やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 ホワイトニングに関する著書はすでに数多く出版されており,すぐれた著書も少なくない.そのような中で,あえて本書の出版を意図したのは新製品の急造氾濫に加えて,なかには理解しがたい製品もあり,この際われわれの手で整理しておく必要性を痛感したためである.執筆中にもホワイトニングに関する製品はめまぐるしく変わり,どの時点で脱稿すればよいのか悩みつつ思いのほか時間がかかってしまった.本書が出版されるころには,本書に記載されているいくつかの製品は消えているかもしれないが,ホワイトニングの分野に限らずこれがIT時代のあらゆる商品のライフサイクルなのかもしれない.
 デンタルプロフェッションがオフィスで患者をモニタするという概念からすると,長期的な予後を常に念頭におく必要があり,上記のようなめまぐるしく変化する商品群に対して「オイオイ!チョイ待たんかい!前の製品はどないなったんや?」といいたくなる気分がないでもない.商品の洪水に飲みこまれないようにするためには基本に忠実であることを思い知らされることもしばしばあった.患者のリクエストに応えようとするあまり,背伸びをしがちであった反省もこめて本書を出版することにした.
 本書はこのように変化の激しいホワイトニングの分野の書籍である.読者の皆様の忌憚ないご意見を賜れれば幸いである.
 本書を執筆するにあたっては,多くの忘れられない方々にお世話になった.個々にお名前を記す代わりに,以下に会社名を付記することで謝辞にかえさせていただきたい.
 デニックス,城楠歯科商会大阪本社,KaVo大阪,白水貿易株式会社,ツインビットコーポレーション,IMS,株式会社松風,Den-Mat,DMD社.
 最後に,多くの臨床データをご提供いただいた中井宏昌先生ほか,原稿の整理にかかわっていただいた臨床器材研究所の大田恵子,米澤由美子氏,また,医歯薬出版編集部吉原 巖氏の度重なるご鞭撻がなければ本書は存在しなかったであろうことを付記し,あわせて謝意を表したい.
 2002年6月5日
 川原 大,白井伸一

本書をお読みになる前に

 本書で最初に説明する内容は,1章 ブリーチングの立脚点である.つぎに,2章ではマーケティングについて説明する.3章では漂白のしくみ,4章では臨床的な視点から,適用症および診査診断,術式と方法について説明する.また,PMTCとカスタムトレーの製作の実際を説明する.5章では,漂白に関して,われわれが出した臨床成績と漂白の臨床を写真で説明する.
 歯科医療も医療サービスという意味では,広い意味でのサービス産業である.患者さん,あるいは患者さんというよりも歯科医療サービスを受けようとする顧客が,どういうニーズをもっているのか,という点について話を進めていく.
 なお,歯の漂白については,「漂白」,「ブリーチング」,「ホワイトニング」という用語が用いられている.本書では,混乱を避けるため,歯を化学的に白くするという意味では,「漂白」,「ブリーチング」という用語を用い,漂白ばかりでなく,PMTCや修復処置などを含めトータルに歯を白くするという意味では「ホワイトニング」という用語を用いることにする(巻末「用語解説」参照).
 また,用語の若干の混乱を避ける意味で,以下の3つを区別してほしい.
 ・歯科医師や歯科衛生士によって,院内で行う漂白が「オフィスブリーチングin-Office bleaching」である.
 ・それに対し,専門家によって調製されたカスタムトレー(マウスガード)を用い,専門家による管理の下で患者自身が自宅で行う漂白が「ホームブリーチングat-Home Bleaching」である.
 ・オフィスブリーチングとホームブリーチングの中間的な方法としてジャンプスタートテクニックjump start techniqueが急速に注目を集めている.カスタムトレーは歯科医院で製作し,そのカスタムトレーを用いて患者自身が歯科医院内でブリーチングを行うオフィスブリーチングの一種である.アシステッドブリーチングAssisted Bleachingと呼称されることもあるようだが,用語の示す範囲はまだ明確ではない.
 ・これらに対し,患者自身が歯科医院以外で独自に購入できる薬剤で,専門家の管理の下で使用されるものでないものを「オーバーザカウンタープロダクツover the counter products」という.
 最後のものは,アメリカなどではドラッグストアや通信販売などで比較的容易に手にはいるものであるが,本書では紹介程度にとどめる.

監修者のことば

 歯顎顔面の形態と色調の不調和からくる醜さは,その人の性格を陰鬱なものとし,winning smileを忘れさせてしまうものである.この陰鬱な表情は種々な精神的疾患を誘発する.歯をブリーチングによってほんの少し白くしただけで性格が明るくなり行動的になったという症例にしばしば遭遇する.Beautiful smileというかhandsome smileというか,それは人生のwinning smileであり,美しいbig smileができるか,できないかは,その人の運勢を左右する重大な問題でもある.
 とかく日本人は,無口でなにを考えているのかわからないような男性のほうが重厚感があって魅力的だとされてきた.しかし,現代日本人のセンスは次第に変質しはじめ,beautiful smileをもった活動家に魅力を感じ好感をもつ若者が増えてきている.このことはおそらく,社会機構の回転速度が著しく速くなり,もはや人の考えをゆっくりと聞くだけの時間のゆとりもなく,直感で人間を判断する必要に迫られているからでもあろう.
 陰鬱な顔にhandsome smileをよみがえらせ,人生を豊かにし,楽しさと生き甲斐を付与して活力ある人間像を形成することのできるブリーチングはoral careへのmotivationを高める好個の技法としてこれからの予防歯科のなかで重要な位置を占めるであろう.そして歯科衛生士に対するニーズもより高揚されることになる.
 私がtooth whiteningに着目し,川原 大,白井伸一両君に基礎・臨床両面からの研究をお願いしたのが1994年であった.その後,臨床器材研究所員の積極的な協力も得て,2001年2月,研究会“Academy of Cosmetic Oral Care”を【創】立することができた.この機にtooth whiteningに関する成書を発行することができたことは大変意義深いものがある.Tooth whiteningをこれから臨床にとりいれようとする歯科医にとって本書は有効な手引書となることを確信している.
 2002年6月10日
 臨床器材研究所所長
 川原春幸
はじめに

1章 ブリーチングの立脚点―8つのキーワード
1.漂白に対して「哲学」をもつこと
2.漂白は歯科治療の「入口」である
3.漂白ほど「成功」する歯科治療はない
4.歯科医院での漂白は「安心」が大事
5.「適正」な費用を心がける
6.「個人」の希望にあわせた漂白を
7.「相談」にのる歯科医院になる
8.まず「身近」な患者から始めてみる
2章 マーケッティング
1.80%は歯を白くしたいと考えている
2.サービス業としての歯科医療
3.イメージチェンジ
4.ブリーチングのインフォームドコンセント
5.ブリーチングに対する患者の満足度調査
3章 ホワイトニングおよびブリーチングの現状と基本原則
1.漂白剤の成分
1)漂白剤の主成分:過酸化水素と過酸化尿素
2)漂白剤の基剤:マトリックスキャリア
3)知覚過敏防止剤:硝酸カリウム
4)その他の成分
5)各種漂白剤
2.漂白のしくみ
1)過酸化水素がなぜ漂白作用を示すのか
2)歯質の色とその特徴
(1)歯の色について
(2)歯の着色と変色について
3)修復物の色とその特徴
(1)修復材料の色と特徴
(2)修復材料の色調安定性について
3.安全性について
1)薬剤の安全性からみた絶対的禁忌症と相対的禁忌症
(1)絶対的禁忌症
(2)相対的禁忌症
2)歯質に対する影響
3)歯髄に対する影響
4)歯肉・軟組織に対する影響
5)発癌性と変異原性
6)修復材料への影響
(1)レジン系接着剤への影響
(2)修復材料への影響
4.臨床科学的にいえること
1)オフィスブリーチング
(1)山口らのmulti-centered study
(2)筆者らのclinical survey
2)ホームブリーチング
(1)適応症とその可否
(2)加齢による着色
(3)たばこtabaccoまたは色素原生物質chromogenic materialsによる着色・変色
(4)テトラサイクリンによる着色
(5)過酸化尿素濃度10%の製品と15%の製品の差異について
3章 文献
4章 診査診断と臨床術式
1.ホワイトニングの基本的知識
1)どうすれば,ブリーチングの効果が上がるか
(1)PMTCを徹底する
(2)過酸化水素の濃度の影響
(3)反応する場所のpHは,アルカリ性のほうがよい
(4)時間は長いほど良い
(5)熱と光の影響
(6)空気との接触を遮断する
2.適応症および診査診断
1)着色と変色の診断をつけよう ―1 着色の場合
(1)沈着物はスケーリングやPMTCで対応する
(2)外来性着色はまずPMTCで対応する
(3)内来性の着色はブリーチングで落ちるものと落ちないものがある
(4)テトラサイクリン歯の診断と対応
(5)グレー系の着色は落ちにくい
2)着色と変色の診断をつけよう ―2 変色の場合
(1)歯質の物理・化学的変化は,落ちるものと落ちないものがある
(2)歯の硬組織疾患は,落ちないか落ちにくい
(3)歯髄の病変による変色には,特別な対応を
3.ホワイトニングの臨床術式(手順)
1)初診時に行うこと
(1)診査・診断
(2)スターティングシェードのとり方
(3)インフォームドコンセントの注意点
(4)カスタムトレーのつくり方
2)再診1回目に行うこと
3)PMTCの実際
(1)PMTCに使用する器具は大きく2つに分類できる
(2)エアフローの特徴と使用法
(3)モータードライブの特徴と使用法
(4)研磨材の特徴と使用法
(5)PMTCの実際
4)ブリーチングの実際
(1)各種オフィスブリーチング法
(2)ジャンプスタートテクニック
(3)ホームブリーチング法
(4)トラブルへの対応法
5)再診2〜4回目に行うこと
6)再診5回目に行うこと
7)定期検診
4章 文献
5章 各種臨床例
1.マイクロアブレイジョンとホームブリーチングを応用した症例
2.ホームブリーチング後に審美修復を行った症例
3.過酸化水素を有効成分とする薬剤を使用したホームブリーチングの症例
4.オフィスブリーチングの効果が認められず,PMTCを実施後,ホームブリーチングに切り替えた症例
5.TEMAテクニックにより対応した症例
6.オフィスブリーチングによる無髄歯の漂白
7.ホームブリーチングによる無髄歯の漂白
8.ホームブリーチングにより審美修復が必要になった症例
9.歯肉の色調改善とオフィスブリーチングを併用した症例
10.オフィスブリーチングの典型的な症例
5章文献

付録 各種商品一覧・FAQほか
1.本書収載 材料・機械の一覧表(製造元・発売元)
2.FAQ(frequently asked question:よくある質問)
Q1 患者の求める白さにしたい場合,薬剤選択の基準を教えてください
Q2 ブリーチングの適用年齢はありますか
Q3 薬鑑証明のしくみを簡単に説明してください
Q4 使ってみて,いちばんお勧めになる薬剤はありますか
Q5 患者の希望もあり,高濃度で早く白くする場合,薬剤の濃度目安はどのくらいでしょうか
Q6 どのくらいのシェードがブリーチング適応の目安でしょうか
Q7 口腔内にレジン系の修復物があったり,その適合がわるい場合はどうすればよいですか
Q8 無髄歯の漂白をオフィスブリーチングでやりたいと思いますが,オフィス専用の薬剤の市販品はないのですか
Q9 ブリーチング用照射器をもっていないのですが,どのようなものをそろえればよいですか
Q10 料金設定をどうしたらよいでしょうか
3.患者さんに渡す説明書ほか
用語解説Glossary
1 ブリーチングbleaching
1-1 オフィスブリーチングin-office bleaching
1-2 ホームブリーチングat-home bleaching
1-3 ジャンプスタートテクニックjump start technique
1-4 OTC製品over the counter products
2 カバーリングcovering
2-1 PFM porcelain fused to metal
2-2 ラミネートベニア
2-3 コンポジットレジン
3 コーティングcoating
3-1 フロアブルコンポジットレジンflowable composite resin
3-2 マニキュアmanicure
4 エナメル質のサーフェシングtooth enamel surfacing
4-1 PMTC professional mechanical tooth cleaning
4-2 マイクロアブレイジョンenamel microabrasion
4-3 エアアブレイジョンair abrasion

索引