材料で口腔内の修復物を製作できるようになり,しかも保険適用が可能になってきました.「口腔内の修復物から金属をなくしたい」という私の切実な思いが実現可能となってきたのです.
 しかし,新素材には特性があり,十分理解して臨床適用しないと思わぬ失敗を招くことになり,その失敗を材料のせいにしてしまうことが多々あります.それでは「新素材」があまりにもかわいそうです.これまで修復物の多くを金属に頼っていたので,どうしても金属と同じような感覚でCAD/CAM冠やジルコニアクラウンを取り扱ってしまいます.その結果,脱離や破折が生じてしまうことがあります.本書では,「新素材」の味方になって,適切な取り扱いがされるように解説させていただきました.
 歯科医療には「保険診療」と「自費診療」がありますが,術者が行うプロセスにおいて最高の技術力を発揮することに変わりはありません.しかし,使用する材料が異なれば,当然術式も変わってきます.適応症を判断し,適切な材料を用いる場合,その特性を理解して,材料に応じた術式,取り扱いを行わなければ「材料」の真価を発揮させることもできません.臨床でつまづいたときに,ちょっと手を休めて本書を手に取っていただければ幸甚です.
 私の長年の思いの一つとして本書が執筆できましたことにとても充実感を覚えています.本書が,臨床が大好きで真摯に取り組まれておられる先生方に少しでも役立てば望外の喜びです.本書が世に出るにあたって,多大なご尽力を賜りました医歯薬出版株式会社および関係各位に心より感謝申し上げます.
 2023年7月
 末瀬一彦
 はじめに
01 序論
02 金属修復物の課題
 1)金属(金銀パラジウム合金)の保険導入の経緯と現状
 2)金属修復物による支台歯および周囲歯肉の変色
 3)金属を用いた支台築造による歯根破折
 4)貴金属価格の不安定
 5)金属アレルギーの発症
 6)チタン冠は大丈夫?
03 CAD/CAM冠の保険導入
 1)金属修復からの脱却に期待される歯科用CAD/CAMシステム
 2)CAD/CAM冠の保険導入の経緯と経過
 3)CAD/CAM冠の臨床応用の現状
04 CAD/CAM冠の臨床応用上の留意点
 1)CAD/CAM冠用レジンブロックの特徴
 2)硬質レジンジャケット冠やレジン前装金属冠との違い
 3)CAD/CAM冠のエビデンス
 4)CAD/CAM冠成功への秘訣
  (1)CAD/CAM冠の支台歯形成
  (2)CAD/CAM冠の適合性
  (3)CAD/CAM冠の試適・咬合調整・研磨
  (4)CAD/CAM冠の接着操作
  (5)CAD/CAM冠の色調再現性(前歯部の色調)
  (6)CAD/CAM冠の症例の選択
 5)CAD/CAM冠の今後への期待
05 ジルコニアの歯冠修復への応用
 1)歯科用セラミックスの変遷
 2)修復物に用いるジルコニアの特徴
  (1)機械的特性
  (2)透光性
  (3)耐摩耗性,研磨
 3)ジルコニアボンドセラミッククラウンの特性
  (1)表面のサンドブラスト処理
  (2)熱処理
  (3)フレームの形態
 4)ジルコニアクラウンのエビデンス
 5)支台歯形成
 6)接着操作
 7)クラウンの除去
 8)今後への期待
06 ファイバーポストの正しい使用方法
07 歯科用CAD/CAMシステムの開発・現状・展望
08 歯科技工の現状と展望
 1)歯科技工の現状
 2)歯科技工のデジタル化の課題
  (1)アナログ的な技能とデジタル技工の融合
  (2)高価な設備投資,一般企業からの参入
  (3)IT活用に対する不安
  (4)海外への歯科技工の流出
  (5)環境改善への対策
  (6)デジタル機器活用に関する教育
 3)これからの歯科技工
 4)これからの歯科技工士教育
09 これからの歯科医療〜「9028」の実現を目指して〜
10 おわりにあたって

 参考文献
 索引
 あとがき