やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 近年,セカンドオピニオンという考え方が広まり,私たちの診療室にも主治医以外の意見を求めて来院する方が増えています.患者さんのかかえている悩みの内容はさまざまですが,なかでも多い相談は「“歯を抜きましょう”といわれたのですが,本当に抜かなくてはいけないのか診てほしい」というものです.
 「歯を抜かずに治したい」というのは誰しもの望みですが,抜歯をするしないの基準は歯科医によって違いがあり,「え?!この歯を抜いてしまうの?」という場合もあれば,「こんな歯でも残すの?」という判断まで,さまざまな対応がなされています.
 私は「こんな歯でも残すの?」というほうの一人で,自然に抜け落ちてしまう歯は別にして,歯を抜くことなく歯周病を治したいと考えています.けれども,この「抜かずに治す歯周病治療」というのは,聞こえはよいのですが,実はデメリットもたくさんあります.
 抜かずに歯周病を治したら,なんでも食べられ,見た目も十分に満足できる状態に戻れると思ってしまいがちですが,歯周病が治ったとしても,歯がはえそろったときのような健康状態に戻れるわけではありません.歯周病が重度に進行すると,歯を支えている組織が大きく壊されてしまうので,歯の根の部分が露出して,見た目が悪くなってしまいますし,健康だったころのようになんでも噛める状態に戻れるわけでもありません.さらに,歯を支える組織が失われて噛む能力が低下した歯にかかる負担の軽減や,失われた歯の機能回復をはかるために,入れ歯が必要だったり,「固定」をしなくてはならなかったりといった不自由さも我慢していただかなければなりません.
 歯周病は感染症の一種ではあるのですが,結核のように原因菌がはっきりした感染症ではなく,病因は細菌因子や宿主因子が複雑にからみあっていると考えられています.病因のうちの細菌のコントロールは,ブラッシングを行うことでおおむねその目的を達することができますが,治療のブラッシングはていねいに長時間行う必要があり,これを毎日行わなければなりません.また,宿主因子は,患者さんの生活の中にその原因が潜んでいるので,その原因を見つけだし,ご自身でそれを解決しなければなりません.
 つまり,重度の歯周病を抜かずに治そうとすれば,患者さんの役割分担が大きくなるというデメリットを承知していただいたうえで,積極的に「治療に参加」していただく必要があるのです.
 この本は,前著「歯周病─わかる・ふせぐ・なおす」を継承して,歯周病は決して怖い病気ではないこと,多くの歯科医が「抜く」と判断するであろう重度歯周病の歯も,抜かずに治すこともできることを中心に書きなおしました.この本が,皆様方の歯周病対策の一助になれば幸いです.
 2012年夏 小西 昭彦
(1)歯周病は怖い!?
(2)歯肉炎と歯周炎/歯周病の進み方
(3)歯周病の進行とX線写真
(4)歯周病は歯肉の炎症から始まる
(5)歯肉炎はブラッシングで治す
(6)歯肉炎の治り方
(7)歯周ポケット
(8)歯周炎の原因/喫煙も問題!
(9)歯周炎とストレス
(10)歯がぐらぐらするもう一つの理由
(11)歯周病の治療
(12)歯周病治療の流れ
(13)抜かなければいけないの?
(14)抜歯の基準
(16)歯周病の再発/義歯と固定
(17)インプラントと歯周炎

 あとがき