はじめに
採得された印象は,診療サイドから技工サイドへもたらされる最大の情報である.したがって,この情報を正確かつ忠実に再現し,活用することが最も重要なことである.そこで,さまざまな技工製作物に最も適した作業用模型をどのように製作するかで,印象からもたらされる情報が生かされるかどうかが決まることになり,最終的に口腔内に入れられる技工製作物の良否が決定されることになる.
印象に用いられる印象材およびその印象に応じて用いられる歯型材には,種々のものが使用されている.そのため双方の組み合わせ方は非常に多く,それらの組み合わせによって模型の善し悪し(寸法精度や表面精度)が決まってしまうことがある.同時に,印象の取り扱い方にも十分な注意が必要である.
模型の製作法に関しても同様で,作業用模型の製作法により,製作物の製作時間の長短や製作内容および精度が決まる場合が多い.
このように,技工において最初に手がける模型製作が,その後の操作と製作物に与える影響は非常に大きいことを認識しなくてはならない.
また,咬合器は顎模型を生体の機能的運動に近づけた動きに再現するために利用されるが,その咬合器の選択や模型の装着および操作方法によって,製作物が口腔内において的確に機能するか否かも決まることが多い.
以上のように,模型を作業用模型として製作し,取り扱ううえで重要なことは,(1)印象材に合う模型材を選ぶ,(2)製作物に合った模型製作法を選ぶ,(3)咬合器に関する正確な知識を身につけて製作物に適した咬合器を選び,模型を正しく装着して操作すること,などである.
編集委員序
歯科医療の目的は,治療を通じて患者の健康に寄与することであり,いつの時代においても歯科医療の本質に大きな変化はないと思う.しかし,歯科医学の発展とそれを受け入れる社会的背景によって,歯科医療の姿はいかようにも変化するようである.
ここ20年間の目ざましい経済成長は,個人の生活水準を向上させ,生活を豊かで多様なものとし,国民の意識や価値観に大きな変化を与えてきた.
このような社会情勢の変化は歯科医療に求められる内容にも大きく影響している.たとえば,歯冠補綴の分野を例にとってみると,補綴物に与えるいくつかある要件のうち機能性を特に重視し,審美性は二次的に考えられていたものが,患者の審美的要求とも相まって両者が同じ比重で考えられるようになってきている.
また,可撤性義歯においても歯科インプラントの研究とその成功率が高まったことから顎骨にしっかり固定された固定性の義歯をとの要望が強まっている.このような状況の中で歯科技工の分野においても卒後研修の必要性が叫ばれて久しいが,その間いろいろの形で各自が新しい技術習得のため努力され,一定の成果を上げてきた.
一方,書籍類においても,大型企画として十数年前に発行された「歯科技工講座」,1982年より刊行を開始し,1987年11月に全12巻が完結した「講座歯科技工アトラス」があった.これらは,その時代における技工内容と技工テクニックの進歩を反映し,歯科技工の技術向上に大いに役立ったと考えられる.
近年,歯科技工における学問の体系化が待望されるようになり,臨床における標準的な技法の確認と全体的な技術水準の向上が必要とされるようになってきた.このような時代の要請に応えるため,学校教育においては,歯科技工士教本の10年ぶりの改訂作業が始まった.
本シリーズは卒後教育のテキストとして,卒直後から卒後3〜4年の歯科技工士を対象に,その技術水準の向上を図る目的で企画されたものである.全12巻から成り,各巻の執筆責任者の先生にお願いして,その分野のスタンダードな技術を明確にするよう配慮していただいた.また,技工工程ごとに「目標」と「チェックポイント」を設け,各ステップごとに要点を示し,それら確認事項を一つずつ点検することによって読者が歯科技工技術を独習できるように工夫した.
このように,歯科技工に関する種々の知見や技術をできるだけ日常臨床に役立てられるよう企画されたもので,本趣旨にご賛同賜わりご執筆くださった各先生には深く感謝申し上げるとともに,本シリーズが,歯科技工に携わる方々にとって価値ある書物となることを確信する次第である.
1989年9月10日 田村勝美 森博 史 妹尾輝明
採得された印象は,診療サイドから技工サイドへもたらされる最大の情報である.したがって,この情報を正確かつ忠実に再現し,活用することが最も重要なことである.そこで,さまざまな技工製作物に最も適した作業用模型をどのように製作するかで,印象からもたらされる情報が生かされるかどうかが決まることになり,最終的に口腔内に入れられる技工製作物の良否が決定されることになる.
印象に用いられる印象材およびその印象に応じて用いられる歯型材には,種々のものが使用されている.そのため双方の組み合わせ方は非常に多く,それらの組み合わせによって模型の善し悪し(寸法精度や表面精度)が決まってしまうことがある.同時に,印象の取り扱い方にも十分な注意が必要である.
模型の製作法に関しても同様で,作業用模型の製作法により,製作物の製作時間の長短や製作内容および精度が決まる場合が多い.
このように,技工において最初に手がける模型製作が,その後の操作と製作物に与える影響は非常に大きいことを認識しなくてはならない.
また,咬合器は顎模型を生体の機能的運動に近づけた動きに再現するために利用されるが,その咬合器の選択や模型の装着および操作方法によって,製作物が口腔内において的確に機能するか否かも決まることが多い.
以上のように,模型を作業用模型として製作し,取り扱ううえで重要なことは,(1)印象材に合う模型材を選ぶ,(2)製作物に合った模型製作法を選ぶ,(3)咬合器に関する正確な知識を身につけて製作物に適した咬合器を選び,模型を正しく装着して操作すること,などである.
編集委員序
歯科医療の目的は,治療を通じて患者の健康に寄与することであり,いつの時代においても歯科医療の本質に大きな変化はないと思う.しかし,歯科医学の発展とそれを受け入れる社会的背景によって,歯科医療の姿はいかようにも変化するようである.
ここ20年間の目ざましい経済成長は,個人の生活水準を向上させ,生活を豊かで多様なものとし,国民の意識や価値観に大きな変化を与えてきた.
このような社会情勢の変化は歯科医療に求められる内容にも大きく影響している.たとえば,歯冠補綴の分野を例にとってみると,補綴物に与えるいくつかある要件のうち機能性を特に重視し,審美性は二次的に考えられていたものが,患者の審美的要求とも相まって両者が同じ比重で考えられるようになってきている.
また,可撤性義歯においても歯科インプラントの研究とその成功率が高まったことから顎骨にしっかり固定された固定性の義歯をとの要望が強まっている.このような状況の中で歯科技工の分野においても卒後研修の必要性が叫ばれて久しいが,その間いろいろの形で各自が新しい技術習得のため努力され,一定の成果を上げてきた.
一方,書籍類においても,大型企画として十数年前に発行された「歯科技工講座」,1982年より刊行を開始し,1987年11月に全12巻が完結した「講座歯科技工アトラス」があった.これらは,その時代における技工内容と技工テクニックの進歩を反映し,歯科技工の技術向上に大いに役立ったと考えられる.
近年,歯科技工における学問の体系化が待望されるようになり,臨床における標準的な技法の確認と全体的な技術水準の向上が必要とされるようになってきた.このような時代の要請に応えるため,学校教育においては,歯科技工士教本の10年ぶりの改訂作業が始まった.
本シリーズは卒後教育のテキストとして,卒直後から卒後3〜4年の歯科技工士を対象に,その技術水準の向上を図る目的で企画されたものである.全12巻から成り,各巻の執筆責任者の先生にお願いして,その分野のスタンダードな技術を明確にするよう配慮していただいた.また,技工工程ごとに「目標」と「チェックポイント」を設け,各ステップごとに要点を示し,それら確認事項を一つずつ点検することによって読者が歯科技工技術を独習できるように工夫した.
このように,歯科技工に関する種々の知見や技術をできるだけ日常臨床に役立てられるよう企画されたもので,本趣旨にご賛同賜わりご執筆くださった各先生には深く感謝申し上げるとともに,本シリーズが,歯科技工に携わる方々にとって価値ある書物となることを確信する次第である.
1989年9月10日 田村勝美 森博 史 妹尾輝明
1 はじめに 田嶋英明……1
2 作業用模型とは 割田研司……3
作業用模型の定義……4
作業用模型の意義および要件……4
1.作業用模型の意義……4
2.作業用模型に求められる要件……5
作業用模型の種類……5
1.クラウン・ブリッジ用作業用模型……5
2.部分床義歯(パーシャルデンチャー)用作業用模型……5
3.全部床義歯(コンプリートデンチャー)用作業用模型……5
作業用模型の構成……6
1.歯型……6
2.歯列模型……6
3.咬合器……7
4.対合歯列模型……10
5.スプリットキャスト……11
3 作業用模型の種類 割田研二……13
クラウン・ブリッジ用作業用模型……14
1.クラウン・ブリッジ用作業用模型の分類……14
2.作業用模型製作用関連器具……16
3.その他,特殊な作業用模型製作法……19
義歯製作用作業用模型……22
1.部分床義歯用……22
2.全部床義歯用……25
コラム/パーシャルデンチャーの作業用模型における印象法,印象材の影響 五十嵐順正……28
4 作業用模型の使用材料と特性 割田研司……31
模型材に求められる所要性質……32
種類と特性……32
1.石膏系……32
2.樹脂系模型材……37
3.金属……38
4.耐火模型材……40
5.セメント系……40
5 クラウン・ブリッジ用作業用模型の精度 割田研司……41
1.歯型の精度……42
2.歯列模型の精度……42
3.歯型と歯列模型の位置関係……42
4.作業用模型の咬合の高さ(咬頭嵌合位の再現性)……45
6 クラウン・ブリッジ用作業用模型の製作……47
植立機を用いた作業用模型の製作 山本昌信……48
1.一次石膏部の模型の製作と調整……50
2.ダウエルピンの植立と二次石膏の注入……53
3.歯型の分割,トリミング……57
4.応用例……60
植立機を用いない作業用模型の製作 山本明司……63
1.印象の前処置……63
2.ダウエルピンの植立……64
擬似歯肉を付与した模型 大谷吉広……69
1.擬似歯肉の必要性……69
2.擬似歯肉としての具備すべき要件……70
3.擬似歯肉の製作……75
トレーを利用した分割復位式模型の製作 埴生栄作……82
1.チャネルトレー……83
2.全顎用チャネルトレーを使用した作業用模型の製作……83
3.アキュトラック……87
4.アキュトラックを使用した作業用模型の製作……87
副歯型式作業用模型の製作 安藤申直……92
1.印象の確認……92
2.対合歯列模型の製作(石膏注入)……94
3.副歯型と歯列模型の製作……94
4.副歯型式作業用模型の完成……98
7 パーシャルデンチャー用作業用模型の製作 加藤了嗣……101
1.個人トレーの製作……102
2.印象の観察およびチェック……103
3.ボクシング操作……104
4.石膏の注入……105
5.印象の撤去……106
6.咬合床の製作……108
7.咬合採得のための咬合面のトリミング……109
8.模型の最終調整……110
9.スプリットキャスト面の形成……111
8 コンプリートデンチャー用作業用模型の製作 大倉啓孝……113
1.コンプリートデンチャー用作業模型とは……114
2.印象材の種類と印象法……114
3.印象の読み方……114
4.印象状態のチェック……114
5.印象の取り扱い上の注意……115
6.表面処理……115
7.ボクシングの前準備……115
8.ボクシング……115
9.模型材の注入……117
10.ボクシングの簡便法……118
11.スプリットキャストの製作法……119
12.模型のトリミング……119
13.基準線の記入……120
14.模型の緩衝……120
15.後堤法……120
9 咬合器への模型の装着(平均値咬合器) 田嶋英明……123
上顎模型の咬合器装着……124
1.咬合平面板を用いた場合の上顎模型の咬合器装着(コンプリートデンチャー)……124
2.フェイスボウを用いた場合の上顎模型の咬合器装着(有歯顎模型)……126
下顎模型の咬合器装着……128
アンテリアガイダンスの調整……131
歯科用商品発売元一覧……135
参考文献……136
索引……139
2 作業用模型とは 割田研司……3
作業用模型の定義……4
作業用模型の意義および要件……4
1.作業用模型の意義……4
2.作業用模型に求められる要件……5
作業用模型の種類……5
1.クラウン・ブリッジ用作業用模型……5
2.部分床義歯(パーシャルデンチャー)用作業用模型……5
3.全部床義歯(コンプリートデンチャー)用作業用模型……5
作業用模型の構成……6
1.歯型……6
2.歯列模型……6
3.咬合器……7
4.対合歯列模型……10
5.スプリットキャスト……11
3 作業用模型の種類 割田研二……13
クラウン・ブリッジ用作業用模型……14
1.クラウン・ブリッジ用作業用模型の分類……14
2.作業用模型製作用関連器具……16
3.その他,特殊な作業用模型製作法……19
義歯製作用作業用模型……22
1.部分床義歯用……22
2.全部床義歯用……25
コラム/パーシャルデンチャーの作業用模型における印象法,印象材の影響 五十嵐順正……28
4 作業用模型の使用材料と特性 割田研司……31
模型材に求められる所要性質……32
種類と特性……32
1.石膏系……32
2.樹脂系模型材……37
3.金属……38
4.耐火模型材……40
5.セメント系……40
5 クラウン・ブリッジ用作業用模型の精度 割田研司……41
1.歯型の精度……42
2.歯列模型の精度……42
3.歯型と歯列模型の位置関係……42
4.作業用模型の咬合の高さ(咬頭嵌合位の再現性)……45
6 クラウン・ブリッジ用作業用模型の製作……47
植立機を用いた作業用模型の製作 山本昌信……48
1.一次石膏部の模型の製作と調整……50
2.ダウエルピンの植立と二次石膏の注入……53
3.歯型の分割,トリミング……57
4.応用例……60
植立機を用いない作業用模型の製作 山本明司……63
1.印象の前処置……63
2.ダウエルピンの植立……64
擬似歯肉を付与した模型 大谷吉広……69
1.擬似歯肉の必要性……69
2.擬似歯肉としての具備すべき要件……70
3.擬似歯肉の製作……75
トレーを利用した分割復位式模型の製作 埴生栄作……82
1.チャネルトレー……83
2.全顎用チャネルトレーを使用した作業用模型の製作……83
3.アキュトラック……87
4.アキュトラックを使用した作業用模型の製作……87
副歯型式作業用模型の製作 安藤申直……92
1.印象の確認……92
2.対合歯列模型の製作(石膏注入)……94
3.副歯型と歯列模型の製作……94
4.副歯型式作業用模型の完成……98
7 パーシャルデンチャー用作業用模型の製作 加藤了嗣……101
1.個人トレーの製作……102
2.印象の観察およびチェック……103
3.ボクシング操作……104
4.石膏の注入……105
5.印象の撤去……106
6.咬合床の製作……108
7.咬合採得のための咬合面のトリミング……109
8.模型の最終調整……110
9.スプリットキャスト面の形成……111
8 コンプリートデンチャー用作業用模型の製作 大倉啓孝……113
1.コンプリートデンチャー用作業模型とは……114
2.印象材の種類と印象法……114
3.印象の読み方……114
4.印象状態のチェック……114
5.印象の取り扱い上の注意……115
6.表面処理……115
7.ボクシングの前準備……115
8.ボクシング……115
9.模型材の注入……117
10.ボクシングの簡便法……118
11.スプリットキャストの製作法……119
12.模型のトリミング……119
13.基準線の記入……120
14.模型の緩衝……120
15.後堤法……120
9 咬合器への模型の装着(平均値咬合器) 田嶋英明……123
上顎模型の咬合器装着……124
1.咬合平面板を用いた場合の上顎模型の咬合器装着(コンプリートデンチャー)……124
2.フェイスボウを用いた場合の上顎模型の咬合器装着(有歯顎模型)……126
下顎模型の咬合器装着……128
アンテリアガイダンスの調整……131
歯科用商品発売元一覧……135
参考文献……136
索引……139