やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 現在,わが国における歯科医療に対する関心は高まっており,小児の歯科治療の重要性は衆目の認めるところである.歯科医は成長発達している小児に適した予防および治療を行うことが必要とされ,乳歯列から正常な永久歯列への誘導を行う義務を有しているといえよう.
 各歯科大学ならびに歯学部では講義,基礎実習,臨床実習によって小児歯科学ならびに小児歯科医療の基本を習得させている.これらの実習は,各大学とも統一したやり方で行われることが望ましい.このため,愛知学院大学,大阪歯科大学,鶴見大学,広島大学の小児歯科学担当者が集まり,実習内容の統一をはかり,実技指導の効果をあげることを企図した.
 1977年には基礎実習を主体とした“小児歯科実習マニュアル“が出版された.今回は小児歯科の臨床実習を主体とした“小児歯科臨床マニュアル”を出版することになった.
 この小児歯科臨床マニュアルは実際的な小児の診療の流れに従って述べている.すなわち,小児歯科診療システム,小児患者の取り扱い,小児患者の診療方針,小児患者の治療などの診療の流れについて述べている.
 小児歯科診療システムでは診療環境,器具の整備と消毒,診断資料の作製,定期検診について解説している.小児患者の取り扱いでは,年齢を考慮した小児の種々の取り扱い法ならびに心身障害児の取り扱い法について解説している.小児患者の診療方針では疼痛,齲蝕予防,咬合の異常を主訴とするそれぞれの症例について,その診査,診断,治療計画を解説している.
 小児患者の治療では,齲蝕の予防と抑制,歯冠修復,歯内療法,外科的処置,咬合誘導などの小児歯科治療全般にわたって,現在行われている処置法や手技について,実際の各症例を加えて解説している.
 このほか,臨床で遭遇する特殊な症例についても解説している.すなわち,実際の臨床で的確な診査,診断能力と診療方針ならびに治療法を修得できるように努力した.
 本書は歯科学生の小児歯科の臨床実習書であるが,臨床歯科医の先生方や卒直後の研修医の方々にも小児歯科の診療手技の習得のために利用して頂けるものと考えている.
 1989年6月
 黒須一夫
 稗田豊治
 大森郁朗
 長坂信夫
第1章 小児歯科診療システム
 はじめに
 1.診療環境……大森郁朗
    1)待合室,診療室
    2)診療の手順
    3)診療ポジション
    4)局所麻酔法
    5)ラバーダム防湿法
 2.器具(材)の整備と消毒……長坂信夫
    1)器具(材)の整備
    2)器具(材)および手指の消毒
    3)感染症に対する対策(B型肝炎)
 3.診断資料の作製……稗田豊治・森谷泰之
    1)全身状態の観察
    2)口腔診査
    3)エックス線写真検査
    4)スタディモデル(平行模型)
    5)その他の資料
    6)資料の管理
 4.定期検診……長坂信夫
    1)定期検診
    2)定期検診とは
    3)定期検診の時期
    4)定期検診時の資料
    5)リコール時検診例
    6)定期検診事項

第2章 小児患者の取り扱い……黒須一夫
A.小児患者の取り扱い法
 はじめに
 1.診療を始める前の取り扱い法
    1)受付
    2)待合室
    3)診療室
    4)小児の協力状態
    5)小児の取り扱い方法の種類
 2.年齢別にみた小児の取り扱い法
    1)乳児期(生後1歳以内)
    2)幼児期前期(2歳以下)
    3)幼児期中期(3〜4歳)
    4)幼児期後期(5〜6歳)
    5)学童期(6〜11歳)
 3.一般的取り扱い
    1)小児への話しかけと声の調子
    2)治療時間
    3)小児患者のみ集める
    4)治療時の配慮
    5)能率的な手順
    6)行動変容技法の応用
 4.不(非)協力な小児の取り扱い
    1)抑制的(強制的)取り扱い
    2)ハンドオーバーマウス法
 5.鎮静,減痛下の取り扱い(有意識下鎮静法)
    1)前投薬下の取り扱い
    2)笑気吸入鎮静法(笑気アナルゲジア)下の取り扱い
    3)静脈内鎮静法
    4)聴覚減痛法下の取り扱い
    5)催眠下の取り扱い
B.心身障害児の取り扱い法
 はじめに
 1.歯科医療からみた心身障害児の分類
    1)中枢神経,情緒の障害や疾患をもつ小児
    2)全身疾患をもつ小児
    3)口腔領域に異常をもつ小児
 2.心身障害児の口腔と歯科環境
 3.心身障害児の診療上の注意事項
 4.心身障害児の治療方法
    1)心身障害児の診療上の体位
    2)心身障害児の取り扱い方法
    3)一般的なアプローチ法の手順
    4)歯科治療手段の選択
 5.定期検診の必要性
 6.全身麻酔下(無痛下)の取り扱い法
    1)適応性
    2)全身麻酔による歯科治療の利点,欠点
    3)方法
    4)全身麻酔下の歯科治療上における注意事項
 7.予後の管理
第3章 小児患者の診療方針
 はじめに
 1.疼痛を主因とする症例……稗田豊治・森谷泰之
    1)歯髄炎
    2)歯周炎
    3)歯の外傷
 2.齲蝕治療を主因とする症例……稗田豊治・森谷泰之
    1)歯髄処置を必要としない症例
    2)歯髄処置を必要とする症例
    3)抜歯症例
 3.齲蝕予防を主因とする症例……稗田豊治・森谷泰之
    1)1歳6ヵ月児の症例
    2)3歳児の症例
    3)6歳児の症例
 4.咬合関係の異常を主因とする症例……大森郁朗
    1)保隙を必要とする症例
    2)スペースリゲイニング(萌出余地回復)を必要とする症例
    3)連続抜去による咬合調整を必要とする症例
    4)歯列型の異常を主因とする咬合異常症例
    5)骨格型の異常を主因とする咬合異常症例
    6)口腔習癖を主因とする咬合異常症例
第4章 小児患者の治療
A.齲蝕の予防と抑制……長坂信夫
 はじめに
 1.食生活指導
    1)食事指導を行う時期
    2)食事指導方法
 2.歯口清掃
    1)プラークの確認
    2)ブラッシング
    3)ブラッシングの方法
    4)フロッシング
 3.フッ化物の応用
    1)フッ素溶液の塗布
    2)フッ素溶液の種類と応用
    3)塗布方法
    4)歯磨剤
    5)洗口剤
 4.フッ化ジアンミン銀
    1)塗布方法
    2)一般的注意
    3)脱色方法
 5.小窩裂溝填塞
    1)適応症
    2)填塞法
B.歯冠修復……稗田豊治・森谷泰之
 はじめに
 1.各種修復材の選択の基準
    1)コンポジットレジン
    2)アマルガム
    3)メタルインレー
    4)乳歯用冠
 2.成形充填
    1)コンポジットレジン修復
    2)アマルガム修復
    3)メタルインレー修復
 3.乳歯用冠
    1)適応症
    2)乳歯用冠による修復法
    3)乳歯用冠の選択
    4)冠縁の調整
C.歯内療法……黒須一夫
 はじめに
 1.乳歯歯髄炎の処置
    1)乳歯歯髄炎の処置方針
    2)歯髄鎮静療法
    3)覆髄法
    4)歯髄切断法
     (1) 生活歯髄切断法
     (2) ホルモクレゾールによる歯髄切断法(FC法)
     (3) 水酸化カルシウム糊剤とホルモクレゾール糊剤による歯髄切断法の比較
    5)抜髄法
 2.乳歯の根端(尖)歯周組織炎の処置
    1)根端(尖)歯周組織炎の処置方針
    2)根管治療の成否を左右する因子
    3)根管治療の適応症
    4)根管治療
    5)根管充填
 3.幼若永久歯(根未完成歯)の歯内療法
    1)幼若永久歯(根未完成歯)の特徴
    2)覆髄法と歯髄鎮静療法
    3)生活歯髄切断法
    4)抜髄法
    5)根管処置法
D.外科的処置……長坂信夫
 はじめに
 1.抜歯
    1)適応症
    2)禁忌症
    3)抜歯の前準備
    4)器具の準備
    5)術式
    6)抜歯法
    7)術式
    8)抜去後の出血(局所的原因)
    9)止血処置
 2.歯の外傷
    1)処置
 3.口腔軟組織異常
    1)口唇
    2)舌
    3)歯肉
    4)その他の口腔粘膜
 4.薬物療法
    1)薬物の選択
    2)投与量
    3)投与方法
    4)処方箋
    5)処方の用語
E.咬合誘導……大森郁朗
 はじめに
 1.保隙
    1)クラウンディスタルシュー保隙装置適用症例
    2)可撤保隙装置適用症例
 2.スペースリゲイニング
 3.咬合調整
    1)切縁削整法の適用症例
    2)隣接面削整法の適用症例
    3)連続抜去法の適用症例
 4.歯列型の異常に基づく咬合異常の治療
 5.骨格型の異常に基づく咬合異常の治療
 6.口腔習癖に基づく咬合異常の治療
    1)口腔習癖の成因と咬合異常
    2)口腔習癖の治療法
第5章 特殊症例……大森郁朗
 1.正中癒合歯を有する症例
 2.巨大歯を有する症例
 3.無汗型外胚葉異形成症に随伴した部分性無歯症
 4.象牙質形成不全症