やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって

 初代,照内昇教授以来,日本大学歯学部放射線学教室は80余年の歴史を誇っています.その間,鈴木勝教授,安藤正一教授,西連寺永康教授の教室運営を経て現在に至っています.その間一貫して,新しい撮影法の開発を行い,そのつど,新たな診断・治療の分野を築いてきました.古くは,顎関節の規格撮影装置,回転パノラマ装置,最近では私が試みておりましたX線テレビによる口内撮影法,これを新井博士が発展させデジタルパノラマ装置と続きました.本教室のこのような歴史のなかで,21世紀にふさわしい,歯科医療に最適化した小型のX線CTの開発に成功し,臨床に大きく寄与できたことは,まことに感慨深いものであります.
 本書は,この歯科用小型X線CTの臨床的な有用性について,第一線の臨床家の先生から症例の報告をいただき編纂したものであります.読者のみなさまに,3次元的な画像がその後の診断や治療に大きく影響を与え,その治療成績に大きく寄与したことが理解され,まさに,21世紀の歯科医療として,広く普及していくことを望みます.
 日本大学教授歯学部放射線学教室 篠田 宏司


 歯科用小型X線CTは,歯科専用のCTとして自ら開発したものである.この試作機は,日本大学歯学部倫理委員会の許可を得て,1997年より臨床を開始し,2002年6月には7,000症例を超える症例を累積し,その高精細な3次元画像によって,診断・治療に革命的な変化を与えた.
 本書は基礎編と臨床編で構成されていて,読者が興味のある分野のどの章から読んでもよいように構成した.各症例は,単に画像上興味のあるものではなく,歯科用小型X線CTの術前の画像評価が処置計画に影響を与え,実際に第一線の歯科医師によって処置が行われて,その後の経過において,3次元画像診断の有効性が示された興味深い症例を厳選して掲載してある.したがって,単なる画像だけの書にとどまるものではなく,診断や処置についても新しい考え方が提示されている.
 また,CD-ROMには最新の歯科用小型X線CT(3DX:モリタ製作所,京都)による臨床例が提示されている.
 今後は,3次元画像診断を歯科臨床に積極的に取り入れることで,より確実性の高い処置が行われ,最終的には患者さんの失われた口腔機能の回復に寄与できるものと確信する.
 松本歯科大学歯科放射線学講座助教授 新井 嘉則

歯科用小型X線CT開発秘話──開発のきっかけは同僚の一言から──

 1992年当時,回転パノラマ撮影装置のデジタル化に一応成功したものの,被曝線量,計算時間,画質,コストともに従来のフィルム法に比較して著しく性能が劣り,まったく実用化のめどがたたず,研究に行き詰まっていました.そんなとき,当時から熱心に顎関節を研究していた本田和也先生が私の開発したデジタルパノラマ装置を指さして,「顎関節を3次元でみられないか?」と質問され,私は「原理的に不可能」とお答えしました.そう答えた自分でしたが,必要性があるのなら開発を開始しようと心に決め,この歯科用小型X線CTの開発が始まりました.ちょうど,沖縄へ離島診療に出張する機会にめぐまれ,じっくり考える機会を得て構想をねりました.
 開発にはX線管球が頭部の周囲を360°回転する装置が必要であったので,当時,世界で唯一それを満たす,歯科用多機能撮影装置(Scanora,Soredex Co.,Finland)をどうしても実験機として必要としていました.そこで,この装置を開発したFinlandのTurku大学のErkki Tammisalo教授のところへ留学を決意し,1995年4月より9カ月間留学しました.現地で,Scanoraを改造した装置で何とか顎関節の3次元画像の再構築に成功したのは,帰国間近の12月でした.帰国のときにTammisalo教授より,研究遂行のためにこのScanoraが必要であろうと,その実験機を譲っていただき日本に持ち帰ることができました.その後,2年間,理論値が出るまで研究を続け,1997年の11月に完成し,その翌月には臨床応用を開始しました.その後,技術移転をしてモリタ製作所が実用機として“3DX multi image micro CT”を完成させ,輸出第1号機がTammisalo先生の診療所に2002年2月に設置され,稼働を開始しました.Tammisalo先生にはわが子が凱旋したように喜んでいただき,開発が完了したことを報告できたことは,開発した者でしか理解できない至福でありました.
 この10年間,開発を断念する機会は無数にありましたが,それを支えていただいた篠田宏司教授,西連寺永康教授,E.Tammisalo教授をはじめ,本田和也先生,岩井一男先生に御礼申しあげます.また,モリタ製作所の森田隆一郎社長をはじめ,牧野高雄様,森啓介様,橘昭文様,鈴木正和様,中井照二様,堀田光彦様,技術移転にご苦労をいただいた日本大学国際産業技術・ビジネス育成センタ-のコ-ディネ-タ-片山充子様,3DXの撮影および処理をしていただいた佐藤精明技師,丸橋一夫技師,本城谷孝技師,里見智恵子技師,6,400症例のデ-タベ-スを運用していただいた加島正浩先生,鈴木ひとみ先生,高野由美先生,秋山裕先生に御礼申しげます.また,以下の補助金により本装置の研究開発が行えました.日本大学歯学部佐藤奨学金,日本大学歯学部上村奨学金,日本大学歯学部総合歯学研究所,日本大学学術研究助成金,日本歯科医学会受託研究補助金,文部省私学助成金(高度化推進新技術開発研究),文部省科学研究費,近畿通産局新規産業創造技術開発補助事業,文部科学省学術フロンティア推進事業,モリタ製作所受託研究費,松本歯科大学特別研究費補助金.そして最後に,わが家族,とくに妻良江に深謝します.

付録CD-ROMのご使用にあたって

 1)本CD-ROMをご利用になる方のコンピュ-タへのインスト-ルを除いて,本CD-ROMの内容(プログラム,デ-タなど)の複製を禁じます.
 2)医歯薬出版株式会社および本CD-ROMの開発関係者は,本CD-ROMを運用した結果について,一切の責任を負いません.
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病診連携による3次元X線画像(3DX)撮影サ-ビスについて

 3DXの撮影依頼を積極的に受けている下記の大学病院があります.日本大学歯学部付属歯科病院は2台の3DXが稼働中で,年間2,200症例(2001年)の実績があります.撮影は予約制で,撮影後1週間程度で画像と所見が郵送されるシステムとなっています.また,松本歯科大学には3DXの市販第1号機が稼働中で,同様のサ-ビスを行っています.
 撮影依頼の場合は,下記に連絡をいただき,予約をお願いいたします.また,患者さんには紹介状とデンタルやパノラマのX線フィルムを持参させてください.費用は,保険適用外で自費となりますので,ご留意ください.
 日本大学歯学部付属歯科病院歯科放射線科
 東京都千代田区神田駿河台1-8-13
 電話 03-3219-8084(歯科放射線科外来直通)
 松本歯科大学歯科病院歯科放射線科
 長野県塩尻市広丘郷原1780
 電話 0261-51-2097(歯科放射線科外来直通)
◆基礎編
総論
 1 歯科用小型X線CT開発の経緯
 2 累積症例について
 3 歯科用小型X線CT(3DX)の被曝線量
 4 歯科用小型X線CTの有効性
 5 歯科用小型X線CTの限界
  1.歯科用金属による偽像
  2.体動による偽像
  3.撮影範囲
  4.軟組織の診断
 6 撮影法
  1.実際の撮影方法
 7 XYZ方向の同時連続断層像の表示
 8 歯軸を中心とした正常像
  1.下顎骨の歯列横断像
  2.上顎骨の歯列横断像
◆臨床編(本編の口腔内写真は,2色トーンのため実際とは多少異なります)
1章 歯内療法
 1 歯牙破折,根尖病巣等 (小森規雄)
  症例1 歯根破折に伴う歯肉の腫脹
  症例2 フェネストレーション
  症例3 上顎洞に及ぶ根尖病巣
  症例4 ■慢性根尖性歯周炎
  症例5 ■慢性根尖性歯周炎および■智歯周囲炎
  症例6 ■慢性根尖性歯周炎
 2 歯内歯 (前田隆秀)
  症例 歯内歯による根尖性歯周炎ならびに化膿性歯槽骨炎
2章 顎機能と総義歯治療
  症例 顎機能異常を伴う総義歯
3章 歯周治療
 1 垂直型骨欠損の診断 (吉沼直人)
  症例 1〜3壁性混合型骨欠損
 2 根分岐部病変の診断 (鈴木邦治)
  症例1 2級根分岐部病変
  症例2 3級根分岐部病変
 3 フェネストレーションの診断 (鈴木邦治)
  症例 フェネストレーション
 4 歯根破折の診断 (吉沼直人)
  症例1 ■歯根破折
  症例2 ■歯根破折の疑い
 5 根分岐部病変に対する自家骨移植+GTR法(非吸収性膜) (伊藤公一)
  症例 2級根分岐部病変と3壁性垂直型骨欠損の合併
 6 垂直型骨欠損に対する吸収性膜を用いたGTR法 (鈴木邦治)
  症例 ■間の垂直型骨欠損に対するGTR法
 7 垂直型骨欠損の処置 (吉沼直人)
  1.歯間部骨面露出術
  症例1 2〜3壁性混合型骨欠損
  2.エムドゲイン(R)の応用
  症例2 1〜3壁性混合型骨欠損
4章 口腔外科治療
 1 上顎正中過剰埋伏歯の抜歯 (本田雅彦・寺門正昭)
  症例 上顎正中過剰埋伏歯
 2 上顎埋伏犬歯の抜歯 (上原 任・寺門正昭)
  症例 上顎埋伏犬歯
 3 下顎管に近接した過剰埋伏歯の抜歯 (上原 任・本田雅彦・寺門正昭)
  症例 ■根尖部過剰埋伏歯
 4 下顎埋伏智歯の迷入歯根摘出手術 (本田雅彦)
  症例 下顎埋伏智歯口腔底迷入
 5 オトガイ孔付近に生じた嚢胞摘出手術 (上原 任)
  症例 ■含歯性嚢胞
 6 下顎智歯部の含歯性嚢胞摘出手術 (上原 任・秋山 裕)
  症例 ■含歯性嚢胞
 7 インプラント周囲炎による上顎インプラント除去手術 (本田雅彦・秋山 裕)
  症例 インプラント周囲炎
 8 歯牙移植術 (上原 任・本田雅彦)
  症例 ■→■への歯牙移植術
5章 顎関節治療
 1 顎関節部への歯科用小型X線CTの応用 (本田和也)
  1.単純断層との比較
 2 透視下による穿刺法 (本田和也)
  1.装置および方法
  2.症例
  3.まとめ
 3 小児の顎関節症(1) (中川正治)
  症例 下顎の側方偏位による左側顎関節痛
 4 小児の顎関節症(2) (中川正治)
  症例 下顎の後方偏位による顎関節痛
 5 小児の顎関節症(3) (中川正治)
  症例 下顎の後方偏位による右側顎関節部と咀嚼筋の圧痛
 6 思春期の顎関節症(1) (中川正治)
  症例 左側顎関節のクローズドロック
 7 思春期の顎関節症(2) (中川正治)
  症例 左側顎関節のクローズドロック
 8 顎関節症状改善後に顎関節部にリモデリングが生じた症例 (大山哲生)
  症例 両側顎関節症(復位を伴わない関節円板前方転位)
 9 スプリント療法とパンピングマニピュレーション療法 (壹岐俊之)
  症例 退行性変化とリモデリング
 10 下顎頭関節包内骨折 (本田和也)
  症例 下顎頭骨折
 11 顎関節強直症 (本田和也)
  症例 顎関節強直症
6章 小児・矯正歯科治療
 1 乳歯外傷における歯根吸収の有無の診断 (川島成人)
  症例 乳歯外傷による変色歯
 2 自閉症児におけるパニック回避と診断 (川島成人)
  症例 含歯性嚢胞の開窓術
 3 埋伏歯の診断 (鎌田勝之)
  症例 ■埋伏を伴うアングル不正咬合分類II級叢生
 4 移転歯を有する矯正例 (鎌田勝之)
  症例 ■移転歯を伴うアングル不正咬合分類I級
7章 インプラント治療
 1 インプラント埋入のための歯科用小型X線CTによる術前診査 (萩原芳幸)
 2 歯科用小型X線CTによるインプラント症例の診査・診断(1)―基本的症例 (萩原芳幸)
  症例 下顎大臼歯1歯欠損症例
 3 歯科用小型X線CTによるインプラント症例の診査・診断(2)―下顎インプラントにおける偶発事故について (萩原芳幸)
  1.下歯槽神経に対する損傷
  症例1 下顎管損傷が疑われた症例
  2.舌側皮質骨の穿孔
  症例2 舌側皮質骨穿孔を起こした症例
症例3 下顎臼歯部舌側に著しい陥凹を認めた症例
 4 歯科用小型X線CTによるインプラント症例の診査・診断(3)―上顎インプラントにおける診査・診断と偶発事故 (萩原芳幸)
  症例1 術前診査により,インプラントによる審美的な回復が困難であると判断した症例
  症例2 上顎洞と鼻腔との3次元的位置関係に注意が必要な症例
 5 骨再生誘導法を行った症例 (萩原芳幸)
  症例 インプラント埋入時にGBRを行った症例
 6 歯根破折から抜歯,ソケットリフト法によるインプラント埋入まで (萩原芳幸)
  症例 ソケットリフト法(オステオトーム法)を行った症例
 7 上顎洞底増大術およびベニアグラフトの術後観察例 (萩原芳幸)
  症例 上顎洞底増大術(Sinus lift)を行った症例
 8 インプラントの失敗症例に対する歯科用小型X線CTの活用 (萩原芳幸)
  症例1 骨吸収の経過例(1)
  症例2 骨吸収の経過例(2):形状記憶ブレードインプラント
 9 上顎臼歯部欠損に対するソケットリフト法を応用したインプラント治療 (小木曾文内)
  症例 上顎臼歯部欠損に対するインプラント
 10 上顎右側多数歯欠損に対するソケットリフト法を応用したインプラント治療 (小木曾文内)
  症例 上顎右側多数歯欠損に対するインプラント
 11 上顎中間欠損の骨幅狭窄症例 (小木曾文内)
  症例 上顎中間欠損に対するインプラント
 12 下顎大臼歯部欠損の下顎管近接症例 (小木曾文内)
  症例 下顎大臼歯部欠損に対するインプラント
 13 歯根破折・抜歯窩の治癒診断およびインプラント治療 (小木曾文内)
  症例 歯根破折・抜歯に対するインプラント

 文献
 索引