やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 従来,歯科理工学の教科書が金属材料に偏重していたことについて,私は長い間違和感をもちつづけてきた.それが今回の改訂で根本的に改善されたことは大変よろこばしいことである.
 歯科医師は人間に対応し,歯科技工士は模型に対応した職種である.したがって,歯科技工士に対しては,歯科医師を対象とした歯科理工学とは異なった教科内容が要求されなければならない.つまり,歯科技工学の主領域は模型に対応した材料成形学である.したがって,従来のような『歯科理工学』と『歯科鋳造学』という分け方ではなく,歯科技工士のための歯科理工学としては「金属加工成形学」,「プラスチック加工成形学」,「セラミック加工成形学」の3教科が要求され,それぞれは単独科目としてとり扱われるべきである.さらに,以上3種の材料成形学を理解するためには歯科技工用材料についての生物学的性質,機械的性質,物理化学的性質ならびに材料成形に必要な機械器具を正確に把握するための総括的知識が「総論」として必要である.すなわち,少なくとも上述の4科目が歯科技工士養成のために要求される.
 とくに,最近の金属アレルギー論争や審美性材料への高い要求度は金属材料から離れて,セラミックやプラスチック材料への大きな推移が認められる.なかでも,キャスタブル・セラミック,高温成形プラスチックなどの先進成形技術はこれまでの金属鋳造成形法にのみ重点をおいてきた歯科技工学に大きな変革をもたらしつつある.
 したがって,今回の『歯科理工学(1),(2)』の大改訂は,遅すぎたとはいえ全国歯科技工教育協議会の大英断を評価したい.なお,すすんで金属加工成形学,プラスチック加工成形学,セラミック加工成形学の3教科の分冊にまで発展することを期待してやまない.
 いまや,日本における歯科技工士養成の教科内容は逐年的に進歩し,高素質の歯科技工士を数多く世に送り出している.そして,より高い歯科医療の発展に大きく関与してきている.歯科技工士諸氏のより高い社会的地位の確保のために本書が役立てば幸甚である.
 1995年3月20日 川原春幸
1 歯科理工学の意義と目的……1
 チェックポイント……3
2 歯科材料の性質……5
 1.機械的性質と試験法……5
 2.物理的性質……14
 3.化学的性質……17
 4.生物学的性質……17
 5.接着……18
 チェックポイント……22
3 模型製作法……23
 1.印象材……23
  1-1.印象材の種類……24
   1.弾性印象材……24
   2.非弾性印象材……28
  1-2.印象材の一般的性質……30
   1.寸法安定性……30
   2.弾性ひずみと永久ひずみ……31
   3.トレーと印象材……31
  1-3.印象材と模型材の関係……34
 2.模型材……35
  2-1.石膏の種類……35
   1.石膏の原料と製造法……35
   2.石膏の種類……36
  2-2.石膏の一般的性質……37
   1.硬化……37
   2.圧縮強さ……40
 チェックポイント……43
4 蝋型製作法……45
 1.ワックスの成分……45
 2.ワックスの物理的性質……46
 3.歯科用ワックスの種類……46
 チェックポイント……49
5 レジン成形法……51
 1.義歯床用レジン……51
   1.加熱重合レジン……52
   2.常温重合レジン……60
   3.射出成形レジン……63
   4.圧縮成形レジン……64
   5.義歯床の修理,裏装と改床……64
 2.既製レジン歯……64
 3.歯冠用硬質レジン……65
 4.修復用レジン……68
 5.接着性レジン……69
 6.その他のレジン……70
   1.軟性レジン……70
   2.表面滑沢硬化材……70
   3.トレーレジン……70
 7.レジン材料の安定性……70
   1.化学的溶解……70
   2.劣化……70
 チェックポイント……71
6 セラミック成形法……73
 1.歯科用陶材……73
   1.歯科用陶材とは……73
   2.組成……74
   3.分類……75
   4.焼成法……75
   5.陶材の理工学的性質……78
   6.最近の歯科用陶材―歯冠用セラミック材料……86
 2.既製陶歯……90
 3.セラミック材料の安定性……91
   1.熱的安定性……91
   2.機械的安定性……91
 チェックポイント……91
7 その他の歯科材料……93
 1.合着(接着)材……93
   1.歯科用セメント……93
   2.接着剤……98
 2.成形修復材料……98
   1.金属材料……98
   2.レジン材料(修復用)……100
   3.セラミック材料(修復用セメント)……101
 チェックポイント……102
8 切削,研削,研磨……103
 1.理論……103
   1.切削……103
   2.研削……104
   3.研磨……104
 2.材料……104
   1.切削用バー……104
   2.研削および研磨剤……105
   3.切削,研削,研磨に用いられる機器,方法……107
   4.その他の表面処理法(特殊な場合)……113
 3.研磨の能率……113
   1.研磨材粒子の大きさ……113
   2.周速と回転数……114
   3.研磨粒子の硬さ,形状……114
 4.各種修復物の研磨……114
   1.金属……114
   2.高分子(レジン)……114
   3.セラミック(陶材)……115
 5.切削,研削,研磨時に発生する粉塵の特徴……115
   1.粉塵の大きさと化学的性状……115
   2.防塵……117
 チェックポイント……117
9 歯科技工用機械器具……119
 1.模型製作に使用する機器……120
   1.モデルトリマー……120
   2.真空撹拌機……120
   3.バイブレーター……120
 2.切削,研削,研磨に使用する機器……121
   1.電気エンジン……121
   2.マイクロモーター……123
   3.エアタービン……123
   4.レーズ……124
   5.サンドブラスター……124
 3.その他……125
   1.コンプレッサー……125
 4.電気,ガスの取り扱い……126
   1.電気……126
   2.ガス……126
 チェックポイント……128

付表……129
参考図書……131
講義の進め方目安例……132
さくいん……133