やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 初期の臨床検査は,簡単な器具や試薬を用いた用手法が主流であり,反応過程などの検査プロセスが検査者の視覚や聴覚,触覚などで感知できた.すなわち,職人技的な技術が検査データの質を決める重要な要素であった.その後,急激なテクノロジーの進歩は臨床検査の領域にも急速に広まり,用手法で行っていた操作が機械化され,これらが統合した検査装置へと進化していった.また,検査装置のそれぞれのパーツは,新たな原理の駆動機器や検出器,材質の改良などによって,超微量化と高感度化を実現させた.さらに,驚異的な速さで進化しているコンピュータをはじめとする情報制御機器をも取り込んで,大量のデータを迅速に診療現場へと提供できる環境が整いつつある.検査に携わる臨床検査担当者は,これらハイレベルな機器を縦横に使いこなして,常に高いレベルの検査データを提供していくことが大きな任務となった.このためには,使用する機器の構造と機能,動作原理を熟知し,適正な使用法をマスターし,維持管理と精度管理に対する的確なスキルを獲得しておかなければならない.また,他の医療職が機器を使用する可能性のある場合には,臨床検査の専門家として,指導と教育,啓発をできなければならない.
 昨今,検査機器に対する不十分な知識や誤った取り扱い,データに対する間違った解釈などに起因する医療事故が発生しており,後を絶たないのが実情である.少なくともこれらの過誤は,適正な機器の取り扱いをマスターし,的確に検査を実践していれば,防止することができる.一人一人の検査担当者が機器に対する理解と実力を身につけることがもっとも基本であるが,ユーザーである検査室が企業と一体となって,機器の選定から導入,初期研修と継続的研修,機器の維持管理と精度管理,トラブル対応とそのライブラリー化などについて,システマティックな体制を構築することが重要である.臨床検査領域全体で安全管理体制を完成させていくことが,これからの課題であろう.
 本書は,“臨床検査機器の安全管理”という着眼点で,各領域の第一線で活躍しておられる先生方にご執筆いただいた.臨床検査におけるほぼすべての分野の主要な機器が網羅されている.検査室現場の読者は担当される領域を中心に,管理者は全領域の機器安全管理を把握するために,学生はこれから進む検査の世界を知るために,それぞれご活用いただけるものと信じている.本書が臨床検査のレベルアップの一助になることを期待する.
 2017 年12 月
 熊本保健科学大学大学院保健科学研究科・保健科学部 医学検査学科 教授 池田勝義
 発刊にあたって 池田勝義
1.総論
 臨床検査機器の適正な使用と安全管理(池田勝義)
2.血液検査
 1)血液検査の精度管理(近藤 弘)
 2)自動血球計数装置(小笠原 篤・田中由美子・宮地勇人)
 3)自動凝固・線溶検査装置(由木洋一・稲葉 亨)
 4)血小板凝集能測定装置(佐藤金夫)
 5)フローサイトメーター(池本敏行・棚田浩子)
3.生化学検査
 1)生化学検査の精度管理(末吉茂雄)
 2)多項目自動分析装置(山内露子)
 3)血糖測定装置・HbA1c(測定装置(中村政敏))
 4)電気泳動・HPLC 等の分析機器(菅野光俊)
 5)血液ガス分析装置(白井秀明)
 6)酵素免疫測定装置・化学発光免疫測定装置など(阿部正樹)
4.病理・細胞診検査
 1)総論
  (1)組織検査の精度管理(滝野 寿)
  (2)細胞診検査の精度管理(丸川活司)
 2)機器の安全管理とトラブルシューティング
  (1)組織検査(青木裕志・浅見志帆・飯野瑞貴)
  (2)細胞診検査(塚本龍子)
  (3)術中迅速組織検査(濱川真治・清水誠一郎)
  (4)遺伝子検査(山下和也)
  (5)病理検査室の環境保全装置類(白波瀬浩幸)
  (6)遠隔病理診断(下江郁一)
5.微生物検査
 1)微生物検査の精度管理(佐藤智明)
 2)自動細菌検査装置(大橋一孝)
 3)質量分析装置(清祐麻紀子)
 4)自動血液培養装置(宮本仁志)
 5)自動抗酸菌培養装置(守屋 任)
 6)微生物検査を対象とした遺伝子検査(野由喜子・豊川真弘)
6.遺伝子検査
 1)遺伝子関連検査の精度保証・精度管理(横田浩充)
 2)FISH 用検体の処理装置(坂口繁美・芹澤昭彦・伊藤 仁・中村直哉)
 3)全自動遺伝子解析装置(ヒト遺伝子)(糸賀 栄・加藤潤一・川嶋洋介)
 4)核酸増幅装置(PCR)(白血病)(南木 融)
 5)核酸増幅装置(PCR)(病理組織)(齋藤辰朗・畑中 豊)
 6)DNA チップ(岡村 浩)
7.輸血検査
 1)輸血検査の精度管理(三浦邦彦)
 2)全自動輸血検査装置(日高陽子)
 3)血球洗浄機(日高陽子)
8.一般検査
 1)一般検査の精度管理(宿谷賢一・田中雅美)
 2)尿自動分析装置(山下広光)
 3)便潜血測定装置(稲垣泰良)
9.POCT
 1)POCT の精度管理(〆谷直人)
 2)生化学的検査装置(山田 修)
 3)血液学的検査装置(後藤慎一)
 4)免疫血清検査装置(奥田優子)
 5)HbA1c 検査装置(山崎家春)
 6)血糖測定装置(山崎家春)
 7)尿分析装置(菊池春人)
 8)感染症迅速診断キット(竹澤理子)
10.生理検査
 1)生理検査の精度管理(橋 修・橋宣成)
 2)心電計(野小百合)
 3)脳波計(西脇啓太)
 4)呼吸機能検査装置(山本雅史)
 5)超音波画像診断装置(山本美津代)
 6)聴力検査装置(西脇啓太)
 7)誘発電位検査装置(西脇啓太)
 8)眼振電図計測装置(眼振計:ENG 計)(石郷景子)