やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 血液に触れる機会が多い歯科診療においては,診療室の汚染が進みやすく,人から人への「水平感染」を容易にする機会が多いと言える.また,その感染源として結核菌,緑膿菌,HBV,HCV,HIVなど危険な微生物は枚挙に暇がない.
 ところで,このような微生物による「水平感染」が発生すると,その影響は一医療機関にとどまらず,患者の生活圏へと拡大し,文字どおり「地域感染」の様相を呈することになる.歯科医療がこのような「地域感染」の発生源にならないためには,個々の歯科診療施設が最低限の感染予防システムを整備し,日々実践していかなければならないことは言うまでもない.
 そこで今回,日々の歯科診療にあたっているものとして,歯科医療のなかで「院内感染をどのように予防するか」について実践的な提言をまとめあげることを考えた.そのためには,これまで雑誌等で扱われた数多くの「院内感染予防特集」の内容を総括し,なおかつより実践的な対策をまとめることをねらいとし,なによりも各病院や各診療所において実際に経験を蓄積している臨床医に執筆していただくことが大切と考え,編纂にあたった.
 第1章では総論として院内感染の姿をとらえ,第2章では院内感染予防用のコンポーネンツについて適用条件を中心に解説いただいている.ただし単なる製品カタログとならぬよう取り上げた機器や製品は代表的なものに限らせていただいた.そして第3章では,環境への影響を考え医療廃棄物等について解説していただいた.また現場での院内感染予防の取り組み方について語るため,2つの座談会を設け,歯科診療における院内感染予防の考え方をまとめてみた.
 本別冊が,院内感染予防に取り組んでおられる読者の方々に,適切な情報提供となることを願うものである.
 最後に,ご多忙のところご執筆いただいた諸先生方に感謝いたすとともに,本書の実現に多大なるご協力をいただいた医歯薬出版株式会社にお礼を申し上げる.
 1995年11月 編者 駒井 正 中尾 薫 谷垣信吾
 序

第1章 院内感染予防の基本
 院内感染による疾患 領家和男
 滅菌と消毒 谷垣信吾
 歯科診療室における院内感染予防 谷垣信吾
 座談会院内感染予防へのアプローチ
 Part 1 診療室での取り組み 中尾 薫・谷垣信吾・駒井 正

第2章 院内感染予防
 コンポーネンツ
  1. 手指の消毒
   手指消毒剤と手洗いの実際 谷垣信吾
  2. 器具の滅菌
   器具滅菌の歴史 中尾 薫
   器具の滅菌前処理 中尾 薫
   乾熱滅菌 中尾 薫
   高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌) 中尾 薫
   エチレンオキサイドガス滅菌(EOG滅菌) 中尾 薫
  3. 器具の消毒
   紫外線消毒と紫外線消毒器 繁田幸慶
   薬液消毒 駒井 正
  4. 室内空気の汚染防止
   室内空気の汚染防止装置 駒井 正
  5. 水による滅菌
   強酸性水 繁田幸慶
  6. 関連備品
   備品の適用条件(1)
    マスク・防護用ゴーグル・グローブ 鈴木勝博
   備品の適用条件(2)
    予防衣と手術衣・ペーパータオル,エアタオル類・乾燥器 鈴木勝博
   感染防御対策として手術衣や白衣をどう考えるか 吉位 尚
   含嗽剤の適用条件と口腔内の消毒 吉位 尚
   滅菌バッグと滅菌後の保管要件 吉位 尚
   バー,インスツルメント類の滅菌・消毒と保管 吉位 尚
   ハンドピースとチェアユニットの感染予防対策 吉位 尚
   スリッパと除菌マットの効果 吉位 尚
   診療室床面の消毒 吉位 尚
  7. 関連項目
   問診のあり方 石田 武
   血液検査・抗原抗体検査 石田 武
   スタッフ教育と感染事故対策 石田 武

第3章 環境汚染の予防
 ユニット排水による汚泥の防止 鈴木勝博
 医療廃棄物とその処理 滝内春雄・滝内 聡
 座談会院内感染予防へのアプローチ
 Part 2 歯科医療としての取り組み―グローバルな視点から院内感染予防を考える 中尾 薫・谷垣信吾・駒井 正

 編著者一覧
 編集後記