やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 審美歯科は,歯科医学の中でも数年程前から急速に台頭した分野であるが,その起動力の役割を果たしたのは,ハイテク材料技術に支えられた接着技術のレベル向上である.その意味で本書の主題であるポーセレンラミネートベニアは審美歯科を支える中心的技術であるといえる.著者らが当初,医歯薬出版(株)からポーセレンラミネートベニアに関する専門書の執筆依頼を受けたのは,今から5年程前のことである.当時確かにポーセレンラミネートベニアは,審美歯科治療の最先端技術として脚光を浴びはじめていた.そして本書の第1原稿はその後間もなく出来上がったが,筆を進めて行けばゆくほど,技術的に未解決の部分が浮き彫りになり,執筆者としての良心との相克の末ついに執筆を中断するの己むなきに至った.
 著者らの一人(保母)の当時のメモを繰ると,
 “従来の支台歯形成法で本当にエナメル質以内に形成を止められるか”,
 “もし象牙質が露出した場合,どのような接着術式を用いるべきか”,
 “ポーセレンラミネートベニアの耐用年数を何年とみるべきか”,
 などが記入されており,執筆を進める上での苦衷がまざまざと表れている.いまにして思えば,当時のポーセレンラミネートベニア技術はまだ開発途上の未熟な段階にあり,新規性と成功例の美しさは眼を見張らせるものはあったが,日常臨床の場における標準治療術式として多くの歯科医に胸を張って奨められる段階にまで大成してはいなかったという感が深い.
 本年はじめ,著者らの一人(保母)は,American Academy of Fixed Prosthodontics,American Academy of Restorative Dentistry,American Academy of Esthetic Dentistry などの学会にくまなく出席した.そこではっきりと分かったのは,ポーセレンラミネートベニア技術はもはやどこにも独立した演題として取り上げられておらず,学問的に目新しい主題でなくなったという意味で昨年までとは様変りの状況になっているということである.反面,臨床治療報告などの中には数多く適用症例の登場が目立つようになり,ポーセレンラミネートベニアが昨年を境に歯科臨床の基本技術として確立したことを確認することができた.顧みると,著者らが昨年後半から本書の執筆再開準備にとりかかったのは,時機を得たものであったといえよう.
 以上述べたこの5年足らずの間に,ポーセレンラミネートベニアに関する多彩な研究内容を報告した文献等は彪大な数にのぼる.著者らはそれらの資料のすべてに目を通したと自負しているが,それらの努力を通じてもこの5年間に重ねられた材料面における改良成果を含め,ポーセレンラミネートベニアの基本技術が確立したといえる段階に達したことを実感することができた.以上の経緯を踏まえ,著者らは現時点でポーセレンラミネートベニアに関しては,理論・技術の両面において本書以上の内容を備えた成書は他にないと確信している次第である.
 審美歯科治療が我が国でも歯科医院に来院する患者のニーズのうちで際立った重要性を占めるようになったのは,高度経済成長のためばかりではなくそれに付帯したこの国の文化の変遷と無縁ではない.したがってこの傾向は根が深いものとして今後も強まりこそすれ弱まることはないであろう.その審美歯科の中心的技術であるポーセレンラミネートベニアの専門書として,本書が読者諸氏の日常臨床の場における座右の書となり得るならば,と念じてこの書を世に送り出すものである.
 本書の執筆に当たり,国際デンタルアカデミーの伊藤秀文(診療担当副所長兼第1診療部長),田村勝美(研修ならびに技工担当副所長),渡辺和男(第2診療部長),武藤秀伯(技工技術部長),岡部弘昭(前技工主任),吉田聖名子(歯科衛生士)の諸氏には日夜を問わぬ献身的な協力を戴いた.ここに氏名を記し,心からの感謝の念を表したい.最後にこの5年もの間,著者らの苦衷を理解し,忍耐強く本書の完成を待ち続けて下さった医歯薬出版株式会社に厚く御礼を申し上げたい.
 1993年9月10日 保母須弥也 中川孝男
1章 緒言…1-8
1.ポーセレンラミネートベニアとは…2
2.ポーセレンラミネートベニアの成功率…6
3.ラミネートの利点と欠点…7

2章 トリートメントプランニング…9-18
1.記録…10
 術前の写真(シェードガイドとともに)…10
 スタディーモデル…11
 診断用ワックスアップ…12
 X線写真…12
 コンピュータイメージングによる術後の予測…12
2.適応症と禁忌症…14
3.変色歯の処置とブリーチング…18
4.象牙質とセメント質への接着…18

3章 ファーストアポイントメント…19-46
1.シェードの採得…20
2.Post Cementation veneer darkening…22
 ルーティングセメントの吸水…22
 ルーティングセメントの透過度の変化…22
 ルーティングセメントの変色…22
3.支台歯形成…24
 エナメル質の厚さ…24
 支台歯形成法…26
4.印象…37
5.テンポラリーレストレーション…41

4章 技工操作…47-68
1.ラミネートの製作法…48
 箔を使用する方法…48
 耐火模型材を使用する方法…48
 キャストセラミックスを使用する方法…49
2.耐火模型材の作業模型…50
3.ラミネートの色調再現法…56
 積層法…56
 オパールポーセレン法…56
 ルーティングセメント着色法…56
4.ポーセレンの焼成…57

5章 セカンドアポイントメント…69-92
1.試適…70
2.ルーティングセメントの選択…73
3.ラミネート内面のエッチング処理…75
4.シランカップリング処理…77
5.エナメル・レジン・ボンディング…80
 接着力に影響する因子…80
 エナメル・エッチングの臨床操作…83
6.ラミネートの接着…86
7.研磨と咬合調整…90

6章 変色歯の処置…93-1OO
1.下地色調のブロック…94
2.マスキングデンティン法…97

7章 象牙質への接着…101-134
1.限局した深い窩洞…102
2.広範囲にわたる象牙質の露出…104
3.デンティン・レジン・ボンディング…105
4.スメア層…106
5.開発の歴史…107
 第一世代…107
 第二世代…108
 第三世代…113
6.接着強度…117
 第一世代の接着強度…l17
 第二世代の接着強度…117
 第三世代の接着強度…117
7.象牙質を含む各種の接着操作…119
 Scotch Bond Multi-Purpose(第三世代)の接着操作…l19
 Liner Bond(第三世代)の装着操作…124
 Imperva Bond の接着操作…129

8章 ラミネートの失敗…135-142
1.短期的矢敗…138
 支台歯形成…138
 接着操作の失敗…138
 咬合…140
 患者への注意…140
2.長期的矢敗…141
 疲労…141
 ルーティングセメントの溶出…141
 ルーティングセメントの変色…141

引用文献…143-146
索引…147-148