やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 最近の医学技術の進歩には眼をみはるものがあります.コンピュータを駆使した臨床検査技術もその例外ではありません.これは必要検体の微量化・検査の省力化・迅速化・精度管理の向上などに端的に現れています.しかし,分析技術が発達する一方で,臨床検査に携わる医療技術者の教育の遅れが問題になっています.検査機器の発達に伴って,検査技術者に求められる教育内容が以前とはかなり異なっていることは事実で,臨床検査技師の卒前・卒後教育が検査技術の進歩に追いつけないのです.さらに臨床検査項目に対する保険点数の切り下げも大きな問題となっています.また,検査機器の自動化が進むことにより検査に必要とする人員が減少し,そのため検査技師が全国的に余剰傾向にあることも指摘されています.
 今ほどそれらの諸問題に対する適切な対応が求められている時代はありません.このような危機的ともいえる臨床検査を取り巻く厳しい環境の中で,どのような生き残り策があるのか,現在各検査施設や関連学会などで真剣に論議されているところです.その方策の一つとして挙げられるのが,臨床検査データに付加価値をつけるということです.これまでのように単に臨床からの検査依頼をこなしているだけでは,精度管理も十分ではありませんし,臨床側も納得しないことでしょう.検査データに付加価値をつけるためには,臨床検査技師自身が検査値の意味や病気のことを熟知している必要があります.そして患者さんの検査データを診断治療に積極的に活用しなければなりません.最近注目されている検査データを解析する訓練(Reversed Clinico-Pathological Conference,R―CPC)もこのような背景から推奨されるようになったのです.
 以上のような観点から,臨床検査学雑誌 月刊『Medical Technology』では1991年5月から1998年12月まで計76回にわたり,「臨床検査の診かた」を連載し好評を得てきました.この度,この連載を別冊化して欲しいという読者からの要望もあり,本書を出版することになりました.執筆陣は臨床検査医が中心ですが,病理医や内科医,先進的な臨床検査技師の方々にも参加していただいています.
 本書の基本的な特徴としては,(1) 種々の疾患・臓器を網羅,(2) 検査データの分析が中心,(3) 鑑別すべき病態を説明,(4) 基礎疾患についての解説,(5) 病理学的裏付けの説明,などが挙げられます.さらに,各症例ごとに臨床検査技師の国家試験に準拠した設問とその解答を付け,国家試験受験にも役立つように配慮されています.これは知識の整理にも有用と考えます.目次や索引,さらに疾患INDEXや事項INDEXによっていろいろな方面から引けるように工夫しましたので,目的とする項目や疾患に簡単に到達できることでしょう.特にこの本は病理学的な所見を多くの写真で示しているので,病理学の症例検討書としても使用できます.
 本書がR―CPC学習の訓練書として,また,臨床検査医学の教科書の参考書として臨床検査技師・同学生や医学生に広く利用されることを願って止みません.ただ,長期間に連載した内容がベースになっていますので,古い分類や記載があるかもしれませんが,今回の別冊化にあたり,できるだけ新しい知見を入れていただきました.お気づきの点に関しては忌憚のないご意見を頂戴できれば幸いです.
 2001年5月 編者
症例1 左胸に締めつけられるような痛みが出現し,救急救命センターを受診した59歳女性 高木 康
症例2 突然強い前胸部痛が出現し,緊急入院となった59歳男性 霜多 広 石 和久 霜多 広
症例3 原因不明の発熱,頭痛が1カ月間続き, 三宅一徳 心雑音を認めた42歳男性 三宅一徳
症例4 高校入学時の健康診断で心雑音を指摘された16歳男性 伊藤 宏
症例5 労作時の呼吸困難からうっ血性心不全と診断,数度の入退院を繰り返している68歳男性 水無瀬 昴
症例6 劇症肝炎のステロイド療法中に無尿状態となった38歳女性 水口國雄
症例7 鍼灸院にて電気マッサージ治療後,突然胸痛をきたし歩行困難となり,緊急入院した79歳女性 鵜澤龍一
症例8 間質性肺炎の診断のもと治療を受けるも 症状が改善せず入院となった52歳女性 玉井誠一
症例9 咳,発熱,労作時息切れで入院となった31歳女性 東條尚子  吉村信行
症例10 抗生物質に反応しない高熱が出現し,全肺野にびまん性粒状陰影がみられた19歳女性 玉井誠一
症例11 慢性呼吸器疾患が急激に悪化し,息切れが著しいため緊急入院した68歳男性 東條尚子 吉村信行
症例12 再発した自然気胸の精査を目的に受診した35歳女性 水無瀬 昴  関根球一郎
症例13 健診にて胸部異常陰影を指摘され,精査加療のため入院した73歳男性 東條尚子 吉村信行
症例14 IgMとCEAの高値を示した肺腫瘤のある79歳女性 水口國雄
症例15 急性扁桃炎は抗生剤により軽快したが,その後,全身倦怠感,下痢,腹痛により受診した24歳男性 水無瀬 昴 鈴木晃子
症例16 検診で肝機能異常を指摘され,精査のため受診した40歳女性 石原明徳 青沼宏深
症例17 先天性胆道閉鎖症で入退院を繰り返していたが,吐き気,大量の吐血により緊急入院した17歳男性 方山揚誠 十文字文男 澤 直哉
症例18 腹部膨満感,季肋部痛を主訴に受診したところ,腹部腫瘤を指摘されたため入院した56歳男性 森田勇一 遠田栄一
症例19 インターフェロン療法により肝機能障害が正常化した後,腹部超音波検査で異常が認められた56歳男性 朝比奈靖浩
症例20 主膵管拡張,胆管拡張,胃噴門部に潰瘍を認めたが手術せず,黄疸が増悪してきた89歳女性 石 和久 齋藤 啓
症例21 数年前より肝機能異常が指摘されていたが,嘔吐,下痢,腹痛を訴え来院した71歳男性 水無瀬 昴
症例22 急性膵炎と診断されていたが,最近少量の吐血もみられたため,精査のため入院した37歳男性 玉井誠一
症例23 強い疲労を感じ,皮膚が黄色になり,尿は茶褐色,便は白っぽくなったと訴える49歳男性 久保信彦
症例24 前頸部腫大を指摘されており,2カ月ほど前より腫大がさらに増大したため受診した48歳女性 水無瀬 昴
症例25 健診で貧血と血清CKの著明な上昇を指摘され,精査目的で入院した29歳男性 石原明徳 成田有吾  中井桂司
症例26 肝機能の精査目的で受診,左腎門部と左副腎に腫瘤および両副腎皮質の過形成がみられた41歳男性 水口國雄
症例27 本態性高血圧の治療を受けていたが,口渇,多飲と疲労感を訴え受診した32歳男性 霜多 広 石 和久
症例28 低血圧発作,めまい,全身倦怠感があることで検査を受けたところホルモン異常が疑われた22歳女性 水無瀬 昴
症例29 食前の動悸,空腹時の冷汗を自覚し,健診にて低血糖を指摘された42歳女性 石原明徳 伊佐地秀司
症例30 原発性無月経の病歴があり,腹部腫瘤を主訴として来院した48歳女性 方山揚誠 高坂公雄 倉本雅規
症例31 2週間くらい前より泥状あるいは水様の下痢が持続し,易疲労感を訴えている35歳男性 水無瀬 昴
症例32 動悸・息切れを主訴に来院,貧血がみられた45歳男性 水口國雄
症例33 多量の飲酒を契機とした全身倦怠感と発熱を訴えて受診し,入院時黄疸を認めた49歳男性 佐藤尚武 石 和久
症例34 食後のつかえ感,腹部膨満感があり,腹部エコー検査により肝腫大を指摘された51歳女性 方山揚誠 十文字文男
症例35 両側下肢の骨痛が持続するため近医を受診し,血液検査にて芽球の著増を認めた47歳女性 東田修二
症例36 皮下硬結に続く後腹膜出血にて急激に貧血が進行し,短期間で死亡に至った22歳男性 水口國雄
症例37 右下肢の腫脹が出現したため受診,全身のリンパ節腫大と脾腫により入院となった46歳男性 石 和久 齋藤 啓
症例38 両側卵巣腫瘍摘出術を施行し退院後,発熱と腹部腫瘤の触知にて再入院となった6歳女児 佐藤尚武
症例39 1年前から腰痛があり,健診で胸部に異常陰影を指摘された65歳男性 伊藤喜久
症例40 突然の両下肢の痛みとしびれを伴う運動障害により近医を受診,その後歩行不能となった71歳男性 鈴木不二彦 齋藤 啓
症例41 左乳腺腫瘤により受診,精査後左乳房部分切除および腋窩リンパ節郭清が施行された52歳女性 鈴木不二彦 齋藤 啓
症例42 37歳時より左膝関節腫脹・疼痛を自覚,しだいに症状が増強するため受診した39歳男性 岩崎 洋
症例43 下肢の浮腫を訴え受診,急性腎炎の疑いがあるも,他の疾患の存在も考えられる15歳女性 石原明徳 上森 昭 野口光也
症例44 原因不明の微熱と全身倦怠感があり,顔面,頭部などに膨隆する紅斑を認め受診した12歳女児 水無瀬 昴
症例45 耳下腺と頸部リンパ節の腫脹があり,呼吸不全で死亡した68歳女性 水口國雄
症例46 貧血と浮腫,胸部痛,肉眼的血尿で受診した57歳女性 水口國雄
症例47 急速に進行する手足の脱力を訴え受診した26歳男性 稲葉 彰
症例48 数日前から帯下および腟内腫瘤を自覚して受診した34歳女性 石 和久 川島 徹
症例49 健康診断で便潜血を指摘され,内視鏡検査を施行したが診断が確定しなかった40歳男性 玉井誠一
症例50 上部消化管手術後,下痢と発熱が始まった45歳男性 西園寺 克
症例51 急激な発熱と体の不調を訴え入院,2時間後に死亡した63歳男性 水口國雄
症例52 右下腹部痛,1日に30〜40回にも及ぶ血性水様下痢を呈する15歳男性 久保信彦 櫻林郁之介 山田茂樹
症例53 原因不明の貧血が進行し,口腔および食道のカンジダ症を併発して入院した55歳女性 村上純子
症例54 高熱と食欲不振を訴え近医で肝機能異常を指摘され入院した56歳女性 石原明徳 村田一素
症例55 慢性骨髄性白血病にて加療中に発熱が出現し,抗生剤を使用したが効果がみられない55歳男性 関根隆夫 石原明徳
症例56 手足のしびれ,下肢の潰瘍性病変を主訴に来院した61歳男性 久保信彦 高嶋浩一
症例57 定期健康診断で要再検とされ,検査希望で受診した,肝機能について不安のある32歳男性 西園寺 克 三宅紀子 田部陽子
症例58 2歳時より皮膚黄色腫が増加し,さらに狭心症発作が起こるようになった7歳男児 水口國雄 松ケ根 孝
症例59 乳児期より認められていた脾腫が増大し,出血傾向が出現したため手術目的で入院した3歳女児 佐藤尚武
症例60 以前から関節痛があったが精査せず,数カ月前より下腿に浮腫を自覚し入院した60歳女性 山田俊幸
症例61 下腿に浮腫が出現,近医で腹水と低タンパク,高コレステロール血症を指摘された62歳男性 方山揚誠 十文字文男
症例62 溶血性貧血の疑いで入院,輸血を繰り返すが貧血の原因が不明な16歳女性 岩崎 洋
症例63 肝機能異常により入院,X線検査で胃前庭部に隆起性腫瘍が認められた74歳男性 石原明徳 西岡敬明
症例64 無月経,不正出血を主訴に受診,妊娠反応は陽性の26歳女性 石 和久 古谷津純一
症例65 前胸部の違和感により近医から狭心症の疑いがあるといわれ,精査を希望した58歳男性 西園寺 克
症例66 乳癌と診断され右乳腺切除術を施行し経過観察されていたが,再入院となった48歳女性 掛端健一 方山揚誠
症例67 下腹部痛,発熱があり,急性腸炎の疑いで他院より転院,下腹部にびまん性の疼痛がある45歳女性 水無瀬 昴 塚本勝城
症例68 腹部膨満感を主訴に受診,腹部腫瘤,腹水を伴った腹部膨隆が認められた74歳女性 石 和久 齋藤 啓
症例69 以前胃切除手術,子宮摘出手術を受け,今回下腹部に腫瘤が発見された48歳女性 水無瀬 昴
症例70 るいそうが著明になり,その後下腹部膨隆と性器出血が認められ,精査のため入院した10歳女児 鈴木不二彦 齋藤 啓
症例71 背部痛を訴え受診,腹部超音波検査にて主膵管拡張を指摘され,精査のため入院した71歳男性 鈴木不二彦 岡崎哲也
症例72 妊婦初診時検査で抗体スクリーニング陽性,抗D抗体が検出された25歳女性 川島 徹 石 和久
症例73 空腸部分切除術後赤褐色の尿がみられ,その色調が徐々に濃くなっていった73歳女性 村上純子
症例74 貧血を指摘され輸血が施されたが,再び1週間で急速に貧血が進行した31歳女性 村上純子

 事項INDEX
 疾患INDEX
 症例一覧
 索引